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広井教授の『ポスト資本主義』の韓国語版が刊行されました

1703hiroi_book_korea.png 広井良典教授の著書『ポスト資本主義――科学・人間・社会の未来』(岩波書店、2015年)の韓国語版が刊行されました。訳者はパクジェイ氏で、AKコミュニケーションズ(ソウル)より2017年1月20日の刊行となりました。韓国語版ウェブサイトは こちら


 『ポスト資本主義――科学・人間・社会の未来』は、2015年に岩波新書として出版されました。資本主義の歩みを人類史的なスケールから俯瞰し、国家、コミュニティ、社会の変遷と現状の課題について論じ、「定常型社会」をキーワードに、持続可能な社会を実現させるための具体的な提言を盛り込んだ書です。


 なお同書は中国語版も刊行予定です。


 『ポスト資本主義――科学・人間・社会の未来』(広井良典)

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河合教授、畑中助教、梅村研究員らによる2つの共著論文が『箱庭療法学研究』に掲載されました

 上廣こころ学研究部門の臨床心理学領域「発達障害の子どもへの心理療法的アプローチ」研究プロジェクトの研究成果となる2本の論文が、『箱庭療法学研究』第29巻第2号(発行:日本箱庭療法学会)に掲載されました。


 1つは、畑中助教が筆頭著者である「発達障害のプレイセラピーにおける保護者面接の意義と可能性」、もう1つは近年注目されているトピックを扱った「診断を受けながらも発達障害とは見立てられない事例の特徴」です。


1. 「発達障害のプレイセラピーにおける保護者面接の意義と可能性」


畑中千紘、田中崇恵、加藤のぞみ、小木曽由佳、井芹聖人、神代末人、土井奈緒美、長谷川千紘、高嶋雄介、皆本麻実、河合俊雄、田中康裕(2016)発達障害のプレイセラピーにおける保護者面接の意義と可能性. 箱庭療法学研究 第29巻2号 1-12. 


○論文について
本論文は、発達障害の子どものプレイセラピーを行う際に、その保護者についても正しく見立てを行い、子どもの見立てとの組み合わせを理解した上で面接を行うことの重要性を示したもので、原著として掲載されています。


2. 「診断を受けながらも発達障害とは見立てられない事例の特徴」


皆本麻実・畑中千紘・梅村高太郎・田附紘平・松波美里・岡部由茉・粉川尚枝・鈴木優佳・河合俊雄・田中康裕(2016)診断を受けながらも発達障害とは見立てられない事例の特徴. 箱庭療法学研究 第29巻2号 43-54.


○論文について
近年、発達障害の診断を受けていても実際に会ってみるとそうとは見立てられない事例が増えていることを受け、なぜ発達障害と診断を受けたと思われるかによって4つの群に分け、その子どもの特徴の理解につなげようとするものです。
これは、単純に誤診が多いということではなくて、発達障害らしいエピソードがあっても、それが器質的な要因に由来しないと思われるグレーゾーンのケースが増えていることと関連し、注目されているトピックを扱っています。


(報告:畑中千紘助教・上廣こころ学研究部門)

吉川教授の論文が『心理学研究』に掲載されました

 吉川左紀子教授と布井雅人聖泉大学講師の共著論文「表情の快・不快情報が選好判断に及ぼす影響―絶対数と割合の効果―」が、学術誌『心理学研究』第87巻第4号(発行:日本心理学会/2016年10月)に掲載されました。


 本研究は、選好判断が複数の他者から受ける情報の絶対数や割合によってどのように影響されるかを検討したものです。複数の人から受ける表情や視線などの情報が選好判断(ものの好き嫌いの判断)に影響を及ぼすとき、情報の「数」と「割合」という2つの側面から影響があると考え、3つの実験を行った結果、複数の他者がいる場面では、他者が示すシグナルの数が選好判断に影響を及ぼすことが分かりました。さらに喜びの表情においてはその割合が好意度の上昇をもたらし、嫌悪表情においては有無が好意度の低下をもたらすことが分かりました。


 論文のPDFが公開されています。下記の画像もしくはリンク先をクリックしてお読みください。


内田准教授が編集・執筆し、阿部准教授、柳澤助教らが執筆した『社会心理学概論』が出版されました

 1610social_psychology.png内田由紀子准教授が北村英哉関西大学教授と編纂に携わり、阿部修士准教授、柳澤邦昭助教、竹村幸祐連携研究員(滋賀大学准教授)らと執筆した『社会心理学概論』が2016年9月、ナカニシヤ出版より刊行されました。


 20章、398頁からなる同書は、古典的研究から進化、脳科学を含めた最新のトピックスまでを網羅し、社会心理学の全貌を学ぶことができる「社会心理学の決定版の書」といえる一冊です。


 内田准教授は第14章「文化」を、阿部修士准教授と柳澤邦昭助教は第20章「社会神経科学」を、竹村幸祐連携研究員(滋賀大学准教授)は第12章「集団間関係」を横田晋大総合研究大学院大学研究員と執筆しました。


はじめに (本文より)


 学問は日進月歩だ。そうでなければ学問ではないし, 日々の研究は必要ではなくなる。
 世界中に数多く存在する「研究者」と呼ばれる人びとは, 新しい発見をしたり, 独自の視点を見つけたりすることを目指して学問に取り組んでいる。研究者たちは, それぞれ切磋琢磨し, 議論しながら, 少しでも新たな知見を提示しようと日々努力している。
 そのため, 多くの研究者が情報収集するのは, 新しい知見が掲載されている「学術論文」である。新しい実験パラダイム。新しい結果。新しい仮説。
 社会心理学も, 社会科学というサイエンスの一翼を担う学問分野として, 「新しさ」の追求を行っている。実際, 人の心の社会的機能についての新たな研究知見は, 社会が複雑化していくにつれ, ますます重要になっており, 社会的ニーズはきわめて高い。
 では最新の知見ではなく, これまでの, 幾分古典的な知見も含めて掲載されている教科書的な概論書の役割とは何だろう?(中略)
 概論書には, その分野の歴史的積み重ねが紡ぎ出されている。限られたページ数の中, それぞれのトピックスの中で, 特に重要だと思われるものが紹介されている。私たちはそこから多くのことを知ることができる。それらを知ったうえでなければ, これまでのところ何がわかっていて, 何がわかっていないのか, 何をこれからやるべきなのかを見つけることができない。概論書は道しるべであり, 私たちが行き当たりばったりにならないように導いてくれる。
 さて, 温故知新と豊かな教養に資するような社会心理学の書籍を編むにあたり, 今回筆者たちには, 長年社会心理学の書籍を手がけてこられたナカニシヤ出版の宍倉由高さんより, 一つの大きな使命が与えられた。それは「社会心理学の, しっかりした決定版の書籍を」というミッションであった。......


<内田由紀子・北村英哉>


『社会心理学概論』
編集:北村 英哉、内田 由紀子
出版社:ナカニシヤ出版
出版年月日:2016/09/20
ISBN-10: 4779510597
ISBN-13: 978-4779510595
判型・ページ数:B5・404ページ
定価:本体3,500円+税



出版社の書籍ページ(詳しい目次が掲載されています)
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センターの教授、准教授による共著『こころ学への挑戦』が出版されました

160428kokorogaku_book.png こころの未来研究センターの教授、准教授らが執筆した共著『こころ学への挑戦(こころの未来選書)』が、2016年3月、創元社より出版されました。


 本書は、吉川左紀子センター長をはじめ、2016年3月末までセンターに勤務した船橋新太郎教授と鎌田東二教授(肩書きは当時)、河合俊雄教授、カール・ベッカー教授、内田由紀子准教授、阿部修士准教授、熊谷誠慈准教授ら8人が、各自の専門領域をふまえて「こころ」と「こころ学」の定義に挑みながら、センター設立から今日までに取り組んでいる「こころ」を巡る研究活動の成果を紹介しています。巻末には8人全員が集まり「こころの未来研究センターと『こころ学』の創生」というテーマで、これまでの歩みを振り返り、次なる「こころ学」の展開に向けて語り合った座談会の記録も収められています。



『こころ学への挑戦(こころの未来選書)』


編著:吉川左紀子、河合俊雄
著:船橋新太郎、鎌田東二、カール・ベッカー、阿部修士、内田由紀子、熊谷誠慈
出版社: 創元社
価格:3,024円(税込)
言語: 日本語
判型:A5判 272頁
ISBN-10: 4422112287
ISBN-13: 978-4422112282


○目次
はじめに 吉川左紀子
1章 脳の働きを通してこころを探る 船橋新太郎
2章 こころ学の実現に向けて――脳研究の視点から 阿部修士
3章 こころのワザ学と日本文化 鎌田東二
4章 「心」と「こころ」――文献学的手法に基づくこころ学の構築 熊谷誠慈
5章 「こころ学」を考える――3つの側面と3つの研究プロジェクト カール・ベッカー
6章 実践とリフレクションとしてのこころ学 河合俊雄
7章 文化とこころ――こころへの社会科学的アプローチ 内田由紀子
8章 こころ学の効用 吉川左紀子
座談会 こころの未来研究センターと「こころ学」の創生 全員


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はじめに
吉川左紀子


 広くこころについての学際的研究を行うことを目的に設置された京都大学こころの未来研究センターは、二〇〇七年にスタートした。
 本書『こころ学への挑戦』は、センターが誕生してから一〇年の節目を前に、これまでのセンターでの研究活動を振り返り、センターがめざす「こころ学」創生のイメージについて、各研究者がそれぞれの視点から提示することを目的に企画された。
 「挑戦」という少し勇ましいタイトルは、「こころ」について、その全体像を描き出すために息の長い取り組みを進める研究者の心構えを表わしている。


      *


 こころの未来研究センターは、二〇〇三年からの五年間、「地球化時代を生きるこころを求めて」をメインテーマに京都大学で実施されたシンポジウムとワークショップ「京都文化会議」の趣旨を引き継いで誕生した。センターのミッションは、さまざまな学問的アプローチでこころについて研究を進め、広く「こころの知」を発信することである。
 こころを研究する新しいセンターなのだから、ワクワクするような場所にしたい。名称はとても大事だと考えた。研究はすでに起きた現象を分析し考察し、「こんなことがわかりました」と示す仕事なので、過去・現在・未来という時間の流れでみると、過去と現在である。だが、私たちがめざしているのは、人が未来に向かってよりよく生きるヒントになるような「こころの知」を発信することであり、そのメッセージは未来に向けて送りたい。そこで、「こころの未来に向けて研究をする、こころの未来研究センター。これがいい」と意見が一致した。
 スタートした当初は、大学の組織名称にひらがなや「未来」といった単語を使うことに反対もあった。しかし最近は批判の声も聞かれなくなって、「いい名前のセンターですね」と言われることも多い。「こころの未来」という名称のもつ柔らかく明るい雰囲気は、未来の社会に向けて、こころをめぐる多彩な研究を発信するセンターにふさわしいと思う。
 センターでは、「こころとからだ」「こころときずな」「こころと生き方」という三つの領域を設定して、研究者が相互のつながりや連携を意識しながら研究プロジェクトに取り組んできた。異なる専門領域をつなぐ学際研究を行うことや、基礎研究の成果を実践の場に役立てること、あるいは逆に、実践の場での経験から、新たな研究課題を見つけて研究を開始すること。日頃こうしたさまざまな取り組みを行っている研究者の、こころ学への思いや研究成果の一端が本書で語られている。
 本書の1章と2章では、神経生理学、脳科学と心理学の学際研究からみた「こころ学」「こころ観」が論じられる。3章では、聖地、言霊、芸能という三つの文化的側面から人文学的アプローチによるこころ観が語られる。4章ではアジア地域の古文書にあらわれる「こころ」概念をめぐって、人文学の方法によるこころ学の構築が試みられる。5章では、医療倫理学およびストレス軽減の実践研究を通してみた「こころ」について論じられる。6章は、クライアントや身体疾患の患者のケアを通して心理臨床という実践からみた「こころ」が語られる。7章では、日本と欧米の幸福感の比較を通してみた、文化心理学のアプローチによる「こころ」が論じられる。8章では、対話の映像分析を通してみた学際研究を中心に、実験心理学のアプローチによる「こころ」について論じられる。
 こうした多様な角度から「こころ」に迫る試みは、まだ始まったばかりである。異分野の研究者が一つの組織に集い、さまざまなアプローチでこころについて研究する。そうした環境で日頃ディスカッションを重ねて研究することに慣れてくると、異分野という境界を意識した遠慮はなくなり、忌憚のない意見交換が日常的に行われるようになる。本書の最期に収録した、本書執筆者による座談会から、そうしたセンターの闊達な雰囲気を感じていただければ幸いである。


(「はじめに」より)


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吉川教授が第5章を執筆した『高校生のための心理学講座』が出版されました

1602yoshikawa_book.png 吉川左紀子教授が第5章を執筆した『高校生のための心理学講座 ーこころの不思議を解き明かそう』(監修:日本心理学会、編集:内田 伸子、板倉 昭二)が2016年2月、誠信書房から出版されました。


 2014年12月に京都大学で開催された「高校生のための心理学講座」を書籍化したもので、吉川センター長は、第1部「高校生に心理学を教える」第5章を担当。「感情心理学 ー人と人が出会うとき」というタイトルで、感情の変化を表す「顔の表情」に関する研究の研究成果を取り上げ、医療関係者との協力で研究を進めた患者とのコミュニケーション研究の事例などを紹介しています。


第5章 感情心理学 ー人と人が出会うとき
  1. 感情の心理学
  2. 表れる表情、伝える表情
  3. 表情から感情を読み取る
  4. 表情の心理実験から分かること
  5. 感情の心理学を学ぶ


 19世紀の末、イギリスの経済学者マーシャルが学生に向けて語った、「冷静な頭脳と温かい心をもて」という有名なことばがありますが、20世紀後半の心理学は、「冷静な頭脳」、つまり認知のはたらきに関する研究を中心に進んできたといえます。その一方で、私たちが毎日の暮らしの中で経験する悩みや困りごとの多くは、自分や他者の感情に関わることが多いのではないでしょうか。心理学の専門家を除けば、心について知りたいことの多くは、マーシャルの言葉の「温かい心」に関連するところではないかと思います。
 認知の研究に比べると少し遅れをとっていた感のある感情の研究ですが、1990年代以後、新しい研究成果が次々に発表されるようになりました。その一番のきっかけは、脳機能イメージング(核磁器共鳴機能画像法 / functional-magnetic resonance imaging fMRI)といった、人の脳の神経活動を明らかにする新しい研究手法が開発されたことです。脳機能イメージングは、人が何かの課題を行っているときの脳内の血流の変化を画像化して、人の認識や運動に関わる脳の部位を調べる研究手法です。それが心の研究に広く利用されるようになったことで、感情心理学の分野にも大きな変化が生まれました。
 本章では、感情の変化を表す身体装置である「顔の表情」を取り上げて、感情と表情の関係や、表情とミラーシステムについてお話しします。最近の表情認知の研究から分かってきたことや、病院で実施した、看護師さんの表情コミュニケーション研究についてもお話ししたいと思います。


(「感情の心理学」より)


『高校生のための心理学講座 ーこころの不思議を解き明かそう』
監修:日本心理学会
編集:内田 伸子、板倉 昭二
出版社: 誠信書房 (2016/2/15)
判型・頁数:A5 206ページ
ISBN-10: 4414311152
ISBN-13: 978-4414311150


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鎌田教授の発表論文が韓中日国際シンポジウム「生命と平和、治癒と霊性から見た退渓学」論文集に掲載されました

 鎌田東二教授が、韓中日国際シンポジウム「生命と平和、治癒と霊性から見た退渓学」(主催:嶺南退渓学研究院、陶山ソンビ文化修練院)に基調発表者として登壇し、大会論文集に掲載されました。
 シンポジウムは2015年12月4日から6日に渡り、韓国・安東市の陶山ソンビ文化修練院で開催されました。日韓の研究者が集った学術大会において、鎌田教授は初日に「『古事記』(712年編纂)出雲神話における須佐之男命と大国主神の治癒と平和を生み出す生命思想と霊性」という演題にて基調発表をおこないました。


1512kamata_korea.png「『古事記』(712年編纂)出雲神話における須佐之男命と大国主神の治癒と平和を生み出す生命思想と霊性」 鎌田東二(京都大)


はじめに〜スパイラル史観
1、『日本書紀』に記された「和の国」(和国)の原点
2、『古事記』における「和」の実現としての「国譲り」
3、大国主神の癒しのワザ
おわりに〜「平和の術」(arts of peace)の創出と実践をめざして


 一般に「平和」とは戦争や紛争や抗争のない状態と考えられている。天下泰平、つまり世の中が平らかで、和楽、つまり人々が和らぎ楽しんで生活している状態を言う、と考えられている。
 では、どのようにすれば、そのような「平和」を生み出し、実現させることができるのだろうか?ゴータマ・シッダルタも老子も孔子など、東洋の著名な思想家たちも、それぞれの仕方で「平和」実現の方法と未知を指し示した。
 だが、仏教において、正法・像法・末法の歴史観があるように、仏教の教えが正しく伝わらず、歪み、衰退していく時代認識が起こってくる。終末論もそうであるが、一種の悲観主義的な「下降史観」である。
 私は、進歩主義的な「上昇史観」も悲観主義的な「下降史観」も、どちらも「歴史」というものの光と影、陰と陽、創造と破壊(破局)というダイナミズムを全体として正しく捉えきれていないと考え、一つの仮説として「スパイラル史観」という歴史観を提唱している。そしてその「スパイラル史観」に基づく今日的状況を「現代大中世論」として問題提起している。
 この「スパイラル史観」=「現代大中世論」という歴史観は、古代と近代、中世と現代に共通の問題系が噴出しているとして、近代と現代を古代と中世の問題系の螺旋形拡大再生産の時代と見て取る史観である。


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鎌田教授が企画・編集した『講座スピリチュアル学 第5巻 スピリチュアリティと教育』が出版されました

1512kamata_spiritual.png 鎌田東二教授が企画・編集をおこない、西平直教育学研究科教授、上田紀行東京工業大学リベラルアーツセンター教授、トマス・ジョン・ヘイスティングスUBCHEA主任研究コンサルタント、奥井遼センター連携研究員(パリ第五大学・日本学術振興会海外特別研究員)らと執筆した『講座スピリチュアル学 第5巻 スピリチュアリティと教育』が、2015年12月、ビイング・ネット・プレスより出版されました。

 スピリチュアリティと教育について様々な分野から識者らが論じる第5巻では、両者の定義についての根本的な議論からはじまり、教育現場からの報告やホリスティッック教育におけるスピリチュアリティ、わざを伝えるものとつかむものの実践の場からの考察など、多岐に渡る論考と問いかけがなされています。鎌田教授は、最終章「臨床教育学と霊性的自覚」というタイトルにて執筆しています。


はじめに ー 「教育」の困難と力 鎌田東二


 「このスピリチュアル学」全七巻の最初の三巻を「スピリチュアルケア」と「スピリチュアリティと医療・健康」と「スピリチュアリティと平和」とし、そして第四巻目を「スピリチュアリティと環境」としたことには理由がある。
 第一巻を「スピリチュアルケア」とした理由は、「心のケア」が社会問題となった一九九五年に起こった阪神淡路大震災から一六年を経て二〇一一年に起きた東日本大震災の後の社会を一人ひとりがどう生きぬいていくかという喫緊の深刻な実存的問題にまず取り組むべきだと考えたからである。「心のケア」から「スピリチュアルケア」への展開がこの一六年で具体的に進行していると考えたからだ。そして第二巻「スピリチュアリティと医療・健康」では、その具体的な進行と展開を主として身体の側から検討した。「心のケア」と「霊的なケア」を踏まえて「体のケア」と、「霊・魂(心)・体」全体のケアを考えようとしたのである。こうして次に、第三巻「スピリチュアリティと平和」において、「社会のケア」あるいは「人間関係や集団間のケア」の問題を考察し、「宗教間の対立」と「文明の衝突」を超えていく宗教間対話や地球倫理や共助や公共とスピリチュアリティとの関係を考察した。
 こうした問いかけのステップの上に、「スピリチュアリティと教育」を課題にする本巻がある。序章では、「自我」の確立と開放の両義的緊張関係が「主体」と「脱主体」、「教育」と「脱教育」、「教育」と「スピリチュアリティ」の間と往還の中で探られる。続いて、「第一部 教育と超越」では、東京工業大学の新しい教養教育の取り組みや賀川豊彦やホリスティック教育の中での瞑想や敬虔や気づきの問題が掘り下げられる。「第二部 教育と贈与的他者性とわざ」では、教育というありようの中での他者性や他者関係、そこにおける道徳と純粋贈与、伝承的わざが多彩に掘り起こされ、終章では孔子の人間形成論を指標としつつ、鳥山敏子や坂本清治や大重潤一郎やNPO法人東京自由大学の教育実践と事例が取り上げられる。


『講座スピリチュアル学 第5巻 スピリチュアリティと教育』
企画・編・著:鎌田東二
著:鎌田東二、 西平直、上田紀行、トマス・ジョン・ヘイスティングス、中川吉晴、中野民夫、矢野智司、吉田敦彦、奥井遼
出版社:ビイング・ネット・プレス
初版発行: 2015年12月
四六判並製261頁
定価:1,944円(税込)
ISBN-10: 490805505X
ISBN-13: 978-4908055058


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『講座スピリチュアル学 第1巻 スピリチュアルケア』が出版されました
『講座スピリチュアル学 第2巻 スピリチュアリティと医療・健康』が出版されました
『講座スピリチュアル学 第3巻 スピリチュアリティと平和』が出版されました
『講座スピリチュアル学 第4巻 スピリチュアリティと環境』が出版されました

鎌田教授、島薗進上智大教授、志村ふくみ氏(染織家)らの講演録が発刊されました

 鎌田東二教授、島薗進上智大教授、志村ふくみ氏(染織家)らが登壇した新日本研究所によるシンポジウム「いのちの恵みを識る心 ー 光・食・音 新日本研究所シンポジウム 世界連邦都市『AYABE』からⅡ」(2015年4月29日)の講演録が、発刊されました。
 綾部市の大本白梅殿で開催されたシンポジウムには、山崎善也綾部市長、金子啓明新日本研究所副代表らの挨拶のほか、料理家の辰巳芳子氏がビデオメッセージを寄せ、志村ふくみ氏が基調講演をおこないました。鎌田教授は第二部のパネルディスカッションに登壇し、島薗教授の司会のもと、志村氏と共に日本人の魂と精神性を根幹とした「光・食・音」をめぐる多彩な話題で語り合いました。 


