出版・論文 アーカイブ

2017年

阿部修士准教授の著書『意思決定の心理学 脳とこころの傾向と対策』が出版されました

0701abe_book.png 阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)の著書『意思決定の心理学 脳とこころの傾向と対策』が2017年1月、講談社より出版されました。
 本書は、認知神経科学を専門とする阿部准教授が、人間の意思決定の仕組みについて、心理学、脳科学における研究成果をもとに興味深い事例の数々と分かりやすい言葉で綴った、人の「こころ」を様々な角度から知ることのできる一冊です。


 講談社のWebメディア クーリエ・ジャポンには、書籍誕生のエピソードや執筆に至った経緯を阿部准教授みずからが執筆したエッセイが掲載されています。こちらもぜひお読みください。


「理性と感情、どちらが優位か?」ハーバードで気づいたこと|話題の新刊『意思決定の心理学』著者書き下ろしエッセイ - クーリエ・ジャポン



『意思決定の心理学 脳とこころの傾向と対策』
著者:阿部修士
発売日:2017年01月11日
出版社:講談社
価格:本体1,300円(税別)
判型:四六 208ページ
ISBN-10:4062586452
ISBN-13:978-4062586450


《目次》
はじめに
第一章 二重過程理論--「速いこころ」と「遅いこころ」による意思決定
第二章 マシュマロテスト--半世紀にわたる研究で何がわかったのか?
第三章 「お金」と意思決定の罠――損得勘定と嘘
第四章 「人間関係」にまつわる意思決定――恋愛と復讐のメカニズム
第五章 道徳的判断の形成――理性と情動の共同作業
第六章 意思決定と人間の本性――性善か性悪かを科学的に読む
第七章 「遅いこころ」は「速いこころ」をコントロールできるのか?
あとがき
引用文献
索引


意思決定の間違いと限界
 わたしたち人間にとって、生きているということは不断の意思決定の連続です。あなたが今この本を読んでいるのは、あなたの意思決定の結果であり、これからどこまで読み進めるのかもあなたの意思決定によって左右されます。わたしたちはこうした意思決定を、自分の思考や信念に基づいて行っていると思いがちです。ところが、わたしたちの意思決定は意識の外で自動的に起こるこころのはたらきに大きく影響を受けています。
 実際、自分の決断や判断の理由を、うまく説明することはそう簡単ではありません。昨日は我慢できた食後のデザートを、今日は我慢できなかったのはどうしてでしょうか?仕事を早く終わらせなければいけないとわかっているのに、友人から飲みに誘われてお店をはしごしてしまったのはどうしてでしょうか?
 頭ではやめた方が良いとわかっているのに、ついやってしまった、そんな経験は誰にでもあることでしょう。二度と同じ失敗をしないと誓ったはずなのに、また繰り返してしまうことも決して珍しくはありません。お金の損得を考える、他人との付き合いを考える、道徳的な善悪を考える、こうした様々な日常生活の行為や判断の中で、わたしたちは意思決定の間違いやすさや限界と常に隣り合わせです。そしてこうした意思決定を生み出しているのは、わたしたちの脳です。
(中略)
 本書の目的は、過去の心理学の研究成果を踏まえた上で、①主に脳科学の視点から、「速いこころ」と「遅いこころ」のはたらきを理解すること、②そういった脳のはたらきが、人間の道徳性や社会性などに関わる、きわめて高度な意思決定をも支えていること、この二点を解きほぐしていくことにあります。....

(「はじめに」より)


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Amazon.co.jp の書籍ページ

17.02.14

上廣こころ学研究部門「発達障害の子どもへの心理療法的アプローチ」プロジェクトの研究成果となる2つの論文が『箱庭療法学研究』に掲載されました

 上廣こころ学研究部門の臨床心理学領域「発達障害の子どもへの心理療法的アプローチ」研究プロジェクトの研究成果となる2本の論文が、『箱庭療法学研究』第29巻第2号(発行:日本箱庭療法学会)に掲載されました。


 1つは、畑中千紘助教が筆頭著者である「発達障害のプレイセラピーにおける保護者面接の意義と可能性」、もう1つは近年注目されているトピックを扱った「診断を受けながらも発達障害とは見立てられない事例の特徴」です。


1. 「発達障害のプレイセラピーにおける保護者面接の意義と可能性」


畑中千紘、田中崇恵、加藤のぞみ、小木曽由佳、井芹聖人、神代末人、土井奈緒美、長谷川千紘、高嶋雄介、皆本麻実、河合俊雄、田中康裕(2016)発達障害のプレイセラピーにおける保護者面接の意義と可能性. 箱庭療法学研究 第29巻2号 1-12. 


○論文について
本論文は、発達障害の子どものプレイセラピーを行う際に、その保護者についても正しく見立てを行い、子どもの見立てとの組み合わせを理解した上で面接を行うことの重要性を示したもので、原著として掲載されています。


2. 「診断を受けながらも発達障害とは見立てられない事例の特徴」


皆本麻実・畑中千紘・梅村高太郎・田附紘平・松波美里・岡部由茉・粉川尚枝・鈴木優佳・河合俊雄・田中康裕(2016)診断を受けながらも発達障害とは見立てられない事例の特徴. 箱庭療法学研究 第29巻2号 43-54.


○論文について
近年、発達障害の診断を受けていても実際に会ってみるとそうとは見立てられない事例が増えていることを受け、なぜ発達障害と診断を受けたと思われるかによって4つの群に分け、その子どもの特徴の理解につなげようとするものです。
これは、単純に誤診が多いということではなくて、発達障害らしいエピソードがあっても、それが器質的な要因に由来しないと思われるグレーゾーンのケースが増えていることと関連し、注目されているトピックを扱っています。


(報告:畑中千紘助教・上廣こころ学研究部門)


上廣こころ学研究部門・臨床心理学領域
http://kokoro.kyoto-u.ac.jp/jp/uehiro/p3.php

17.01.24

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2016年

阿部准教授の総説が『老年精神医学雑誌』に掲載されました

 阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)の総説"アルツハイマー病における記憶錯語"が、学術誌『老年精神医学雑誌』vol. 27(August 2016)に掲載されました。


160906abe.png○書誌情報
阿部修士(2016)
アルツハイマー病における記憶錯誤
老年精神医学雑誌 27 (8): 840-845
http://184.73.219.23/worldpl/17_seisin_igaku_zassi/28-8.htm#4


○論文の概要
アルツハイマー病における認知機能障害の中でも、とりわけ顕著に発現するのが記憶障害です。記憶障害は典型的には、過去の記憶が抜け落ちてしまう症状に特徴づけられます。しかし、実際には経験していない事象についての誤った記憶を想起する「記憶錯誤」を呈することも少なくありません。本稿では、特に「虚再生」と「虚再認」という二種類の記憶錯誤に焦点を当て、阿部准教授が以前に行っていたアルツハイマー病の虚再認に関する研究を紹介しながら、その背景にあるメカニズムについて論じています。

