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科研研究年報誌『身心変容技法研究』第8号に河合俊雄教授の論考が掲載されました

 
 鎌田東二先生が研究代表を務める、科研研究年報誌『身心変容技法研究』第8号に、河合俊雄教授の論考が掲載されました。

河合俊雄. (2019). 身心変容技法における決定・未決定の緊張関係と逆説-心理療法と現代の意識の関わりから. 身心変容技法研究, 8, 205-210.

〔構成〕
1. 心理療法と決定・未決定状態の弁証法
2. 理論的背景-脳神経科学と未決定なもの
3. 症状の変化と未決定なもの
4. 未決定なものの文化的・現代的な背景
5. 未決定なものとの関わりへのヒント


 論考ではまず、心理療法における基本的態度が、日常生活のような問題解決を急ぐものではなく、未決定な状態を保とうとするものであり、そのため、心理療法では決定と未決定との間に強い緊張関係が存在することが指摘されています。
 現代では、こうした基本的態度を持つ心理療法においてさえも、認知行動療法のように決まった方法を用い、明確な効率と結果を求める傾向が強まってきてはいますが、一方で近年の心理学や科学のキーワードとなっている脳神経科学の研究結果は、むしろ創造性に関する脳の未決定な機能をサポートするものであり、現代では理解されにくくなっている先述の心理療法の基本的態度を支持しているのではないかと著者は述べています。
 ユング派の心理療法では、この未決定な状態から、心理療法の流れのなかで新しい決まった状態が、不意に、自然に生じて来ることが重要と考えます。そして、心理療法において、この未決定な状態を保つには、自分の明確な立場を持ち、決定できる、ある程度確立された自我が前提とされてきました。しかし近年は、主体性が弱く、何かを選んだり、決定したりするのが困難な、発達障害の増加が指摘されています。また、現代では、伝統的社会から社会的構造が緩くなっていくに伴い、多くの選択の可能性が生じており、未決定な状態を保とうという傾向は、発達障害の人だけでなく、一般の人の間でも強まっているようだと著者は考察しています。
 そのため著者は、現代の心理療法においては、未決定なものとどのように関わるかが大切であることに言及し、未決定なものとの関わり方に何らかのヒントを与えてくれるものとして、仏教の論理と実践や、村上春樹の作品を取り挙げて論じています。

(解説:粉川尚枝 特定研究員)

2019/03/27

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