IMG_0747.jpg「いのちの恵みを識る心 ー 光・食・音 新日本研究所シンポジウム 世界連邦都市『AYABE』からⅡ」


【島薗】今日のテーマは「いのちの恵みを識る心」ということで、私は宗教学に取り組んで参りまして、日本の宗教、日本人の宗教心を考えてきたのですが、この言葉でかなり言えるのではないかと思っています。(中略)
【鎌田】光・食・音というテーマでシンポジウムが行われますが、今日は14年経った四代教主様の鎮魂、御霊のお祭りでもありますので、またネパールでたくさんの人が亡くなっている。また、世界中で非常に困難な思いを持っていらっしゃる方がたくさんいる。そういうことを踏まえたうえで、鎮魂の音としてホラ貝と石笛を最初に奉奏させていただきます。(中略)
出雲文化の根幹にあるもの
 綾部も出雲も私にとっては特別の場所です。その出雲のなかにあるのは一体何なのか?出雲の文化の根幹に一体何があるのか?
 幽世(かくりょ)、隠れるということです。
 皇室や伊勢が陽、辰巳の方角(東南)にあって、まさに朝日が昇ってくる。それが陽の地であれば、出雲は山陰、戊亥の方角(西北)にあって、そして日が沈んでいく方向です。日が沈んでいく方向の神様が大国主命、その先祖にあたるのが素戔嗚尊(スサノヲ)。素戔嗚尊、大国主命と繋がっていく霊統が国譲りをすることによって、日本が丸く収まったというのが日本の神話、文化のひとつの型なのですね。
 ここ2、3年、毎日のように考えていることは、国譲りはどうやって起こったのだろう?その国譲りを起こした譲りの心、出雲の神の心は何であったのかということです。その譲りの心がなければ、日本の国そして日本の文化はこういう形で生まれていないわけです。戦争ばかりしていたかも知れません。戦いがもっと激烈に行われていたかも知れません。しかし皆が仲良く静まっていく過程で、出雲の神々は譲りの働きとして機能していた。その「幽世」とか「譲り」の文化、この国津神の神々の働きを私は大事に考えます。
 それが具体的に何に現れるかというと音なのですよね。


(講演録より)


新日本研究所ウェブサイト

鎌田教授の書評が『比較文明』に掲載されました

IMG_0716.jpg 鎌田東二教授が執筆した書評が、比較文明学会の発行する機関誌『比較文明』第31号に、掲載されました。『聖なる木の下へ アメリカインディアンの魂を求めて』(著:阿部珠理/角川学芸出版/2014年4月)を取り上げた鎌田教授は、インディアンの精神世界を読み解いた書籍の全体像や、比較文明学者である著者の取り組みを紹介しています。


[書評] 阿部珠里 著『聖なる木の下へ アメリカインディアンの魂を求めて』 鎌田東二


 本書『聖なる木の下へ アメリカインディアンの魂を求めて』は、一九九四年十一月に日本放送出版協会より上梓された『アメリカ先住民の精神世界』(NHKブックス)の文庫化である。本書にはラコタ族のメディスンマンであるクロー・ドッグのことが折に触れて出てくるが、「第一章 メディスンマンを訪ねる」は一九九二年八月のクロー・ドッグとの出会いから始まり、その章の最後はクロー・ドッグの次の予言で締め括られる。(中略)
 「アメリカインディアンの魂」とは、まず何よりも「彼らが崇拝する彼らの偉大なるスピリット、宇宙を形作った大神」(三九頁)である「ワカンタンカ」に対する信仰であろう。著者は言う。「ワカンタンカは原初の存在であり、それから生み出された全てのものに、その魂が宿っている。山、川、大地、風、動物、植物など森羅万象の全ては、ワカンタンカの魂を持つ、タク・ワカン(聖なるもの)である。」(四○頁)と。そして続けてそれを本居宣長の『古事記伝』の「カミ」の定義「常ならず、畏きもの」(正確には「尋常ならずすぐれたる徳のありて可畏きもの」)と繋げて説明する。それにより、日本人の「カミ」観と「アメリカインディアンの魂」の根幹にある「ワカンタンカ」の信仰との間にある親和性に気づかされ、比較文化ないし比較文明論的な示唆を得ることができる。


(書評より)


比較文明学会ウェブサイト

鎌田教授の編著『身体の知: 湯浅哲学の継承と展開』が出版されました

1511kamata_yuasa.png 鎌田東二教授の編著『身体の知: 湯浅哲学の継承と展開』が、2015年11月にビイング・ネット・プレスより出版されました。哲学者であり、ユング心理学や身体論、気の研究において先駆者的存在であった湯浅泰雄が創設した人体科学会が本書を企画し、鎌田教授、黒木幹夫愛媛大学名誉教授、鮎澤聡筑波技術大学准教授(人体科学会会長)らが編集を務めました。湯浅哲学を継承発展させていくべく、11人の研究者が、宗教、心理学、哲学、医学、思想史など様々な立場から論じた一冊で、執筆者には奥井遼センター連携研究員も含まれています。


『身体の知: 湯浅哲学の継承と展開』
企画:人体科学会
編集:黒木幹夫・鎌田東二・鮎澤聡
執筆者:黒木幹夫・倉澤幸久・鎌田東二・桑野萌・杉本耕一・奥井遼・田中彰吾・鮎澤聡・村川治彦・渡辺学・永沢哲
発行:ビイング・ネット・プレス(2015年11月26日)
ISBN-10: 4908055106
ISBN-13: 978-4908055102
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○内容紹介
倫理学・哲学・日本思想・身体論・気・ニューサイエンスなどの広範な領域に及ぶ湯浅哲学の目指すところは、テオーリア(理論)の知とプラクシス(実践)の知の統合、つまり西洋的知と東洋的知を如何に統合するかということにあった。それはとりもなおさず、二元論の克服であり、哲学が死んだとされる科学技術偏重の現代社会への警鐘と、克服の模索である。この湯浅泰雄の問いかけに答え、湯浅哲学を継承発展させていくべく、11人の研究者が、宗教、心理学、哲学、医学、思想史など様々な立場から論じる。


○目次
まえがき 鎌田東二
第一章 テオーリアの知とプラクシスの知の統合を求めて
「知のあり方」と哲学のありよう ー 黒木幹夫
湯浅泰雄『身体論』を巡って ー 倉澤幸久
湯浅泰雄におけるテオーリアの知とプラクシスの知の統合ー日本思想研究の観点から ー 鎌田東二
第二章 湯浅泰雄と現代思想ー湯浅泰雄の問いを受けて
湯浅泰雄の修行論と身体の知をめぐって ー 桑野萌
湯浅泰雄と近代日本の哲学ー「宗教」への問いをめぐる和辻・西田との対決 ー 杉本耕一
生きられた経験(experience vecue)への道ー湯浅泰雄とメルロ=ポンティ ー 奥井遼
第三章 人体科学の挑戦ー身体の知を掘り起こす
心身問題と他者問題ー湯浅泰雄が考え残したこと ー 田中彰吾
代替医療と身体的実践の知 ー 鮎澤聡
「<気>とは何か」再考ー主体的経験の科学の立場から ー 村川治彦
メタプシキカの探究ー湯浅泰雄のユング受容とその展開 ー 渡辺学
超・身体論ー光の存在論へ ー 永沢哲
あとがき 鮎澤聡
湯浅泰雄 年譜


鎌田教授が大会会長を務めた「人体科学会 第24回大会」が開催されました
人体科学会第25回大会(2015.11.28〜29)ウェブサイト

鎌田教授の論文が『日本研究』16輯(発行:釜山大学)に掲載されました

 鎌田東二教授の論文「『人文学』と『日本研究』と和の思想」が、2015年11月、韓国・釜山大学の発行する『日本研究』16輯に掲載されました。
 論文は、I.「現代日本の文系学部や『人文学』 の危機的状況と三種の学問」、II.『日本書紀』に記された「和の国」 (和国)の原点」、III.「『古事記』における「和」の実現としての「国譲り」」、IV. おわりに:「人文学」と「日本研究」 の問題と可能性、という構成で、日本国内における人文学をめぐる現状を報告、解説し、『日本書記』や『古事記』に光をあてて日本の「和」の思想を紐解きながら「日本研究」の意味と可能性について考察。今後の人文学および学問全体のあり方について、問いかけをおこなっています。


1511kamata_pusan.png「人文学」と「日本研究」と「和」の思想 ー 『日本研究』16輯(発行:釜山大学)


 それぞれの「国」には「建国」の歴史がある。その歴史はしかしよくわからない。確かに、遺された考古学的遺物や文献史料を通してある程度復元して後追いで歴史の再認識をすることができる。だがそれも、いつも資料的限定を受ける。「正しい歴史」というものは、「一つの見方」であり、それが説得的であるかどうかは、当事者の判断ともなり、歴的時間の淘汰にも委ねられる。
 「人文学」は哲学や宗教学を含め、そのような「判断」や「認識」そのものを吟味し、相対化·総体化し、反省する作用を果たす。それは学問全体にとって基礎的な認識作用となる。つまり、「人文学」はあらゆる学問の基礎部分を「修理固成」(『古事記』の中の言葉)する役目を果たしている。そして、その中で「日本研究」は少なくとも東アジアの安定や世界平和の基礎資料ないし基礎認識としての意味と意義と価値と可能性を持ちうると私は考えるものである。
 私は「日本研究」としては「神道」を中心に幅広く研究してきたが、「仏教」(仏法とも仏道とも呼ぶ。『日本書紀』には「仏法」と出る)に対比して、 『日本書紀』には「神道」として登場してくる。その呼び名の漢字が、先学が夙に指摘してきたように中国古典の『易経』や『晋書』に由来することも事実であるが、これを「神の道」とか「神ながらの道」と和訓を付けて意味付けしてきた「日本神道」のありようを研究することは、少なくとも東アジア全域の基層的 な宗教文化の研究に加えて、特殊日本的な風土や歴史や生活文化のありよう全般を考察することを促す。(中略)
 1995年、オウム真理教事件のあった年の1月17日に「阪神淡路大震災」が起きたが、震源地は淡路島の野島断層であった。この時、私は「淡道島」から起こった大震災を「日本を造り変えよ(新たな「修理固成」【古事記】をせよ)」というメッセージだと受け止めた。その年の3月20日、私の44歳の誕生日に 「地下鉄サリン事件」が起き、私の「日本研究」が次の段階に入った。
 「淡道島」は「つなぎ·のりしろ·媒介」の島である。顕幽をつなぎ、天地を 繋ぎ、東西南北をつなぎ、自然と文明社会をつなぐ、ありとあらゆる四方八方をつないでいくのが「淡道島」であるというのがわが「淡道島」論で、日本全体を世界をつなぐ「のりしろ」とできるか、日本を世界の淡道島にできるかどうかが 日本の未来にとって死活問題だと考えている。そしてその時、『日本書紀』の 中の「和」の思想や『古事記』の中の「国譲り」や「言語和平」のありようは、一つのモデルや示唆を与えるものとなると考えている。そのような方向で、今後も日本の「人文学」と「日本研究」の基礎部分をより確かで力強く創造的なものにしていきたい。


(「おわりに:『人文学』と『日本研究』 の問題と可能性」より)

船橋教授、望月研究員らの論文が『Journal of Neurophysiology』に掲載されました

 船橋新太郎教授、望月圭研究員らの研究成果が2015年10月21日、米国生理学会が発行する『Journal of Neurophysiology』の電子版に掲載されました。研究は、自由選択行動の遂行に大脳皮質の前頭連合野が関与する仕組みを明らかにしたものです。


 研究の概要や研究者のコメントは、京都大学のウェブサイトに掲載されています(画像をクリックすると記事に移動します)。


[研究成果] 自由選択条件で選択を左右する前頭連合野の神経メカニズムを解明 | 京都大学ウェブサイト
151106funahashi.png


○書誌情報
Kei Mochizuki, Shintaro Funahashi
"Prefrontal spatial working memory network predicts animal's decision-making in a free choice saccade task"
Journal of Neurophysiology, Published 21 October 2015


 なお、11月10日付の京都新聞に研究成果を紹介する記事が掲載されました。下記リンク先の記事をご覧ください。


自由行動の背景に神経細胞活動 京大、脳障害解明に期待 | 京都新聞(2015.11.10)

内田准教授、萩原研究員らの論文が『Frontiers in Psychology』に掲載されました

 内田由紀子准教授、荻原祐二教育学研究科研究員らの研究成果が2015年10月22日、『Frontiers in Psychology』に掲載されました。論文は、新生児の名前の経時的な変化を分析することによって、日本文化が個性をより重視し、個人主義化しているかどうかを検討したものです。


 研究では、ベネッセコーポレーションと明治安田生命保険が公開している2004年から2013年にかけての新生児の名前ランキングを分析したところ、名前をつける際に人気のある漢字をつかう割合は増加していましたが、人気のある名前の読みをつかう割合は減少しており、人気のある漢字の組み合わせをつかいながらも異なる読み方で名前がつけられる傾向があることが分かりました。これにより、日本文化は個性をより重視する個人主義文化に徐々に変容しつつあることが実証的に示されました。


 研究の概要や研究者のコメントは、京都大学のウェブサイトに掲載されています(画像をクリックすると記事に移動します)。また、論文はオープンアクセスですのでウェブで全文をお読みいただけます。


[研究成果] 個性的な名前を与える傾向が増加している -日本文化の個人主義化を示唆- | 京都大学ウェブサイト
151022uchida.png


○書誌情報
Ogihara, Y., Fujita, H., Tominaga, H., Ishigaki, S., Kashimoto, T., Takahashi, A., Toyohara, K., & Uchida, Y. (2015). Are common names becoming less common? The rise in uniqueness and individualism in Japan. Frontiers in Psychology. 6: 1490. doi: 10.3389/fpsyg.2015.01490
http://journal.frontiersin.org/article/10.3389/fpsyg.2015.01490/abstract


 なお、10月22日付の朝日新聞、京都新聞、日本経済新聞、毎日新聞、共同通信ニュースなど多くのメディアで掲載されました。詳しくは下記リンク先の記事をご覧ください。


内田准教授、荻原研究員らの研究成果が朝日新聞、京都新聞、日経新聞、毎日新聞などで取り上げられました

阿部准教授、大塚研究員、中井研究員、吉川教授らの共著論文が『Frontiers in Aging Neuroscience』に掲載されました

 阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)、大塚結喜研究員、中井隆介研究員、吉川左紀子教授らによる共著論文が『Frontiers in Aging Neuroscience』(published: 29 September 2015) に掲載されました。


 高齢者を対象として、運動機能と認知機能の関係性について、fMRIを用いて調べた研究です。目標志向的な歩行が遅い高齢者では、速い高齢者と比べて、視覚ワーキングメモリ中の小脳や大脳基底核の活動が低下し、前頭前野の活動が上昇していることを報告しました。この研究は、こころの未来研究センター連携MRI研究施設のMRIを用いておこなわれました。


 論文は全文をウェブで読むことができます。下記の画像もしくはリンクにアクセスしてお読みください。


Kawagoe T, Suzuki M, Nishiguchi S, Abe N, Otsuka Y, Nakai R, Yamada M, Yoshikawa S, Sekiyama K (2015)
Brain activation during visual working memory correlates with behavioral mobility performance in older adults
Frontiers in Aging Neuroscience 7: 186


1510abe_Frontiers.png
Brain activation during visual working memory correlates with behavioral mobility performance in older adults | Frontiers in Aging Neuroscience

梅村研究員の論文が『箱庭療法学研究』に掲載されました

 梅村高太郎特定研究員の論文が、『箱庭療法学研究』第28巻第1号(発行:日本箱庭療法学会)に掲載されました。

 本研究では、ある女性クライエントとの夢分析を中心とした心理療法事例をもとに、"知ること"をめぐる病理として捉えられる神経症の心理療法において、"知っているべきはずの知らないこと"を真に認め、その膠着した世界から出立していくという動きがどのように生じるのかということについて、検討をおこないました。


Umemura, K. (2015). Knowing the Unknown and Leaving Neurosis: Psychotherapy Using Dream Analysis for a Woman Who Wanted to Accept What She Could not Accept. 箱庭療法学研究, 28(1), 69-78.
(邦題:知らないことを知ることと神経症からの出立――認めたくない自分を認めようと来談した女性との夢分析を用いた心理療法)


○Abstract:
The pathology of neurosis is regarded as a problem of "knowing." Therefore, it is important for neurotic clients to know truly the unknown they are supposed to know in order to leave their stalled world. From this viewpoint, this paper examines the psychotherapy using dream analysis for a woman who wanted to accept what she could not accept. Not knowing what she should know enabled her to remain an innocent child in the psychological sense, but also prevented her from maturing and becoming independent. However, paradoxically, her neurotic structure was collapsed by the very neurotic act itself, and she was forced to contact the unknown and to undergo a transformation. With this change, she gradually let go her obsession to remaining innocent and spotless, and accepted the femininity that she had rejected. Finally, she terminated the therapy by resigning herself to a life with defects.


日本箱庭療法学会ウェブサイト

河合教授の講演録が『箱庭療法学会』に掲載されました

 2014年10月4日に東洋英和女学院大学でおこなわれた日本箱庭療法学会第28回大会シンポジウムに登壇した河合俊雄教授の講演録が『箱庭療法学研究』第28巻第1号(発行:日本箱庭療法学会)に掲載されました。河合教授は、同学会の公開シンポジウム「場への信頼―共に在ること、創ること-」に登壇しました。
 シンポジウムで河合教授は、西洋子東洋英和女学院大学教授の発表「共創的な身体表現の場ー月と水」、三輪敬之早稲田大学理工学術院教授による発表「Dual interfaceー場がない世界, 場がある世界」に対するコメント提供者として、司会の小坂和子東洋英和女学院大学教授らと共に対話をおこないました。


IMG_0244.jpg「場への信頼―共に在ること、創ること-」『箱庭療法学研究』2015 Vol.28 No.1 p.99-130


[シンポジスト]
・早稲田大学理工学術院 三輪 敬之 教授
・東洋英和女学院大学人間科学部 西 洋子 教授
・京都大学こころの未来研究センター 河合俊雄 教授
[司会]
・東洋英和女学院大学 小坂和子 教授


「場」を超える


 河合:そして、手合わせ表現での5つのモードについてのお話がありましたが, 最初はやっぱり「手合わせ」で, 二者関係的に見えますが, その段階を超えていっています。心理療法でも, 最初の段階の, 自分の前の鏡を拭くとか, 二者で探り合う関係といったところを超えていかなければならないところがあると思うんです。そう考えると, 例えば精神分析なんかのような, 二者関係もモデルだけでやっていくのは無理があるのではないか, そうした二者関係を超えていかないことには通用しないのではないか, ということが, お二人の話を聞いていてよく表れているように思いました。
 それから, 三輪先生のデータをつくるセンス, ポイントには本当に驚かされました。「手合わせ」には5つのモードがあるとか, 自由に動いているということは, 実はブラウン運動と同じなんだとか, 心理療法がサイエンスから見ても意味を成しているということを示してもらえるのはとてもありがたいと思いますし, 心理療法がやっているところをそういう形で捉えることができたらいいな, と思います。(中略)
 心理療法がその場だけのものにとどまらず, その人が生きている現実などにつながっていくというのは, その「場」というのがおそらく閉じられていないからだと思います。そうすると, これはデータでとらえられる範囲を超えてしまいますが, すべてのものがつながっているという一つのモデルであると言えるのではないでしょうか。先ほど三輪先生が井筒俊彦の図を引かれていましたが, 井筒さんの論文は英語では "The Nexus of Ontological Events" で, これは「存在論的出来事のネクサス, 錯綜体がある」という華厳の世界を明らかにしています。三輪先生が焦点を当てておられること, あるいは心理療法で生じていることは, すべてのものがつながり合っているレベルにまで及んでいると思われます。


(講演録より)


東洋英和女学院大学のウェブサイトでは、当日の模様が写真付きで報告されています。
日本箱庭療法学会を開催致しました | 東洋英和女学院大学


日本箱庭療法学会ウェブサイト

河合俊雄教授の98年の書籍『ユング:魂の現実性』が岩波現代文庫から復刊されました

 河合俊雄教授の著書『ユング:魂の現実性』が岩波書店から復刊されました。1998年に出版された本書は、「ユングの理論と思想に真正面から取り組んだ知的評伝」として話題となりました。この度、岩波現代文庫として文庫版で登場。復刊にあたり新たな章として「ユング『赤の書』以後――文庫版への補遺」が加えられました。


 なお、2015年9月16日の発売以来、岩波書店の出版物の週刊売り上げランキング「岩波ベストテン:岩波現代文庫部門」において1位を継続しています(10月15日現在で3週連続)。


1510kawai_jung.png『ユング:魂の現実性』
河合 俊雄


フロイト(1856―1939)から袂を分かって個人を超えた無意識を強調し,独自の心理学・心理療法の理論を打ち立て,文学・宗教・芸術など様々な分野に影響を与えたユング(1875―1961).ユングはなぜ超心理学,錬金術,宗教など,神秘主義的ともいえる対象を取り上げたのか.そのラディカルな思想に真正面から取り組んだ知的評伝.(出版社の書籍紹介より)


出版社: 岩波書店
発行:2015年9月16日
体裁:A6.並製・336頁
定価:本体 1,260円 + 税
ISBN-10: 4006003307
ISBN-13: 978-4006003302


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鎌田教授と一条真也氏の往復書簡が収められた『満月交感 ムーンサルトレター(上・下)』が出版されました

 鎌田東二教授と一条真也氏の往復書簡が収められた書籍『満月交遊 ムーンサルトレター(上・下)』が2015年10月、水曜社より出版されました。


 冠婚葬祭会社サンレーを経営し、九州国際大学客員教授、こころの未来研究センター連携研究員として鎌田教授と研究活動をおこなっている一条真也氏と鎌田教授は2005年よりウェブ上にて往復書簡を続けています。2011年に『満月交感 ムーンサルトレター(上・下)』として書籍化され、その第二弾として今回は『満月交遊』と冠したタイトルで刊行されました。


1510kamata_moonbook.png『満月交遊 ムーンサルトレター(上・下)』


○内容紹介
語り尽くせぬ夜、再び!
バク転神道ソングライターこと宗教哲学者・鎌田東二、儀礼文化イノベーターこと作家・一条真也、二つの魂が満月の夜に交遊する


往復書簡の続編・全60信を上下巻に収録。
2010年8月25日第61信より始まる本篇は、その約半年後3.11を迎えた。この苦難の局面を経て、人間の生と死とは、信仰、儀礼、愛、縁とは何かを問いつつ、自由に、アクロバティックに「楽しい世直し」を説く。
現代人の傷ついた「こころ」を救ういのちの書!


○書籍情報

発売: 2015年10月
出版社: 水曜社
単行本(ソフトカバー): 上巻326ページ、下巻325ページ
上巻ISBN-10: 4880653705 下巻ISBN-10: 4880653713
上巻ISBN-13: 978-4880653709 下巻ISBN-13: 978-4880653716


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畑中助教が9章、19章を翻訳した『子どもと親の子どもと親の関係性セラピー(CPRT)』が出版されました

1509hatanaka_cprt.png 畑中千紘助教(上廣こころ学研究部門)が9章、19章を翻訳した『子どもと親の子どもと親の関係性セラピー(CPRT)』(著:ゲリー・L・ランドレス、スー・C・ブラットン、監訳:小川裕美子、湯野貴子)ならびにその手引書にあたる『子どもと親の関係性セラピー(CPRT)治療マニュアル』(著:スー・C・ブラットン、ゲリー・L・ランドレス他、訳:小川裕美子、湯野貴子)が2015年8月、日本評論社より出版されました。


 プレイセラピーのスキルを親に教え、親自身が子どもとプレイセッションをおこなう「CPRTトレーニング」について解説した書籍です。畑中助教は、「第9章 CPRT トレーニングセッション3 親子プレイセッションのスキルと手順」、「第19章 CPRTの研究成果」の翻訳を担当しました。


『子どもと親の関係性セラピー(CPRT)治療マニュアル 10セッションフィリアルセラピーモデル』| 日本評論社ウェブサイト
『子どもと親の関係性セラピー(CPRT)治療マニュアル』| 日本評論社ウェブサイト


阿部准教授が解説を執筆した『モラル・トライブズ――共存の道徳哲学へ (上)(下)』(ジョシュア・グリーン著)が出版されました

1509abe_moral.png 阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)が解説を執筆した『モラル・トライブズ――共存の道徳哲学へ (上・下)』(ジョシュア・グリーン 著/竹田円 訳)が、岩波書店より出版されました。


 阿部准教授は2010年から12年にかけて、著者のハーバード大学心理学科教授のグリーン氏のもとで研究し、その成果をまとめた論文が2014年、『Journal of Neuroscience』に掲載されました。本書は、日本でも話題となったサンデル(ハーバード大教授)の「正義」に関する一連のレクチャーで登場した道徳ジレンマ、「トロッコ問題」などをいちはやく神経科学と結びつけ、人間の道徳判断の本質解明に挑んだ新たな道徳哲学の本です。


 出版社の許可を得て、阿部准教授の解説文(PDF)を掲載します。また、出版社の書籍ページでは、上下巻それぞれの一部を読むことができます。下記リンク先にアクセスしてお読みください。


<内容紹介>


これが,道徳の正体だ. では, どうすればいい?

