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井筒俊彦氏の『コスモスとアンチコスモス』の文庫化に伴い、河合俊雄教授が本書の解説を執筆しました

 井筒俊彦氏の主著『コスモスとアンチコスモス-東洋哲学のために』が、2019年5月に岩波文庫として文庫化されるにあたり、河合俊雄教授が本書の解説を執筆しました。 本書には、東洋哲学や華厳哲学を現代哲学的に読み解いた井筒氏の複数の論文や、司馬遼太郎氏との対談が含まれています。河合教授は「解説‐生きた東洋哲学へ」との題で、解説を執筆しています。

 教授はまず、東洋思想についての井筒氏の理解には、私たちの経験している現実世界が層構造を持っており、私たちの意識が深まることでその世界が異なって見えてくる、との捉え方があると解説しています。そして、井筒氏の著作の魅力として、修行や瞑想を取り上げながら東洋思想を体験に基づいて理解したり、現代の思想的問題や状況との関連の中で様々な東洋思想を捉えて紹介する姿勢を挙げています。

 そして、特に「コスモスとアンチコスモス」「事事無礙・理理無礙―存在解体のあと―」という本書の2つの論文について、臨床心理学、ユング派心理療法の概念・知見を織り交ぜながら解説を行っています。

 まず、本書の題となった論文「コスモスとアンチコスモス」については、「コスモス」という西洋哲学の概念から東洋哲学を考える井筒氏の試みに注目した上で、東洋哲学では、私たちが実在すると思っている現実の根底に「無」があり、この「無」が生命・存在の根源として豊かさを内包している、との井筒氏の理解を取り上げ、東洋哲学の「無」は、ユングや河合隼雄が自身の経験に基づいて述べた知見とも重なると指摘します。

 また、冒頭の論文「事事無礙・理理無礙―存在解体のあと―」については、イスラーム哲学の思想家イブヌ・ル・アラビーの思想のなかに、華厳経の華厳哲学を読み取ろうとする井筒氏の独創性に言及しています。そして、上述の「無」と現実世界との中間に「元型」という概念を想定する点で、イブヌ・ル・アラビーとユングの思想の近さを指摘する一方で、ユングが心理療法の中で因果的に説明できない偶然の出来事を体験して「コンステレーション」や「共時性」の概念を提唱していたことも取り上げ、全てのものがその深層では相互に浸透しているという華厳哲学の「無」に、ユングも体験的に触れていたのではないかと考察しています。

 その他の論文についても、禅僧である道元や臨済の思想を基に、禅の時間論や人間像から東洋哲学の存在論を考えるものであり、特に「生きた生身の人間」である「我」を重視する、井筒氏の極めて実存的な捉え方が現れていると解説しています。東洋哲学では、時間は独立した無数の瞬間の絶え間ない連続であり、かつその時その時が全ての時間を含んでいると捉えるため、井筒氏も過去の哲学が現代にとって意味を持つと考えたのではないか、と教授は述べています。そして、例えば2000年以降に急増した発達障害への心理療法に井筒氏の著作が参考になるように、古代の思想を現代に伝えようという発想で書かれてきた井筒氏の多くの著作は、未来においてもまた意味を持つのではないか、とその意義に言及して解説を終えています。

(解説:粉川尚枝 特定研究員)

コスモスとアンチコスモス

著:井筒俊彦

出版社:岩波書店(2019年5月)

ISBN-13: 978-4003318553

出版社のページ(こちらから『コスモスとアンチコスモス』の講読が可能です) 
https://www.iwanami.co.jp/book/b452022.html

2019/05/23

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