16.09.06

阿部准教授、中井研究員の共著論文が『Neuroimage』に掲載されました

 阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)、中井隆介研究員らの論文 "Causal relationship between effective connectivity within the default mode network and mind-wandering regulation and facilitation" が、学術誌『Neuroimage』Vol.133(June 2016)に掲載されました。


1607abe_nakai.pngKajimura S, Kochiyama T, Nakai R, Abe N, Nomura M (2016)
Causal relationship between effective connectivity within the default mode network and mind-wandering regulation and facilitation
Neuroimage 133: 21-30
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1053811916002056 ※認証有り


○論文の概要
 先行研究より,非侵襲脳刺激法の一つである経頭蓋直流刺激法を用いて,注意散漫をもたらすマインドワンダリング(思考のさまよい)を低減可能であることが示されていました(Kajimura & Nomura, 2015)。本研究ではfMRIを用いることで,それがデフォルトモードネットワークと呼ばれるヒト脳の中核的ネットワークを調節することによって生じる可能性を示しました。本成果は,デフォルトモードネットワークの機能理解に貢献するのみならず,非侵襲脳刺激法による注意散漫状態の低減といった臨床応用につながる神経科学的根拠を提供するものです。なお,この研究はこころの未来研究センター連携MRI研究施設のMRIを用いて行われました。


○Abstract
Transcranial direct current stimulation (tDCS) can modulate mind wandering, which is a shift in the contents of thought away from an ongoing task and/or from events in the external environment to self-generated thoughts and feelings. Although modulation of the mind-wandering propensity is thought to be associated with neural alterations of the lateral prefrontal cortex (LPFC) and regions in the default mode network (DMN), the precise neural mechanisms remain unknown. Using functional magnetic resonance imaging (fMRI), we investigated the causal relationships among tDCS (one electrode placed over the right IPL, which is a core region of the DMN, and another placed over the left LPFC), stimulation-induced directed connection alterations within the DMN, and modulation of the mind-wandering propensity. At the behavioral level, anodal tDCS on the right IPL (with cathodal tDCS on the left LPFC) reduced mind wandering compared to the reversed stimulation. At the neural level, the anodal tDCS on the right IPL decreased the afferent connections of the posterior cingulate cortex (PCC) from the right IPL and the medial prefrontal cortex (mPFC). Furthermore, mediation analysis revealed that the changes in the connections from the right IPL and mPFC correlated with the facilitation and inhibition of mind wandering, respectively. These effects are the result of the heterogeneous function of effective connectivity: the connection from the right IPL to the PCC inhibits mind wandering, whereas the connection from the mPFC to the PCC facilitates mind wandering. The present study is the first to demonstrate the neural mechanisms underlying tDCS modulation of mind-wandering propensity.

16.07.11

阿部准教授の論文が『Neuroscience』に掲載されました

1605abe_neuroscience.png 阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)と、2014年度までこころの未来研究センターに日本学術振興会特別研究員として在籍していた伊藤文人東北福祉大学特任講師らの執筆した論文が、学術誌『Neuroscience』Vol.328 に掲載されました。


 本研究は機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて、老若男女様々な人物の顔に対する価値判断の神経基盤を調べた研究です。腹内側前頭前野と呼ばれる報酬の処理に関わる領域の活動が、男性参加者と女性参加者では異なっており、男性では顔の性別や世代の違いを顕著に反映することが明らかとなりました。


Ito A, Fujii T, Abe N, Kawasaki I, Hayashi A, Ueno A, Yoshida K, Sakai S, Mugikura S, Takahashi S, Mori E (2016)
Gender differences in ventromedial prefrontal cortex activity associated with valuation of faces
Neuroscience 328: 194-200

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0306452216301324 ※認証有り


○Abstract

Psychological studies have indicated that males exhibit stronger preferences for physical attributes in the opposite gender, such as facial attractiveness, than females. However, whether gender differences in mate preference originate from differential brain activity remains unclear. Using functional magnetic resonance imaging (fMRI), we investigated the patterns of brain activity in the ventromedial prefrontal cortex (vmPFC), a region critical for the valuation of faces, in response to elderly male, elderly female, young male, and young female faces. During fMRI, male and female subjects were presented with a face and asked to rate its pleasantness. Following fMRI, the subjects were presented with pairs of faces and asked to select the face that they preferred. We analyzed the vmPFC activity during the pleasantness-rating task according to the gender of the face stimulus (male and female) and the age of the face stimulus (elderly and young). Consistent with the results of previous studies, the vmPFC activity parametrically coded the subjective value of faces. Importantly, the vmPFC activity was sensitive to physical attributes, such as the youthfulness and gender of the faces, only in the male subjects. These findings provide a possible neural explanation for gender differences in mate preference.

16.05.19

阿部准教授の論文が『Experimental Brain Research』に掲載されました

1603abe_EBR.png 阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)の論文が、『Experimental Brain Research』に掲載されました。
 ヒトを対象としたエピソード記憶の研究では、source memory とよばれる情報源の記憶(例:ある話を誰から聞いたか)についての研究が盛んにおこなわれてきました。近年では destination memory とよばれる伝達先の記憶(例:ある情報を誰に話したか)についての研究もおこなわれるようになり、両者の異同について議論がなされています。
 今回の fMRI を用いた研究では、destination memory の神経基盤にアプローチし、内側側頭葉と destination memory との関連を明らかにしました。


Mugikura S, Abe N, Ito A, Kawasaki I, Ueno A, Takahashi S, Fujii T (2016)
Medial temporal lobe activity associated with the successful retrieval of destination memory
Experimental Brain Research 234: 95-104
http://link.springer.com/article/10.1007/s00221-015-4415-5 ※認証有り


○Abstract
Destination memory is the process of remembering to whom we tell particular things. Although recent behavioral studies have clarified the cognitive nature of destination memory, the neural mechanisms underlying destination memory retrieval remain unclear. We used functional magnetic resonance imaging (fMRI) to determine whether the medial temporal lobe (MTL), a structure that has been implicated in recollection-based memory, is activated during the successful retrieval of destination information. During a study phase before fMRI scanning, the subjects told a series of facts to either a woman or a man. During fMRI scanning, the subjects were asked to judge whether each fact presented was old or new, and if they judged it as old, to indicate, including a confidence rating (high or low), whether the subjects had told that fact to either a man or a woman. We found that successful destination retrieval, when compared to failed destination retrieval, was associated with increased activity in the parahippocampal gyrus. We also found that the confidence level (high vs. low) for destination memory retrieval was associated with increased activity in another (posterior) region of the parahippocampal gyrus. The present study suggests that the successful retrieval of destination information depends highly on MTL-mediated recollection processes.