 税制,福祉,中絶,死刑,同性婚,環境規制......何が正義か,誰がどんな権利をもつかをめぐって現代社会は引き裂かれる.人々が自分の考えを心の底から正しいと信じて争うとき,対立を解決する方法はあるのか.今こそ生物学,心理学,哲学,社会科学の知見を統合し,道徳とは何かを徹底的に理解しよう.そこから人類すべてが共有できる普遍的な道徳哲学が生まれる.


<目 次>


【上巻】
序章 常識的道徳の悲劇
第一部 道徳の問題
第1章 コモンズの悲劇
第2章 道徳マシン
第3章 あらたな牧草地の不和
第二部 速い道徳,遅い道徳
第4章 トロッコ学
第5章 効率性,柔軟性,二重過程脳
第三部 共通通貨
第6章 すばらしいアイデア
第7章 共通通貨を求めて
第8章 共通通貨の発見
原注/索引


【下巻】
第四部 道徳の断罪
第9章 警戒心を呼び覚ます行為
第10章 正義と公正
第五部 道徳の解決
第11章 深遠な実用主義
第12章 オートフォーカスの道徳を超えて
著者より/謝辞/解説(阿部修士)
書誌/原注/索引


<解説>
阿部修士(京都大学こころの未来研究センター上廣こころ学研究部門)


 これまでの本とは一線を画する、新たな道徳哲学の本がついに翻訳・出版された。著者のジョシュア・グリーン氏は、若くしてハーバード大学心理学科の教授となった新進気鋭の研究者である。彼は21世紀初頭に、「少数の命を犠牲にしてでも多数の命を救うべきか?」といった人間の道徳判断に関わる脳のメカニズムを、世界に先駆けて報告し、一躍時の人となった。彼の研究は心理学と神経科学、そして道徳哲学を独創的に融合させたものであり、今なお世界中の多くの研究者に多大な影響を与え続けている。本書は彼のこれまでの研究の集大成であり、極めて野心的かつユニークに、科学的な知見-とりわけ心理学や神経科学といった、人間のこころと脳のはたらきに関する最新の知見を織り交ぜながら、道徳哲学を議論する珠玉の一冊である。


「解説」続きを読む(PDF)


『モラル・トライブズ―― 共存の道徳哲学へ(上)』岩波書店
『モラル・トライブズ―― 共存の道徳哲学へ(下)』岩波書店

 

鎌田教授の講演録が『点から線へ』(発行:西田幾多郎記念哲学館)に掲載されました

 鎌田東二教授の講演録「『ほんとうのさいわひ』をさがして ー宮沢賢治と『銀河鉄道の夜』を中心にー」が、石川県の西田幾多郎記念哲学館が発行する雑誌『点から線へ』第64号(2015年3月)に掲載されました。


 同館にて2012年11月におこなわれた「幸福について考える」講演会で、鎌田教授は西田幾多郎と同時代を生きた宮沢賢治の足跡をたどり、その作品と思想を紐解きながら、西田哲学との共通点について考察しました。


tenkara64.jpg「『ほんとうのさいわひ』をさがして ー宮沢賢治と『銀河鉄道の夜』を中心にー」
鎌田東二 京都大学こころの未来研究センター教授・NPO法人東京自由大学理事長


 今日は、宮沢賢治の「『ほんとうのさいわい』をさがして」というテーマの講演です。西田幾多郎と宮沢賢治は一度も会ったことはありません。西田幾多郎が京都大学の助教授として赴任したのは一九一〇年、明治四十三年八月三十一日です。『善の研究』を出版したのが翌年の明治四十四年一月です。ですから、明治四十三年というのは、西田幾多郎にとって、彼の人生の前半と後半を大きく切り替えていくひとつの節目をなすエポックメイキングな年であります。もちろん、これ以前も学習院などで教鞭を取ってはいますが、哲学者として本格的に「黒板を後にして立った」のはこの一九一〇年からです。この年に、宮沢賢治は十四歳の中学生です。彼は花巻に生まれ育ち、石川啄木も学んだ盛岡中学に進みました。そして短歌を詠み始めました。西田幾多郎との年齢差は二十六歳です。生涯一度も面識がなかったふたりではありますが、同じ時代の空気を吸っていたとうことが言えます。今日は、宮沢賢治に焦点を当てながら、一九一〇年、西田さんが京都に来たころ、彼にとって節目の年に、宮沢賢治は何を感じ取っていたのか、それが『銀河鉄道の夜』という作品にどう結実していったのか、そのあたりのことを中心に話をしてみたいと思います。


(講演録より)


石川県 西田幾多郎記念哲学館ウェブサイト

吉川教授、阿部准教授、大塚研究員、中井研究員らの共著論文が『Journal of the American Geriatrics Society』に掲載されました

1508AGS.png 吉川左紀子教授、阿部修士准教授、大塚結喜研究員、中井隆介研究員らの共著論文が、『Journal of the American Geriatrics Society』Vol.63 Issue 7 (2015 Jul) に掲載されました。


 本研究は、高齢者を対象として12週間の運動介入を実施することで、認知機能の改善、および認知課題遂行中の脳活動の変化がみとめられたことを報告した論文です。この研究は、こころの未来研究センター連携MRI研究施設のMRIを用いておこなわれました。


Nishiguchi S, Yamada M, Tanigawa T, Sekiyama K, Kawagoe T, Suzuki M, Yoshikawa S, Abe N, Otsuka Y, Nakai R, Aoyama T, Tsuboyama T (2015). A 12-week physical and cognitive exercise program can improve cognitive function and neural efficiency in community-dwelling older adults: a randomized controlled trial. Journal of the American Geriatrics Society 63 (7): 1355-1363


○Abstract
Objectives To investigate whether a 12-week physical and cognitive exercise program can improve cognitive function and brain activation efficiency in community-dwelling older adults.
Design Randomized controlled trial.
Setting Kyoto, Japan.
Participants Community-dwelling older adults (N = 48) were randomized into an exercise group (n = 24) and a control group (n = 24).
Intervention Exercise group participants received a weekly dual task-based multimodal exercise class in combination with pedometer-based daily walking exercise during the 12-week intervention phase. Control group participants did not receive any intervention and were instructed to spend their time as usual during the intervention phase.
Measurements The outcome measures were global cognitive function, memory function, executive function, and brain activation (measured using functional magnetic resonance imaging) associated with visual short-term memory.
Results Exercise group participants had significantly greater postintervention improvement in memory and executive functions than the control group (P < .05). In addition, after the intervention, less activation was found in several brain regions associated with visual short-term memory, including the prefrontal cortex, in the exercise group (P < .001, uncorrected).
Conclusion A 12-week physical and cognitive exercise program can improve the efficiency of brain activation during cognitive tasks in older adults, which is associated with improvements in memory and executive function.

鎌田教授が企画・編集した『講座スピリチュアル学 第4巻 スピリチュアリティと環境』が出版されました

1508kamata_spiritual.png 鎌田東二教授が企画・編集をおこない、原田憲一至誠館大学学長、田中克京都大学名誉教授、湯本貴和京都大学霊長類研究所教授、小説家・田口ランディ氏らと執筆した『講座スピリチュアル学 第4巻 スピリチュアリティと環境』が、2015年7月、ビイング・ネット・プレスより出版されました。


 第4巻の刊行にあたって、鎌田教授は、「『スピリチュアリティと環境』をタイトルテーマとする本巻は、風土や環境と人間との関わりを「スピリチュアリティ」の次元と切り結ばせながら総合的・総体的に捉え、考察しようと意図するものである」とし、地質学、生態学、宇宙物理学、文化人類学など様々な分野のエキスパートを迎え、自身も最終章「環境倫理としての場所の記憶と生態智」というタイトルにて執筆しています。


はじめに ー「くらげなす漂える」自然災害の国・日本からの発信 鎌田東二


 「このスピリチュアル学」全七巻の最初の三巻を「スピリチュアルケア」と「スピリチュアリティと医療・健康」と「スピリチュアリティと平和」とし、そして第四巻目を「スピリチュアリティと環境」としたことには理由がある。
 第一巻を「スピリチュアルケア」とした理由は、「心のケア」が社会問題となった一九九五年に起こった阪神淡路大震災から一六年を経て二〇一一年に起きた東日本大震災の後の社会を一人ひとりがどう生きぬいていくかという喫緊の深刻な実存的問題にまず取り組むべきだと考えたからである。「心のケア」から「スピリチュアルケア」への展開がこの一六年で具体的に進行していると考えたからだ。そして第二巻「スピリチュアリティと医療・健康」では、その具体的な進行と展開を主として身体の側から検討した。「心のケア」と「霊的なケア」を踏まえて「体のケア」と、「霊・魂(心)・体」全体のケアを考えようとしたのである。こうして次に、第三巻「スピリチュアリティと平和」において、「社会のケア」あるいは「人間関係や集団間のケア」の問題を考察し、「宗教間の対立」と「文明の衝突」を超えていく宗教間対話や地球倫理や共助や公共とスピリチュアリティとの関係を考察した。
 こうした問いかけのステップの上に、「スピリチュアリティと環境」を課題にする本巻がある。序章では、「環境」が「地球」の中にあることを踏まえて変化する地球の中での生命と人間の位置とワザを確認し、具体的な固有名を持つ「地域」の中でどのようなかたちを形成し思想を生み出していったかを第一部「地球のかたちと思想」で取り上げ、続いて、第二部「環境の位相とグラデーション」で環境の聖性や超越性の次元をさまざまな角度から考察し、終章では日本の環境思想の根幹にある観念や価値を検証する。


『講座スピリチュアル学 第4巻 スピリチュアリティと環境』
企画・編・著:鎌田東二
著:鎌田東二、原田憲一、田中克、湯本貴和、神谷博、磯部洋明、田口ランディ、津村喬、大石 高典
出版社:ビイング・ネット・プレス
初版発行: 2015年7月
四六判並製256頁
定価:1,944(税込)
ISBN 978-4-908055-04-1 C0310


Amazon.co.jp の書籍ページ
『講座スピリチュアル学 第1巻 スピリチュアルケア』が出版されました
『講座スピリチュアル学 第2巻 スピリチュアリティと医療・健康』が出版されました
『講座スピリチュアル学 第3巻 スピリチュアリティと平和』が出版されました

河合教授が解説を執筆した『[新版]こころの天気図』が出版されました

1507kawai_kokoronotenkizu.png 河合俊雄教授が解説を執筆した『[新版]こころの天気図』(著/河合隼雄)が2015年7月、PHP研究所より出版されました。1990年に毎日新聞社から刊行された『こころの天気図』を再編集し、新版として復刊した一冊です。


 河合隼雄財団のウェブサイトには、以下のように本の内容と共に河合教授の解説が引用された紹介記事が公開されています。



「「こころの天気図」というのは、言い得て妙なタイトルだと思われる。
こころというのは、第4章の「こころ 晴れたり曇ったり」という章題からもわかるように、
とても移ろいやすく、また「あるのかないのか、わからないのが心」という節があるように、
捉えどころがないものである。
著者は、そのこころの捉えがたさ、わからなさを巧みに伝えてくれる。
しかし「天気」でなくて「天気図」であるように、
そこにはある程度の構造や原理が見えてくるのであって、それを本書は示してくれている。」
(河合俊雄 〈解説〉「「こころの天気図」とこころの師としての河合隼雄」より引用)


  *  *  *


こころを考える諸作品の引用も入っていますので
ぜひご一読ください。


河合隼雄『新版 こころの天気図』が発刊されました | 一般社団法人河合隼雄財団



『新版 こころの天気図』
著者:河合隼雄著
発行:PHP研究所/2015年7月
価格:1,296円(税込)
判型:新書230頁
ISBN-10: 4569826296
ISBN-13: 978-4569826295


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河合教授が解説を執筆した『河合隼雄自伝―未来への記憶―』が出版されました

1507kawai_jiden.png 河合俊雄教授が解説を執筆した『河合隼雄自伝―未来への記憶―』が新潮社より出版されました。2001年に岩波新書より発刊された『未来への記憶―自伝の試み』を改題し、その後の話がインタビュー形式でまとめられた「未来への記憶のつづき」(『私が語り伝えたかったこと』河出書房新社所収)も収められています。河合教授の解説では、自伝に出てくる出来事や登場人物にまつわるエピソードが筆者ならではの立ち位置と視点から紹介され、本書をより深く読み進めるためのヒントが提供されています。


 また、河合隼雄財団のウェブサイトでは、あたたかいまなざしと親しみやすい言葉で本書の魅力が紹介されています。


『河合隼雄自伝ー未来への記憶』が新潮文庫より増補・復刊されます | 一般社団法人河合隼雄財団



 父河合隼雄は、あまり自分のことを語るのを好まない人であったと思う。『魂にメスはいらないーユング心理学講義』(朝日出版社・一九七九年、講談社+α文庫・一九九年)として出版された谷川俊太郎との対談の後も、「谷川さんが、ぼくの個人的なことをいろいろ聞いてきて、話さなあかんかったから困ったわ」とぼやいていたのを記憶している。本書のあとがきに、「人間は思い出話にうつつを抜かすようになると、もうおしまいだ、などとよく言っていた」と書いてあるように、家族の中での会話でもおよそ自分の思い出話や自慢話に耽るということがなかった。よくあるような、飲んだら必ず同じ思い出話が出てくる父親や先生のイメージというのとは無縁の人だったと思う。
 その意味では、常に今を生きている人だった。そして何かを目標にしたりしていたのではなくて、今を懸命に、また楽しく生きているうちに「まさか」ということが数多く展開していったのが河合隼雄の人生であったことが、本書を読むと如実にわかると思われる。数学を学んでいて、まさか心理学を研究するようになるとは思ってもいなかっただろうし、心理学の道に入ってきてもまさかユング派の分析家になるとは考えていなかっただろうし、ましてや自分の考えや著書がこれほど世の中に受け入れられるようになるとは夢にも思っていなかっただろう。
 *  *  *
 本書は基本的に、スイス留学から帰国した三十六歳までのところで終わっている。過去の人間関係については語れるが、現在の人間関係については語れないということが大きいのかもしれない。幸い『文藝別冊・河合隼雄』に掲載された「未来への記憶の続き」(河出書房新社『私が語り伝えたかったこと』所収、二〇一四年)を本書では補うことによって、二〇〇一年までの活動は織り込まれることになった。その後には、集大成の仕事というべき『神話と日本人の心』(岩波書店、二〇〇三年)の出版とまたもや思いがけないこととしての文化庁長官就任が待っている。そして残念ながら、これもまた思いがけないことに、文化庁長官在職中に河合隼雄は脳梗塞で倒れ、その後の闘病と多くの人の祈りにもかかわらず、意識が回復することなく、二〇〇七年七月十九日に亡くなったのである。
 この突然の最後のために、河合隼雄は語られないことを一層多く残したかもしれない。しかしそれは、われわれの未来へのためのポテンシャルであって、本書が、そして河合隼雄の他の作品が、多くの読者にとっての「未来への記憶」となるように願いたい。


(「今を生き、未来を残した人、河合隼雄」河合俊雄(臨床心理学者)」より)



『河合隼雄自伝―未来への記憶―』
著者:河合隼雄
発行:新潮社/2015年5月
価格:810円(税込)
判型:文庫版401頁
ISBN-10: 4101252343
ISBN-13: 978-4101252346


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鎌田東二教授の論考が収められた『戸隠信仰の諸相』が出版されました

IMG_9261.jpg 長野県長野市にある戸隠神社より『戸隠信仰の諸相』(2015年5月発行)が出版されました。この第一章に鎌田東二教授が論考「戸隠の山と水のコスモロジー」を寄稿しました。


 長年、 宗教哲学、民俗学の視点から聖地研究に取り組み、各地の聖地、修験道をみずから探訪し続けている鎌田教授が、実際にフィールドワークをおこなった記録をもとに戸隠信仰の歴史を紐解き、豊かな実践生態智を継承してきた戸隠山修験道の再発見と再興を提唱しています。



 立冬の朝日が戸隠神社奥社の随神門の真上から射してくるという話を聞いた。そこでそのご来光の瞬間を確認して、そのような参道設計や随神門の建造をした戸隠信仰の形と修験者たちの技術とそれを支える世界観を実地にフィールドワークすることからこの問題を考察したいと考え、立冬(一一月六日)を少し過ぎてはいたが、平成二六年(二〇一四)一一月十日早朝、戸隠神社奥社の随神門からご来光を仰ぐことにした。(中略)
 この戸隠山は日本の山岳修験の山で一番怖い山であると思う。特に、修験道の行場としては戸隠山の「蟻の戸渡り」ほど怖いところはないのではないか。かつて肝を縮めながらも、象徴的な「死と再生」の悦楽を以って独り「蟻の戸渡り」を渡ったことがある。
 そんなことを想い出しながら、各所で法螺貝や石笛を奉奏しながら奥社に近づき、九頭龍社の前で祓詞奏上後、石笛・横笛・法螺貝の三種の楽器を奉奏し、その後、奥社で大祓詞奏上後、法螺貝を奉奏した。
 終わって振り返って向かいの山を見ると、すでに朝日は右上に昇り、眩い光を一面に注いでいた。いつしか時は七時半になっていた。(「はじめに」より)


「戸隠の山と水のコスモロジー
ー奥社参道・杉並木の設計技術とその思想及び精神性ー」鎌田東二
はじめに
一 戸隠神社奥社参道杉並木と天海と天台系修験道
二 乗因の山王一実神道と戸隠山縁起
三 戸隠曼荼羅と生態智
おわりに 〜九頭龍コスモロジーの再興と再発見〜



戸隠神社ウェブサイト


 

阿部准教授の論文が『Human Brain Mapping』に掲載されました

1507abe_human.png 阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)と、2014年度までこころの未来研究センターに日本学術振興会特別研究員として在籍していた伊藤文人東北福祉大学特任講師らの執筆した論文が、学術誌『Human Brain Mapping』Vol.36 に掲載されました。


 本研究は機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて、人間が意識的に知覚することのできない「閾下刺激」に対する価値判断の神経基盤を調べた研究です。閾下刺激であっても、後に選好される刺激に対しては、特異的な脳活動が生じることが明らかとなりました。



Ito A, Abe N, Kawachi Y, Kawasaki I, Ueno A, Yoshida K, Sakai S, Matsue Y, Fujii T. Distinct neural correlates of the preference-related valuation of supraliminally and subliminally presented faces. Human Brain Mapping 36: 2865-2877 (2015)


○Abstract
Recent neuroimaging studies have investigated the neural substrates involved in the valuation of supraliminally presented targets and the subsequent preference decisions. However, the neural mechanisms of the valuation of subliminally presented targets, which can guide subsequent preference decisions, remain to be explored. In the present study, we determined whether the neural systems associated with the valuation of supraliminally presented faces are involved in the valuation of subliminally presented faces. The subjects were supraliminally and subliminally presented with faces during functional magnetic resonance imaging (fMRI). Following fMRI, the subjects were presented with pairs of faces and were asked to choose which face they preferred. We analyzed brain activation by back-sorting the fMRI data according to the subjects' choices. The present study yielded two main findings. First, the ventral striatum and the ventromedial prefrontal cortex predict preferences only for supraliminally presented faces. Second, the dorsomedial prefrontal cortex may predict preferences for subliminally presented faces. These findings indicate that neural correlates of the preference-related valuation of faces are dissociable, contingent upon whether the subjects consciously perceive the faces.


河合教授が監訳した『ユング『赤の書』の心理学 - 死者の嘆き声を聴く』が出版されました

1507kawai_jung.png 河合俊雄教授が監訳をおこなった『ユング『赤の書』の心理学 - 死者の嘆き声を聴く』が、2015年6月、創元社より出版されました。


 元型的心理学の創始者であるジェイムズ・ヒルマンと『赤の書』編者であるソヌ・シャムダサーニによる連続対話全記録の翻訳書です。2010年に刊行された日本語版『赤の書』の監訳ならびに2014年に刊行された『赤の書 テキスト版』の監訳・訳を手がけた河合教授が今回も監訳をつとめ、まえがきを執筆しています。


 本書の内容については、訳者による詳細な解説があるので、ここではいくつか重要と思われることだけを強調しておきたい。ジェイムズ・ヒルマンはユング以後の最も有名なユング派の分析家で、特に「元型的心理学」の提唱者として、個人を超えたこころを強調してきた人である。『赤の書』には全く父親や母親は登場せず、ひたすらフィレモンやサロメなどの様々なイメージの人物像とのやり取りや対話から成り立っているので、まさにヒルマンの意に沿うのである。
 『赤の書』には、いわゆるユング心理学の概念は全く登場せず、それどころか「無意識」という言葉さえ使われていない。ひたすらイメージの展開があるだけである。そこにヒルマンは非常に共鳴する。こころがどのように表現されるか、それになるべくそのまま沿っていく。『赤の書』にはまさにそのような姿勢が見られるのである。またヒルマンは物語も強調していて、それは河合隼雄の物語論に通じるところがあるかもしれない。
 しかし心理学は生の表現につきないところが特徴的である。それをヒルマンは「リテラル」(字義通り)でないものと言う。


(「監訳者まえがき/河合俊雄」より)


出版社の書籍ページでは、監訳者まえがきとシャムダサーニによる序文、第一章の一部、訳者あとがきを読むことができます。こちら


○書籍データ
ユング『赤の書』の心理学 - 死者の嘆き声を聴く
著:ジェイムズ・ヒルマン、ソヌ・シャムダサーニ
監訳:河合俊雄
訳:名取琢自
出版社:創元社(2015年6月)
単行本: 290ページ
ISBN-10: 4422115928
ISBN-13: 978-4422115924
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河合教授の講演論文が収められた『Hazardous Future』がDe Gruyter社より出版されました

1507kawai_hazardous_future.png 河合俊雄教授の講演論文が収められた書籍『Hazardous Future ー Disaster, Representation and the Assessment of Risk』が、De Gruyter社より2015年3月に出版されました。本書は、東日本大震災が起こった2011年、同じく震災体験のあるポルトガルのリスボンで開かれた、リスク社会に関する国際ワークショップ(International Conference "HAZARDOUS FUTURE")の記録です。


 河合教授は、東日本大震災後のこころのケアの活動を報告し、また何が、どのように物語られるのかから、人々のこころで起こっていることを分析しました。後のいくつかの論文につながっていった、最初の発表です。


Toshio Kawai
Big Stories and Small Stories after a Traumatic Natural Disaster from a Psychotherapeutic Point of View


1 Listening to Stories
2 Life and Death
3 Coincidences
4 Experience Sharing: Psychological Time
5 Psychotherapy and Small Stories
6 The Birth of New Big Stories
7 Necessity of a New Story: Conclusion


○Book Information
Hazardous Future
Author: Isabel Capeloa Gil, Christoph Wulf
Publisher: De Gruyter (March 13, 2015)
Language: English
Hardcover: 298 pages
ISBN-10: 3110406527
ISBN-13: 978-3110406528
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清家理助教の著書『医療ソーシャルワーカーの医療ソーシャルワーカーの七転び八起きミッション』が出版されました

