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【令和2年度 一般公募プロジェクト】こころに関する可視化情報の有用性探索と予防教育への応用

研究課題      こころに関する可視化情報の有用性探索と予防教育への応用

研究代表者     加藤奈奈子 奈良女子大学生活環境科学系 助教

本センター担当教員 河合俊雄  京都大学こころの未来研究センター 教授
          畑中千紘  京都大学こころの未来研究センター 特定講師

 近年、急速なIoT技術革新により活動量だけでなく、心拍や睡眠の深度等精緻なデータが得られるウェアラブル端末が普及しつつある。「健康日本21」の指針やストレスチェック制度の義務化を背景に、自身の健康を管理することが求められる中で、そうしたウェアラブル端末を用いて健康度を常時計測し、スマートフォンなど身近なツールを通して、こころを含めた自分の状態を「可視化」することが可能となった。
 しかしながら、健康に対する意識のしやすさ、自己統制のしやすさといった健康に関するポジティブな面は強調されるもののネガティブな側面、つまり従来の心理療法においては専門的技能を有する支援者とともに、語ることによって意識化し「見る」対象としてきた“こころ”が、利用者に容易に扱える情報となることに伴うリスクについては論じられていない。心理療法におけるこころの可視化として、箱庭や描画などイメージ(心像)の表出があげられるが、そこでは、見守り手と作り手の間で、「味わう」過程が重視されており、可視化された自らの“こころ”をどのように受けとめるかという情報の受取り手について検討する必要がある。
 さて、可視化情報の有用性は、情報を受け取った利用者がどのような行動に結びつけるのかというのかといった点から検討することが可能であると思われるが、本研究では測定に作業検査である内田クレペリン精神検査を用いることとする。内田クレペリン精神検査は、1分毎の加算作業量が被検者に「見える」構成になっており、作業量の増減を変化させる要因となる(加藤,2018)とされている。また、申請者らが行った内田クレぺリン精神検査を用いた長期閉鎖空間における調査(加藤,2018)では、自分の作業量は一定に保とうとする過統制によって精神的不調が推測される行動結果になることを指摘しており、高ストレス状況下において、1つの情報の不適切な受け取り方が、高リスクに繋がる恐れを示唆する結果を示しているといえる。したがって本研究では、可視化情報の受け取り側の個人特性を検討することによって、情報が有益となりうる要因を検討することを目的とする。
 本研究は、高ストレス状況下におかれた方のサポートを検討する上での基礎的知見を提供するものである。また本検討により、宇宙空間など長期閉鎖環境という、心理的介入が難しく自己統制が強いられるような様々なストレス状況において、どのような予防教育を行うことが適切かという課題に援用しうることが予想される。

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