16.03.03

中井研究員、阿部准教授の論文が『Psychiatry Research: Neuroimaging』に掲載されました

1603nakai_FRN.png 中井隆介研究員、阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)らの論文が『Psychiatry Research: Neuroimaging』に掲載されました。
 社会不安障害は、他者からの否定的な評価に対する極度の不安と恐怖を症状の一つとし、脳機能の異常との関連が示されています。一方で、社会不安障害は非臨床群−臨床群のスペクトラム性が示唆されているにもかかわらず、非臨床群における傾向と脳機能との関連については未だ不明でした。そこで本研究では、非臨床群における「他者からの否定的な評価に対する恐怖尺度(FNES)」を主とした心理学的尺度得点と脳機能(機能的結合,グラフ解析指標)との関連について検討しました。その結果、FNES得点と海馬傍回/眼窩前頭皮質の機能的結合および右頭頂葉の情報伝達経路としての関与の程度を示す指標とが負の相関を示すことが明らかとなりました。これらの領域は臨床群においても異常が見られることから、本研究結果は社会不安障害がスペクトラム障害であることを支持するとともに、FNESが社会不安スペクトラムの検出に有用である可能性を示しています。


Kajimura S, Kochiyama T, Nakai R, Abe N, Nomura M (2015)
Fear of negative evaluation is associated with altered brain function in nonclinical subjects
Psychiatry Research: Neuroimaging 234 (3): 362-368
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0925492715301177 ※認証有り


○Abstract
Social anxiety disorder (SAD), which involves excessive anxiety and fear of negative evaluation, is accompanied by abnormalities in brain function. While social anxiety appears to be represented on a spectrum ranging from nonclinical behavior to clinical manifestation, neural alteration in nonclinical populations remains unclear. This study examined the relationship between psychological measures of social anxiety, mainly using the Fear of Negative Evaluation Scale (FNES), and brain function (functional connectivity, degree centrality, and regional betweenness centrality). Results showed that FNES scores and functional connectivity of the parahippocampal gyrus and orbitofrontal cortex and the betweenness centrality of the right parietal cortex were negatively correlated. These regions are altered in SAD patients, and each is associated with social cognition and emotional processing. The results supported the perspective that social anxiety occurs on a spectrum and indicated that the FNES is a useful means of detecting neural alterations that may relate to the social anxiety spectrum. In addition, the findings indicated that graph analysis was useful in investigating the neural underpinnings of SAD in addition to other psychiatric symptoms.

16.03.03

柳澤助教、阿部准教授の論文が『Journal of Experimental Psychology: General』に掲載されました

1603yanagisawa_JEP.png 柳澤邦昭助教、阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)らの論文が『Journal of Experimental Psychology: General』に掲載されました。
 本研究は、自尊感情の高さによる死関連刺激に対する認知・情動処理の違いと、死の脅威に対する防衛的反応の違いを報告した研究です。自尊感情の低い人に比べ、自尊感情の高い人では、死関連刺激を処理する際に、情動の認知的制御に関わる右腹外側前頭前野と扁桃体が効果的に相互作用していることが明らかとなりました。加えて、自尊感情の低い人は、死への脅威に対する防衛的反応を示しやすいことが明らかとなりました。なお、この研究は、こころの未来研究センター連携MRI研究施設のMRIを用いておこなわれました。


Yanagisawa K, Abe N, Kashima ES, Nomura M (2016)
Self-esteem modulates amygdala-VLPFC connectivity in response to mortality threats
Journal of Experimental Psychology: General 145 (3): 273-283
http://psycnet.apa.org/journals/xge/145/3/273/


○Abstract
Reminders of death often elicit defensive responses in individuals, especially among those with low self-esteem. Although empirical evidence indicates that self-esteem serves as a buffer against mortality threats, the precise neural mechanism underlying this effect remains unknown. We used functional magnetic resonance imaging (fMRI) to test the hypothesis that self-esteem modulates neural responses to death-related stimuli, especially functional connectivity within the limbic-frontal circuitry, thereby affecting subsequent defensive reactions. As predicted, individuals with high self-esteem subjected to a mortality threat exhibited increased amygdala-ventrolateral prefrontal cortex (VLPFC) connectivity during the processing of death-related stimuli compared with individuals who have low self-esteem. Further analysis revealed that stronger functional connectivity between the amygdala and the VLPFC predicted a subsequent decline in responding defensively to those who threaten one's beliefs. These results suggest that the amygdala-VLPFC interaction, which is modulated by self-esteem, can reduce the defensiveness caused by death-related stimuli, thereby providing a neural explanation for why individuals with high self-esteem exhibit less defensive reactions to mortality threats. (PsycINFO Database Record (c) 2016 APA, all rights reserved)

16.03.03

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2015年

阿部准教授、大塚研究員、中井研究員、吉川教授らの共著論文が『Frontiers in Aging Neuroscience』に掲載されました

 阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)、大塚結喜研究員、中井隆介研究員、吉川左紀子教授らによる共著論文が『Frontiers in Aging Neuroscience』(published: 29 September 2015) に掲載されました。


 高齢者を対象として、運動機能と認知機能の関係性について、fMRIを用いて調べた研究です。目標志向的な歩行が遅い高齢者では、速い高齢者と比べて、視覚ワーキングメモリ中の小脳や大脳基底核の活動が低下し、前頭前野の活動が上昇していることを報告しました。この研究は、こころの未来研究センター連携MRI研究施設のMRIを用いておこなわれました。


 論文は全文をウェブで読むことができます。下記の画像もしくはリンクにアクセスしてお読みください。


Kawagoe T, Suzuki M, Nishiguchi S, Abe N, Otsuka Y, Nakai R, Yamada M, Yoshikawa S, Sekiyama K (2015)
Brain activation during visual working memory correlates with behavioral mobility performance in older adults
Frontiers in Aging Neuroscience 7: 186


1510abe_Frontiers.png
Brain activation during visual working memory correlates with behavioral mobility performance in older adults | Frontiers in Aging Neuroscience

15.10.23

畑中助教が翻訳に携わった『子どもと親の関係性セラピー(CPRT)』が出版されました

1509hatanaka_cprt.png 畑中千紘助教(上廣こころ学研究部門)が翻訳に携わった(おもに9章、19章を担当)『子どもと親の関係性セラピー(CPRT)』(著:ゲリー・L・ランドレス、スー・C・ブラットン、監訳:小川裕美子、湯野貴子)ならびにその手引書にあたる『子どもと親の関係性セラピー(CPRT)治療マニュアル』(著:スー・C・ブラットン、ゲリー・L・ランドレス他、訳:小川裕美子、湯野貴子)が2015年8月、日本評論社より出版されました。


 プレイセラピーのスキルを親に教え、親自身が子どもとプレイセッションをおこなう「CPRTトレーニング」について解説した書籍です。畑中助教は、「第9章 CPRT トレーニングセッション3 親子プレイセッションのスキルと手順」、「第19章 CPRTの研究成果」の翻訳を担当しました。


『子どもと親の関係性セラピー(CPRT)治療マニュアル 10セッションフィリアルセラピーモデル』| 日本評論社ウェブサイト
『子どもと親の関係性セラピー(CPRT)治療マニュアル』| 日本評論社ウェブサイト


15.09.09

阿部准教授が解説を執筆した『モラル・トライブズ――共存の道徳哲学へ(上・下)』(ジョシュア・グリーン著)が出版されました

1509abe_moral.png 阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)が解説を執筆した『モラル・トライブズ――共存の道徳哲学へ (上・下)』(ジョシュア・グリーン 著/竹田円 訳)が、岩波書店より出版されました。


 阿部准教授は2010年から12年にかけて、著者のハーバード大学心理学科教授のグリーン氏のもとで研究し、その成果をまとめた論文が2014年、『Journal of Neuroscience』に掲載されました。本書は、日本でも話題となったサンデル(ハーバード大教授)の「正義」に関する一連のレクチャーで登場した道徳ジレンマ、「トロッコ問題」などをいちはやく神経科学と結びつけ、人間の道徳判断の本質解明に挑んだ新たな道徳哲学の本です。


 出版社の許可を得て、阿部准教授の解説文(PDF)を掲載します。また、出版社の書籍ページでは、上下巻それぞれの一部を読むことができます。下記リンク先にアクセスしてお読みください。


<内容紹介>


これが,道徳の正体だ. では, どうすればいい?

