京都こころ会議|イベント

第5回京都こころ会議シンポジウム「こころとコロナ危機」を開催しました

20212 21日、第5回京都こころ会議シンポジウムが、オンライン配信にて開催されました。公益財団法人稲盛財団からのご支援を受けて2015年に発足した京都こころ会議は、これまでに「こころと歴史性」(第1回シンポジウム)、「こころの内と外」(第2回シンポジウム)、「こころと共生」(第1回国際シンポジウム)、「こころと生き方―自己とは何か」(第3回シンポジウム)、「こころとArtificial Mind」(第4回シンポジウム)をテーマに、計5回のシンポジウムを行ってまいりました。

新型コロナウィルス感染拡大により、秋に予定されていた国際シンポジウムは来年度に延期となりましたが、現在の世界状況におけるこころを問うべく、今年度は「こころとコロナ危機」をテーマに掲げ、第5回京都こころ会議シンポジウムを開催することになりました。コロナ危機は、こころにどのような影響を与えるのか、こころにとってどのような意味があるのかを、医学、仏教学、心理学の異なる視点から考察しました。

シンポジウムでは、河合俊雄センター長による開会の言葉のあと、以下の3つの講演が行われました。

河合俊雄センター長

 

まず、山本太郎教授(長崎大学熱帯医学研究所)が、「Withコロナ時代の見取り図」と題した講演を行いました。講演では、まず、新型コロナウィルスを根絶することは既に不可能であり、重要なことは、医療崩壊や社会インフラの破綻を防いだ上で、新型コロナウィルスとどう付き合っていくかであるという問題提起がなされました。そこで山本教授は、「ウィルスの視点に立って」考えることを提案し、生存のために宿主を必要とするウィルスと人間とは、本来「共生」することで存在しているのだと述べます。最後に山本教授は、中世のペストなど、パンデミックがしばしば社会変革を加速させてきたことに触れ、情報技術の革新や国際協調、人口問題、環境問題等、現代社会を取り巻く種々の課題に取り組んで行くことが、「Withコロナ時代」の社会を考えていく上で鍵となるという見解を示しました。

山本太郎教授(長崎大学)

 

続いて、熊谷誠慈准教授(京都大学こころの未来研究センター)より、「仏教のこころ観から考えるコロナ危機」と題した講演が行われました。講演ではまず、仏教の「因」と「縁」の概念を用いて、生物学的危機が、新型コロナウィルスが「因」(主原因)となることで生じた問題であるのに対し、コロナ禍で発生した精神的・社会的・経済的・身体的な危機や社会的弱者が陥る危機は、新型コロナウィルスが「縁」(副次的原因)となって生じたものであり、ウィルスの根絶そのものよりも、人間の「こころ」の問題が大きいという見解が示されました。その上で、叡尊と忍性によるハンセン病患者の救済にまつわるエピソードが紹介され、自己と他者の弱さを受け入れる知恵を仏教から学ぶことで、コロナ危機におけるより良い生き方を考えることが可能になるのではないか、という提言が示されました。

熊谷誠慈准教授(京都大学)

 

3つ目の講演では、田中康裕教授(京都大学大学院教育学研究科)が「コロナ危機と心理療法」と題した講演を行いました。田中教授は、まず、東日本大震災後の心理療法において、震災それ自体をトラウマとする事例よりも、震災をきっかけとして個人や家族がもともと抱える脆弱性が顕在化する事例が多かったように、コロナ禍においても、コロナ禍をいわば「使う」事例が多く見られると指摘しました。田中教授によれば、オンラインセラピーの浸透や、学生による対人交流の回避など、コロナ禍以前から存在した時代精神の変化が、コロナ禍によって加速しているといいます。その上で田中教授は、折衷主義や融合主義など「一体性」を重視する日本人のこころは、宙吊りの状態への耐性を持つ一方で、決断不能性に陥りやすいという見解を示し、個人個人の決断に寄り添っていくことが心理療法家にとって重要になるのではないかと結論付けました。

田中康裕教授(京都大学)

 

これらの講演に続いて、河合俊雄教授を加え、講演者らによる総合討論が行われました。討論では、各講演に共通して見られた「共生」というキーワードをめぐって、ウィルスや自然と人間との共生について議論がなされた他、コロナ禍がもたらした新しい「近接性」の問題について意見が交わされ、それぞれの立場から見解が示されました。

総合討論の様子

 

最後に、時任宣博理事(京都大学 研究、評価、産官学連携担当 理事・副学長)より閉会の言葉をいただきました。当日の司会進行は内田由紀子教授が務め、344名の参加者にシンポジウムをご視聴いただきました。 
第5回京都こころ会議シンポジウムの講演内容は、近く当HPでも動画配信を行う予定です。

時任宣博理事

 

内田由紀子教授

 

 

 

[開催ポスター]

[DATA]
▽ 日時:2021221日(日) 13:3017:40
▽ 会場:Zoom開催
▽ 対象:研究者、学生、一般
▽ 参加者数:344

【関連URL
京都こころ会議
http://kokoro.kyoto-u.ac.jp/category/kyotokokoroinitiative/

【プログラム】
13:30
13:40 開会の言葉
        河合俊雄(京都大学こころの未来研究センター センター長)
13:40
14:30 講演①「Withコロナ時代の見取り図」
        山本太郎(長崎大学熱帯医学研究所 教授)
14:30
15:20 講演②「仏教のこころ観から考えるコロナ危機」
        熊谷誠慈(京都大学こころの未来研究センター 准教授)
15:20
15:30 休憩
15:30
16:20 講演③「コロナ危機と心理療法」
        田中康裕(京都大学大学院教育学研究科 教授)
16:20
16:30 休憩
16:30
17:30 総合討論
        山本太郎、熊谷誠慈、田中康裕、河合俊雄
17:30
17:40 閉会の言葉
        時任宣博(京都大学 研究、評価、産官学連携担当 理事・副学長)