 清家理(上廣こころ学研究部門)助教の著書『医療ソーシャルワーカーの医療ソーシャルワーカーの七転び八起きミッション』がメジカルビュー社より出版されました。


1507seike_book.png『医療ソーシャルワーカーの医療ソーシャルワーカーの七転び八起きミッション』


○本の概要


著者:清家 理
定価:2,160円(税込
A5判 216ページ オールカラー
2015年3月30日刊行
ISBN978-4-7583-0389-7


○本の紹介


 この本は、医療ソーシャルワーカー(MSW)として実践と研究を重ねてきた中で、実践の一区切りとして執筆した、学位申請論文「医療ソーシャルワーク機能の実証的研究―地域医療現場をフィールドに―」を土台にしています。
 MSWは、主に医療現場で、病気を機に多岐にわたる「生きづらさ」を抱えてしまった老若男女と向き合い、生きづらさの解決に向けた黒子役を担っています。生きづらさを抱えた方々の思いの尊重、その人らしさを尊重した対応の大切さは、日々、臨床現場の方々から、熱く語られています。これは、医療倫理学や社会福祉学では、意思決定支援と自律の尊重、パーソンセンタードケアといった理論や概念に該当します。しかし、日々の支援の中で普遍的に変わらないものが明確にされない限り、多くのMSWの努力は、「支援効果等、根拠が示されていない」と片づけられてしまいます。そのためには、調査で量的および質的分析をしながら、支援経過や内容、クライエントの変化を丁寧に追う必要がありました。この本では、まず医療ソーシャルワークの理論と医療福祉政策の動向を整理しました。その上で、経済的な課題、認知症や終末期に伴う生きる場所や生きていく術の課題に対するMSWのアプローチ内容と専門性について、探索しました。
 そして、この本の末尾に記載した今後の課題について、一歩先に進んだものが、2014年10月から京都市内で始めた、『孤立防止のための互助・自助強化プログラム開発プロジェクト -くらしの学び庵-』です。「支援する人―支援される人」の関係で、パターナリスティックな関係ではなく、個々人の強みや良さを信じる、引き出しあえる、いわば真の「自律」のあり方を模索し、そして検証する―このような『実践と研究の折衷』を極めていきたいと思っています。
 なお本書は、京都大学総長裁量経費人文・社会系若手研究者出版助成を受けて刊行しました。


<清家理助教(上廣こころ学研究部門)>


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『Psychologia』2014年第57巻4号に内田准教授、竹村連携研究員の編集による特集号が掲載されました

 国際心理科学誌『Psychologia』2014年第57巻4号(2014年12月/発行:プシコロギア会)特集号が刊行され、内田由紀子准教授・竹村幸祐連携研究員編集による特集「Regional Communities」ならびに論文が掲載されました。


 特集号では内田准教授と竹村幸祐連携研究員(滋賀大学准教授)が責任編集者となり、こころの科学をマクロな視点から展開するための「地域研究」の必要性を解説(Editorial, p225-228)し、タイでの心理学調査(Hitokoto et al., 2014)、ボツワナでの人類学的フィールド調査(Zi, 2014)、新潟でのアクション・リサーチ(Kusago & Miyamoto, 2014)、水産業普及指導員とソーシャル・キャピタル形成についての論文 (Takemura et al., 2014) が掲載されています。


1506psychologia.png  Psychology basically focuses on psychological and behavioral mechanisms at an individual level, but it also needs to explore macro level and collective phenomena. Especially in social psychology and cultural psychology, researchers have investigated group process, organizational behavior, and the mechanisms of cultural/instuitutional effects on psychological functions. Among them, studies on regions and local communities have become more important than before. For example, after the severe damage from the Great East Japan earthquake, people in Japan found out the power of social networks in regional communities. However, we have not fully elucidated what constitutes the important component of "region," which is a rather obscure concept. Sometimes we can say it is a platform of community. We can also define it as geographical neighborhood that shares certain ecological contexts. To provide the current insight of regional studies more clearly, this special issue of Psychologia includes a collection of papers that conduct regional studies from a multidisciplinary approach, including psychology, anthropology, and action research.


("EDITORIAL: REGIONAL COMMUNITIES" by Yukiko UCHIDA and Kosuke TAKEMURA)


CONTENTS: Vol. 57, No.4 (2014) | Psychologia Website

こころの未来叢書『愛する者は死なない』『愛する者をストレスから守る』(カール・ベッカー編著)が出版されました

 こころの未来叢書『愛する者は死なない―東洋の知恵に学ぶ癒し』『愛する者をストレスから守る―瞑想の力』の二冊が2015年春、晃洋書房より出版されました。


 2009年に出版された『愛する者の死とどう向き合うか―悲嘆の癒し』の続編にあたる『愛する者は死なない―東洋の知恵に学ぶ癒し』は、こころの未来研究センターでカール・ベッカー教授が企画し実現した海外の著名な研究者らによる講演および研究報告をまとめ、学術専門誌『Death Studies』に掲載された記事の翻訳も合わせて収録した一冊です。『愛する者をストレスから守る―瞑想の力』は、ベッカー教授が取り組んできた「ストレス予防研究と教育」研究プロジェクトにおいて、ストレス予防・軽減のための瞑想や瞑想に関連する東洋的技法について様々な角度から研究をおこなった成果を奥野元子研究員と共にまとめています。
 

1505becker_aisurumono.png『愛する者は死なない―東洋の知恵に学ぶ癒し』

カール・ベッカー 編著
駒田 安紀 監訳
発行 晃洋書房
判型 四六
刊行 2015年3月
価格 1,620円(税込)
ISBN 978-4-7710-2535-6
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○本の概要
死別の悲しみは消えることはない。しかしそれをあるがままに受け入れ、悲しみと共に生きる。それこそが目覚めた人間の姿ではないか。「死の日常性」を忘れてしまった我々が、悲しみと向き合い「死」を受容する為の方法を考える。


1505becker_meisou.png『愛する者をストレスから守る―瞑想の力』
カール・ベッカー・奥野元子 編著
発行 晃洋書房
判型 四六
刊行 2015年3月
価格 2,268円(税込)
ISBN 978-4-7710-2543-1
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○本の概要
子どもから大人まで、ストレスは現代社会を生きる上で避けて通れない問題である。瞑想は私たちのストレス軽減のための、こころのエクササイズといえる。日本人の智慧である瞑想に、こころと身体の健康のための秘策を探る。

鎌田教授の共著書『宮沢賢治の切り拓いた世界は何か』が出版されました

1505kamata_miyazawakenji.png 鎌田東二教授の共著書『宮沢賢治の切り拓いた世界は何か(笠間ライブラリー―梅光学院大学公開講座論集)』が2015年5月、笠間書院より出版されました。


 東日本大震災後、宮沢賢治の作品があらためて注目されています。本書は、近代日本文学研究者で梅光学院大学大学院客員教授の佐藤泰正氏が編者をつとめ、宮沢賢治の文学とその人生に様々な角度から光をあて、賢治の世界の真髄を探った新たな書です。鎌田教授は「分子の脱自ー宮沢賢治のトーテミズム、その堕落と飛行」というタイトルで、賢治の表現世界と彼の魂が発した「心象スケッチ」の意味について独自の視点から考察。最晩年の小説『疑獄元兇』を冒頭で取り上げて父子の関係性にせまると共に、類いまれなる「原始宗教的な根源感覚」を持ち、「『ドリームランド』の『実在』を視、確信していた確信犯」である賢治の発信する作品が持つ、人間世界を超越した透明性と哀しみと力について解説しています。



 そのような苦の現実世界に、あえて「願ひによって」墜落し、落下してきた者たちがいる。そんな「いちばん強い人たち」は、地湧の菩薩であり、墜落する天人なのだろう。そして、彼らが墜落する「ドリームランド」の「実在」を視てきた自分も、そこに属する者である。そうである、と思う。いや、そうでありたい。そして、その「人たち」と共に、「人人と一緒に飛騰」していくこと、それがこの世における自分の仕事であると覚悟する。
 「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」(『農民芸術概論綱要』「序論」)からだ。だから、「僕もうあんな大きな暗の中だってこわくない。きっとみんなのほんとうのさいはひをさがしに行く。どこまでもどこまでも僕たち一緒に進んで行かう。」(『銀河鉄道の夜』)と決意する。
 だが、カムパネルラはいない。ジョバンニは孤独だ。独りだ。独りで行かねばならぬ。「堕ちるために又泳ぎ切るために」。
 宮沢賢治が一貫して伝えているメッセージは、悲しいけれど、そのようなひとりぼっちの「独行」である。保阪嘉内と訣別し、最愛の妹としを喪い、「願ひ」と共に行ける人を失くした。その喪失の中であっても、しかしさらにその先まで歩まなければならない。ジョバンニが、グスコンブドリ(グスコーブドリ)が、一郎が、三郎が行かなければならないのは、そのような孤独な道行だ。


(「分子の脱自ー宮沢賢治のトーテミズム、その堕落と飛行」鎌田東二 より)


『宮沢賢治の切り拓いた世界は何か(笠間ライブラリー―梅光学院大学公開講座論集)』
編者:佐藤泰正
執筆者:原子朗、鎌田東二、北川透、山根知子、木原豊美、加藤邦彦、佐藤泰正
発行:笠間書院/2015年5月
価格:1,080円(税込)
判型:四六判・並製・カバー装・218頁
ISBN-10: 4305602644
ISBN-13: 978-4305602640


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鎌田教授の著書『山の神々と修験道』が出版されました

 鎌田東二教授の著書『図説 地図とあらすじでわかる!山の神々と修験道』が2015年5月、青春出版社から出版されました。日本の聖地文化を長く研究テーマとし、自ら東山修験道での修行を重ねる鎌田教授が、日本独自の習合宗教文化である修験道と山岳信仰について、深く分かりやすく解説した最新著作です。


1505kamata_yamanokamigami.png○内容紹介
富士山・高野山・出羽三山・金峯山・立山・御嶽山・恐山・高尾山...日本人はいつ、どのようにして「山」を崇めるようになったのか。観音信仰、羽黒権現、火渡り、護摩焚き、鎖禅定...知られざる山岳信仰の源流をたどる。


『図説 地図とあらすじでわかる!山の神々と修験道』
著者:鎌田東二著
発行:青春出版社/2015年5月
価格:1,210円(税込)
判型:新書版192頁
ISBN-10: 4413044533
ISBN-13: 978-4413044530


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河合教授が解説を執筆した『河合隼雄の読書人生-深層意識への道』が出版されました

1504kawai_dokusyojinsei.png 河合俊雄教授が解説を執筆した『河合隼雄の読書人生-深層意識への道』が、2015年4月、岩波書店より出版されました。2004年に刊行された『深層意識への道』を改題し、河合俊雄教授の解説を付けて復刊されたものです。


 河合隼雄財団のウェブサイトでは、本書の構成や読み解き方が分かりやすく紹介されています。下記リンク先にアクセスしてお読みください。


『河合隼雄の読書人生』が発刊されました! | 河合隼雄財団


『河合隼雄の読書人生-深層意識への道』
著者:河合隼雄著
発行:岩波書店/2015年4月
価格:994円(税込)
判型:A6.並製・272頁
ISBN:978-4-00-603285-2


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河合教授の論考が『そだちの科学』24号に掲載されました

1504kawai_sodachinokagaku.png 河合俊雄教授の論考が、『そだちの科学』24号(日本評論社/2015年4月号)に掲載されました。精神発達、こころの形成と成長をテーマに扱った専門誌の特集「発達障害と発達論的理解」に、河合教授は「ユング派からみた発達障害」というタイトルで寄稿。これまでのこころの未来研究センターでの発達障害との取り組みで、主体という視点が大切なこと、発達障害の心理療法においてどのように主体が形成されてくるか、さらには文化的な側面を、ユング心理学に関連づけつつ論じたものです。


 論考では、ユング心理学の理論を紹介しつつ、プレイセラピーや箱庭などのイメージを用いた心理療法のなかでの主体の立ち現れについて、具体的な事例を挙げて解説。河合隼雄(京大名誉教授)による日本の昔話研究についても言及し、現代の発達障害研究のヒントとなり日本文化の特徴にも関わるものだと考察しています。さらに現代の発達障害の増加は、日本人の特徴であった主体の弱さが現代の社会構造のあいまいさによって浮き彫りになったのではないか、と社会の変化に対してまなざしを向けています。


ユング派からみた発達障害
京都大学こころの未来研究センター 河合俊雄


<発達障害への心理療法>


 発達障害、厳密に言うと広義での自閉症スペクトラム障害については、近年に認知科学や脳科学による研究が進み、生物学的な背景が明らかにされつつある。したがって発達障害は生育史に起因する問題ではなくて、脳中枢系の障害とされるに伴って、親子関係などに焦点を当てた心理療法よりも教育と訓練による支援が中心的な対処法になっている。ウィングは自閉症スペクトラムの三つの特徴として、相互的社会性の障害、コミュニケーションの障害と合わせて、想像力の障害を挙げている。ユング派の心理療法においては、箱庭や描画などのイメージが重視されるが、想像力の障害を特徴とする自閉症スペクトラムにおいて、そのようなアプローチは効果がないように思われるかもしれない。
 しかしプレイセラピーや箱庭などのイメージを用いた心理療法による成功例も存在する。筆者たちは京都大学こころの未来研究センターにおけるプロジェクトにおいて発達障害の心理療法に関わりつつそれを分析する中で、発達障害の問題は「主体の欠如」や「主体の弱さ」であって、心理療法を通じて主体を確立していくことが可能なのを明らかにしてきた。ここではそれをユング派の理論にも関係づけつつ、解説したい。


(論考より)


そだちの科学 24号(2015年4月号) | 日本評論社
『発達障害への心理療法的アプローチ』河合俊雄編著/田中康裕、畑中千紘、竹中菜苗著 | 創元社
『日本人の心を解く:夢・神話・物語の深層へ』河合隼雄著 河合俊雄訳 | 岩波書店

大塚研究員の論文が『The Quarterly Journal of Experimental Psychology』に掲載されました

1504otsuka_article.png 大塚結喜研究員の論文「High-performers use the phonological loop less to process mental arithmetic during working memory tasks」が、2014年11月付で『The Quarterly Journal of Experimental Psychology』に掲載されました。


○論文の内容
 これまで複雑な暗算(たとえば複数桁の数字同士の繰り上がりのある足し算)では、音韻情報を短期的に保持するワーキングメモリの音韻ループと情報の操作を担うワーキングメモリの中央実行系が必要であることが知られてきました。しかし本研究で暗算成績の低い成人グループ(低成績群)と暗算成績の高い群(高成績群)を比較したところ、低成績群は音韻ループと中央実行系を使用していましたが、高成績群は中央実行系だけを利用している可能性が示されました。この結果から、中央実行系で情報をうまく操作して音韻ループでの短期保持をせずに済む方略を利用することが、暗算で高成績をあげるのに重要な可能性が示されました。(大塚結喜)



Otsuka, Y., and Osaka, N. (in press). High-performers use the phonological loop less to process mental arithmetic during working memory tasks, The Quarterly Journal of Experimental Psychology.
http://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/17470218.2014.966728#abstract


Abstract
This study investigated the effects of three working memory components--the central executive, phonological loop, and visuospatial sketchpad--on performance differences in complex mental arithmetic between individuals. Using the dual-task method, we examined how performance during two-digit addition was affected by load on the central executive (random tapping condition), phonological loop (articulatory suppression condition), and visuospatial sketchpad (spatial tapping condition) compared to that under no load (control condition) in high- and low-performers of complex mental arithmetic in Experiment 1. Low-performers showed an increase in errors under the random tapping and articulatory suppression conditions, whereas high-performers showed an increase of errors only under the random tapping condition. In Experiment 2, we conducted similar experiments on only the high-performers but used a shorter presentation time of each number. We found the same pattern for performing complex mental arithmetic as seen in Experiment 1. These results indicate that high-performers might reduce their dependence on the phonological loop, because the central executive enables them to choose a strategy in which they use less working memory capacity.



「京都こころ会議(Kokoro Initiative)」を発足。調印式、記者発表がおこなわれました

 この度、公益財団法人稲盛財団の支援を受け、「京都こころ会議(Kokoro Initiative)」を開催していくはこびとなりました。2015年4月14日、本会議の発足にあたって、京都大学百周年時計台記念館迎賓室にて調印式および記者発表がおこなわれました。


 調印式では、吉川左紀子センター長による京都こころ会議の趣旨説明、山極寿一京都大学総長ならびに稲盛和夫稲盛財団理事長からの挨拶があり、寄付同意書への調印がおこなわれました。報道記者による質疑応答では、河合俊雄教授が本会議の具体的な計画について、記者からの質問に答えました。当日の模様は地元のテレビ局、KBS京都のニュースで報じられたほか、毎日新聞、京都新聞、日刊工業新聞など多数のメディアで取り上げられました。


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 以下、こころの未来研究センターより発表したプレスリリースを記載いたします。


京都こころ会議(Kokoro Initiative)
こころの未来研究センター 河合俊雄(臨床心理学)


1)事業目的
 科学技術の進歩、グローバル化による大きな経済圏の出現、さらには近年の地球環境の変化が加わって、人々の生活や関係は大きく変わってきています。そしてそれらはおのずから人々の「こころ」のあり方に影響を及ぼし、時には「こころ」が変化についていけず、さまざまな問題を引き起こすこともあります。
 こうした現状に対して科学技術を頼りに、あるいは環境を変えることにより解決をはかろうとするのではなく、それに直面している人々の「こころ」そのものに焦点を当てて、より本質的な問題の理解とその解決に到る道筋を、丹念にたどることが必要なのではないでしょうか。
 人類がこれまでどのような「こころ」のあり方で世界と向き合い、「こころ」をどのように捉えてきたのかを踏まえつつ、「こころ」とは何かを探究し、さらにこれからの「こころ」に求められるあり方を明らかにすることが、今の私たちに求められていることではないかと考えます。
 「京都こころ会議」は、古来の「こころ」を踏まえてその未来を問い、また日本語の「こころ」という言葉に含蓄されているような広くて深いニュアンスから、こころの新しい理解を Kokoro Initiative として世界に向けて発信しようとするものです。
 2007年の設立以来、京都大学こころの未来研究センターの活動を通して蓄積されてきた、「こころ」についての学際的な研究とネットワークを生かしつつ、それをさらに広げ、深めていきたいと思います。


2)組織
・運営委員会:こころの未来研究センターを中心とした京都大学の全学的な委員会
・顧問・advisory board:稲盛和夫
・参加者:京都大学の研究者、国内外の招聘研究者、芸術家、企業家など。こころの未来研究センターが中心となってコアメンバーを形成し、研究会を重ねていく。


3)事業内容
1. 年に4回、「こころ研究会」をクローズドで開催する。その年度のテーマに沿って、研究者・芸術家・宗教家などを招聘して行う。
2. 「こころとは何か」を問う「京都こころ会議」、「国際京都こころ会議」を1年交代で行う。「こころ会議」には、稲盛和夫理事長と山極寿一総長の出席をお願いする。「こころ」が持つニュアンスの広がりを、「こころと歴史性」、「こころと共生」、「こころとグローバル社会」のように、様々な視点からこころのもつ多様性をクローズアップし、理解を深める。
3. 1と2の成果を、日本語、英語(Kokoro Initiative)でそれぞれ出版する。日本語の「こころ会議」についても英訳を行い京都大学のHP等を通じて発信する。


4) 事業計画
・2015年度
第1回京都こころ会議(1日間)「こころとは何か? - その歴史性」(仮)を9月13日(日)に京都で開催。講演者として中沢新一、山極寿一、広井良典ほか。稲盛和夫理事長も出席の予定。
こころ研究会を4回開催。
・2016年度
第1回国際京都こころ会議(2日間)
こころ研究会を4回開催。
・2017〜2020年度
第2〜3回「京都こころ会議」、「国際京都こころ会議」を開催。


□掲載媒体
KBS京都 京都新聞ニュース・天気予報(2015年4月15日 11:55〜放映)
「多分野の研究者『こころ』を議論 京大が『会議』設立へ」(京都新聞/2015年4月15日付朝刊23面)
「京都こころ会議 稲盛財団から活動支援寄付 京大」(日刊工業新聞/2015年4月15日19面)
「『こころ』の課題研究 9月に初会議 京大と稲盛財団」(毎日新聞/2015年4月16日22面)
「<京大・稲盛財団>「こころ」の課題、研究 9月に初会議 /京都」(gooニュース・毎日新聞/2015年4月16日)

河合教授が解説を執筆した『河合隼雄セレクション「出会い」の不思議』が出版されました

1503kawai_deainofushigi.png 河合俊雄教授が解説を執筆した『河合隼雄セレクション「出会い」の不思議』が、2015年3月、創元社より出版されました。河合隼雄京都大学名誉教授の著作6冊が文庫化され、「創元こころ文庫 河合隼雄セレクション」として同時刊行された一冊です。河合教授は解説を執筆すると共に、6冊それぞれの巻末に掲載されている「シリーズ刊行によせて」において、河合隼雄セレクション全体の紹介をおこなっています。


 河合隼雄財団のウェブサイトでは、本書の味わい方やシリーズを読みすすめるポイントなどが分かりやすく紹介されています。下記リンク先にアクセスしてお読みください。


河合隼雄セレクションのご紹介 Part 1 「出会い」の不思議
創元社より〈河合隼雄セレクション〉として6冊の文庫が刊行されました


出会いと別れの不思議
河合俊雄


 本書は、二〇〇二年に出版されたエッセイ集『「出会い」の不思議』の文庫版である。『中央公論』の巻頭言として一九九七年〜一九九九年に連載されていた第Ⅰ章の「言葉との出会い」を中心としつつ、第Ⅱ章では「人との出会い」、第Ⅲ章では「本との出会い」、第Ⅳ章では「子どものこころとの出会い」、第Ⅴ章では「新しい家族との出会い」、最終章では「こころの不思議との出会い」というように、さまざまな形の出会いとして各章がまとまっている。
 心理療法家である著者にとって、出会いというのは非常に本質的なものである。心理療法は、たとえば芸術家が自分の作品を作っていったり、実験をする研究者が実験対象を選んだりするように、自分のほうからクライエントを選ぶわけにいかない。どのようなクライエントと一緒に仕事をしていくかは、その出会いから成り立っている。したがってどれだけセラピストがすぐれていても、相手が何をもたらしてくれるのかによって治療がうまくいかないことがあるし、また逆にいかにセラピストに力がなくても、出会った相手がすぐれていたり、うまく動いてくれたりしてよくなることがある。それどころか組み合わせが絶妙でよくなることさえもある。まさに出会いの不思議であって、これは心理療法の本質に関わるのである。
 したがって本書も、出会ってくる人や本によって著者は驚かされ、それを楽しみ、さらにそれをうまく生かすことによって展開していくのが特徴的である。そして「まえがき」に著者が「オモロイ」という関西弁を用いているように、出会ってくることを著者がこころから楽しみ、おもしろがっていることが、この本を魅力的にしている。


(解説より)


『河合隼雄セレクション「出会い」の不思議』
著者:河合隼雄著
発行:創元社/2015年3月
価格:1,026円(税込)
判型:文庫版並製328頁
ISBN:978-4-422-00056-5


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鎌田教授が企画・編集した『講座スピリチュアル学 第3巻 スピリチュアリティと平和』が出版されました