 税制,福祉,中絶,死刑,同性婚,環境規制......何が正義か,誰がどんな権利をもつかをめぐって現代社会は引き裂かれる.人々が自分の考えを心の底から正しいと信じて争うとき,対立を解決する方法はあるのか.今こそ生物学,心理学,哲学,社会科学の知見を統合し,道徳とは何かを徹底的に理解しよう.そこから人類すべてが共有できる普遍的な道徳哲学が生まれる.


<目 次>


【上巻】
序章 常識的道徳の悲劇
第一部 道徳の問題
第1章 コモンズの悲劇
第2章 道徳マシン
第3章 あらたな牧草地の不和
第二部 速い道徳,遅い道徳
第4章 トロッコ学
第5章 効率性,柔軟性,二重過程脳
第三部 共通通貨
第6章 すばらしいアイデア
第7章 共通通貨を求めて
第8章 共通通貨の発見
原注/索引


【下巻】
第四部 道徳の断罪
第9章 警戒心を呼び覚ます行為
第10章 正義と公正
第五部 道徳の解決
第11章 深遠な実用主義
第12章 オートフォーカスの道徳を超えて
著者より/謝辞/解説(阿部修士)
書誌/原注/索引


<解説>
阿部修士(京都大学こころの未来研究センター上廣こころ学研究部門)


 これまでの本とは一線を画する、新たな道徳哲学の本がついに翻訳・出版された。著者のジョシュア・グリーン氏は、若くしてハーバード大学心理学科の教授となった新進気鋭の研究者である。彼は21世紀初頭に、「少数の命を犠牲にしてでも多数の命を救うべきか?」といった人間の道徳判断に関わる脳のメカニズムを、世界に先駆けて報告し、一躍時の人となった。彼の研究は心理学と神経科学、そして道徳哲学を独創的に融合させたものであり、今なお世界中の多くの研究者に多大な影響を与え続けている。本書は彼のこれまでの研究の集大成であり、極めて野心的かつユニークに、科学的な知見-とりわけ心理学や神経科学といった、人間のこころと脳のはたらきに関する最新の知見を織り交ぜながら、道徳哲学を議論する珠玉の一冊である。


「解説」続きを読む(PDF)


『モラル・トライブズ―― 共存の道徳哲学へ(上)』岩波書店
『モラル・トライブズ―― 共存の道徳哲学へ(下)』岩波書店

 

15.09.08

吉川教授、阿部准教授、大塚研究員、中井研究員らの共著論文が『Journal of the American Geriatrics Society』に掲載されました

1508AGS.png 吉川左紀子教授、阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)、大塚結喜研究員、中井隆介研究員らの共著論文が、『Journal of the American Geriatrics Society』Vol.63 Issue 7 (2015 Jul) に掲載されました。


 本研究は、高齢者を対象として12週間の運動介入を実施することで、認知機能の改善、および認知課題遂行中の脳活動の変化がみとめられたことを報告した論文です。この研究は、こころの未来研究センター連携MRI研究施設のMRIを用いておこなわれました。


Nishiguchi S, Yamada M, Tanigawa T, Sekiyama K, Kawagoe T, Suzuki M, Yoshikawa S, Abe N, Otsuka Y, Nakai R, Aoyama T, Tsuboyama T (2015). A 12-week physical and cognitive exercise program can improve cognitive function and neural efficiency in community-dwelling older adults: a randomized controlled trial. Journal of the American Geriatrics Society 63 (7): 1355-1363


○Abstract
Objectives To investigate whether a 12-week physical and cognitive exercise program can improve cognitive function and brain activation efficiency in community-dwelling older adults.
Design Randomized controlled trial.
Setting Kyoto, Japan.
Participants Community-dwelling older adults (N = 48) were randomized into an exercise group (n = 24) and a control group (n = 24).
Intervention Exercise group participants received a weekly dual task-based multimodal exercise class in combination with pedometer-based daily walking exercise during the 12-week intervention phase. Control group participants did not receive any intervention and were instructed to spend their time as usual during the intervention phase.
Measurements The outcome measures were global cognitive function, memory function, executive function, and brain activation (measured using functional magnetic resonance imaging) associated with visual short-term memory.
Results Exercise group participants had significantly greater postintervention improvement in memory and executive functions than the control group (P < .05). In addition, after the intervention, less activation was found in several brain regions associated with visual short-term memory, including the prefrontal cortex, in the exercise group (P < .001, uncorrected).
Conclusion A 12-week physical and cognitive exercise program can improve the efficiency of brain activation during cognitive tasks in older adults, which is associated with improvements in memory and executive function.

15.08.25

阿部准教授の論文が『Human Brain Mapping』に掲載されました

1507abe_human.png 阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)と、2014年度までこころの未来研究センターに日本学術振興会特別研究員として在籍していた伊藤文人東北福祉大学特任講師らの執筆した論文が、学術誌『Human Brain Mapping』Vol.36 に掲載されました。


 本研究は機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて、人間が意識的に知覚することのできない「閾下刺激」に対する価値判断の神経基盤を調べた研究です。閾下刺激であっても、後に選好される刺激に対しては、特異的な脳活動が生じることが明らかとなりました。



Ito A, Abe N, Kawachi Y, Kawasaki I, Ueno A, Yoshida K, Sakai S, Matsue Y, Fujii T. Distinct neural correlates of the preference-related valuation of supraliminally and subliminally presented faces. Human Brain Mapping 36: 2865-2877 (2015)


○Abstract
Recent neuroimaging studies have investigated the neural substrates involved in the valuation of supraliminally presented targets and the subsequent preference decisions. However, the neural mechanisms of the valuation of subliminally presented targets, which can guide subsequent preference decisions, remain to be explored. In the present study, we determined whether the neural systems associated with the valuation of supraliminally presented faces are involved in the valuation of subliminally presented faces. The subjects were supraliminally and subliminally presented with faces during functional magnetic resonance imaging (fMRI). Following fMRI, the subjects were presented with pairs of faces and were asked to choose which face they preferred. We analyzed brain activation by back-sorting the fMRI data according to the subjects' choices. The present study yielded two main findings. First, the ventral striatum and the ventromedial prefrontal cortex predict preferences only for supraliminally presented faces. Second, the dorsomedial prefrontal cortex may predict preferences for subliminally presented faces. These findings indicate that neural correlates of the preference-related valuation of faces are dissociable, contingent upon whether the subjects consciously perceive the faces.