主催:京都大学こころの未来研究センター
後援:公益財団法人 稲盛財団
共催:京都大学人社未来形発信ユニット

【オンライン開催】第5回京都こころ会議シンポジウム「こころとコロナ危機」

第5回京都こころ会議シンポジウム「こころとコロナ危機」

2015年4月に発足した「京都こころ会議」は、科学技術の進歩や経済のグローバル化により、複雑化した世界に生きる人間の「こころ」そのものを究明しようという試みです。その際に「こころ」という日本語に含まれる広がりや深いニュアンスを大切にしながら、「こころ」についての新しい理解をKyoto Kokoro Initiativeとして世界に向けて発信します。
これまで5回のシンポジウムでは、「歴史性」「内と外」「共生」「自己」「Artificial Mind」という切り口から、古来からのこころの捉え方と現代におけるこころの交錯するところを検討してきました。それに対し今年度は、「こころと限界状況」という国際シンポジウムを秋に予定していましたが、来年度に延期となりました。しかしまさに今の危機的状況のこころにとっての意味を問う必要があろうという認識から、「こころとコロナ危機」というテーマで、2月にシンポジウムを開催することになりました。コロナ危機は、こころにどのような影響を与えるのか、こころにとってどのような意味があるのかを、医学、仏教学、心理学と様々な見方から問うことができればと思います。

▽ 日時:2021年2月21日(日) 13:30~17:40
▽ 開催方法:オンライン開催
       本シンポジウムは、「Zoom」を用いたオンライン配信で開催します。
▽ 対象:どなたでも参加いただけます。
▽ 定員:500名(事前申込制・先着順)
▽ 参加費:無料

 

【プログラム】
13:30~13:40 開会の言葉
        河合俊雄(京都大学こころの未来研究センター センター長)
13:40~14:30 講演①「Withコロナ時代の見取り図」
        山本太郎(長崎大学熱帯医学研究所 教授)
14:30~15:20 講演②「仏教のこころ観から考えるコロナ危機」
        熊谷誠慈(京都大学こころの未来研究センター 准教授)
15:20~15:30 休憩
15:30~16:20 講演③「コロナ危機と心理療法」
        田中康裕(京都大学大学院教育学研究科 教授)
16:20~16:30 休憩
16:30~17:30 総合討論
        山本太郎、熊谷誠慈、田中康裕、河合俊雄
17:30~17:40 閉会の言葉
        時任宣博(京都大学 研究、評価、産官学連携担当 理事・副学長)

 

【申込方法】
本シンポジウムは、「Zoom」を用いたオンライン配信で開催します。
下記のお申込み先URL からご登録いただいた方に、Zoom 参加のURL をお送りいたします。
https://forms.gle/ChJPRUHGpVhTVr967

※フォーム登録後、自動返信メールを送信しております。
自動返信メールが届かない場合は、メールアドレスが間違っている可能性がありますので、お手数をおかけいたしますが再度お申し込みください。また、設定によりメールが届かない可能性もございます。その際は今後のメール連絡も届かない可能性がありご参加できなくなりますので、必ずメール設定のご確認をお願いいたします。

お申込受付期間:2021年2月16日(火)迄 (申し込みによる先着順)

 

【Zoom 参加にあたって】
●Zoomでの動画視聴が可能な方であれば、どなたでも参加いただけます。
●WEB会議システムZoomを使用してライブ配信します。
●参加いただくには、インターネット接続環境があるパソコン、スマートフォン、タブレット端末等が必要です。
●スマートフォン、タブレット等でご参加される場合は事前にZoomアプリのダウンロードが必要です。
●インターネット回線を利用した通信のためインターネット接続料が発生します。Wi-Fi 環境以外での参加にあたっては、通信料にご注意ください。
●申し込みにあたっては、事前に http://zoom.us/test からZoomへの接続性を確認するテストをお勧めします。

 

【お問い合わせ先】
京都大学こころの未来研究センター リエゾンオフィス(平日9:00 ~17:00)
E-mail:kokoro-sympo*mail2.adm.kyoto-u.ac.jp(*を@に変えてください)
URL:http://kokoro.kyoto-u.ac.jp
主催:京都大学こころの未来研究センター
後援:公益財団法人 稲盛財団
共催:京都大学人社未来形発信ユニット

第4回京都こころ会議シンポジウム「こころとArtificial Mind」を開催しました

2019年10月14日、京都大学百周年時計台記念館百周年記念ホールにて、第4回京都こころ会議シンポジウムを開催いたしました。公益財団法人稲盛財団からのご支援を受けて2015年に発足した京都こころ会議は、これまでに「こころと歴史性」(第1回シンポジウム)、「こころの内と外」(第2回シンポジウム)、「こころと共生」(第1回国際シンポジウム)、「こころと生き方―自己とは何か」(第3回シンポジウム)をテーマに、計4回のシンポジウムを行ってまいりました。

今回の第4回京都こころ会議シンポジウムでは、「こころとArtificial Mind」をテーマに掲げました。これまでの4回のテーマが、大きくは人文・社会科学の枠組みでこころを捉えようとしてきたのに対して、今回のシンポジウムは、自然科学と技術の進歩の中でのこころについて問い直そうというものです。人工知能や深層学習の理解と発展に寄与してきた三名の研究者により、人工知能と人間のこころの比較、そして未来における人と技術との関わりについて、それぞれの視点から検討が試みられました。

河合俊雄センター長による開会の言葉のあと、以下の3つの講演が行われました。

まず西垣通名誉教授(東京大学・名誉教授)が、「AI時代の心のゆくえ」と題した講演を行いました。「機械はこころを持つか?」という問いを検討するにあたって、まず、人や生物が持つ心の多義性と多面性が論じられ、とりわけ倫理的な問題に着目した考察が行われました。西垣名誉教授によれば、生物が、自ら意味の世界を生み出す自己創出システムを持つゆえに、予測困難かつ自律的な存在であるのに対して、AIロボットが獲得しているかに見える自律性は、その複雑さによって生じる擬似的なものに過ぎないといいます。このためAIロボットは、生物的自律性を持つ人間とは異なり、自らの判断に責任を持つことはできないことが示唆されました。その上で、自動運転、監視選別社会、AIによる芸術作品の創作という3つの事例を取り上げ、人工知能を実社会に応用していくにあたって、その限界と危険性を認識した上で、将来的な可能性を考え、活用していく必要があるという見解が示されました。

続いて、尾形哲也教授(早稲田大学・教授/産業技術総合研究所人工知能研究センター・特定フェロー)から、「深層学習と運動感覚学習─認知発達ロボティクスの視点から─」と題した講演が行われました。講演ではまず、従来的な演繹的人工知能に対し、多量のデータを学習する帰納的人工知能であるディープラーニングの仕組みが説明された上で、タオルを畳むロボットや、サラダを盛り付けるロボット、液体を量るロボットなど、ディープラーニングを応用したロボット開発の実例が紹介されました。こうしたロボットの特徴として、膨大なデータの深層学習を通して、実際には学習していない状況にも対応することができるようになる点が挙げられました。その上で尾形教授は、こうした機能を可能にする仕組みがつねに事後的にしか理解されない点において、深層学習がブラックボックスであることを指摘し、将来的な発展においては、深層学習が予測不可能性をはらんだ技術であることを理解した上で活用していくことが必要との見解を示しました。