1504kamata_spirituality.png 鎌田東二教授が企画・編集をおこない、小林正弥千葉大学人文社会科学研究科教授、千葉眞国際基督教大学教授、内田樹神戸女学院大学名誉教授らと執筆した『講座スピリチュアル学 第3巻 スピリチュアリティと平和』が、2015年4月、ビイング・ネット・プレスより出版されました。


 講座スピリチュアル学のシリーズ本は全7巻で、2016年8月までに刊行される予定です。第1巻「スピリチュアルケア」、第2巻「スピリチュアリティと医療・健康」、第3巻「スピリチュイアリティと平和」、第4巻「スピリチュアリティと環境」、第5巻「スピリチュアリティと教育」、第6巻「スピリチュアリティと芸術・芸能」、第7巻「スピリチュアリティと宗教」という構成で、「こころとからだとたましいをホリスティック(全体的)に捉え、生き方や生きがいなどの生の価値に絡めて考察しようとする学問的探求」という考え方のもと、様々な分野で活躍する第一人者らがそれぞれの専門からテーマについて論じていきます。


 第3巻において、鎌田教授はテーマを平和にした経緯について。「自然災害や人的災難が多発する「乱世」の現代社会において、あらためて「平和の術(アート・オブ・ピース)」を問い直す」ことを執筆陣らと共に考えたことを述べ、「社会のケア」あるいは「人間関係や集団間のケア」の問題を考察する一冊にまとめた旨を企画編集者として紹介しています。自身の章では「日本の平和思想ー『国譲り』問題を考える」という題にて、二宮尊徳の「推譲」、『古事記』の「国譲り」、『日本書紀』の「憲法十七条」などを取り上げ、日本古来から人々の精神に流れ受け継がれてきた思想をもとに、平和と平安の実現に向けた考え方実践策とを提案しています。


 二〇〇七年一一月、本巻執筆者の小林正弥、千葉眞たちとともに「地球平和公共ネットワーク」(Network for Global Public Peace)を結成した。「地球的公共性の観点に基づいた平和ネットワーク」の結成を目標とし、「多様性の尊重に基づく、ゆるやかな自発的結合」をはかった。「理性と感性、知性と精神性・芸術性・身体性、生活世界と公共世界とを結びつけ」、志す方向として、(1)「いのち(生命)」の安らぎと喜びが感じられるような地球平和と公共世界を築いていく、(2)生活者の視点に立ち、足元からの知恵を生かして、地球平和と公共的価値を創造していく、(3)個の自立と多様な他者との共同性をともに尊重し、地球平和のためのゆるやかな友愛ネットワークを公共的に築いていく、(4)日本国憲法第九条の「戦争放棄・永久非戦」という地球平和の理念についてその文明史的意義と公共的価値をいっそう力強く世界の公論に訴えていく、(5)地球平和の実現のために平和大綱を作成し、非暴力的な公共的活動を行い、生きていることの喜びと楽しさを共に味わうことのできる平和の術(ワザ/アート・オブ・ピース)を創造していくことなどをめざすことを掲げた。
 だが、残念ながら、この流れは大きな運動とはならなかった。しかし、二〇一五年春、私たちはその時の同志たちとともにもう一度「平和の術(アート・オブ・ピース)」を問い直す課題を共有した。それが本書である。(「はじめに」より)


『講座スピリチュアル学 第3巻 スピリチュアリティと平和』
企画・編・著:鎌田東二
著:鎌田 東二、小林 正弥、阿部 珠理、千葉 眞、板垣 雄三、阿久津 正幸、小倉 紀蔵、服部 英二、内田 樹、金 泰昌、山脇 直司
出版社:ビイング・ネット・プレス
初版発行: 2015年4月
四六判 並製
定価:1,800円+税
ISBN 978-4-908055-03-4 C0310


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『講座スピリチュアル学 第1巻 スピリチュアルケア』が出版されました
『講座スピリチュアル学 第2巻 スピリチュアリティと医療・健康』が出版されました

『人体科学会第24回大会「身心変容と人体科学」』シンポジウム報告集が刊行されました

 鎌田東二教授が大会会長を務めた「人体科学会 第24回大会」(主催/人体科学会、後援/こころの未来研究センター、協力/身心変容技法研究会)の報告集『人体科学会第24回大会「身心変容と人体科学」』が刊行されました。本大会は、2014年11月29日・30日に稲盛財団記念館3階大会議室で開催されました。


IMG_8231.jpg ○企画趣意・挨拶 京都大学こころの未来研究センター教授・宗教哲学 鎌田東二


人体科学会は、23年前の1991年に設立されました。学会のホームページ上ではこう記載されています。
 「現代の社会では科学技術や経済発展が顕著な反面、精神の不安、モラルの衰退、愛の喪失といった心理的危機が広がっているようです。私たちは東西の文明の古い英知を現代において問い直すという立場から人体科学会を設立しました。(中略)
 このような人体科学会の四半世紀に及ぶ活動の中で、今回、京都大学稲盛財団記念館で、「身心変容と人体科学」をテーマにしたのは、これまで行ってきた、こういう人体科学会の開催の課題に、身心変容という観点から答えたいと考えたからです。
 つまり、この第2領域、東洋の身体観、修行法、気などを1の領域と結ぶような「身心変容」を、人体科学の領域の中で、事例研究と脳科学的なサイエンス的研究を通して切り結ぶ。
 事例研究の方は、チベットの瞑想を中心に永沢哲先生に、太極拳については倉島哲先生に、また、日本の独自のヴァートセラピーという整体については藤守先生に発表してもらって、その発表を踏まえてカール・ベッカー先生にコメントしてもらいます。
 そのようなかたちで、第1部を私が司会進行しながら、身心変容のフィールド学と位置づけ、事例を中心に置きながらの検討を進めていきます。
 その後、休憩の後に、松田和郎先生の司会の下で、身心変容と脳科学のセッションを行います。河野貴美子先生、齋木潤先生、どちらも生理学や認知科学など、脳波の研究をされてきています。その観点から発表してもらって、鮎澤聡会長にコメントしてもらって、総合討論に引き続いていきます。


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『人体科学会第24回大会「身心変容と人体科学」』シンポジウム報告集
発行日:2015年2月25日
発行者:人体科学会第24回大会実行委員会
<実行委員会>
顧問:カール・ベッカー
実行委員長:鎌田東二
副実行委員:和田和郎
事務局:奥井遼・小西賢吾
表紙デザイン:大西宏志


人体科学会 ウェブサイト
鎌田教授が大会会長を務めた「人体科学会 第24回大会」が開催されました

内田准教授と福島研究員の論文がドイツの学術書『Forschung fordern』に掲載されました

1503uchida_Fukushima_book.png 内田由紀子准教授と福島慎太郎研究員(上廣こころ学研究部門)らの共著論文が掲載された学術書『Forschung fördern: Am Beispiel von Lebensqualität im Kulturkontext』が、2015年2月、ドイツのUVK社より刊行されました。日本文化における幸福感の特徴を欧米との比較研究から検討し、グローバル化と日本人の幸福感について考察と展望をおこなっています。


Uchida, Y., Ogihara, Y., & Fukushima, S. (in press). Interdependently Achieved Happiness in East Asian Cultural Context. A Cultural Psychological Point of View.
In G. Trommsdorff, & W. R. Assmann (Hrsg.), Forschung fördern. Am Beispiel von Lebensqualität im Kulturkontext . UVK Verlag., Germany.


○Abstract
Recent cultural psychological studies have suggested that there is considerable variation in how people feel and conceptualize happiness and wellbeing. Particularly in Japan, compared with European American cultural contexts where wellbeing is achieved through personal attainment or self-esteem, wellbeing is construed as balance and harmony and it is achieved collectively and interdependently. We will further discuss the cultural construal of wellbeing during globalization.

『身心変容技法研究』第4号、『モノ学・感覚価値研究』第9号を刊行しました

 鎌田東二教授が代表研究者を務める「身心変容技法の比較宗教学-心と体とモノをつなぐワザの総合的研究」の研究年報『身心変容技法研究』第4号ならびに「モノ学・感覚価値研究会」の研究年報『モノ学・感覚価値研究』第9号が刊行されました。年報は全てPDFで公開しています。下記リンクよりダウンロードしてご覧ください。


1503shinshinhenyo.png■『身心変容技法研究』第4号


閲覧・ダウンロード:表紙(4MB) 目次・巻末(1MB)  本文(9MB)


 身心変容技法研究会は、多彩な研究メンバーによる最新の臨床心理学、精神医学の臨床研究や認知科学、脳神経科学の実験研究等を結びつけ、身体と心との相互的な関わりをワザやモノを媒介として様々な角度から分析し、「心の荒廃の時代」を突破するための理論と実践を提示することを目指しています。2014年度は、15回の定例公開研究会、大荒行シンポジウム、6回のフィールドワーク、毎月2回の定例分科研究会がおこなわれました。年報では、研究会での発表内容のほとんどが網羅されており、この一年で進められた研究の全容を知ることができます。


□身心変容技法研究会ホームページ
http://waza-sophia.la.coocan.jp/kennkyuukai.htm


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1503monogaku.png■『モノ学・感覚価値研究』第9号


(表紙:宮城県気仙沼市大島亀山山頂、2014年5月2日、撮影:鎌田東二)


閲覧・ダウンロード:表紙(2MB) 本文(6MB)


 「モノ学・感覚価値研究会」は、「モノ学の構築―"もののあはれ"および"もののけ"から"ものづくり"までを貫流する日本文明のモノ的創造力と感覚価値を検証する」を正式名称および副題とし、「『モノ』と人間、自然と人間、道具や文明と人間との新しい関係の構築可能性」をみつめ、「人間の幸福と平和と結びつく『モノ』認識と『感覚価値』のありようを探りながら、認識における『世直し』と『心直し』をしていく」ことを大きな目標としています(研究紹介より)。年報は、「第1部:こころのワザ学」「第2部:第五回東日本大震災関連プロジェクトーこころの再生に向けて」「第3部:身心変容技法の比較宗教学」の3部に分かれ、第2部には2011年から始まった「震災関連プロジェクトーこころの再生に向けて」のシンポジウムの講演録が、第3部には大荒行シンポジウムの講演録が収められています。


□モノ学・感覚価値研究会ホームページ
http://mono-gaku.la.coocan.jp

河合教授の講演録が『ユング心理学研究』第7巻2号に掲載されました

 河合俊雄教授の講演録「ユング派心理療法の新しい可能性」が、学術誌『ユング心理学研究』第7巻2号(2015年3月10日/日本ユング心理学会編)に掲載されました。


河合俊雄「ユング派心理療法の新しい可能性」『ユング心理学研究』Pp69ー87,創元社、2015


 講演録は、2014年3月2日に京都テルサで行われた第3回日本ユング研究所研修会の全体講演をまとめたものです。クライエントの症状が変化し、科学性や効果が強調され、また心理療法がアウトリーチ(現場に出向くこと)になっていく中で、震災支援での経験も踏まえて、イメージという方法論の新しい可能性を論じたものです。


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ユング心理学研究 第7巻 第2号(日本ユング心理学会ウェブサイト)※目次がご覧いただけます

河合教授の『村上春樹の「物語」ー 夢テキストとして読み解く』が台湾で出版されました

 河合俊雄教授の著書『村上春樹の「物語」夢テキストとして読み解く』(新潮社/2011年)が、中国語(繁体字)に翻訳され、2014年12月に台湾で出版されました。


 同書は、村上春樹のベストセラー『1Q84』(新潮社/2009年)を中心とする一連の作品を夢分析の手法から内在的に捉えたユニークな書です。日本で出版された2011年以降、ユング派分析家が独自の視点で論じる村上春樹小説論として話題を集めています。河合教授の書籍は各国で出版されており、2001年には『ユング ― 魂の現実性(リアリティー)』(講談社/1998年)が中国にて翻訳出版されています。今回は台湾での出版となり、大手の通販サイト「博客來」をはじめとする書店のサイトで試し読みも可能です。


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出版社の書籍ページ(台湾のサイト)
台湾のショッピングサイト「博客來」の書籍ページ(台湾のサイト)
日本語版『村上春樹の「物語」夢テキストとして読み解く』の書籍ページ(新潮社)

河合教授の講演録が収められた『わが師・先人を語る 1』(上廣倫理財団 編)が出版されました

1411kawai_uehiro.png 公益財団法人上廣倫理財団が開催する「上廣フォーラム」の8つの講演がまとめられた書籍『わが師・先人を語る 1』(上廣倫理財団 編)が、2014年11月、弘文堂より刊行されました。同財団とこころの未来研究センターが2014年1月に共同開催した『上廣フォーラム~日本人の生き方 「わが先人・師を語る」京都大学知の伝統』で河合俊雄教授が講演した「河合隼雄との三度の再会」をはじめとする3つの講演も収録されています。


 それぞれの学問分野で優れた業績を上げた碩学(学問を広く深く修めた人物)達が、その研究人生で影響を受けた先人や師について語った講演8つは、現代を代表する知のエキスパートが自身の歴史において大きな気づきや学びを与えてくれた偉大な人物の姿を、豊かな言葉と想いで語った貴重な記録となっています。



 師としての河合隼雄について話してほしいという講演を頼まれて、非常にありがたい話だとは思ったのですが、一度はお断りしました。というのも、河合隼雄の学問的評価とか紹介とかなら可能であっても、まだまだ個人的に河合隼雄について話すことはできないと思ったからです。自分にとってはあまりに大切であったり、ことばにならなかったりするものです。また人から見て、父である師について語るのは変なのでは、無理があるのではと思われるかもしれません。下世話な興味しか抱かれないのではないかという危惧もあります。さらには、肉親による回顧は、暴露的なものか、表面的な美辞麗句かという両極になりがちです。ある一部しか話せないというのは、誠実ではないかもしれないとも思います。
 しかしそれにもかかわらずにこうして講演を引き受けたのは、語っていかねばならない責任が自分にはあると思ったからです。それに少しでも河合隼雄という人を伝えていきたいという気持ちも強いです。それでそれなりに話していく筋を見つけたので、それに沿って話していきたいと思います。


(「河合隼雄との三度の再会」河合俊雄 より)


○内容紹介
●八人の碩学が語る師弟関係の妙。
高名な学者、現在活躍している第一線の研究者には、学問上そして人生の師・先人と仰ぐ人がいる。
彼らはいかに師・先人を求め、どのような交流によって高みに導かれたのだろうか。
現代の碩学8人が先人・師との貴重な体験や心の交流を語り、師を求め自らを高める奥義を明かす。


●目次
村井 實(教育学) :ペスタロッチー先生、長田新先生と私
熊野純彦(倫理学) :和辻哲郎と私
斎藤兆史(英語学) :新渡戸稲造の教養と修養
島薗 進(宗教学) :安丸良夫先生と私
中西 寛(政治学) :髙坂正堯先生の日本への思い
河合雅雄(霊長類学):今西錦司先生の仲間たちと私
河合俊雄(心理学) :河合隼雄との三度の再会
富永健一(社会学) :尾高邦雄先生と私


○書籍情報
『わが師・先人を語る 1』上廣倫理財団 編
・発行: 弘文堂(2014/11/4)
・四六判 306ページ
・定価(本体2,000円+税)
・ISBN-10: 4335160771
・ISBN-13: 978-4335160776


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□関連ページ
上廣倫理財団との共催で「上廣フォーラム~日本人の生き方『わが先人・師を語る』京都大学知の伝統」を開催しました
公益財団法人上廣倫理財団

熊谷准教授の編著『Bhutanese Buddhism and Its Culture』が出版されました

1412kumagai_book.jpg 熊谷誠慈准教授(上廣こころ学研究部門)が企画・編集をおこなった『Bhutanese Buddhism and Its Culture』(ブータン仏教とその文化)が、2014年12月、Vajra Publicationsより出版されました。同書には、ダムチョ・ドルジ内務文化大臣(ブータン王国)の巻頭言を皮切りに、カルマ・ウラ所長(王立ブータン研究所)、フランソワーズ・ポマレ研究ディレクター(フランス国立科学研究所)などの著名なブータン学者の論考が載録されています。本センターからは、熊谷准教授、松下賀和研究員、安田章紀研究員が寄稿しています。


 ブータンといえば「国民総幸福(GNH)」という政策が有名ですが、この政策はおろか、ブータン文化全般の根底に、仏教の思想が存在しています。熊谷准教授は、2012年1月より、王立ブータン研究所(Centre for Bhutan Studies)と共同で「ブータン仏教研究プロジェクト」(Bhutanese Buddhism Research Project)を進めてきました。本書は、同プロジェクトの中間報告として、ブータンの仏教と文化を、宗教学、人類学、開発学、教育学など多角的な視点から考察した研究書です。


○書誌情報
書名:Bhutanese Buddhism and Its Culture
著者:Seiji Kumagai(編著)
出版社:Vajra Publications
本体価格:40 USD
ページ数:250
初版発行:2014年12月1日
ISBN-10:9937623235
ISBN-13:978-9937623230


○目次
-Foreword by Damcho DORJI (Minister, Ministery of Home & Cultural Affairs)
-Introduction Seiji KUMAGAI

[Chapter 1. Nyingma School]
- Karma URA "Longchen's Forests of Poetry and Rivers of Composition in Bhutan: "The illuminating map - titled as forest park of flower garden - of Bumthang, the divine hidden land" composed in 1355 by Longchen Ramjam (1308-1363)"
- Akinori YASUDA "A Study of Rgyud bu chung Discovered by Pema Lingpa"

[Chapter 2. Drukpa Kagyu School]
- Gembo DORJI "The Lho-Druk Tradition of Bhutan: The Arrival and Spread of Buddhism"
- Karma URA "Monastic System of the Drukpa Kagyu ('Brug pa bka' brgyud) School in Bhutan"
- Thupten Gawa MATSUSHITA "Introduction to the Theory of Mahāmudrā by the Founder of Drukpa Kagyü, Tsangpa Gyaré Yeshe Dorje (1161-1211)"

[Chapter 3. Other Schools]
- Françoise POMMARET "Bon in Bhutan. What is in the name?"
- Seiji KUMAGAI "History and Current Situation of the Sa skya pa School in Bhutan"

[Chapter 4. Buddhist Culture]
- Lungtaen GYATSO "A Note on the Concept of Happiness and Prosperity"
- Akiko UEDA "Understanding the Practice of Dual Residence in the Context of Transhumance: A Case from Western Bhutan"
- Elizabeth MONSON "Alternative Voices: The Unusual Case of Drukpa Kunley ('Brug pa kun legs)"
- Riam KUYAKANON KNAPP "Contemplations on a Bhutanese Buddhist Environmental Narrative"
- Dendup CHOPHEL and Dorji KHANDU "Byis pa'i dpa' bo: The Dance of Youthful Heroes"


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鎌田教授の論考が『大阪保険医雑誌』に掲載されました

1412kamata_osakahokeni.png 鎌田東二教授の論考が、大阪府保険医協会の発行する『大阪保険医雑誌』No.579(2014年12月号)に掲載されました。


 本号の特集「宗教と医療」では、研究者、宗教者、医師、看護師など多様な執筆者がそれぞれの専門領域から宗教と医療との関わりについて寄稿しています。鎌田教授は、「日本の風土と宗教心」というタイトルにて、日本が持つ独特の文化と自然の多様性に着眼し、神話の世界や日本の国土の特徴、神仏習合文化の歴史などを紐解きつつ、こうした日本の風土のなかで練り上げられた「生態智」を医療に結びつけ、生態智に根ざしたケアサイクルの確立を進めることを提唱しています。また、鎌田教授自身の取り組みの一例として、『講座スピリチュアル学 』シリーズを企画編集、出版開始した経緯と活動のプロセスを紹介。既に刊行した2巻までを紹介し、「心のケア」から「スピリチュアルケア」への展開の具体的な進行、すなわち「宗教と医療」の合流の一里塚であることを提示しています。


日本の風土と宗教心 ー 鎌田東二 京都大学こころの未来研究センター教授


 医療の現場においても、今後、「生態智」に根ざしたケアサイクルの確立が求められる。日本の「スピリチュアルケア "spiritual care" 」は、「ナチュラルケア "natural care-healing through nature"」を含む「風土臨床」(加藤清)と連結しながら、日本列島の多様な「声」を聴きとり、「草木言語」が「草木国土悉皆成仏」に向かっていく長い道のりを辿っていかなければならないのだ。
 それが、大国主神という医療神(癒しの神)と医王と呼ばれたブッダや薬師如来と現じた仏性とが出逢ってきた国の「宗教と医療」の合流点ではないだろうか?
 わたし自身は日本の「宗教と医療」を合流する試みとして、つい先ごろ、『スピリチュアル学 第2巻 スピリチュアリティと医療・健康』を企画編集し出版したばかりである。ここに言う「スピリチュアル学」とは、こころとからだとたましいの全体を丸ごと捉え、それを生き方や生きがいなどの生の価値に絡めて考察しようとする学問的探究を指す。


(論考より)


『大阪保険医雑誌』 | 大阪府保険医協会ウェブサイト (目次はこちら PDF

 

内田准教授が第3章を執筆した『文化を実験する: 社会行動の文化・制度的基盤 』が出版されました

1410uchida_book.png 内田由紀子准教授が第3章を執筆した『文化を実験する: 社会行動の文化・制度的基盤 』が、2014年10月、勁草書房より出版されました。


 「フロンティア実験社会科学」シリーズの一冊として刊行された同書は、山岸俊男一橋大学国際経営研究科特任教授(北海道大学名誉教授)の編集により、内田准教授のほか、竹村幸祐滋賀大学准教授、増田貴彦アルバータ大准教授などセンターでの研究実績のある研究者を含む8名の執筆者がそれぞれの分野から最新の研究成果と知見を紹介しています。内田准教授は、第3章「文化変容と心の適応」を担当し、文化心理学の理論的背景、日本の変化とグローバリゼーション、制度的環境の変化、心の新しい文化への適応プロセスと今後の展望などについて幅広い知見から解説しています。


第3章 文化変容と心の適応


 文化は具象物ではない。したがって, これが文化です, と示すことはできない. しかし私たちは「文化の中を生きている」という実感を持っている. 日常生活は文化的な習慣に彩られ, 人々は文化的ツール(たとえば言語)を使って他者とコミュニケーションをとっている. さらに, 文化はある一定の連続性を保ちながら, いっぽうで様々な環境要因あるいは文化同士の相互交流を通じて, 流動的に変化している. たとえば私たちは源氏物語や平家物語を読んで, 1000年前に生きた人々の心と現代の日本人の心に通底する何かを感じることもできるし, 時代による違いにも気づかされる.
 文化心理学の研究では, 主に比較文化研究のデータを通じて「文化はどのように心の性質をつくりだし, また, 心の性質がどのように文化を再生産するのか」を明らかにしてきた(詳しくは増田による第1章参照). ここでいう「心の性質」は認知, 自己, 対人関係の基盤, 感情などである. 中でも文化的習慣や価値観によって形成される「自己」や, 「人一般についての理解のモデル」である「文化的自己観」についての理論がもたらしたインパクトは大きく(北山, 1998: Markus & Kitayama, 1991), その後日本文化における相互協調性, 北米文化における相互独立性に対応する心のあり方が検証されてきた. (中略)
 本章では, 文化変容と心の適応について, 文化心理学の領域に限らない様々な証左をもとにして検証し, 今後文化変容の問題についてどのような取り組みが可能であるのか, その展望を述べてみたい.