15.07.27

清家理助教の著書『医療ソーシャルワーカーの医療ソーシャルワーカーの七転び八起きミッション』が出版されました

 清家理(上廣こころ学研究部門)助教の著書『医療ソーシャルワーカーの医療ソーシャルワーカーの七転び八起きミッション』がメジカルビュー社より出版されました。


1507seike_book.png『医療ソーシャルワーカーの医療ソーシャルワーカーの七転び八起きミッション』


○本の概要


著者:清家 理
出版社:メジカルビュー社
定価:2,160円(税込
A5判 216ページ オールカラー
2015年3月30日刊行
ISBN978-4-7583-0389-7


○本の紹介


 この本は、医療ソーシャルワーカー(MSW)として実践と研究を重ねてきた中で、実践の一区切りとして執筆した、学位申請論文「医療ソーシャルワーク機能の実証的研究―地域医療現場をフィールドに―」を土台にしています。
 MSWは、主に医療現場で、病気を機に多岐にわたる「生きづらさ」を抱えてしまった老若男女と向き合い、生きづらさの解決に向けた黒子役を担っています。生きづらさを抱えた方々の思いの尊重、その人らしさを尊重した対応の大切さは、日々、臨床現場の方々から、熱く語られています。これは、医療倫理学や社会福祉学では、意思決定支援と自律の尊重、パーソンセンタードケアといった理論や概念に該当します。しかし、日々の支援の中で普遍的に変わらないものが明確にされない限り、多くのMSWの努力は、「支援効果等、根拠が示されていない」と片づけられてしまいます。そのためには、調査で量的および質的分析をしながら、支援経過や内容、クライエントの変化を丁寧に追う必要がありました。この本では、まず医療ソーシャルワークの理論と医療福祉政策の動向を整理しました。その上で、経済的な課題、認知症や終末期に伴う生きる場所や生きていく術の課題に対するMSWのアプローチ内容と専門性について、探索しました。
 そして、この本の末尾に記載した今後の課題について、一歩先に進んだものが、2014年10月から京都市内で始めた、『孤立防止のための互助・自助強化プログラム開発プロジェクト -くらしの学び庵-』です。「支援する人―支援される人」の関係で、パターナリスティックな関係ではなく、個々人の強みや良さを信じる、引き出しあえる、いわば真の「自律」のあり方を模索し、そして検証する―このような『実践と研究の折衷』を極めていきたいと思っています。
 なお本書は、京都大学総長裁量経費人文・社会系若手研究者出版助成を受けて刊行しました。


<清家理助教(上廣こころ学研究部門)>


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15.07.07

こころの未来叢書『愛する者は死なない』『愛する者をストレスから守る』(カール・ベッカー編著)が出版されました

 こころの未来叢書『愛する者は死なない―東洋の知恵に学ぶ癒し』『愛する者をストレスから守る―瞑想の力』の二冊が2015年春、晃洋書房より出版されました。


 2009年に出版された『愛する者の死とどう向き合うか―悲嘆の癒し』の続編にあたる『愛する者は死なない―東洋の知恵に学ぶ癒し』は、こころの未来研究センターでカール・ベッカー教授が企画し実現した海外の著名な研究者らによる講演および研究報告をまとめ、学術専門誌『Death Studies』に掲載された記事の翻訳も合わせて収録した一冊です。『愛する者をストレスから守る―瞑想の力』は、ベッカー教授が取り組んできた「ストレス予防研究と教育」研究プロジェクトにおいて、ストレス予防・軽減のための瞑想や瞑想に関連する東洋的技法について様々な角度から研究をおこなった成果を奥野元子研究員と共にまとめています。
 

1505becker_aisurumono.png『愛する者は死なない―東洋の知恵に学ぶ癒し』

カール・ベッカー 編著
駒田 安紀 監訳
発行 晃洋書房
判型 四六
刊行 2015年3月
価格 1,620円(税込)
ISBN 978-4-7710-2535-6
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○本の概要
死別の悲しみは消えることはない。しかしそれをあるがままに受け入れ、悲しみと共に生きる。それこそが目覚めた人間の姿ではないか。「死の日常性」を忘れてしまった我々が、悲しみと向き合い「死」を受容する為の方法を考える。


1505becker_meisou.png『愛する者をストレスから守る―瞑想の力』
カール・ベッカー・奥野元子 編著
発行 晃洋書房
判型 四六
刊行 2015年3月
価格 2,268円(税込)
ISBN 978-4-7710-2543-1
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○本の概要
子どもから大人まで、ストレスは現代社会を生きる上で避けて通れない問題である。瞑想は私たちのストレス軽減のための、こころのエクササイズといえる。日本人の智慧である瞑想に、こころと身体の健康のための秘策を探る。

15.05.26

内田准教授と福島研究員の論文がドイツの学術書『Forschung fordern』に掲載されました

1503uchida_Fukushima_book.png 内田由紀子准教授と福島慎太郎研究員(上廣こころ学研究部門)らの共著論文が掲載された学術書『Forschung fördern: Am Beispiel von Lebensqualität im Kulturkontext』が、2015年2月、ドイツのUVK社より刊行されました。日本文化における幸福感の特徴を欧米との比較研究から検討し、グローバル化と日本人の幸福感について考察と展望をおこなっています。


Uchida, Y., Ogihara, Y., & Fukushima, S. (in press). Interdependently Achieved Happiness in East Asian Cultural Context. A Cultural Psychological Point of View.
In G. Trommsdorff, & W. R. Assmann (Hrsg.), Forschung fördern. Am Beispiel von Lebensqualität im Kulturkontext . UVK Verlag., Germany.


○Abstract
Recent cultural psychological studies have suggested that there is considerable variation in how people feel and conceptualize happiness and wellbeing. Particularly in Japan, compared with European American cultural contexts where wellbeing is achieved through personal attainment or self-esteem, wellbeing is construed as balance and harmony and it is achieved collectively and interdependently. We will further discuss the cultural construal of wellbeing during globalization.