3つ目の講演では、長尾真名誉教授(京都大学・名誉教授)が「心のモデルを考える」と題した講演を行いました。長尾名誉教授は、人間の頭脳の働きを知的機能・心的機能・魂的機能の3つに分けてモデル化することを提唱し、このモデルに従って、機械が心を持つことができるかという問いの検討を行いました。長尾名誉教授によれば、とりわけ心的機能は、精神・感性・感情・情動などの多様な働きを持つ複雑なもので、プログラム化することが最も難しいものであるといいます。さらに、各機能間の相互関係や、意識をプログラム化する方法についても検討を加えた上で、深層学習等の技術が発展している今日では、人間の心の状態とそれに付随する反応の事例を大量に集めデータベース化することにより、コンピュータ上に心のプログラムを再現することはある程度可能であろうという見解が示されました。また、人間の知的機能、心的機能などのあらゆる情報を集め、あり得るあらゆる可能性を推論することができれば、これまで人間を定義するものと思われてきた自由意志などの概念そのものを問い直す必要が出てくると示唆しました。

これらの講演に続いて、吉岡洋特定教授(京都大学こころの未来研究センター・特定教授)と河合俊雄教授(同・センター長)を加え、講演者らによる総合討論が行われました。討論では、「こころとArtificial Mind」というテーマに沿って様々な意見が述べられ、とりわけ人工知能による芸術創作の可能性について多くの議論が交わされました。人工知能によるメタファー生成の課題や、創造されたものに価値付けを行う人間の視点とその機械による代替可能性など、人工知能を用いた芸術創作を可能にする様々な条件について、それぞれの立場から見解が示されました。

最後に、湊長博理事(京都大学プロボスト)より閉会の言葉をいただきました。湊理事はまず、自身の専門領域である医学の歴史において、「理屈」による論証の代わりに、事実の集積に基づいて判断する新しい疫学が生まれた経緯を説明されました。その上で、今日の医学においても、データ収集に基づいて判断を行う深層学習やビッグデータの活用が浸透してきていることに触れ、「AIとどのように付き合っていくか」という問いに真剣に取り組んでいく必要性があると述べました。当時の司会進行は、広井良典教授が務め、260名もの参加者にご来場いただきました。

第4回京都こころ会議シンポジウムの講演内容は、近く当HPでも動画配信を行う予定です。

(報告:中谷森 特定研究員)

会場の様子

 

河合俊雄センター長


西垣通 東京大学名誉教授


尾形哲也 早稲田大学教授


長尾真 京都大学名誉教授


総合討論


吉岡洋特定教授


広井良典教授


湊長博 京都大学プロボスト

[開催ポスター]

[DATA]
▽日時:2019年10月14日(月・祝) 13:30~17:40(13:00~受付開始)
▽会場:京都大学 百周年時計台記念館 百周年記念ホール アクセス ※NO.3:時計台記念館

【プログラム】
13:30~13:40  開会の言葉 河合俊雄(京都大学こころの未来研究センター・センター長)
13:40~14:30  講演1 『AI時代の心のゆくえ』西垣通(東京大学・名誉教授)
14:30~15:20  講演2 『深層学習と運動感覚学習ー認知発達ロボティクスの視点からー』尾形哲也(早稲田大学理工学術院・教授/産業技術総合研究所人工知能研究センター・特定フェロー)
15:20〜15:40  休憩
15:40〜16:30  講演3 『心のモデルを考える』長尾真(京都大学・名誉教授)
16:30〜17:30  総合討論 西垣通、尾形哲也、長尾真、河合俊雄、吉岡洋
17:30〜17:40  閉会の言葉 湊長博(京都大学・プロボスト)

主催:京都大学こころの未来研究センター
後援:公益財団法人 稲盛財団  

第4回京都こころ会議シンポジウム 「こころとArtificial Mind」

第4回京都こころ会議シンポジウム 「こころとArtificial Mind」

2015年4月に発足した「京都こころ会議」は、科学技術の進歩や経済のグローバル化により、複雑化した世界に生きる人間の「こころ」そのものを究明しようという試みです。その際に「こころ」という日本語に含まれる広がりや深いニュアンスを大切にしながら、「こころ」についての新しい理解をKyoto Kokoro Initiativeとして世界に向けて発信します。
これまでのシンポジウムでは昔からのこころのあり方を、「歴史性」「内と外」「共生」「自己」という切り口から検討してきました。それに対し今年のテーマは、「こころとArtificial Mind」で、自然科学と技術の進歩の中でのこころを問い直そうというものです。近年の人工知能、深層学習などのめざましい進歩は、どこまで人間のこころに迫れるのか、またそれとこころはどのように付き合っていけるのかなどを検討できればと思います。

 

▽ 日時:2019年10月14日(月・祝) 13:30~17:40(13:00~受付開始)
▽ 会場:京都大学 百周年時計台記念館 百周年記念ホール アクセス ※NO.3:時計台記念館

【プログラム】
13:30~13:40  開会の言葉 河合俊雄(京都大学こころの未来研究センター・センター長)
13:40~14:30  講演1 『AI時代の心のゆくえ』西垣通(東京大学・名誉教授)
14:30~15:20  講演2 『深層学習と運動感覚学習ー認知発達ロボティクスの視点からー』尾形哲也(早稲田大学理工学術院・教授/産業技術総合研究所人工知能研究センター・特定フェロー)
15:20〜15:40  休憩
15:40〜16:30  講演3 『心のモデルを考える』長尾真(京都大学・名誉教授)
16:30〜17:30  総合討論 西垣通、尾形哲也、長尾真、河合俊雄、吉岡洋
17:30〜17:40  閉会の言葉 湊長博(京都大学・プロボスト)

▽定員:500名(申込みによる先着順)
▽参加費:無料
▽申込方法
10/6(日)までにE-mailまたはFAXにてお申込みください。件名に「第4回京都こころ会議シンポジウム 申込み」と明記し、 必要事項を記入の上、ご送付ください。 定員に達し、ご参加いただけない場合のみ、ご連絡を差し上げます。
▽必要事項
①氏名(ふりがな)②ご職業(ご所属)③返信用ご連絡先(メールアドレス)