(「はじめに」より)


『文化を実験する: 社会行動の文化・制度的基盤』
・編著:山岸俊男
・発売日:2014年10月25日
・判型・ページ数:A5判・216ページ
・定価:本体3,200円+税
・ISBN 978-4-326-34917-3


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内田准教授の論考が『人間生活工学』に掲載されました

1409uchida_ningenkogaku.png 内田由紀子准教授の論考が一般社団法人人間生活工学研究センター(HQL)の発行する『人間生活工学』Vol.15 No.2(42巻/2014年9月発行)に掲載されました。論考は「特別寄稿」として巻頭に掲載され、内田准教授は「日本の「幸福」を考える」というタイトルで、文化・社会心理学者として取り組んできた幸福感の文化比較研究や幸福度指標をめぐる各国や日本の動き、国民総幸福の理念を提唱するブータンの特徴などを解説しています。


日本の「幸福」を考える ー 内田由紀子 京都大学こころの未来研究センター


1. はじめに:幸福の文化差
 私たちにとって幸福とはどういうものだろうか. 生活の充実, 良い人間関係, やりがいのある仕事, 健康でいることなど, 様々なことが思い浮かぶ. もちろん全てがそろっていれば言うことはないが, 人生はそううまくいくことばかりでもない. いったい人々の日々日常の充足とはどこから得られるのだろうか.
 日本が高度成長期に生活の充足と経済発展を求めたのは「日々の幸せ」と「人生の充実」を得るために違いないが, 一方で私たちの生活を豊かにしてくれているものが何もない時代にもきちんと幸福は存在していた. 考えてみれば幸せはとても不思議な概念である.


2. 文化と幸福
 私がはじめに着手したのは文化心理学の立場による比較研究で, 日米において「幸せな人はどのような人か, そこには文化差があるのだろうか?」というものと, 「幸せの意味は文化によって異なるか?」という, 二つのラインの実証研究であった.


(論考より)


「人間生活工学」 Vol.15 No.2 | 一般社団法人 人間生活工学研究センター(HQL) (目次など詳細が掲載されています)

『講座スピリチュアル学 第2巻 スピリチュアリティと医療・健康』(企画・編/鎌田東二、執筆/鎌田東二ほか)が出版されました

1412kamata_spiritualgaku2.png 鎌田東二教授が企画・編集をおこない、やまだようこ京大名誉教授、大井玄東大名誉教授、黒木賢一大阪経済大学教授らと執筆した『講座スピリチュアル学 第2巻 スピリチュアリティと医療・健康』が、2014年12月、ビイング・ネット・プレスより出版されました。


 講座スピリチュアル学のシリーズ本は全7巻で、2016年8月までに刊行される予定です。第1巻「スピリチュアルケア」、第2巻「スピリチュアリティと医療・健康」、第3巻「スピリチュイアリティと平和」、第4巻「スピリチュアリティと環境」、第5巻「スピリチュアリティと教育」、第6巻「スピリチュアリティと芸術・芸能」、第7巻「スピリチュアリティと宗教」という構成で、「こころとからだとたましいをホリスティック(全体的)に捉え、生き方や生きがいなどの生の価値に絡めて考察しようとする学問的探求」という考え方のもと、様々な分野で活躍する第一人者らがそれぞれの専門からテーマについて論じていきます。


 第2巻において鎌田教授は、テーマを医療・健康にした経緯について、東日本大震災という大きな出来事を契機に、「震災後の社会を、一人ひとりがどう生きぬいていくかという喫緊の深刻な実存的問題にまず取り組むべき」と考えたことを述べ、現代の医療、日本人の古来からのこころ観、いのち観について多角的な視点から問いかけ考える一冊にまとめた旨を紹介しています。また、終章では本巻の締めくくりとして、「スピリチュアリティと日本人のいのち観」というテーマで、『古事記』『日本書紀』などの神話の時代から日本人がみつめてきた「いのち」のありよう、仏教者の「いのち観」「健康観」、鎌田教授自身が提唱する「スパイラル史観」などを取り上げながら、「医療」と「健康」と「生き方」に関わる視座を提示しています。


 「いのち」という「まるごと」の受け止めを要請する存在のあり方を日本の宗教文化の幾つかの局面から見てきた。「いのち」が「すこやかであること」、それがどのような事態であり、存在様態なのか。気の遠くなるような多様性を本領とする「いのち」を「まるごと」受け止めるためには、どのような心の構えや生き方が必要となるのか。本終章の「はじめに」で述べた東京大学で始まった死生学の探究はその作業工程であり、高野山大学のスピリチュアルケア学科や日本スピリチュアルケア学会の創設も同様である。
 スパイラル史観を提唱してきたわたしからすると、この様相は中世の「メメント・モリー(死を想え!)」を想起させ、いよいよ現代が中世的な時代に突入したことを感じさせる。終末論や末法思想が流行した中世社会が総体的にそうであったように、時代も事態も環境もますます悪化し劣化していく。人類社会が好転していく兆しも材料もない。そのような希望の途絶えたかに見える社会の中で、希望を、光を見つけて、生きる力にしていくためにはどのような視力と想像力が必要になるのか。それには歴史を串刺しにして先を見る視力と想像力が必要であろう。 (「おわりに」より)


『講座スピリチュアル学 第2巻 スピリチュアリティと医療・健康』
企画・編・著:鎌田東二
著:山本竜隆・帯津良一・上野圭一・浦尾弥須子・大井玄・長谷川敏彦・やまだようこ・黒木賢一・黒丸尊治・鎌田東二
出版社:ビイング・ネット・プレス
初版発行: 2014年12月
単行本: 285ページ
定価:1,800円+税
ISBN-10: 4908055025
ISBN-13: 978-4908055027


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鎌田教授が寄稿した『乳房の文化論』が出版されました

1412kamata_nyubou.png 鎌田東二教授が論考を寄稿した『乳房の文化論』が、2014年11月に淡交社より出版されました。


 本書は、20年以上の歴史をもつ乳房文化研究会で発表された論考から13編がまとめられた一冊です。「特に人文科学の面における優れた論考」のひとつとして、鎌田教授の「チチとホト─乳房の日本文化史」が収められています。古くから、母性やエロティシズムの象徴とされてきた乳房、女陰の宗教文化史について、鎌田教授は神話や信仰の世界でそれらが大切にされてきた意味と具体的事例、自然のなかで信仰的シンボルとして創造された「チチ」「ホト」を図版で紹介しながら、宗教学、民俗学の視点から論考しています。


 以前、ポーラ文化研究所発行の『i s』という雑誌が「文化としての乳房」(66号、1994年)という特集を組んだ時、私は日本思想史の観点から「乳房の森」という一文を書いた。
 一般的に言って、乳房は人類文化にとって「母」を象徴する身体部位としてある。その証左に、『万葉集』において「母」にかかる枕詞は「たらちね」である。「たらちね」とは「垂れる乳の根」を差す「垂乳根」と表記する。が、「垂れる」という字は当て字で、乳房が垂れているという意味ではない。「垂乳根」とは「乳の満ちあふれる根源」という意味である。というのも、「垂れる」とは「足るを知る」の「足る」と同語源で、「満ちあふれる」とか「充満する」という意味だからである。(中略)
 同時に、男性にとって女性の乳房は、母的な根源的生命の次元だけではなく、蠱惑(こわく)や誘惑の対象となり、エロティシズムや性と結びつく。「母」の象徴としては誕生や養育や生命を意味するが、同時にそれは、成長した男にとっては、蠱惑する性的シンボルとも文化的チャームを持つ身体部位ともなり、さまざまなメタファーとしてはたらく。それは時には、目も眩む眩暈(げんうん)的なセックスシンボルとしてはたらく。この強烈な力と作用とは何なのか?
 そこには、生成する産出力に対する畏怖と神秘が含まれている。


(「チチとホト─乳房の日本文化史」論考「はじめに」より)


□書籍情報
『乳房の文化論』乳房文化研究会/編
出版社:淡交社
四六判 328頁
定価:本体2,052円
発売日:2014年11月25日
ISBN:978-4-473-03980-4


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河合教授が解説を執筆した『河合隼雄の幸福論』が出版されました

1411kawai_kofukuron.png 河合俊雄教授が解説を執筆した『河合隼雄の幸福論』(PHP研究所)が、2014年9月に出版されました。河合隼雄京都大学名誉教授が東京新聞と中日新聞に寄せた59のエッセイが集められており、もとは1998年に『しあわせ眼鏡』という題で海鳴社から出ていたものがスタイルを新たに復刊しました。


 心理学者として多くの人や出来事に関わってきた著者は、さまざまなエピソードを紹介しながら「幸福」について綴っています。軽妙な語り口のなかに、はっとさせられる生き方のヒントが数多く詰まっており、読み進めるうちに心がほぐれ、いつしか「幸福は、人生の一副産物にすぎないのではないか」という著者の言葉がすっと心に染み通ります。河合俊雄教授は、本が作られ復刊に到った経緯をはじめ、著者の「幸福」をめぐる豊かな考察の裏側にある心理学者としての姿勢、エッセイが書かれた90年代という時代について解説し、本の味わいをより深くしています。


「幸福論」とは言っても、これは決してある幸福観を体系的に展開したり、ましてやそれを読者に押しつけたりするものではない。「はじめに」にあるように、心理療法家である河合隼雄からすると、何らかの意味で不幸な状態にあって、そこから脱却して幸福を求めている人に会うことが多い。その意味で「幸福」とは何だろうと考えざるをえない。しかし何をもって幸福というのか、そもそも幸福とは大切なのか、まさに「深く考えはじめると難しくなる」のが幸福の特徴とさえ言える。
 それに対して本書は、著者が様々なことを経験していく中で、幸福ということをそのつど考えていったものである。(中略)
 具体的な経験を元にしていくのは、幸福についての興味深いアプローチであると思われる。というのも抽象的に幸福論や幸福観を扱っても、それはしょせん「絵に描いた餅」にとどまるのではなかろうか。われわれは常に自分自身の限られた人生の中で、幸福を見出していかざるをえない。その意味で具体的な経験を手がかりにして幸福について考えていくのはすぐれた方法であろう。そこには必然的に具体例による制限が加わり、また著者の人間が関わってくる。さらにこれは、心理療法における「事例研究」の大切さを常に強調していた河合隼雄の姿勢にもつながる。


(「《解説》河合隼雄の幸福論」より)


『河合隼雄の幸福論』
著者:河合隼雄著 《臨床心理学者》
発行:PHP研究所/2014年9月
価格:1,296円(本体価格1,200円)
判型:新書判並製
ISBN:978-4-569-82108-5


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河合隼雄財団:『河合隼雄の幸福論』のご紹介(書評が読めます)

鎌田教授と河合教授の対談が載った『にほんのきれいのあたりまえ』が出版されました

写真 (59).jpg 鎌田東二教授と河合俊雄教授の対談が載った書籍『にほんのきれいのあたりまえ』(編集:きれいのデザイン研究所、発行:フィルムアート社)が、2014年10月に出版されました。


 本書は、花王株式会社と東京藝術大学美術学部デザイン科が、日本のデザイン文化を考えるプロジェクトの成果に様々な分野で活躍する専門家たちのインタビュー等を加えて作り上げた一冊です。鎌田教授と河合教授は、3章「変わりゆくきれい」のなかで「日本のこころと未来 きれいが動かすこころと共に」というテーマで対談しました。神道の精神に根付く「きれい」は「清浄」という意味に通じるとして古事記や日本書紀を紐解きながら紹介する鎌田教授、西洋とは異なる美の倫理が存在し、箱庭療法など日本人のこころと美意識に呼応した方法でおこなわれる心理療法が日本にはあるという河合教授。日本人の精神世界と現代までの変化について、神話、ユング心理学などそれぞれの専門からの知見と考察をまじえながら、未来のこころのあり方について語り合っています。


 本の装丁や中身もきれいな本です。興味のある方は、ぜひご覧ください。


『にほんのきれいのあたりまえー新しいくらし方をデザインする』

日本文化に深く浸透する「きれい」を読み解く、生活・文化・デザイン考。
「未来につながるものづくり」を考える、花王×藝大のプロジェクトの集大成!


きれいのデザイン研究所=編
発行:フィルムアート社
発売日:2014年10月16日
四六判・並製|264頁|ISBN 978-4-8459-1447-0|価格:1,300円+税


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【一般公募型連携プロジェクト研究成果】内田准教授の共著論文が『PLoS ONE』に掲載されました

1410uchida_plosone.png 内田由紀子准教授が医学研究科と共同実施した糖尿病治療と心のあり方についての日米比較研究の成果が論文公刊され、国際科学雑誌『PLoS ONE』に2014年10月15日付で掲載されました。


"Social orientation and diabetes-related distress in Japanese and American patients with type 2 diabetes," Kaori Ikeda, Shimpei Fujimoto, Beth Morling, Shiho Ayano-Takahara, Andrew E Carroll, Shin-ichi Harashima, Yukiko Uchida, and Nobuya Inagaki, PLOS ONE, online October 15, 2014,


 本研究は、こころの未来研究センターの一般公募型連携プロジェクトで内田准教授が受け入れ教員となり、京都大学医学部附属病院の池田香織特定助教、大学院医学研究科の稲垣暢也教授、高知大学医学部の藤本新平教授、本センターにも2009年から2010年に滞在していた米国Delaware大学のBeth Morling准教授らと共に進められました。糖尿病の外来患者を対象とする質問紙調査をおこない分析した結果、日本においては身近な他者からのサポートが、糖尿病患者の心の負担を軽減する要因となっていることが明らかになりました。(論文はオープンアクセスジャーナルですので、どなたでも読むことができます。こちら


 論文公刊のニュースと詳しい内容は、京都大学の公式ウェブサイトにおける「研究成果」ページで研究者の写真、コメントと共に紹介されました。ぜひ合わせてご覧ください。


研究成果:糖尿病患者の心の負担に日本人特有の要因の存在 -協調性を重視する文化の影響- - 京都大学

 

内田准教授が寄稿した『女性研究者とワークライフバランス: キャリアを積むこと、家族を持つこと』が出版されました

1409uchida.png 内田由紀子准教授が論考を寄稿した『女性研究者とワークライフバランス: キャリアを積むこと、家族を持つこと』が、2014年9月に新曜社より出版されました。


 本書は、日本心理学会が発酵する一般向けの学会誌『心理学ワールド』第52号から57号に掲載されたコラムと、第76回日本心理学大会でのワークショップ「研究者のワーク・ライフ・バランス:いろいろな子育てのかたち」をベースに、5人の心理学者がそれぞれの結婚、育児、研究との両立、社会との向き合い方、気持ちの持ちよう、パートナーとの関わりなどについて綴ったユニークな本です。論考の最後にはそれぞれの配偶者のコラムも掲載され、パートナーの目線からの意見も合わせて読むことができます。


 2003年に結婚し、一児を育てながらこころの未来研究センターで研究活動に取り組む内田准教授は、自身の結婚、出産、育児について、パートナーや家族と共に苦心と工夫を重ねながら、自分たちの仕事と暮らしに適したスタイルを編み出していった経緯を詳しく紹介しています。配偶者のコラムでは、みずから育児休業を取り妻を支えた夫側の育児観や、夫婦それぞれが納得して家庭環境を築き上げるために議論を重ねることの重要性などが説かれており、読みごたえのある内容となっています。


遠距離結婚生活の中での育児と研究生活 内田由紀子


 この書籍を手にしておられるのは研究者のワークライフバランスの問題に、社会的・学術的あるいはごく個人的な感心を持っているひとではないだろうかと思います。そしてその中にはこれから結婚や出産を控えているひと、あるいはその希望を持っている人が含まれていると思います。
 私自身が結婚し、子どもを産む前にいちばん聞きたかった話しはなんだろうと考えてみると、「身近な、けれどもロールモデルになる」話しでした。「子育てと研究の両立はパワフルにこなしています。第三者にも誰にも頼らず自分たちでバリバリ仕事をしながら子どもを(しかも三人や四人)育てました」というスーパーウーマンの話を聞いても「ああ、自分には無理だ......やめておこう」と尻込みするだけだったからです。むしろ、普通の人が普通に苦労しながら、それでもなんとかなるのかどうかを知りたかった。(中略)
 家庭生活と研究生活のバランスの取り方は、家族の関係性や事情によることであり、他人の話がどれぐらい情報価を持つかはよくわかりません。人の話は人の話に過ぎない中で、第三者の体験談が役に立つとすれば、ライフスタイルの一つのオプションを知ることで、自分の「常識」や「こうあるべき」の再評価をする機会となることにあると思います。遠距離生活も、夫の育児休業も依然として日本社会の本流とは言えませんが、私の経験を一つのカウンターケースとして呈示できればと思います。


(「1 はじめに」より)


□書籍情報
『女性研究者とワークライフバランス――キャリアを積むこと、家族を持つこと』
仲真紀子・久保(川合)南海子 編
出版社:新曜社
A5判並製144頁
定価:本体1600円+税
発売日:2014年9月17日
ISBN 978-4-7885-1406-5


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『講座スピリチュアル学 第1巻 スピリチュアルケア』(企画・編/鎌田東二、執筆/カール・ベッカー、鎌田東二ほか)が出版されました

1409kamata_spiritualcare.png 鎌田東二教授が企画・編集をおこない、カール・ベッカー教授、島薗進東京大学名誉教授・上智大学グリーフケア研究所特任所長、井上ウィマラ高野山大学教授らと執筆した『講座スピリチュアル学 第1巻 スピリチュアルケア』が、2014年9月、ビイング・ネット・プレスより出版されました。


 講座スピリチュアル学のシリーズ本は全7巻で、2016年8月までに刊行される予定です。第1巻「スピリチュアルケア」、第2巻「スピリチュアリティと医療・健康」、第3巻「スピリチュイアリティと平和」、第4巻「スピリチュアリティと環境」、第5巻「スピリチュアリティと教育」、第6巻「スピリチュアリティと芸術・芸能」、第7巻「スピリチュアリティと宗教」という構成で、「こころとからだとたましいをホリスティック(全体的)に捉え、生き方や生きがいなどの生の価値に絡めて考察しようとする学問的探求」という考え方のもと、様々な分野で活躍する第一人者らがそれぞれの専門からテーマについて論じていきます。


 鎌田教授は、第1巻の「はじめに」において、講座スピリチュアル学の全体像を示し、刊行の経緯やスピリチュアルの定義、第1巻の構成について解説しています。カール・ベッカー教授は、「第一部 スピリチュアルケアと宗教・医療」にて「スピリチュアル・ケアとグリーフケアと医療」というテーマで執筆。長年に渡る調査研究をもとに、死を前にした患者の受容プロセス、家族への悲嘆ケア、従事者による介入の種類等について現状の問題や将来的な課題も含めて論じています。終章では再び鎌田教授が「スピリチュアルケアと日本の風土」というテーマで「スピリチュアル」や「スピリチュアリティ」、「スピリチュアルケア」を考えるにあたっての大前提となる日本文化のバックグラウンドを概観。日本の風土的特徴や『古今和歌集』『古事記』などの文化遺産から見た日本人の精神性などに焦点をあてながら、歴史的文脈をたどり、「生態智」に根ざした日本独自のスピリチュアルケアのあり方について考察し、第1巻を結んでいます。


「講座スピリチュアル学」と「スピリチュアルケア」


 本書『スピリチュアル学第一巻 スピリチュアルケア』は、「スピリチュアル学と銘打った全七巻シリーズの第一巻目として編集された。
 「スピリチュアル学」とは、こころとからだとたましいの全体を丸ごと捉え、それを生き方や生きがいなどの生の価値に絡めて考察しようとする学問的探求をいう。また大変重要なことであるが、この世界における人間存在の位置と意味についても真剣に問いかける姿勢も保持している。そのような意図や方向性を持ちつつ、心については心理学、体については生理学や神経科学(脳科学)、魂については宗教学や神学といったような、従来の細分化された専門分野に限定されてきた学術研究の枠を取っ払って、こころとからだとたましいと呼ばれてきた領域や現象をホリスティック(全体的)に捉えようとしたのが本シリーズである。(「はじめに」より)


『講座スピリチュアル学 第1巻 スピリチュアルケア』
企画・編・著:鎌田東二
著:伊藤高章、高木慶子、島薗進、窪寺俊之、谷山洋三、カール・ベッカー、井上ウィマラ、大下大圓、滝口俊子
出版社:ビイング・ネット・プレス
発売日: 2014/9/5
単行本: 285ページ
定価:1,800円+税
ISBN-10: 4908055017
ISBN-13: 978-4908055010


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河合教授の論文が『日本病跡学雑誌』(日本病跡学会発行)に掲載されました

 河合俊雄教授の論文「ユング『赤の書』における近代意識とその超克』が、日本病跡学会の発行する機関誌『日本病跡学雑誌』第87号に掲載されました。


写真 (46).jpg第60回 日本病跡学会総会
●シンポジウム
「ユング『赤の書』における近代意識とその超克」 河合俊雄


 病跡学という観点からすると、この『赤の書』がユングの精神的危機をきっかけとして成立してきたことが興味深い。それはユングが書いているように,「精神病」や, あるいはもっと正確にいうと統合失調症のリスクがあったものなのであろうか。あるいはどのような病理的な状態にあったと考えられるのであろうか。(中略)
 ユングの体験した精神的危機, またその結果として『赤の書』に示されてきたイメージは, 統合失調症に特徴的なものとして理解されるのであろうか。これについて, 大部分はすでに刊行された拙論によりつつ, それを病跡学の視点からも考察し直し, さらに新たな観点を付け加えていきたい。(論文より)


日本病跡学会のウェブサイト

河合教授と小木曽研究員の論文が『Analytical Psychology in a Changing World』に掲載されました

 河合俊雄教授、小木曽由佳日本学術振興会特別研究員それぞれの論文が『Analytical Psychology in a Changing World: The search for self, identity and community』(Routledge/Edited by Lucy Huskinson, Murray Stein)に掲載されました。


1408kawai_analytical_psychology.pngDescription:

How can we make sense of ourselves within a world of change?

In Analytical Psychology in a Changing World, an international range of contributors examine some of the common pitfalls, challenges and rewards that we encounter in our efforts to carve out identities of a personal or collective nature, and question the extent to which analytical psychology as a school of thought and therapeutic approach must also adapt to meet our changing needs.