15.03.31

河合教授の講演録が収められた『わが師・先人を語る 1』(上廣倫理財団 編)が出版されました

1411kawai_uehiro.png 公益財団法人上廣倫理財団が開催する「上廣フォーラム」の8つの講演がまとめられた書籍『わが師・先人を語る 1』(上廣倫理財団 編)が、2014年11月、弘文堂より刊行されました。同財団とこころの未来研究センターが2014年1月に共同開催した『上廣フォーラム~日本人の生き方 「わが先人・師を語る」京都大学知の伝統』で河合俊雄教授が講演した「河合隼雄との三度の再会」をはじめとする3つの講演も収録されています。


 それぞれの学問分野で優れた業績を上げた碩学(学問を広く深く修めた人物)達が、その研究人生で影響を受けた先人や師について語った講演8つは、現代を代表する知のエキスパートが自身の歴史において大きな気づきや学びを与えてくれた偉大な人物の姿を、豊かな言葉と想いで語った貴重な記録となっています。



 師としての河合隼雄について話してほしいという講演を頼まれて、非常にありがたい話だとは思ったのですが、一度はお断りしました。というのも、河合隼雄の学問的評価とか紹介とかなら可能であっても、まだまだ個人的に河合隼雄について話すことはできないと思ったからです。自分にとってはあまりに大切であったり、ことばにならなかったりするものです。また人から見て、父である師について語るのは変なのでは、無理があるのではと思われるかもしれません。下世話な興味しか抱かれないのではないかという危惧もあります。さらには、肉親による回顧は、暴露的なものか、表面的な美辞麗句かという両極になりがちです。ある一部しか話せないというのは、誠実ではないかもしれないとも思います。
 しかしそれにもかかわらずにこうして講演を引き受けたのは、語っていかねばならない責任が自分にはあると思ったからです。それに少しでも河合隼雄という人を伝えていきたいという気持ちも強いです。それでそれなりに話していく筋を見つけたので、それに沿って話していきたいと思います。


(「河合隼雄との三度の再会」河合俊雄 より)


○内容紹介
●八人の碩学が語る師弟関係の妙。
高名な学者、現在活躍している第一線の研究者には、学問上そして人生の師・先人と仰ぐ人がいる。
彼らはいかに師・先人を求め、どのような交流によって高みに導かれたのだろうか。
現代の碩学8人が先人・師との貴重な体験や心の交流を語り、師を求め自らを高める奥義を明かす。


●目次
村井 實(教育学) :ペスタロッチー先生、長田新先生と私
熊野純彦(倫理学) :和辻哲郎と私
斎藤兆史(英語学) :新渡戸稲造の教養と修養
島薗 進(宗教学) :安丸良夫先生と私
中西 寛(政治学) :髙坂正堯先生の日本への思い
河合雅雄(霊長類学):今西錦司先生の仲間たちと私
河合俊雄(心理学) :河合隼雄との三度の再会
富永健一(社会学) :尾高邦雄先生と私


○書籍情報
『わが師・先人を語る 1』上廣倫理財団 編
・発行: 弘文堂(2014/11/4)
・四六判 306ページ
・定価(本体2,000円+税)
・ISBN-10: 4335160771
・ISBN-13: 978-4335160776


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□関連ページ
上廣倫理財団との共催で「上廣フォーラム~日本人の生き方『わが先人・師を語る』京都大学知の伝統」を開催しました
公益財団法人上廣倫理財団

15.02.05

熊谷准教授の編著『Bhutanese Buddhism and Its Culture』が出版されました

1412kumagai_book.jpg 熊谷誠慈准教授(上廣こころ学研究部門)が企画・編集をおこなった『Bhutanese Buddhism and Its Culture』(ブータン仏教とその文化)が、2014年12月、Vajra Publicationsより出版されました。同書には、ダムチョ・ドルジ内務文化大臣(ブータン王国)の巻頭言を皮切りに、カルマ・ウラ所長(王立ブータン研究所)、フランソワーズ・ポマレ研究ディレクター(フランス国立科学研究所)などの著名なブータン学者の論考が載録されています。本センターからは、熊谷准教授、松下賀和研究員、安田章紀研究員が寄稿しています。


 ブータンといえば「国民総幸福(GNH)」という政策が有名ですが、この政策のみならず、ブータン文化全般の根底に仏教の思想が存在しています。熊谷准教授は、2012年1月より、王立ブータン研究所(Centre for Bhutan Studies)と共同で「ブータン仏教研究プロジェクト」(Bhutanese Buddhism Research Project)を進めてきました。本書は、同プロジェクトの中間報告として、ブータンの仏教と文化を、宗教学、人類学、開発学、教育学など多角的な視点から考察した研究書です。


○書誌情報
書名:Bhutanese Buddhism and Its Culture
著者:Seiji Kumagai(編著)
出版社:Vajra Publications
本体価格:40 USD
ページ数:250
初版発行:2014年12月1日
ISBN-10:9937623235
ISBN-13:978-9937623230


○目次
-Foreword by Damcho DORJI (Minister, Ministery of Home & Cultural Affairs)
-Introduction Seiji KUMAGAI

[Chapter 1. Nyingma School]
- Karma URA "Longchen's Forests of Poetry and Rivers of Composition in Bhutan: "The illuminating map - titled as forest park of flower garden - of Bumthang, the divine hidden land" composed in 1355 by Longchen Ramjam (1308-1363)"
- Akinori YASUDA "A Study of Rgyud bu chung Discovered by Pema Lingpa"

[Chapter 2. Drukpa Kagyu School]
- Gembo DORJI "The Lho-Druk Tradition of Bhutan: The Arrival and Spread of Buddhism"
- Karma URA "Monastic System of the Drukpa Kagyu ('Brug pa bka' brgyud) School in Bhutan"
- Thupten Gawa MATSUSHITA "Introduction to the Theory of Mahāmudrā by the Founder of Drukpa Kagyü, Tsangpa Gyaré Yeshe Dorje (1161-1211)"

[Chapter 3. Other Schools]
- Françoise POMMARET "Bon in Bhutan. What is in the name?"
- Seiji KUMAGAI "History and Current Situation of the Sa skya pa School in Bhutan"

[Chapter 4. Buddhist Culture]
- Lungtaen GYATSO "A Note on the Concept of Happiness and Prosperity"
- Akiko UEDA "Understanding the Practice of Dual Residence in the Context of Transhumance: A Case from Western Bhutan"
- Elizabeth MONSON "Alternative Voices: The Unusual Case of Drukpa Kunley ('Brug pa kun legs)"
- Riam KUYAKANON KNAPP "Contemplations on a Bhutanese Buddhist Environmental Narrative"
- Dendup CHOPHEL and Dorji KHANDU "Byis pa'i dpa' bo: The Dance of Youthful Heroes"


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15.02.03

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2014年

阿部准教授の論文が『Journal of Neuroscience』に掲載されました

 阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)の論文「Response to anticipated reward in the nucleus accumbens predicts behavior in an independent test of honesty」が、8月6日付で『Journal of Neuroscience』に掲載されました。


 以下、論文の概要です(記者発表資料より掲載)。


「どうして正直者と嘘つきがいるのか? -脳活動からその原因を解明―」


論文タイトル:Response to anticipated reward in the nucleus accumbens predicts behavior in an independent test of honesty
掲載誌:Journal of Neuroscience
著者:Nobuhito Abe (Kyoto University), Joshua D. Greene (Harvard University)
掲載日:2014年8月6日(米国東海岸時間)