連絡先/申込先
京都大学こころの未来研究センター 京都こころ会議事務局(平日9時~17時)
E-mail : kokoro-sympo*mail2.adm.kyoto-u.ac.jp (お手数ですが、*を@に変えてください)
FAX : 075-753-9680
URL : http://kokoro.kyoto-u.ac.jp
主催:京都大学こころの未来研究センター
後援:公益財団法人 稲盛財団
共催:京都大学人社未来形発信ユニット

第3回京都こころ会議シンポジウム「こころと生き方―自己とは何か」を開催しました

2018年11月18日、京都大学国際科学イノベーション棟シンポジウムホールにて、第3回京都こころ会議シンポジウムを開催いたしました。公益財団法人稲盛財団からのご支援を受けて2015年に発足した京都こころ会議は、これまでに「こころと歴史性」(第1回シンポジウム)、「こころの内と外」(第2回シンポジウム)、「こころと共生」(第1回国際シンポジウム)をテーマに、計3回のシンポジウムを行ってまいりました。

今回の第3回シンポジウムは、「こころと生き方―自己とは何か」をテーマといたしました。これまで3回のテーマが、どちらかというとこころの広がりに焦点を当ててきたのに対して、今回はこころの内面性や固有性に迫ろうとするもので、三名の講演者によって、社会や集団とのつながり、さらには自然科学の知見を含めた検討が試みられました。

河合俊雄センター長の開会の言葉のあと、下記のような3つの講演が行われました。

まず村山美穂教授から(京都大学野生動物研究センター・センター長)は、「社会で生きる、こころの分子基盤」と題した講演が行われました。動物の行動や性格には環境と遺伝子など多くの要因が関わりますが、そのなかから遺伝子の影響に焦点を当て、遺伝子を解析することによって品種間・個体間の比較を行う研究が紹介されました。講演では、不安の感じやすさ、新奇性を追求する程度、攻撃性、幸福感などの様々な動物の性格や行動と、遺伝子との関連が示された研究結果が示され、遺伝子が動物の社会行動を考察する際の新たな指標となる可能性が論じられました。そして、個体の行動と遺伝子の関連を明らかにすることは、遺伝子情報を活かした飼育管理や、麻薬探知犬などの能率的な選択や訓練にも繋がるのではないかとの提言が行われました。

続いて、内田由紀子准教授(京都大学こころの未来研究センター)が「日本社会における生き方と自己:組織従業者の生理・心理調査からの考察」と題して講演を行いました。内田准教授は、文化心理学の知見や自己の文化多様性の視点から、日本において自己意識を形成する2つの要素として“協調性”と“独立性”を提示し、それぞれが人の健康や幸福とどのように関連するかについて論じました。日本の企業調査、日本の中の地域比較の研究においては、主観的な幸福感を高めるのは“独立性”であり、流されない意志決定や公平で公正な競争が重要であることが示されました。一方、生理的指標を用いて検討してみると、健康に影響を与えるのは“協調性”であることが明らかとなり、日本社会においては“協調性”がある種のインフラとしての意義を持つ可能性を示しました。

3つめの講演として、出口康夫教授(京都大学大学院文学研究科)が「「われわれ」としての自己、「われわれ」としての生き方」と題した講演を行いました。出口先生は、西洋近代社会を支えてきた「個人主義的自己」観に対抗するものとして、「東アジアの全体論的自己」観をあげ、これを「「われわれ」としての自己」観として提案しました。「「われわれ」としての自己」観では、社会などのシステム全体が「自己」とみなされ、「私」は「「われわれ」としての自己」の一要素と捉えられます。講演では、この「「われわれ」としての自己」観への移行が、「私」の持つ倫理的責任や孤独感を変化させる可能性に言及し、社会システムの修正、そして我々の生き方の多様化にも繋がるのではないかと論じられました。

これらの講演に続き、河合俊雄教授を司会に加え、講演者らによる総合討論が行われました。ここでは「こころと生き方―自己とは何か」という全体テーマの下、3つの講演を踏まえて、人間や動物の協調行動の持つ意味、自己と身体の関係、日本的な共同体のあり方などについて、それぞれの専門領域を超えた議論が展開されました。

最後に、湊長博京都大学プロボストが閉会の言葉として、総合討論でも話題となった自己と身体性の議論に関して、自身の専門領域である免疫学の立場からコメントされました。そして、これまでのこころ会議の開催も振り返りながら、京都大学の人文学を世界に向けて今後どのように発信していくかを考えていくことの重要性について提言されました。当日の司会進行は吉岡洋教授が務め、200名近い参加者にご来場いただきました。

第3回京都こころ会議シンポジウムの講演内容は、近く当HPでも動画配信を行う予定です。

<報告:粉川尚枝研究員>

河合俊雄センター長


村山美穂センター長


内田由紀子准教授


出口康夫教授


シンポジウム全景


吉岡洋教授


総合討論


湊長博京都大学プロボスト

 

[開催ポスター]

[DATA]
▽ 日時:2018年11月18日(日)13:30~17:40(13:00~受付開始)
▽ 会場:京都大学国際科学イノベーション棟シンポジウムホール(京都市左京区吉田本町)
▽ プログラム:
13:30~13:40  開会の言葉 河合俊雄(京都大学こころの未来研究センター・センター長)
13:40~14:30  講演1 『社会で生きる、こころの分子基盤』村山美穂(京都大学野生動物研究センター・センター長)
14:30~15:20  講演2 『日本社会における生き方と自己:組織従業者の生理・心理調査からの考察』内田由紀子(京都大学こころの未来研究センター・准教授)
15:20~15:40  休憩
15:40~16:30  講演3 『「われわれ」としての自己、「われわれ」としての生き方』出口康夫(京都大学大学院文学研究科・教授)
16:30~17:30  総合討論 村山美穂、内田由紀子、出口康夫、河合俊雄
17:30~17:40  閉会の言葉 湊長博(京都大学・プロボスト) 主催:京都大学こころの未来研究センター 後援:公益財団法人 稲盛財団  

