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茶室空間にみる日本人の用材観と精神性-木材学・建築史・茶道の融合―

研究課題      茶室空間にみる日本人の用材観と精神性-木材学・建築史・茶道の融合―

研究代表者     田鶴寿弥子    京都大学生存圏研究所 助教

共同研究者     杉山淳司     京都大学農学研究科 教授
          中山利恵     京都工芸繊維大学 准教授
          松本康隆     南京工業大学建築学院 特任准教授

持続可能な社会の実現のためには、物質的な側面(ハード面)のみならず、人類の意欲 向上を維持させる源である穏やかな精神状態の維持(ソフト面)も重要である。そのために、古 から脈々と伝わる「文化的な知」を一側面ではなく、研究領域の枠を超え多角的に十分に解明・理解し、豊かな精神・文化の向上に役立てることも重要と考えられる。例えば、人々の精神を支える礎となるような文化財などに 使用されている材料の秘密を深く掘り下げること、人と材料との関係を見つめなおすこと、そしてそれらを未来へ伝えることはソフト面の維持に必要不可欠な事項である。
日本には古から綿々と伝わる適材適所の材料利用を反映した建造物、木彫像をはじめとした木質文化財が多く保存されている。勘に頼った方法から光学顕微鏡による微細な解剖学的情報の蓄積・活用に基づく樹種判別手法が導入されたのは1930年代であり、考古学や建築史などの分野で有効とされてきた。しかし樹種識別自体が破壊を伴うこともあり、識別調査が適用される文化財の種類や数に片寄があった。
申請者はこれまで木材解剖学者として、放射光など新規手法の開拓なども行いながら、主に東アジアにおける 木材利用、用材観について文理融合型の研究を行ってきた。例えば、木彫像に使用される樹種が日中韓で全く異なることを樹種識別により発見し、その理由について現在学際的に追及している(上記の研究課題で、2021年京都大学たちばな賞研究奨励賞受賞) 。
用材観にまつわる研究を行う中で、日本人の精神性や木にまつわる知恵の集大成と考えてきたのが茶室建築である。樹種識別には、部材の劣化部位から破片を採取することが必要であるが、茶室では柱の劣化も「 わび・さび」としてとらえられ、試料採取が困難であることからこれまで 部材の樹種 調査がほとんど行われず、大工や 建築家の目視推定に頼るところが大きかった。そこでここ数年、国宝如庵や重要文化財 裏千家今日庵をはじめとした茶室 20件余の修理工事に際して、解体中の茶室を対象とし、樹種調査を進めてきた。従来の顕微鏡手法に加え、極小試料でも樹種識別可能な放射光 X 線 CTなども活用し、科学的見地からの樹種調査を行ってきた。その結果、長年信じられてきた樹種が実際は異なっている事例が非常に多いことをつきとめた。 例えば 信長の実弟織田有楽斎 による 国宝如庵についても、用材観におけるこれまでの認識が変わることとなった投稿準備中。当時の茶人は、部材一本一本に思いをこめて選択したはずであり、その情報を明らかにすることは、茶人の思いを知るのみならず、建築史や茶道分野においても、研究を深化させる重要な知見になることは間違いない。それだけではなく、修復工事では元の樹種と同じ樹種で取り換えが行われるという規則があり、科学的知見にもとづく樹種情報は未来への文化 財の伝達にも大いに役立つ。
日本人の木の文化の知の集大成である茶室が、今、各地で次々に壊されている現状を顧みると、今ここで体系的に部材の樹種を詳らかにすることは、古の日本人の精神を支えてきた木の用材観や精神的側面を考えるためのヒントになるだけではなく、建築史、木材流通、宗教といった様々な学際領域に大きな知見をもたらすことができると期待される。

2021/06/15

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