The contributors assess contemporary concerns about our sense of who we are and where we are going, some in light of recent social and natural disasters and changes to our social climates, others by revisiting existential concerns and philosophical responses to our human situation in order to assess their validity for today. ーー


Analytical Psychology in a Changing World will be essential reading for Jungian and post-Jungian scholars and clinicians of depth psychology, as well as sociologists, philosophers and any reader with a critical interest in the important cultural ideas of our time.


http://www.routledge.com/books/details/9780415721288/


VIEW INSIDE THIS BOOK(本の一部をご覧いただけます)


2. Big Stories and Small Stories in the Psychological Relief Work after the Earthquake Disaster: Life and Death ーーToshio Kawai


11. The Red Book and Psychological Types: A qualitative change of Jung's typology ーーYuka Ogiso

阿部准教授の論文が『Journal of Neuroscience』に掲載されました

 阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)の論文「Response to anticipated reward in the nucleus accumbens predicts behavior in an independent test of honesty」が、8月6日付で『Journal of Neuroscience』に掲載されました。


 以下、論文の概要です(記者発表資料より掲載)。


「どうして正直者と嘘つきがいるのか? -脳活動からその原因を解明―」


論文タイトル:Response to anticipated reward in the nucleus accumbens predicts behavior in an independent test of honesty
掲載誌:Journal of Neuroscience
著者:Nobuhito Abe (Kyoto University), Joshua D. Greene (Harvard University)
掲載日:2014年8月6日(米国東海岸時間)


□論文の概要

 世の中には正直者と嘘つきがいますが、どうしてそのような個人差があるのかはわかっていません。今回の研究では、機能的磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging; fMRI)と呼ばれる脳活動を間接的に測定する方法と、嘘をつく割合を測定する心理学的な課題を使って、正直さ・不正直さの個人差に関係する脳の仕組みを調べました。
 その結果、報酬(今回の研究ではお金)を期待する際の「側坐核(そくざかく)」と呼ばれる脳領域の活動が高い人ほど、嘘をつく割合が高いことがわかりました(図1)。さらに、側坐核の活動が高い人ほど、嘘をつかずに正直な振る舞いをする際に、「背外側前頭前野(はいがいそくぜんとうぜんや)」と呼ばれる領域の活動が高いこともわかりました(図2)。
 今回の研究は、側坐核の活動の個人差によって、人間の正直さ・不正直さがある程度決まることを示した、世界的にも初の知見です。


140806abe.png

 

大塚研究員の共著『自己を知る脳・他者を理解する脳 ――神経認知心理学からみた心の理論の新展開』

1407jiko.png 大塚結喜センター研究員の共著『自己を知る脳・他者を理解する脳 ――神経認知心理学からみた心の理論の新展開』が2014年7月、新曜社より刊行されました。


 「社会脳シリーズ」第6巻にあたる同書は苧阪直行京都大学名誉教授の編集により、大塚研究員をはじめとする8名の執筆者がそれぞれの分野から最新の研究成果と知見を披露しています。大塚研究員は、第6章「心の理論の脳内表現」を担当し、「心の理論の脳内基盤」、「Eネットワーク」、「人称問題」などについて執筆しています。


 自分のことは自分が一番よく知っていると思いがちですが、本当にそうでしょうか? 自分を知ることは他者を理解することより難しいかもしれません。本巻では、自己と他者の意識はどのように脳内で表現されているのか、「他者の心」を推測する心のはたらきである「心の理論」の脳内メカニズムはどのようなものかを、脳イメージングを駆使したさまざまな研究を通して紹介します。自分の手ではないゴムの手の模型が、あたかも自分の手であるかのように感じられるラバーハンド実験や、意図や攻撃、情動の脳メカニズムの探索、他者と同調する脳を2台の脳スキャン装置を連動させて観察する実験など、今回も興味のつきない内容です。


(出版社による書籍紹介より)


『自己を知る脳・他者を理解する脳 ――神経認知心理学からみた心の理論の新展開』
・編者:苧阪直行
・発売日:2014年7月25日
・定価:本体3600円+税
・四六判上製320頁+カラー口絵15頁
・ISBN 978-4-7885-1397-6


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鎌田教授の報告文が『災害と文明ー東日本大震災と防潮堤問題を考えるー報告書』に掲載されました

 比較文明学会が2013年9月に開催したシンポジウム『災害と文明ー東日本大震災と防潮堤問題を考えるー』の報告書に、鎌田東二教授の報告文が掲載されました。


 東日本大震災の被災地では、復旧・復興過程において海岸線に巨大な防潮堤が建設されることが決まり、すでに着工されています。比較文明学会では、この「防潮堤問題」について中長期的に検討し、文明の未来を構想する手がかりを探るためのプロジェクトを立ち上げ、第一回のシンポジウムをおこないました。鎌田教授は、シンポジウムの報告書に「生態智を宿す聖地文化と文明の欲望に孕むコンクリート巨大防潮堤」というタイトルにて追加報告文を寄稿。巨大防潮堤について、日本に古くから息づく「自然に対する深く慎ましい畏怖・畏敬の念に基づく、暮らしの中での鋭敏な観察と経験によって練り上げられた、自然と人工との持続可能な創造的バランス維持システムの知恵と技法」を宿す聖地文化の構造と機能を無視する施策として、強く非難すると共に、「自然災害が頻発する時代に『生態智』を宿す聖地文化を活かすことのできる緑の文明の構築を未来に向かって強く建設していくべきである」と提案しています。


1407kamata_hikakubunmei.png「生態智を宿す聖地文化と文明の欲望に孕むコンクリート巨大防潮堤」 鎌田東二(京都大学こころの未来研究センター)


 日本列島の中で生きていく際に、「聖地」は一つの備えと祈りと覚悟の担保物件であり、安全のスペアであった。つまり、聖地という聖なる場所は、自然災害の避難地として用意されたのである。日本列島という特異な風土の中で育まれた日本の聖地文化は自然災害の鎮めや防災・減災や警告と密接に結びついている。(中略)
 日本の聖地文化の具体事例といえる延喜式内社が、自然災害の襲来に対する防災・安心・安全装置や拠点でもあったことを指摘することができる。つまるところ、日本の聖地文化とは、日本列島の地質・地形・風土の中から生まれた「生態智」すなわち「自然に対する深く慎ましい畏怖・畏敬の念に基づく、暮らしの中での鋭敏な観察と経験によって練り上げられた、自然と人工との持続可能な創造的バランス維持システムの知恵と技法」を深く宿しているのである。
 そのような地質・地形・聖地文化の構造と機能を無視するかのように、東北被災地沿岸部に何百キロにわたって一律にコンクリートの防潮堤が建設されつつある。暴挙であり、歴史から学ぶことのない態度であるといえる。


(報告書より)


□比較文明学会のウェブサイト
http://www.jscsc.gr.jp/index.do

鎌田教授の講演録が『日独文化研究所シンポジウム<生と死>』に掲載されました

1407kamata_seitoshi.png 日独文化研究所が開催した公開シンポジウム「生と死」の講演を収録した書籍が刊行されました。鎌田東二教授は、同シンポジウムで「神道の生死観―いのち、来るときと去るとき」という演題で講演しました。神道の成り立ちと真髄、神道的生死観の様相について、『古事記』をはじめとする様々な物語や伝承を紹介しながら、古代、中世、近世、近代と順を追って詳しく解説。日本文化と神道との関わり、生態智などに象徴される神道的な考え方が、いかに日本人の精神と生活に脈打ち現代日本の礎を築き上げてきたか、ダイナミックに考察しています。


 なお、鎌田教授のほかには、八木誠一東京工大名誉教授、佐藤康邦放送大学教授、谷徹立命館大学教授、鷲田清一大谷大学、大阪大学名誉教授、秋富克哉京都工芸繊維大学教授、中井吉英関西医科大学名誉教授、丸橋裕兵庫県立大学教授らが講演者に名を連ねています。


「神道の生死観―いのち、来るときと去るとき」 鎌田東二


 本論に与えられたテーマは、「神道の生死観」であるが、そこでの根源語は、「むすび」と「ひらき」である。「むすび」とは、いのちを生成するはたらき、対して、「ひらき」とは、開放するという意味ばかりではなく、その反対に、解散するとか消滅するとか無くなるという含意も持っている。例えば、「おひらきにする」と言ったら、おしまいにする、解散するという意味合いである。とすれば、無くなるということは単なる消滅ではなく、もう一つの世界へ開いていくという意味合いも持っているということになるが、この生死観を古くからの大和言葉を使って言えば、「むすびとひらき」であると考えるのである。
 このような「むすびとひらき」観を神道的生死観の核と捉えつつ、次に、古代神道の生死観、中世神道の生死観、近世神道の生死観、また近代の神道とかかわる学問的探究の生死観の流れの対局をトレースしておきたい。そしてその対局図を踏まえて、そもそも神道とは何か、また神道と日本文化とはどのような接点とつながりを持っているのか、あるいはまた神道は日本文化をどのように支えてきたか、神道は日本文化の中にどのような形であらわれているのかについて言及してみたい。(講演録より)


○書籍情報

『日独文化研究所シンポジウム<生と死>』
編・発行:公益財団法人 日独文化研究所
発売 こぶし書房
発売日: 2014/7/30
価格: 2200円+税
http://www.nichidokubunka.or.jp/kankou2.html

阿部准教授と伊藤研究員の論文が『Brain and Cognition』に掲載されました

阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)と伊藤文人日本学術振興会特別研究員の共著論文「The neural basis of dishonest decisions that serve to harm or help the target」が、『Brain and Cognition』90号に掲載されました。


140707abe.pngAbe N, Fujii T, Ito A, Ueno A, Koseki Y, Hashimoto R, Hayashi A, Mugikura S, Takahashi S, Mori E (2014)
The neural basis of dishonest decisions that serve to harm or help the target
Brain and Cognition 90: 41-49
http://www.journals.elsevier.com/brain-and-cognition/


(論文の紹介/著者より)
人間は自分の利益のために、他者を傷つけてしまう「利己的な嘘」をつく場合もあれば、他者を思いやって「利他的な嘘」をつく場合もあります。今回の研究ではfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いて、この二種類の嘘の意思決定に関わる神経基盤が異なることを明らかにしました。以前に報告したHayashi et al. (2014) の論文では、これら二種類の嘘に対する俯瞰的な道徳判断の神経基盤を報告しましたが、今回の論文では自分自身の意思決定に関わる神経基盤を報告しました。


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河合教授の講演録が『ユング心理学研究 第7巻 第1号 ユング派の精神療法』に掲載されました

1406kawai_jung.png 河合俊雄教授の講演録が『ユング心理学研究 第7巻 第1号 ユング派の精神療法』に掲載されました。2013年6月に京都大学百周年時計台記念館で開催された日本ユング心理学会第2回大会のプレコングレスに登壇した鷲田清一氏(大谷大学教授、大阪大学名誉教授)の基調講演において、河合俊雄教授は全体の進行役ならびに指定討論者として、伊藤良子学習院大学教授と共に鷲田氏とディスカッションをおこないました。本書には講演のエッセンスと討論の記録が掲載されています。


 当日の様子は下記のレポート記事でもご覧いただけます。
「身殻と身柄―<ひと>をめぐって」河合俊雄教授が日本ユング心理学会第2回大会プレコングレスに登壇しました - ニュース:こころの未来研究センター


『ユング心理学研究 第7巻 第1号 ユング派の精神療法』


○内容紹介
精神科医にしてユング派分析家の武野俊弥氏が「ユング派の精神療法とは何か」という本質的な問いをめぐって自説を展開した講演録を巻頭に収録。とくに、近年進歩が著しい脳科学が精神療法全般に及ぼす影響を論じたくだりは、心理学の今後を考えていくうえで示唆に富む。哲学者の鷲田清一氏を招いて行われたシンポジウムの記録では、「身体」に関する鷲田氏の問題提起を受け、心の病理やその臨床など多様な観点から議論が展開される。(学会ウェブサイトより)


○書籍情報
・書名:『 ユング心理学研究 第7巻 第1号 ユング派の精神療法』
・編者:日本ユング心理学会編
・定価:本体2,000円+税
・刊行年月日:2014年6月10日
・ISBN:978-4-422-11496-5
・判型:A5判 186頁


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大塚研究員の論文が『老年精神医学雑誌』に掲載されました

 大塚結喜センター研究員(認知心理学)の論文「高齢者のワーキングメモリ」が、日本老年精神医学会の準機関誌『老年精神医学雑誌』25巻に掲載されました。


大塚結喜(2014)高齢者のワーキングメモリ,老年精神医学雑誌, 25, 498-503


<抄録>
ワーキングメモリは高齢者の記憶システムの中でも最も衰えている記憶機能のひとつである.その原因は脳の前頭葉の衰退にあると考えられてきたが,近年のニューロイメージング研究では前頭葉だけでなく,ワーキングメモリーを支える脳内ネットワークが高齢者と若年者では異なっている可能性が指摘されている.本論文では,高齢者のワーキングメモリを支える脳内ネットワークを検討したニューロイメージング研究について紹介する.

鎌田教授の論文が『文明の未来』(東海大学出版部)に掲載されました

1405kamata_hikaku.png 鎌田東二教授の論文「生態智と平安文明」が、2014年5月に刊行された『文明の未来 いま、あらためて比較文明学の視点から 』に掲載されました。


 本書は、比較文明学会創立30周年を記念して出版された論文集です。第一部「いま、生態系と文明系を問う」、第二部「いま、生態智と文明智を問う」、第三部「いま、比較文明の方法論を問う」、第四部「文明の過去から未来を透視する」という四部構成になっており、鎌田教授の論文「生態智と平安文明」は第二部に収録されています。鎌田教授は、二十一世紀最大の課題である地球環境問題を克服し、持続可能な還流的「世界平安都市」「平安文明」をデザインしていくために不可欠な智として「生態智」を取り上げ、先駆者である南方熊楠、宮沢賢治らの足跡や東日本大震災後の歩みを紹介しながら、未来の文明の足掛かりとなる道筋について考察しています。


生態智と平安文明 鎌田東二


 いつの時代にも苦悩や悪や不安が絶えることはなかったが、二一世紀初頭の今日、現代文明の負の遺産がこれまでにはないような「累積赤字」を積み重ねていることに誰しもが深い不安と惧れを感じている。(中略)
 これまでの「収奪文明」がもたらしてきた地球的危機を解決し、持続可能な還流的「平安文明」(循環調和型の平らかで安らかな、平和・安心・安全・安寧の文明)を創造していくことが求められているが、そのためには「生態智」文化の再発掘と再布置・再構築が欠かせないだろう。「生態智」とは、「自然に対する深く慎ましい畏怖・畏敬の念に基づく、暮らしの中での鋭敏な観察と経験によって練り上げられた、自然と人工との持続可能な創造的バランス維持システムの技法と知恵」である。そうした「生態智」の事例と思想を、「平安京」と呼ばれて千年以上にわたり「みやこ」として維持してきた物質的基盤(水、食料、燃料、材木、ゴミ問題、人の流れ)と技術的基盤(芸術、技芸、学問)と精神的基盤(宗教、象徴性、呪術性、霊性)の中から探り当てて、未来の「平安文明の創造」に活かすモデルとも歴史都市事例ともしてみたい。その際、「生態智」思想の探求と実践例として、南方熊楠と宮沢賢治という二人の「K・M」の取組事例を検討しつつ、未来モデルを構想してみることにする。(論文より)


○書籍情報


『文明の未来 いま、あらためて比較文明学の視点から 』
編集:比較文明学会30周年記念出版編集委員会
出版社: 東海大学出版部
発売日: 2014/5/15
単行本: 318ページ
価格: 3000円+税
ISBN-10: 4486019830
ISBN-13: 978-4486019831


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内田准教授の論文が『Japanese Psychological Research』に掲載されました

1405uchida_japanese.png 内田由紀子准教授の論文「You were always on my mind: The importance of "significant others" in the attenuation of retrieval-induced forgetting in Japan」が、日本心理学会の発行する英文学術誌『Japanese Psychological Research』に掲載されました。


 本論文では「検索誘導性忘却」という記憶研究のパラダイムを用いて、欧米とは異なり日本文化においては、「友人」や「家族」などのいわゆる「重要な他者」が「自己」と同様の効果を持って「忘却の耐性」を引き起こすことを示しています。


Yukiko Uchida, Taiji Ueno,& Yuri Miyamoto. You were always on my mind: The importance of "significant others" in the attenuation of retrieval-induced forgetting in Japan. Japanese Psychological Research. 21 APR 2014. DOI: 10.1111/jpr.12051
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jpr.12051/abstract


○Abstract
Research on memory has demonstrated that remembering material can cause forgetting of related information, which is known as retrieval-induced forgetting (RIF). Macrae and Roseveare identified "self" as one of the boundary conditions of this effect in the Western cultural context, showing that RIF was eliminated when material was encoded to be related to the self (known as self-referential effect), but not to significant others. In this study, we predicted and found that significant others could be another boundary condition in Japanese cultural contexts in which self and agency are more interdependent or conjoint; RIF was observed neither under best-friend-related encoding nor under family-related encoding in Japan. The effect of significant others is found uniquely in Japanese cultural contexts, suggesting that the cultural model of self has significant power in the spontaneous system of memory.

ベッカー教授の共著『現代文明の危機と克服』が出版されました

1405becker_gendaibunmei.png カール・ベッカー教授の共著書『現代文明の危機と克服 地域・地球的課題へのアプローチ』が、2014年4月、日本地域社会研究所・コミュニティ・ブックスより出版されました。


 人文社会科学系の研究者らによるサステイナビリティに関する論考がまとめられいます。ベッカー教授は、「仏教の立場から考える環境倫理と企業倫理」というタイトルで執筆。現代日本の環境問題や社会システムの課題を乗り越えるために日本に根付いた仏教的視点をもとに考察、提言をおこなっています。ほかに東京工業大学大学院教授の桑子敏雄氏(哲学・倫理学)、茨城大学准教授の原口弥生氏(環境社会学・環境政策論)、元京都大学東南アジア研究所研究員、国立ブータン研究所客員研究員で現ロンドン大学東洋アフリカ研究学院フェローの宮本万里氏(人類学、地域研究)など、多彩な執筆陣が名を連ねており、多角的でグローバルな視点からサステイナビリティの問題について知り、考えることのできる一冊です。


○内容紹介
深刻な地域・地球環境問題に対し、人間はいかなる方向にかじを取ればよいか。新たな文明の指針はどこ見出せるか。科学・思想哲学・宗教学・社会学など多彩な学問領域から結集した気鋭たちがサステナビリティを鍵に難問に挑む。


○書籍情報
『現代文明の危機と克服 地域・地球的課題へのアプローチ』
著者名:木村武史、カール・ベッカー、桑子敏雄、原口弥生、櫻井次郎、柏木志保、宮本万里、箕輪真理、松井健一 著 出版社:日本地域社会研究所
単行本: 235ページ
出版社: 日本地域社会研究所 (2014/4/11)
ISBN-10: 4890221441
ISBN-13: 978-4890221448
発売日: 2014/4/11
定価: 2,376円(2,200円+税)


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清家助教の論文が『Geriatrics Gerontology International』に掲載されました

1405seike.png 清家理助教(上廣こころ学研究部門)の共著論文「初期認知症患者および家族への多職種恊働による教育的支援プログラム開発研究ーー認知症の確定診断直後の患者および家族の学習ニーズと意識変容からの考察(Developing an interdisciplinary program of educational support for early-stage dementia patients and their family members: An investigation based on learning needs and attitude changes)」が、老年医学会の国際誌『Geriatrics Gerontology International』に掲載されました。


 論文は、オンラインで読むことができます。下記リンクにアクセスしてご覧ください。


Aya Seike, Chieko Sumigaki, Akinori Takeda, Hidetoshi Endo, Takashi Sakurai, Kenji Toba. Developing an Inter-professional Program of Educational Support for Patients and their Family Members in the Early Stage of Dementia -An Investigation Based on the Learning Needs and Attitude Changes of Patients and their Family Members -, International Journal of Geriatric Gerontology, In Press, 2014.4


○Aim
The National Center for Geriatrics and Gerontology has begun to provide educational support for family caregivers through interdisciplinary programs focusing on patients in the early stage of dementia. These interdisciplinary programs have established two domains for the purpose of "educational support": cure domains (medical care, medication) and care domains (nursing care, welfare). In the present study, we examined the learning needs and post-learning attitude changes of patients and their families who participated in these programs in order to assess the effectiveness of an interdisciplinary program of educational support in each of these domains.


○目的
国立長寿医療研究センターでは、認知症確定診断直後(以下、初期と定義)の患者、家族を対象とした支援プログラムの提供を開始した。この支援は、キュア領域(医学・薬剤)、ケア領域(看護・福祉)で構成され、多職種恊働によるプログラム提供を「教育的支援」と定義した。本研究では、効果的な教育的支援プログラムの構成要素を探索するため、初期認知症患者や家族の学習ニーズと学習後の意識変容について検証した。


Geriatric Gerontology International
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/ggi.12263/full

普及指導員についての研究論文(著者:竹村連携研究員・内田准教授・吉川教授)が『PLoS ONE』に掲載されました

1405uchida_journal.png こころの未来研究センターの教員提案型プロジェクトで実施された研究論文(竹村幸祐連携研究員・現滋賀大学経済学部准教授、内田由紀子准教授・吉川左紀子教授)"Roles of extension officers to promote social capital in Japanese agricultural communities." が、国際科学雑誌『PLoS ONE』に掲載されました。


 論文は、国内の農業普及指導員を対象にした大規模な社会心理学の手法に基づく調査結果をまとめたもので、農業普及指導員の農村コミュニティでの「つなぐ」力についてソーシャル・キャピタル(社会関係資本)という観点から分析しています。


 論文掲載のニュースは農業の総合月刊誌『技術と普及』5月号(発行:全国農業改良普及支援協会)にも掲載されました。


1405uchida_gijutsu1.png「【Topics】日本の普及指導員の仕事を世界へ発信 〜『農をつなぐ仕事』研究論文が海外学術雑誌に掲載〜」
『技術と普及』(全国農業改良普及支援協会)のウェブサイト


 なお、オープンアクセスジャーナルですので、どなたでも論文を読むことができます。下記リンクにアクセスしてご覧ください。


Takemura, K., Uchida, Y., & Yoshikawa S (2014). Roles of extension officers to promote social capital in Japanese agricultural communities. PLoS ONE 9:
e91975. doi:10.1371/journal.pone.0091975
http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0091975

河合教授が編集、解説を寄せた『青春の夢と遊び』(著・河合隼雄)が出版されました

1405kawai_seisyun.png 河合俊雄教授が編集、解説を寄せた『青春の夢と遊び』(著・河合隼雄)が岩波現代文庫より出版されました。


○内容紹介
「内なる青春」についてよく知ると,中・高年の人生が面白くなる――。これまで中年、老年、そして子供の生き方を論じてきた著者が、豊かな臨床体験を基に挑んだ青年論。文学作品を素材に、青春とは何か、青春の現実、夢、遊び、性、挫折、死、青春との別離などを論じ、人間としての成長、生きる意味や力について考える。(解説=河合俊雄)(全六冊完結)


・出版社:岩波書店
・発行:2014年4月16日
・体裁:A6.並製・248頁
・定価(本体 920円 + 税)
・ISBN978-4-00-603259-3 C0136


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河合教授の共編著『遠野物語 遭遇と鎮魂』が出版されました

1404kawai_tohnomonogatari.png 河合俊雄教授の共編著『遠野物語 遭遇と鎮魂』が2014年3月、岩波書店より出版されました。編者は河合教授と赤坂憲雄学習院大学文学部教授で、執筆者に今石みぎわ東京文化財研究所研究員、田中康裕京都大学大学院教育学研究科准教授、岡部隆志共立女子短期大学教授、歌人の川野里子氏、猪股剛帝塚山学院大学准教授、岩宮恵子島根大学教育学部教授、三浦佑之立正大学大学院文学研究科教授らが名を連ねています。


【掲載情報】
YOMIURI ONLINEの書評サイト「本よみうり堂」に、本書が紹介されました。(2014.5.1追記)