第3回京都こころ会議シンポジウム 「こころと生き方――自己とは何か」

第3回京都こころ会議シンポジウム 「こころと生き方――自己とは何か」
お申込みを締め切りました(2018/11/13)
2015年4月に発足した「京都こころ会議」は、科学技術の進歩や経済のグローバル化により、複雑化した世界に生きる人間の「こころ」そのものを究明しようという試みです。その際に「こころ」という日本語に含まれる広がりや深いニュアンスを大切にしながら、「こころ」についての新しい理解をKyoto Kokoro Initiativeとして世界に向けて発信します。 今年のテーマは、「こころと生き方――自己とは何か」で、これまでの「こころと歴史性」「こころの内と外」「こころと共生」というテーマが、こころの広がりに焦点を当ててきたのに対して、こころの内面性や固有性に迫ろうとするものです。そして京都学派のキーワードとも言える「自己」とこころはどのように捉えられ、われわれの生き方につながるのか、京都大学の人文・社会科学を中心にしつつ、自然科学の知見も加えて検討したいと思います。
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▽ 日時:2018年11月18日(日) 13:30~17:40(13:00~受付開始)
▽ 会場:京都大学 国際科学イノベーション棟西館5階 シンポジウムホール アクセス ※NO.69:国際科学イノベーション棟
【プログラム】
13:30~13:40  開会の言葉 河合俊雄(京都大学こころの未来研究センター・センター長)
13:40~14:30  講演1 『社会で生きる、こころの分子基盤』村山美穂(京都大学野生動物研究センター・センター長)
14:30~15:20  講演2 『日本社会における生き方と自己:組織従業者の生理・心理調査からの考察』内田由紀子(京都大学こころの未来研究センター・准教授)
15:20~15:40  休憩
15:40~16:30  講演3 『「われわれ」としての自己、「われわれ」としての生き方』出口康夫(京都大学大学院文学研究科・教授)
16:30~17:30  総合討論 村山美穂、内田由紀子、出口康夫、河合俊雄
17:30~17:40  閉会の言葉 湊長博(京都大学・プロボスト)
▽定員:270名(申込みによる先着順)
▽参加費:無料
▽申込方法 11/11(日)までにE-mailまたはFAXにてお申込みください。件名に「第3回京都こころ会議シンポジウム 申込み」と明記し、 必要事項を記入の上、ご送付ください。 定員に達し、ご参加いただけない場合のみ、ご連絡を差し上げます。
▽必要事項 ①氏名(ふりがな)②ご職業(ご所属)③返信用ご連絡先(メールアドレス)
連絡先/申込先 京都大学こころの未来研究センター 京都こころ会議事務局(平日9時~16時)
E-mail : kokoro-sympo*mail2.adm.kyoto-u.ac.jp (お手数ですが、*を@に変えてください)
FAX : 075-753-9680 URL : http://kokoro.kyoto-u.ac.jp

主催:京都大学こころの未来研究センター
後援:公益財団法人 稲盛財団

第1回京都こころ会議国際シンポジウム「こころと共生」を開催しました

2017年9月18日、京都大学百周年時計台記念館百周年記念ホールにて、第1回京都こころ会議国際シンポジウム「こころと共生」を開催しました。公益財団法人稲盛財団からのご支援を受けて2015年に発足した京都こころ会議は、これまでに「こころと歴史性」(第1回)、「こころの内と外」(第2回)をテーマに2回のシンポジウムを開催してまいりました。今回はそれを受けた初めての国際シンポジウムでしたが、国内外から300名近い参加者にご来場いただきました。

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今回のシンポジウムでは、吉川左紀子センター長の開会の言葉のあと、海外からのお二人を含めた4つの講演が行われました。中国・北京大学の心理・認知科学部を代表する教授であるShihui Han先生は、「Cognitive/Affective and Neural Obstacles of Human Symbiosis(人類の共生を妨げる認知・情動基盤と神経機構)」と題して講演されました。Han先生は、痛みに関する共感についての興味深い実験を紹介しつつ、人が内集団(ingroup)と外集団(outgroup)に対して神経レベルでどのような共感反応をするのか、またその反応は教育や経験等によってどのように変化しうるのかなどについて論じました。

アメリカ・パシフィカ大学院大学の学長であるJoseph Cambray先生は、化学で博士号をとられた後、ユング心理学を学び分析家の資格を取得され国際分析心理学会の会長も務められたという経歴をおもちです。本シンポジウムでは文理にまたがる広い知識と視野から「Synchronistic Phenomena and Psychological Symbiosis (共時的現象と心理学的共生)」と題して講演されました。ユングの提出した「共時性」という非因果的論理が現代科学における複雑系理論から理解できることを示して、新しいこころの科学の可能性を示しました。

続いて、相愛大学人文学部の教授であり、浄土真宗の僧侶でもあられる釈撤宗先生が「Symbiosis of Religious Beliefs(信仰の共生)」と題した講演をされました。宗教はその信仰の絶対性ゆえに他を排除してしまう性質がありますが、それらが共生していくことに対して、さまざまな方向から示唆と提言を行いました。

4つめの講演として、広井良典教授が「Sustainable Society, Sustainable Mind(持続可能な社会、持続可能なこころ)」と題する講演を行いました。この講演の中では、地球・人類の歴史をマクロな視点で振り返りつつ、大きな問題に対するローカルなレベルからの多様な取り組みにも触れ、こころのビッグバン・精神革命に続く新たな定常化の時代における地球倫理という視点の重要性について論じました。

これらの講演に続き、河合俊雄教授を司会に加え、講演者らによるディスカッションが行われました。ここでは4つの講演を踏まえて、これからの社会における共生の可能性、こころのつながりについて、それぞれの専門領域を超えた議論が展開されました。

最後に、湊長博京都大学理事が閉会の言葉として、ingroup-outgroupの議論に関して、自身の専門領域である免疫学の立場からコメントし、京都こころ会議および京都大学の人文社会科学に対する大きな期待を示しました。当日の司会進行は内田由紀子准教授が務めました。

第1回京都こころ会議国際シンポジウムの講演内容は、近く当HPでも動画配信を行う予定です。

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[DATA]
▽日時:2017年9月18日(月・祝) 13:00~18:00(12:30~受付開始)
▽場所:京都大学 百周年時計台記念館 百周年記念ホール 
▽プログラム
13:00~13:10  開会の言葉 吉川左紀子(京都大学こころの未来研究センター・センター長)
13:10~14:00  講演① ”Cognitive/Affective and Neural Obstacles of Human Symbiosis”(人類の共生を妨げる認知・情動基盤と神経機構)Shihui Han(Professor, School of Psychological and Cognitive Sciences, Peking University)
14:00~14:50  講演② ”Synchronistic Phenomena and Psychological Symbiosis”(共時的現象と心理学的共生)Joseph Cambray(Provost and Acting President, Pacifica Graduate Institute)
14:50~15:05  休憩
15:05~15:55  講演③ ”Symbiosis of Religious Beliefs”(信仰の共生)釈徹宗(相愛大学人文学部・教授)
15:55~16:45  講演④ ”Sustainable Society, Sustainable Mind”(持続可能な社会、持続可能なこころ)広井良典(京都大学こころの未来研究センター・教授)
16:45~17:00  休憩
17:00~17:50  総合討論 Shihui Han,Joseph Cambray,釈徹宗,広井良典,河合俊雄(京都大学こころの未来研究センター・教授)
17:50~18:00  閉会の言葉 湊長博(京都大学・理事)
司会進行 内田由紀子(京都大学こころの未来研究センター・准教授) ※講演・総合討論には日英の同時通訳が入りました
▽参加者数:285名