□論文の概要

 世の中には正直者と嘘つきがいますが、どうしてそのような個人差があるのかはわかっていません。今回の研究では、機能的磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging; fMRI)と呼ばれる脳活動を間接的に測定する方法と、嘘をつく割合を測定する心理学的な課題を使って、正直さ・不正直さの個人差に関係する脳の仕組みを調べました。
 その結果、報酬(今回の研究ではお金)を期待する際の「側坐核(そくざかく)」と呼ばれる脳領域の活動が高い人ほど、嘘をつく割合が高いことがわかりました(図1)。さらに、側坐核の活動が高い人ほど、嘘をつかずに正直な振る舞いをする際に、「背外側前頭前野(はいがいそくぜんとうぜんや)」と呼ばれる領域の活動が高いこともわかりました(図2)。
 今回の研究は、側坐核の活動の個人差によって、人間の正直さ・不正直さがある程度決まることを示した、世界的にも初の知見です。


140806abe.png

 

14.08.06

阿部准教授と伊藤研究員の論文が『Brain and Cognition』に掲載されました

阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)と伊藤文人日本学術振興会特別研究員の共著論文「The neural basis of dishonest decisions that serve to harm or help the target」が、『Brain and Cognition』90号に掲載されました。


140707abe.pngAbe N, Fujii T, Ito A, Ueno A, Koseki Y, Hashimoto R, Hayashi A, Mugikura S, Takahashi S, Mori E (2014)
The neural basis of dishonest decisions that serve to harm or help the target
Brain and Cognition 90: 41-49
http://www.journals.elsevier.com/brain-and-cognition/


(論文の紹介/著者より)
人間は自分の利益のために、他者を傷つけてしまう「利己的な嘘」をつく場合もあれば、他者を思いやって「利他的な嘘」をつく場合もあります。今回の研究ではfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いて、この二種類の嘘の意思決定に関わる神経基盤が異なることを明らかにしました。以前に報告したHayashi et al. (2014) の論文では、これら二種類の嘘に対する俯瞰的な道徳判断の神経基盤を報告しましたが、今回の論文では自分自身の意思決定に関わる神経基盤を報告しました。


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14.07.07

清家助教の論文が『Geriatrics Gerontology International』に掲載されました

1405seike.png 清家理助教(上廣こころ学研究部門)の共著論文「初期認知症患者および家族への多職種恊働による教育的支援プログラム開発研究ーー認知症の確定診断直後の患者および家族の学習ニーズと意識変容からの考察(Developing an interdisciplinary program of educational support for early-stage dementia patients and their family members: An investigation based on learning needs and attitude changes)」が、老年医学会の国際誌『Geriatrics Gerontology International』に掲載されました。


 論文は、オンラインで読むことができます。下記リンクにアクセスしてご覧ください。


Aya Seike, Chieko Sumigaki, Akinori Takeda, Hidetoshi Endo, Takashi Sakurai, Kenji Toba. Developing an Inter-professional Program of Educational Support for Patients and their Family Members in the Early Stage of Dementia -An Investigation Based on the Learning Needs and Attitude Changes of Patients and their Family Members -, International Journal of Geriatric Gerontology, In Press, 2014.4


○Aim
The National Center for Geriatrics and Gerontology has begun to provide educational support for family caregivers through interdisciplinary programs focusing on patients in the early stage of dementia. These interdisciplinary programs have established two domains for the purpose of "educational support": cure domains (medical care, medication) and care domains (nursing care, welfare). In the present study, we examined the learning needs and post-learning attitude changes of patients and their families who participated in these programs in order to assess the effectiveness of an interdisciplinary program of educational support in each of these domains.


○目的
国立長寿医療研究センターでは、認知症確定診断直後(以下、初期と定義)の患者、家族を対象とした支援プログラムの提供を開始した。この支援は、キュア領域(医学・薬剤)、ケア領域(看護・福祉)で構成され、多職種恊働によるプログラム提供を「教育的支援」と定義した。本研究では、効果的な教育的支援プログラムの構成要素を探索するため、初期認知症患者や家族の学習ニーズと学習後の意識変容について検証した。


Geriatric Gerontology International
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/ggi.12263/full

14.05.14

河合教授、畑中助教、長谷川研究員らの共著論文が『箱庭療法学研究』に掲載されました

 河合俊雄教授、畑中千紘助教(上廣こころ学研究部門)、長谷川千紘研究員(上廣こころ学研究部門)らの共著論文が、2014年3月、日本箱庭療法学会の発行する『箱庭療法学研究』に掲載されました。


「発達障害へのプレイセラピーによるアプローチ--新版K式発達検査2001を用いた検討」(箱庭療法学研究, 26(3), 3-14)


 本論文は、「子どもの発達障害への心理療法的アプローチプロジェクト」の研究成果をまとめたものです。当センターのプレイルームにて受け入れた9つのプレイセラピー(遊びを用いた心理療法)の事例について、6ヶ月間のセラピーの前後で発達検査の指数にどのような変化がみられるかを実証的に検討しました。発達障害の子どもには自分を定位するための安定した軸をもちにくいという特徴が見られましたが、プレイセラピーのなかで何セッションにも渡って一つの作品を作り上げたり、共同作業やずれを通して自分とセラピストとの差異に気づいたりすることによって、「焦点」や「境界」が生まれ、子どものこころに軸が獲得されていく様子が見られました。そして、セラピーのなかでこのようなテーマに取り組んでいくことが、左右弁別や文章組立てなどの発達課題の通過と関連していることが示唆されました。


<報告:長谷川千紘研究員(上廣こころ学研究部門/2014年3月まで)>

14.04.17

河合教授の論文が『箱庭療法学研究(特別号)』に掲載されました

 河合俊雄教授の論文が、日本箱庭療法学会の発行する『箱庭療法学研究(特別号)』に掲載されました。


「震災のこころのケア活動--縁と物語」(箱庭療法学研究, 26(特別号), 1-6)


 河合俊雄教授が委員長を務める「日本箱庭療法学会 日本ユング派分析家協会合同震災対策ワーキンググループ」は、東日本大震災被災地の小中学校への訪問や病院での事例検討会などを通して、臨床心理士や養護教諭といった「ケアする人」をケアする活動を続けてきました。このたび、その記録が「箱庭療法学研究第26巻特別号」として発刊されました。


 本論文は、その巻頭に掲載されたものです。被災地訪問を継続するなかで「こころのケアやストレス対処のための何かの方法やノウハウを教えたり、押しつけたりするのではなくて、語りに耳を傾けるという物語のケアがこころのケアとなるのではなかろうか」と述べ、「物語」を一つの視点として呈示しています。そして、震災などの「大きな物語」から、個々人の悩みや心理学的テーマといった「小さな物語」へいかに語りが移行していけるかがこころのケアにおいて重要なポイントであることが指摘されています。


<報告:長谷川千紘研究員(上廣こころ学研究部門/2014年3月まで)>


□日本箱庭療法学会のウェブサイト
http://www.sandplay.jp/
□日本ユング派分析家協会のウェブサイト
http://www.ajaj.info/