『遠野物語 遭遇と鎮魂』 河合俊雄、赤坂憲雄編 |本よみうり堂>書評>短評


 本書は、主に民俗学と臨床心理学とによる『遠野物語』の共同研究をベースとした論集である。そのきっかけとなったのは、二〇〇七年九月十三日に赤坂憲雄さんに行っていただいた「『遠野物語』の心的構造」と題する、京都大学こころの未来研究センターでのセミナーである。赤坂憲雄さんとは梅原猛先生の文部省重点領域研究チーム「文明と環境」で、一九九〇年代のはじめに知り合ったが、久しぶりの再会であった。セミナーの夜に京都の町に飲みに行った際に盛り上がって、『遠野物語』についての学際的な研究会をはじめることが決まったのである。(中略)
 二〇〇八年三月四日を第一回として、ほぼ年二回のペースで八回の「遠野物語研究会」を行った。ユング心理学の側では、河合の他に田中康裕さん、岩宮恵子さんがコアなメンバーとなり、民俗学の側では赤坂さんの他に、国文学の三浦佑之さんが重要なメンバーとなった。第三回は「オシラサマと河童」、第四回は「山男・山女」などのように、テーマと読む話を決めて行うことも多かった。(中略)
 このような初期の成果は『季刊 東北学』第二三号(二〇一〇年)におけるいくつかの論考となって結実した。しかしこの研究会は、二〇一一年三月十一日に東北を襲った大震災によって大きな転回点を迎える。その後の九月に開かれた第八回研究会で、三浦佑之さんは「遠野物語と三陸」という題で発表し、第九九話とその類話を取り上げてくれた。そしてそれにつながる形で二〇一二年一〇月に島根大学で開かれた、岩宮恵子さんを大会委員長とする日本箱庭療法学会で「物語と鎮魂」と題するシンポジウムが開かれ、赤坂憲雄さん、三浦佑之さん、河合俊雄というこの研究会の中心メンバーがシンポジストを務めたのである。このようにして、この論集のもう一つの大きなテーマである「鎮魂」が前面に現れてきた。
 このような流れを踏まえて、この論集ではまず第一部は「遭遇」をテーマにしている。第二部はさらに物語から展開していったテーマが、実際の心理療法、歌謡、遊びなどとの関連で扱われている。そして第三部では、明治三陸大津波に関連する第九九話についての三浦佑之さんの論を元にしつつ、さらにその話についての三人の論考を集めて、「鎮魂」をテーマとしている。


(「はじめに 河合俊雄」より)


○目次


はじめに 河合俊雄
Ⅰ 「遭遇」という主題
出会いのトポス ー 描かれた山と人間 今西みぎわ
『遠野物語』と意識の成立 ー 河合俊雄
近代と前近代の狭間で消え去るお話たちのお話 ー 「狼」話群からみた「遠野物語」の意識 田中康裕
Ⅱ 物語の豊饒を継いで
異人は遊ぶ 岡部隆志
抒情詩としての『遠野物語』ー もう一つの言葉の可能性をめぐって 川野里子
「語ることのできないもの」 ー 物語と共同性 猪股剛
異界につながる物語の力 ー 『遠野物語』と心理療法 岩宮恵子
Ⅲ 鎮魂の物語 第九九話を読む
九九話の女 ー 遠野物語と明治三陸大津波 三浦佑之
和解について 赤坂憲雄
福二の三度の喪失 田中康裕
九九話におけるインターフェイスと振り返り 河合俊雄
あとがき ー 新たな読みの作法は可能か 赤坂憲雄


○書誌情報


・出版社:岩波書店
・発行日:2014年3月28日
・四六判・並製・カバー・276頁
・定価(本体 2,500円 + 税)
・ISBN978-4-00-025953-8 C0095


 上記「はじめに」の全文と第一章の本文の途中までを岩波書店のサイトで「立ち読み」できます。ぜひ下記リンクにアクセスのうえ、お読みください。


岩波書店の書籍紹介ページ(右下のボタンより「立ち読み」可能です)
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『水木しげる漫画大全集 神秘家列伝(上)』に鎌田教授の解説が掲載されました

1404kamata_mizuki.png 漫画家・水木しげる氏の作品を完全収録した大全集の一冊『水木しげる漫画大全集 神秘家列伝(上)』(講談社/2014年4月3日発行)に、鎌田東二教授の解説が掲載されました。解説では、鎌田教授自身が日常で水木しげる作品の霊性とその一族の世界に接しているエピソードや、本書に収録されたスウェーデンボルグ、ミラレパ、マカンダル、明恵、安倍晴明、長南年恵ら6人の神秘家それぞれについての作品を読み解くポイントが紹介されています。


「◎解説 わたしは日常的に、水木しげるさんとその一族の世界に接している」鎌田東二(宗教学者・民俗学者・神道ソングライター)


 わたしの研究室の窓際に水木しげるさん発案の「谷蟆(たにぐく)」の人形が置いてある。タニグクとは『古事記』の出雲神話に出てくるヒキガエルのことで、スクナヒコナのことはクエビコに聞けと諭す媒介者の役割を果たしている。そのタニグクが全身緑色で、しかも赤フンドシをしていて(わたしはフンドシも緑だが)、わたしそっくりだと評判なのだ。
 研究室は二階にあり、駐車場を隔ててすぐ南には京都大学病院精神科の病棟と研究室がある。シャッターを開けていると外からもタニグクの姿がよく見える。これは島根県美保神社の近くの出身の方からのプレゼントである。二〇〇〇年の夏、水木しげるさんを招いて美保でトークセッションを行った時に地元の人が見つけてくれたのだった。そのタニグクがわたしの研究室(国)を「霊的防衛(国防)」してくれていることになる。(中略)
 そんなわけで、わたしは日常的に水木しげるさんとその一族の世界に接しているのだ。
 さて、本書は、その水木しげるさんが世界中の「神秘家」を探訪するという、「神界(探訪者)のフィールドワーク」漫画である(わたしも同名の著作を書いたことがある)。


(解説より)


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鎌田教授の編著『究極 日本の聖地』が出版されました

140418kamata.png 鎌田東二教授の編著『究極 日本の聖地』が、4月14日にKADOKAWA中経出版より出版されました。


 宗教哲学、民俗学、日本思想史、比較文明学など幅広い研究分野で数々の著書を出し続けている鎌田教授の最新刊は、長年の聖地研究で蓄積された知見とデータが凝縮された聖地理解のための指南書です。人生の節々で「聖地感覚」を経験したという鎌田教授は、日本列島における聖地文化を様々な角度から研究し、『現代神道論ー霊性と生態智の探究』(春秋社、2011年)や『日本の聖地文化ー寒川神社と相模国の古社』(創元社、2013年)、『聖地感覚』(角川学芸出版、2013年)など聖地に関する編著書を多数発信してきました。本書では、聖地のなりたちから意味づけ、役割と機能をダイナミックかつ分かりやすく解説し、実際に聖地を歩いた経験に基づいて厳選した聖地情報などを、豊富なデータと写真、図説と共に紹介しています。聖地を知る手がかりとして、また、実際に聖地を巡るガイドとしても活用できる一冊です。


○内容紹介
<この国の源泉へ 心と身体が目覚める聖地50選>
聖地-そこは心に霊感を与え、大いなる存在と出会うことができる空間である。日本人は往古から聖地を巡礼することで魂を浄化し、生命力を活性化してきた。本書は魂の再生するための骨太聖地巡礼ガイド。


○出版社より
<これぞ本物の聖地本だ! >
『古事記』をテキスト無しの口述記録で現代語訳して大ヒットした『超訳 古事記』の著者が贈る新感覚の聖地本! パワースポットブームで神社や寺院参拝が人気になる中、聖地空間が持つシステム、生態智、環境学までを語る。40年以上国内外の聖地を巡礼しつづける著者が本気で選んだ極上の聖地50選。


○書籍情報
『究極 日本の聖地』
著者 :鎌田 東二(編著)
本体価格:1,800 円+税
ページ数:320
初版発行:2014年4月14日
ISBN:978-4-04-600271-6


○目次
はじめに 「聖地」に目覚める          


第1部 聖地を探る-聖地の秘密              
 第1章 聖地誕生~聖地の起源           
 第2章 聖地顕現~聖地の拡大          
 第3章 聖地機能~聖地の役割           
 第4章 聖地三密~出雲・熊野・伊勢 
 むすびに 日本の聖地文化と聖地感覚    


第2部 聖地を歩く
 第1章 巡礼霊場をたどる
 第2章 神道の聖地
 第3章 仏教の聖地
 第4章 修験道の聖地
 第5章 沖縄・アイヌの聖地
 第6章 新宗教の聖地


あとがき


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河合教授、畑中助教、長谷川研究員らの共著論文が『箱庭療法学研究』に掲載されました

 河合俊雄教授、畑中千紘助教(上廣こころ学研究部門)、長谷川千紘研究員(上廣こころ学研究部門)らの共著論文が、2014年3月、日本箱庭療法学会の発行する『箱庭療法学研究』に掲載されました。


「発達障害へのプレイセラピーによるアプローチ--新版K式発達検査2001を用いた検討」(箱庭療法学研究, 26(3), 3-14)


 本論文は、「子どもの発達障害への心理療法的アプローチプロジェクト」の研究成果をまとめたものです。当センターのプレイルームにて受け入れた9つのプレイセラピー(遊びを用いた心理療法)の事例について、6ヶ月間のセラピーの前後で発達検査の指数にどのような変化がみられるかを実証的に検討しました。発達障害の子どもには自分を定位するための安定した軸をもちにくいという特徴が見られましたが、プレイセラピーのなかで何セッションにも渡って一つの作品を作り上げたり、共同作業やずれを通して自分とセラピストとの差異に気づいたりすることによって、「焦点」や「境界」が生まれ、子どものこころに軸が獲得されていく様子が見られました。そして、セラピーのなかでこのようなテーマに取り組んでいくことが、左右弁別や文章組立てなどの発達課題の通過と関連していることが示唆されました。


<報告:長谷川千紘助教(上廣こころ学研究部門/2014年3月まで)>

河合教授の論文が『箱庭療法学研究(特別号)』に掲載されました

 河合俊雄教授の論文が、日本箱庭療法学会の発行する『箱庭療法学研究(特別号)』に掲載されました。


「震災のこころのケア活動--縁と物語」(箱庭療法学研究, 26(特別号), 1-6)


 河合俊雄教授が委員長を務める「日本箱庭療法学会 日本ユング派分析家協会合同震災対策ワーキンググループ」は、東日本大震災被災地の小中学校への訪問や病院での事例検討会などを通して、臨床心理士や養護教諭といった「ケアする人」をケアする活動を続けてきました。このたび、その記録が「箱庭療法学研究第26巻特別号」として発刊されました。


 本論文は、その巻頭に掲載されたものです。被災地訪問を継続するなかで「こころのケアやストレス対処のための何かの方法やノウハウを教えたり、押しつけたりするのではなくて、語りに耳を傾けるという物語のケアがこころのケアとなるのではなかろうか」と述べ、「物語」を一つの視点として呈示しています。そして、震災などの「大きな物語」から、個々人の悩みや心理学的テーマといった「小さな物語」へいかに語りが移行していけるかがこころのケアにおいて重要なポイントであることが指摘されています。


<報告:長谷川千紘助教(上廣こころ学研究部門/2014年3月まで)>


□日本箱庭療法学会のウェブサイト
http://www.sandplay.jp/
□日本ユング派分析家協会のウェブサイト
http://www.ajaj.info/


熊谷准教授の共編著「Current Issues and Progress in Tibetan Studies」が出版されました

ISYT proceedings.jpg 熊谷誠慈准教授(上廣こころ学研究部門)の共編著「Current Issues and Progress in Tibetan Studies」が、神戸市外国語大学から出版されました。


 本書は、熊谷准教授らが2012年9月に神戸市外国語大学にて開催した、Third International Seminar of Young Tibetologists(第3回国際若手チベット学会)の発表者の中から選ばれた30名の若手研究者たちの論稿を集めた論文集です。本書には、宗教学、哲学、言語学、人類学、社会学など、多岐にわたる分野の若手研究者が、チベットをテーマとした論文を提出しており、チベット学という学術分野の持つ学際性を際立たせています。


 書誌情報は以下のとおりです。


Tsuguhito Takeuchi, Kazushi Iwao, Ai Nishida, Seiji Kumagai and Meishi Yamamoto (eds.): Current Issues and Progress in Tibetan Studies: Proceedings of the Third International Seminar of Young Tibetologists, Kobe 2012 (Journal of Research Institute, vol. 51), Kobe: Kobe City University of Foreign Studies. 2014.


阿部准教授と伊藤研究員の共著論文が『Brain Research』に掲載されました

140326abe_brain_research.png 阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)と伊藤文人日本学術振興会特別研究員らの共著論文が、脳神経科学の国際ジャーナル『Brain Research』(vol.1556, 27 March 2014)に掲載されました。


 この論文では、他者を傷つけてしまう「悪い嘘」と、他者を思いやってつく「良い嘘」が道徳的に許容できるか否かを判断する際の脳のメカニズムを調べた研究です。fMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いた実験によって、この二種類の嘘の道徳判断は異なる神経基盤によって実現されていることが明らかになりました。


 論文の詳しい情報は、ジャーナルのウェブサイトをご覧ください。下記リンクからアクセス可能です。


Hayashi A, Abe N, Fujii T, Ito A, Ueno A, Koseki Y, Mugikura S, Takahashi S, Mori E (2014)
Dissociable neural systems for moral judgment of anti- and pro-social lying
Brain Research 1556: 46-56


URL:http://dx.doi.org/10.1016/j.brainres.2014.02.011


○Abstract
Pro-social lying, which serves to benefit listeners, is considered more socially and morally acceptable than anti-social lying, which serves to harm listeners. However, it is still unclear whether the neural mechanisms underlying the moral judgment of pro-social lying differ from those underlying the moral judgment of anti-social lying. We used functional magnetic resonance imaging (fMRI) to examine the neural activities associated with moral judgment in anti- and pro-social lying. During fMRI scanning, subjects were provided with scenarios describing a protagonist׳s anti- and pro-social lying and were then asked to judge whether the protagonist׳s act was morally appropriate. The behavioral data showed that anti-social lying was mostly judged to be morally inappropriate and that pro-social lying was mainly judged to be morally appropriate. The functional imaging data revealed dissociable neural systems for moral judgment in anti- and pro-social lying. The anti-social lying, which was judged to be morally inappropriate, was associated with increased activity in the right ventromedial prefrontal cortex, right middle frontal gyrus, right precuneus/posterior cingulate gyrus, left posterior cingulate gyrus, and bilateral temporoparietal junction when compared with the control condition. The pro-social lying, which was judged to be morally appropriate, was associated with increased activity in the right middle temporal gyrus, right supramarginal gyrus, and the left middle cingulate gyrus when compared with the control condition. No overlapping activity was observed during the moral judgment of anti- and pro-social lying. Our data suggest that cognitive and neural processes for the moral judgment of lying are modulated by whether the lie serves to harm or benefit listeners.

清家助教の共編著『認知症なんでも相談室』が出版されました

140320seike_ninchisyo.png 清家理助教(上廣こころ学研究部門)の共編著『患者さんとご家族から学ぶ 認知症なんでも相談室』が、3月20日にメジカルビュー社より出版されました。


 本書は、認知症に関する知識(病気のこと、治療方法等)から、予防方法、介護方法、終末期の対応まで、実生活で応用できるアドバイスをQ&A、コラムなどで分かりやすく解説されたものです。今回、本書に出てくる120のQuestionは、認知症を持つ方やそのご家族の声に基づいています。巻頭に掲載された「病期/情報・相談内容一覧」では、認知症を持つ方やご家族の質問に当てはまるカテゴリーがひと目で分かるようになっており、社会参加、医療倫理といった新たな分類項目も追加されました。また、認知症を持つ人のこころをケアし、回想法の実践につながる「俳句かるた」(作成者:鳥羽研二国立長寿医療研究センター病院長他)のアイデア紹介など、多彩なページ構成となっています。清家助教は、書籍全体の編集に携わり、社会資源(医療・福祉)の活用、終末期に関する章など多くの項目を執筆、編纂しました。


 書籍の序文、目次、Q&Aの一部を出版社とAmazon.co.jpのページで読むことができます。下記リンクよりご覧ください。


○書誌情報
『患者さんとご家族から学ぶ 認知症なんでも相談室』
国立長寿医療研究センター編
監修 鳥羽 研二、編集 武田 章敬、清家 理
定価 2,940円(本体 2,800 円+税)
B5判 168ページ 2色(一部カラー)
2014年3月20日刊行
ISBN978-4-7583-0487-0


○目次
キーワード索引
病期/情報・相談内容一覧


1 予防 認知症にならないためには?/Q01〜12、番外編


2.受診前 認知症かも? と思ったら/Q13〜23、コラム01


3.診断前 認知症かどうかはどう調べるの?/Q24〜25

 
4.診断後 えっ? 認知症! さて,どうしよう!/Q26〜49、コラム02〜05


5.認知症にはどんな治療があるの?/Q50〜105、コラム06〜16


6.小康状態期 認知症とうまく付き合っていくために!/Q106〜114、コラム17


7.終末期 穏やかに送り出してあげるために/Q115〜120、コラム18


出版社の書籍紹介ページ(「立ち読み」できます)
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内田准教授の共著論文の概要が京大ホームページに掲載されました

 内田由紀子准教授と、京大教育学研究科大学院生の荻原祐二さんによる共著論文「Does individualism bring happiness? Negative effects of individualism on interpersonal relationships and happiness.」の概要「個人主義的な人は、親しい友人の数が少なく幸福感が低い -日本社会の個人主義化がもたらす負の側面を示唆-」が、京都大学の公式ホームページに掲載されました。


 ページでは、研究者のコメント、研究概要、詳しい研究成果が記されたドキュメントファイル(PDF)、書誌情報などをまとめて参照いただけます。下記リンクからご覧ください。


個人主義的な人は、親しい友人の数が少なく幸福感が低い -日本社会の個人主義化がもたらす負の側面を示唆- | 京都大学:お知らせ(2014.3.19)

140325uchida_kyodaihp.png


◇関連情報
内田准教授の共著論文が『Frontiers in Psychology』に掲載されました(2014.3.20)

内田准教授の共著論文が『Frontiers in Psychology』に掲載されました

1403005uchida.png 内田由紀子准教授と京大教育学研究科大学院生の荻原祐二さんによる共著論文「Does individualism bring happiness? Negative effects of individualism on interpersonal relationships and happiness.」が、2014年3月、心理学系のジャーナル『Frontiers in Psychology』に掲載されました。


Ogihara, Y., & Uchida, Y. (2014). Does individualism bring happiness? Negative effects of individualism on interpersonal relationships and happiness. Frontiers in Psychology, 5: 135.


○Abstract
We examined the negative effects of individualism in an East Asian culture. Although individualistic systems decrease interpersonal relationships through competition, individualistic values have prevailed in European American cultures. One reason is because individuals could overcome negativity by actively constructing interpersonal relationships. In contrast, people in East Asian cultures do not have such strategies to overcome the negative impact of individualistic systems, leading to decreased well-being. To test this hypothesis, we investigated the relationship between individualistic values, number of close friends, and subjective well-being (SWB). Study 1 indicated that individualistic values were negatively related with the number of close friends and SWB for Japanese college students but not for American college students. Moreover, Study 2 showed that even in an individualistic workplace in Japan, individualistic values were negatively related with the number of close friends and SWB. We discuss how cultural change toward increasing individualism might affect interpersonal relationships and well-being.


 日本とアメリカの大学生を対象に調査をおこなった本研究では、アメリカにおいては個人主義傾向と親しい友人の数や幸福感には関連がなかったものの、日本において個人主義傾向が高い人は、親しい友人の数が少なく、幸福感が低いことが分かりました。さらにこの関係は、日本において個人主義的で競争的な制度を導入している企業で働く成人においても同様であることが分かりました。


 この研究結果から著者らは、「日本社会の個人主義化が進む中で、個々人が個人主義社会で必要な心理・行動傾向を身に付けることが必要ではないか。同時に、個人が孤立しないような社会的な制度や場を設計することが効果的ではないか」とコメント。「今後は、個人主義傾向が対人関係や幸福感に与える影響について因果関係を含めたより具体的なプロセスの解明を行うことが必要。そのことにより、対人関係の不振によって生じる社会問題(ひきこもり、無縁社会化など)の解決・予防にも貢献することが可能と考えられる」と展望しました。


 なお、論文(英語)は、オンラインで全文をお読みいただけます。下記リンクからご覧ください。


◇『Frontiers in Psychology』ウェブサイト
http://journal.frontiersin.org/Journal/10.3389/fpsyg.2014.00135/full

船橋教授の共著論文が『Nature Neuroscience』に掲載されました

140302Funahashi_nature.png 船橋新太郎教授と、オックスフォード大学の渡邉慶研究員(2012年2月までこころの未来研究センター研究員)の共著論文「Neural mechanisms of dual-task interference and cognitive capacity limitation in the prefrontal cortex」が『Nature Neuroscience』に掲載されました。論文では、2つのことを同時にしようとした時、それらが干渉しあってエラーの増加や反応時間の延長(二重課題干渉)が生じる仕組みを明らかにしています。サルを用いた実験の結果、2つの異なる課題が脳に働きかけるものの、神経細胞が互いに干渉しあい成績が悪くなることが分かりました。


 論文は、2014年3月2日よりオンライン掲載されています(Abstractは無料、本文閲覧は有料。下記論文タイトルのリンクよりアクセス可能です)。


Kei Watanabe and Shintaro Funahashi (2014), Neural mechanisms of dual-task interference and cognitive capacity limitation in the prefrontal cortex, Nature Neuroscience, doi:10.1038/nn.3667


■メディア掲載情報


 この論文掲載に関するニュースが、下記の報道機関によりウェブで公開されています。ぜひ合わせてご覧ください。


「二兎追う者は一兎を得ず」を脳で解明(ナショナルジオグラフィックニュース/2014.3.9)


京大、2つのことを同時にしようとしてうまくいかない理由を解明(マイナビニュース/2014.3.6)


情報の氾濫が引き起こす混乱(化学工業日報/2014.3.11)


京大、「二重課題干渉」解明-精神疾患の研究に活用(日刊工業新聞/2014.3.3)

内田准教授の論文が『Journal of Happiness Studies』『季刊・環境研究』に掲載されました

140207uchida_kankyo.png140207uchida_jounalhappiness.png 内田由紀子准教授の幸福感研究に関する論文が3本、『Journal of Happiness Studies』(発行:Springer)ならびに『季刊・環境研究』(発行:日立環境財団)に掲載されました。


Uchida, Y., Takahashi, Y., & Kawahara, K.
Changes in hedonic and eudaimonic well-being after a severe nationwide disaster: The case of the Great East Japan Earthquake. Journal of Happiness Studies, DOI 10.1007/s10902-013-9463-6
Abstract はこちら(発行元のページ)


Hitokoto, H., & Uchida, Y.
Interdependent Happiness: Theoretical Importance and Measurement Validity. Journal of Happiness Studies, DOI 10.1007/s10902-014-9505-8
Abstract はこちら(発行元のページ)


内田由紀子
東日本大震災後の幸福:震災がもたらした人生観と幸福感の変化 環境研究, 172, 83-91.
『季刊・環境研究』の目次はこちら(発行元のページ)


 Uchida, Takahashi, & Kawaharaによる論文 "Changes in Hedonic and Eudaimonic Well-Being After a Severe Nationwide Disaster: The Case of the Great East Japan Earthquake" は、東日本大震災後に、被災地域以外に住む20代~30代の若者の幸福感や人生観がどのように変化したのかを、1万人以上を対象に震災前後で実施した大規模調査により検証しています。震災後、自分の幸福を判断する際に震災のことを思い浮かべた人たちは周囲への結びつきや感謝の念により幸福度が上昇し、一方で悲しみの感情も増加していました。逆に、震災について思い浮かべなかった人たちについては、震災前と比べて幸福度や感情に変化はみられなかったことが示されました。なお、この論文のデータならびに他の関連研究を含めて概説しているのが、『季刊環境研究』に掲載されている論文「東日本大震災後の幸福:震災がもたらした人生観と幸福感の変化」です。


 Hitokoto & Uchidaによる論文 "Interdependent Happiness: Theoretical Importance and Measurement Validity" では、これまで測定されてこなかった「協調的幸福感」という概念に着目、測定尺度を開発し、国際比較あるいは国内での地域比較を通じて、妥当性を検証しています。これまで「獲得志向的」な幸福に対する概念に基づいて測定されてきた幸福感について、他者との協調や人並み感、自分だけではなく周囲も幸せであることなど、新たな幸福のあり方とその測定方法を提唱しています。