第1回京都こころ会議国際シンポジウム 「こころと共生」 The First Kyoto Kokoro Initiative International Symposium "Kokoro and Symbiosis"

2015年4月に発足した「京都こころ会議」は、科学技術の進歩や経済のグローバル化により、複雑化した問題に直面している人間の「こころ」そのものを究明しようという試みです。その際に「こころ」という日本語に含まれる広がりや深いニュアンスを大切にしながら、「こころ」についての新しい理解をKyoto Kokoro Initiativeとして世界に向けて発信します。 発足から3年目を迎えた本年度は、第1回の「こころと歴史性」、第2回の「こころの内と外」というシンポジウムを受けて、国際シンポジウムを開催します。テーマは「こころと共生」という非常に現代的であり、かつ日本語の「こころ」に含まれているニュアンスを強調したもので、他者・地球・宇宙との共生を可能にするのはどのような「こころ」なのか、認知科学・臨床心理学・仏教学・公共政策学など、様々な視点から探っていきたいと思います。

▽ 日 時:2017年9月18日(月・祝) 13:00~18:00(12:30~受付開始)
▽ 場 所:京都大学 百周年時計台記念館 百周年記念ホール (京都市左京区吉田本町)
      http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/access/campus/yoshida/map6r_y/
▽ 定 員:500名(申込みによる先着順)
▽ 対 象:研究者、学生、一般
▽ 参加費:無料
▽ プログラム
13:00~13:10  開会の言葉 吉川左紀子(京都大学こころの未来研究センター・センター長)
13:10~14:00  講演① ”Cognitive/Affective and Neural Obstacles of Human Symbiosis”(人類の共生を妨げる認知・情動基盤と神経機構) Shihui Han(Professor, School of Psychological and Cognitive Sciences, Peking University)
14:00~14:50  講演② ”Synchronistic Phenomena and Psychological Symbiosis”(共時的現象と心理学的共生) Joseph Cambray(Provost and Acting President, Pacifica Graduate Institute)
14:50~15:05  休憩
15:05~15:55  講演③ ”Symbiosis of Religious Beliefs”(信仰の共生) 釈徹宗(相愛大学人文学部・教授)
15:55~16:45  講演④ ”Sustainable Society, Sustainable Mind”(持続可能な社会、持続可能なこころ) 広井良典(京都大学こころの未来研究センター・教授)
16:45~17:00  休憩
17:00~17:50  総合討論 Shihui Han,Joseph Cambray,釈徹宗,広井良典,河合俊雄(京都大学こころの未来研究センター・教授)
17:50~18:00  閉会の言葉 湊長博(京都大学・理事)
※ 講演・総合討論には日英の同時通訳が入ります。

E-mailまたはFAXにてお申込みください。
件名に「第1回京都こころ会議国際シンポジウム 申込み」と明記し、必要事項を記入の上、ご送付ください。
定員に達し、ご参加いただけない場合のみ、ご連絡を差し上げます。
必要事項 ①氏名(ふりがな)②ご職業(ご所属)③返信用ご連絡先(メールアドレス)
連絡先/申込先 京都大学こころの未来研究センター 京都こころ会議事務局(平日9時~17時)
E-mail : kokoro-sympo*mail2.adm.kyoto-u.ac.jp(*を@に変えてください)
FAX : 075-753-9680 URL : http://kokoro.kyoto-u.ac.jp
主催:京都大学こころの未来研究センター
後援:公益財団法人 稲盛財団

第2回京都こころ会議シンポジウム「こころの内と外」を開催しました

2016年10月10日、京都大学芝蘭会館・稲盛ホールにて第2回京都こころ会議シンポジウムを開催しました。今回の第2回シンポジウムでは、昨年度の第1回シンポジウム「こころと歴史性」で議論された閉じることと開くことの逆説性から、「こころの内と外」がテーマとなりました。当日は200名を超える参加者にご来場いただきました。 IMG_2983.JPG

はじめに、吉川左紀子センター長が、主催者を代表して開会の言葉を述べました。京都こころ会議の主旨とこころの未来研究センターの10年来の取り組みを紹介し、人のこころのあり方について、科学的観点だけでなく、社会や自然、文化などさまざまな角度から議論し、認識を深めていきたいと今後の展望を述べました。

次に、当センターの河合俊雄教授が「こころの内と外:こころ研究会から」と題して、本年度に開催された、以下の4つの京都こころ会議研究会(通称:こころ研究会)の報告を行いました。

       第1回:池上高志(複雑系・人工生命)「人工の心と現実の脳:自己組織化、アルゴリズム、マッシブデータフロー」
       第2回:Harald Atmanspacher(理論物理学)「二面一元論(dual-aspect monism)におけるこころのあり方」
       第3回:中沢新一(人類学)「理事無礙法界について」
       第4回:田中康裕(臨床心理学)「日本的風景と主体:古くて新しい意識のあり方」

このように4回のこころ研究会は幅広い分野にまたがるものでしたが、「こころの内と外」という観点からすれば、「乱雑さ(messiness)」「全体性の崩壊と回復」「偶然」「知覚と意識の隙間」「主体と客体の融合」「奥ゆきと広がりの同一性」などのキーワードで示されるように、私たちがこころをリアルなものと感じる契機とは、真逆のもののなかに開かれる隙間や裂け目、中間にこそあるのではないかという議論が共通点であったように思われます。

続いて、赤坂憲雄学習院大学文学部教授が「遊動から定住へ――そのとき、こころの変容は起こったか」と題して講演を行いました。民俗学を専門とする赤坂先生は、私たちが無意識に抱く「逃げる」ことに対する忌避の背景に、1万年前に生じた遊動から定住へという生存戦略上の大変革によってもたらされた「逃げられない社会」があることを示し、離合集散を認める新たな「逃げられる社会」をデザインしていくことの必要性を論じました。

休憩を挟んで、赤坂教授、河合教授に池上高志東京大学大学院総合文化研究科教授と山極壽一京都大学総長を加えた4名による総合討論が行われ、逃げることと自由、有史を超えた時間的展望からこころを捉えていくことなどについて、大変白熱した議論が展開されました。

最後に、湊長博京都大学理事が閉会の言葉として、京都こころ会議でのこころについての議論が、人の行動様式や社会のあり方に影響を与えられるような発信力をもっていくことを大学として期待すると述べ、第2回シンポジウムは盛会のうちに終了いたしました。当日の司会進行は内田由紀子准教授が務めました。

今回行われた第2回京都こころ会議シンポジウムの講演内容は、近く当HPでも動画配信を行う予定です。

<報告:梅村高太郎研究員>

[シンポジウム写真]
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[開催ポスター]
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[DATA]
▽ 日時:2016年10月10日(月・祝)13:30~17:20(13:00~受付開始)
▽ 会場:京都大学芝蘭会館稲盛ホール(京都市左京区吉田近衛町)
▽ プログラム:
 13:30~13:40 開会の言葉 吉川左紀子(京都大学こころの未来研究センター・センター長)
 13:40~14:40 研究会報告 『こころの内と外:こころ研究会から』
           河合俊雄(京都大学こころの未来研究センター・教授)
 14:40~15:50 講演 『遊動から定住へ――そのとき、こころの変容は起こったか』
           赤坂憲雄(学習院大学文学部・教授)
 15:50~16:10 休憩
 16:10~17:10 総合討論 赤坂憲雄、池上高志(東京大学大学院総合文化研究科・教授)、山極壽一(京都大学・総長)、河合俊雄
 17:10~17:20 閉会の言葉 湊長博(京都大学・理事) 主催:京都大学こころの未来研究センター 後援:公益財団法人 稲盛財団

第2回京都こころ会議シンポジウム 「こころの内と外」

第2回京都こころ会議シンポジウム 「こころの内と外」 ※定員に達したため締め切りました(2016/9/23)

二〇十五年四月に発足した「京都こころ会議」は、科学技術の進歩や経済のグローバル化により、複雑化した問題に直面している人間の「こころ」そのものを究明しようという試みです。その際に「こころ」という日本語に含まれる広がりや深いニュアンスを大切にしながら、「こころ」についての新しい理解をKyoto Kokoro Initiativeとして世界に向けて発信します。 第二回「京都こころ会議シンポジウム」では、第一回が「こころと歴史性」に焦点を当てたのに対して、「こころの内と外」をテーマとし、民俗学者の赤坂憲雄先生の講演を柱にして、これまでの「こころ研究会での発表もわかりやすく紹介しつつ、「こころ」についての理解を深め、これからの社会において「こころ」に求められるものに迫ってゆきたいと思います。

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▽ 日時:2016年10月10日(月・祝)13:30~17:20(13:00~受付開始)
▽ 会場:京都大学芝蘭会館稲盛ホール(京都市左京区吉田近衛町)アクセス
▽ プログラム:
 13:30~13:40 開会の言葉 吉川左紀子(京都大学こころの未来研究センター・センター長)
 13:40~14:40 研究会報告 『こころの内と外:こころ研究会から』
           河合俊雄(京都大学こころの未来研究センター・教授)
 14:40~15:50 講演 『遊動から定住へ――そのとき、こころの変容は起こったか』
          赤坂憲雄(学習院大学文学部・教授)
 15:50~16:10 休憩
 16:10~17:10 総合討論 赤坂憲雄,池上高志(東京大学大学院総合文化研究科・教授),山極壽一(京都大学・総長),河合俊雄
 17:10~17:20 閉会の言葉 湊長博(京都大学・理事) 主催:京都大学こころの未来研究センター 後援:公益財団法人 稲盛財団

第1回京都こころ会議シンポジウム「こころと歴史性」を開催しました

2015年9月13日、京都ホテルオークラにて第1回京都こころ会議シンポジウム「こころと歴史性」を開催しました。4月に発足した「京都こころ会議」の第1回シンポジウムとして、こころの歴史性に焦点をあて、5人の講演者がそれぞれの専門分野から講演、討論をおこないました。当日は、400名を超える参加者にご来場いただきました。

1509kokoro_zentai.pngはじめに吉川左紀子センター長が、京都こころ会議発足の経緯を紹介し、その意義と取り組みについて、「歴史や文化、自然や環境など大きな枠組みと関係づけながらこころの豊かさやかけがえのなさを明らかにし、豊かなこころを育む人間社会のあるべき姿を国内外に”Kyoto Kokoro Initiative”として発信していきたい」と挨拶しました。

続いて、公益財団法人稲盛財団の稲盛和夫理事長より、「稲盛財団では、人類の未来は科学の発展と精神的進化のバランスがとれて初めて安定するとの理念を掲げ、さまざまな取り組みを続けてきた。ひとのこころの大切さを問い直し、日本人に古くから伝えられて来た倫理観や道徳心について、その実践や提言を世界に向けて発信する本事業が、今後の人類の精神的進化に大きく貢献することを願っています」と、激励の言葉を頂きました。

また、文部科学省研究振興局学術機関課の牛尾則文課長より、「こころの未来研究センターは、学問の領域をこえてこころに関する学際的な研究を進め、社会にも積極的に成果を発信している。真のこころの豊かさが問われている今この時期に、本会議が始まるのはタイミングとしても素晴らしい。ますますの発展を祈念します」とお祝いの言葉を頂きました。

続いて、中沢新一明治大学野生の科学研究所所長が「こころの構造と歴史」というテーマで基調講演を行いました。中沢先生は「自然科学と人文学が考えるこころをつなぐことが、今こそ必要である」とし、現代の神経科学において解明されてきたこころと、人文学が捉えてきたこころを比較しながら「21世紀は、ものとこころの統一が重要な要素となる。今後、脳の過程とこころの過程が近付き、さらに深い理解が可能になるだろう」と、京都こころ会議への期待を話されました。

次に、こころの未来研究センターの河合俊雄教授が「こころの歴史的内面化とインターフェイス」というテーマで講演しました。「自然や異界にまで広がるオープンシステム」として捉えられてきた日本人のこころと、キリスト教での祈りから精神分析にまでつながる「個人の中に閉じ込められたクローズドシステム」としての西洋人のこころを比較すると共に、インターネット社会が出現してこころをインターフェースとして捉える傾向へと変化してきた流れについて、臨床心理学の視点から考察をおこないました。

午後は、広井良典千葉大学教授が「ポスト成長時代の『こころ』と社会構想」というテーマで講演をおこないました。公共政策、科学哲学を専門とする広井先生は、拡大・成長から成熟・定常へと変化する日本において人のこころや社会はどのように対応するべきか、文化的史実やデータに光をあてながら、ポスト成長時代のこころと社会の在り方について展望しました。

休憩をはさんで、下條信輔カリフォルニア工科大学教授・こころの未来研究センター特任教授が「こころの潜在過程と”来歴”~知覚、進化、社会脳」というテーマで講演をおこないました。下條先生は、自身の研究から生まれた「こころの来歴(らいれき)」という概念について、「年輪がその木の生育歴を一瞬で示すように、来歴は遺伝-経験、環境-脳の相互作用の痕跡が、あらゆる時間スケールで、個体の歴史を超えて重ね合わさったもの」とし、自分や他者の来歴を丹念に振り返ることで人間の本性や、未来のこころを探る手がかりになる、と考察しました。

最後に、山極壽一京都大学総長が「こころの起源――共感から倫理へ」というテーマで講演をおこないました。霊長類学が専門の山極先生は、性を隠匿し食を公開するという、他の霊長類とは逆の独自システムを持つ人間の特性に注目し、複雑な人間社会の背景にある人のこころの成り立ちについて、ゴリラをはじめとする霊長類研究の成果を様々な動画とデータとともに示しながら、こころの理解における比較研究の意義について論じました。

その後、5名の講演者による総合討論がおこなわれ、総括コメントとして、鎌田東二こころの未来研究センター教授が「知のフロントランナーたちがこころについて様々な角度から考察した豊かな時間だった」と語り、日本人のこころとアニミズムに関連して、戦後に流行した「リンゴの唄」の歌詞を紹介し、「りんごにもこころを見出す日本のアミニズムがどんな可能性をもつのか、今後の京都こころ会議での議論の展開に期待している」と述べました。

また、閉会の言葉として湊長博京都大学理事・副学長が、「京都大学には20をこえるたくさんの研究所、センターがあり、こころの未来研究センターはそのうち最も小さいセンターだが、こころという最も大きいものを対象に研究をおこなっている。こころをめぐる研究が今後、個人と社会の道しるべにつながるよう発展していくことを期待しています」と話し、シンポジウムは閉会しました。  今回おこなわれた第1回京都こころ会議シンポジウムの講演内容は、書籍として出版される予定です。また、2016年には「国際京都こころ会議」を開催する予定です。

[シンポジウム写真(登壇順)]
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[開催ポスター]
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 [DATA] ▽ 日時:2015年9月13日(日)9:30~18:00(9:00~受付開始)
                ▽ 会場:京都ホテルオークラ3階 翠雲(アクセス) (京都市中京区河原町御池)
                ▽ プログラム: 9:30-9:50  開会の言葉 吉川左紀子(京都大学こころの未来研究センター・センター長)
                                            挨拶    稲盛和夫(公益財団法人稲盛財団・理事長)
                                            祝辞    牛尾則文(文部科学省研究振興局学術機関課・課長)    
                                                9:50-11:00  講演①「こころの構造と歴史」中沢新一(明治大学野生の科学研究所・所長)
                                      11:00-12:00 講演②「こころの歴史的内面化とインターフェイス」河合俊雄(京都大学こころの未来研究センター・教授)
                                      12:00-13:20 休憩    
                                               13:20-14:20 講演③「ポスト成長時代の「こころ」と社会構想」広井良典(千葉大学法政経学部・教授)
                                     14:20-15:20 講演④「こころの潜在過程と”来歴”~知覚、進化、社会脳」下條信輔(カリフォルニア工科大学生物・生物工学部・教授)    
                                              15:20-15:40 休憩    
                                              15:40-16:40 講演⑤「こころの起源――共感から倫理へ」山極壽一(京都大学・総長)    
                                              16:40-17:40 総合討論  中沢新一、河合俊雄、広井良典、下條信輔、山極壽一    
                                              17:40-18:00 総括    鎌田東二(京都大学こころの未来研究センター・教授)                                            閉会の言葉 湊長博(京都大学・理事)

主催:京都大学こころの未来研究センター
後援:公益財団法人 稲盛財団

第1回京都こころ会議シンポジウム 「こころと歴史性」

第1回京都こころ会議シンポジウム 「こころと歴史性」 ※定員に達したため締め切りました(2015/7/30) 科学技術の進歩や経済のグローバル化は、人類がこれまで体験したことのない大きな変化をもたらしています。 2015年4月に発足した「京都こころ会議」では、複雑化した問題に直面している人間の「こころ」に焦点をあて、「こころ」という日本語に含まれる広がりや深いニュアンスを大切にしながら、豊かなこころがはぐくまれる社会のあり方について議論します。そして、今世紀を生きる人間のあるべき姿が明確になることをめざし、こころの新しい理解をKyoto Kokoro Initiativeとして世界に向けて発信します。 第1回「京都こころ会議シンポジウム」では、こころの歴史性に焦点を当て、人類がこれまでに世界と向き合ってきた「こころ」についての理解を踏まえつつ、これからの社会において「こころ」に求められるものに迫ってゆきたいと思います。
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 ▽ 日時:2015年9月13日(日)9:30~18:00(9:00~受付開始)
▽ 会場:京都ホテルオークラ3階 翠雲(アクセス)     (京都市中京区河原町御池)
▽ プログラム:  9:30-9:50  開会の言葉 吉川左紀子(京都大学こころの未来研究センター・センター長)                                 挨拶    稲盛和夫(公益財団法人稲盛財団・理事長)
                                祝辞    牛尾則文(文部科学省研究振興局学術機関課・課長)
                          9:50-11:00  講演①「こころの構造と歴史」中沢新一(明治大学野生の科学研究所・所長)    
                                  11:00-12:00 講演②「こころの歴史的内面化とインターフェイス」河合俊雄(京都大学こころの未来研究センター・教授)
                            12:00-13:20 休憩
                         13:20-14:20 講演③「ポスト成長時代の「こころ」と社会構想」 広井良典(千葉大学法政経学部・教授)
                         14:20-15:20 講演④「こころの潜在過程と”来歴”~知覚、進化、社会脳」下條信輔(カリフォルニア工科大学生物・生物工学部・教授)
                         15:20-15:40 休憩
                         15:40-16:40 講演⑤「こころの起源――共感から倫理へ」山極壽一(京都大学・総長)
                         16:40-17:40 総合討論  中沢新一、河合俊雄、広井良典、下條信輔、山極壽一
                         17:40-18:00 総括    鎌田東二(京都大学こころの未来研究センター・教授)
                               閉会の言葉 湊長博(京都大学・理事)

主催:京都大学こころの未来研究センター
後援:公益財団法人 稲盛財団

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