14.04.17

熊谷准教授の共編著「Current Issues and Progress in Tibetan Studies」が出版されました

ISYT proceedings.jpg 熊谷誠慈准教授(上廣こころ学研究部門)の共編著「Current Issues and Progress in Tibetan Studies」が、神戸市外国語大学から出版されました。


 本書は、熊谷准教授らが2012年9月に神戸市外国語大学にて開催した、Third International Seminar of Young Tibetologists(第3回国際若手チベット学会)の発表者の中から選ばれた30名の若手研究者たちの論稿を集めた論文集です。本書には、宗教学、哲学、言語学、人類学、社会学など、多岐にわたる分野の若手研究者が、チベットをテーマとした論文を提出しており、チベット学という学術分野の持つ学際性を際立たせています。


 書誌情報は以下のとおりです。


Tsuguhito Takeuchi, Kazushi Iwao, Ai Nishida, Seiji Kumagai and Meishi Yamamoto (eds.): Current Issues and Progress in Tibetan Studies: Proceedings of the Third International Seminar of Young Tibetologists, Kobe 2012 (Journal of Research Institute, vol. 51), Kobe: Kobe City University of Foreign Studies. 2014.


14.04.17

阿部准教授と伊藤研究員の共著論文が『Brain Research』に掲載されました

140326abe_brain_research.png 阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)と伊藤文人日本学術振興会特別研究員らの共著論文が、脳神経科学の国際ジャーナル『Brain Research』(vol.1556, 27 March 2014)に掲載されました。


 この論文では、他者を傷つけてしまう「悪い嘘」と、他者を思いやってつく「良い嘘」が道徳的に許容できるか否かを判断する際の脳のメカニズムを調べた研究です。fMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いた実験によって、この二種類の嘘の道徳判断は異なる神経基盤によって実現されていることが明らかになりました。


 論文の詳しい情報は、ジャーナルのウェブサイトをご覧ください。下記リンクからアクセス可能です。


Hayashi A, Abe N, Fujii T, Ito A, Ueno A, Koseki Y, Mugikura S, Takahashi S, Mori E (2014)
Dissociable neural systems for moral judgment of anti- and pro-social lying
Brain Research 1556: 46-56


URL:http://dx.doi.org/10.1016/j.brainres.2014.02.011


○Abstract
Pro-social lying, which serves to benefit listeners, is considered more socially and morally acceptable than anti-social lying, which serves to harm listeners. However, it is still unclear whether the neural mechanisms underlying the moral judgment of pro-social lying differ from those underlying the moral judgment of anti-social lying. We used functional magnetic resonance imaging (fMRI) to examine the neural activities associated with moral judgment in anti- and pro-social lying. During fMRI scanning, subjects were provided with scenarios describing a protagonist׳s anti- and pro-social lying and were then asked to judge whether the protagonist׳s act was morally appropriate. The behavioral data showed that anti-social lying was mostly judged to be morally inappropriate and that pro-social lying was mainly judged to be morally appropriate. The functional imaging data revealed dissociable neural systems for moral judgment in anti- and pro-social lying. The anti-social lying, which was judged to be morally inappropriate, was associated with increased activity in the right ventromedial prefrontal cortex, right middle frontal gyrus, right precuneus/posterior cingulate gyrus, left posterior cingulate gyrus, and bilateral temporoparietal junction when compared with the control condition. The pro-social lying, which was judged to be morally appropriate, was associated with increased activity in the right middle temporal gyrus, right supramarginal gyrus, and the left middle cingulate gyrus when compared with the control condition. No overlapping activity was observed during the moral judgment of anti- and pro-social lying. Our data suggest that cognitive and neural processes for the moral judgment of lying are modulated by whether the lie serves to harm or benefit listeners.

14.03.26

清家助教の共編著『認知症なんでも相談室』が出版されました

140320seike_ninchisyo.png 清家理助教(上廣こころ学研究部門)の共編著『患者さんとご家族から学ぶ 認知症なんでも相談室』が、3月20日にメジカルビュー社より出版されました。


 本書は、認知症に関する知識(病気のこと、治療方法等)から、予防方法、介護方法、終末期の対応まで、実生活で応用できるアドバイスをQ&A、コラムなどで分かりやすく解説されたものです。今回、本書に出てくる120のQuestionは、認知症を持つ方やそのご家族の声に基づいています。巻頭に掲載された「病期/情報・相談内容一覧」では、認知症を持つ方やご家族の質問に当てはまるカテゴリーがひと目で分かるようになっており、社会参加、医療倫理といった新たな分類項目も追加されました。また、認知症を持つ人のこころをケアし、回想法の実践につながる「俳句かるた」(作成者:鳥羽研二国立長寿医療研究センター病院長他)のアイデア紹介など、多彩なページ構成となっています。清家助教は、書籍全体の編集に携わり、社会資源(医療・福祉)の活用、終末期に関する章など多くの項目を執筆、編纂しました。


 書籍の序文、目次、Q&Aの一部を出版社とAmazon.co.jpのページで読むことができます。下記リンクよりご覧ください。


○書誌情報
『患者さんとご家族から学ぶ 認知症なんでも相談室』
国立長寿医療研究センター編
監修 鳥羽 研二、編集 武田 章敬、清家 理
定価 2,940円(本体 2,800 円+税)
B5判 168ページ 2色(一部カラー)
2014年3月20日刊行
ISBN978-4-7583-0487-0


○目次
キーワード索引
病期/情報・相談内容一覧


1 予防 認知症にならないためには?/Q01〜12、番外編


2.受診前 認知症かも? と思ったら/Q13〜23、コラム01


3.診断前 認知症かどうかはどう調べるの?/Q24〜25

 
4.診断後 えっ? 認知症! さて,どうしよう!/Q26〜49、コラム02〜05


5.認知症にはどんな治療があるの?/Q50〜105、コラム06〜16


6.小康状態期 認知症とうまく付き合っていくために!/Q106〜114、コラム17


7.終末期 穏やかに送り出してあげるために/Q115〜120、コラム18


出版社の書籍紹介ページ(「立ち読み」できます)
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14.03.26

畑中助教の論文が『箱庭療法学研究』に掲載されました

 畑中千紘助教(上廣こころ学研究部門)の論文「発達障害におけるイメージの曖昧さ-ロールシャッハ・テストにおける「不確定反応」から」が、『箱庭療法学研究』第26巻第2号(発行:日本箱庭療法学会)に掲載されました。


スクリーンショット 2014-01-23 11.09.31.png畑中千紘(2013)発達障害におけるイメージの曖昧さ-ロールシャッハ・テストにおける「不確定反応」から. 『箱庭療法学研究』第26巻第2号 29-40


○ABSTRACT
 本研究は, ロールシャッハ・テストを素材に発達障害のイメージの在り方の特徴を描き出そうとするものである。予備的分析の結果, 反応の中核をなす概念が不確定である「不確定反応」が発達障害のイメージの特徴として導き出された。「不確定反応」の出現個数について147名の発達障害群, 49名の神経症群, 47名の大学生群のデータについて検討した結果, 発達障害群に有意に多くみられることが明らかとなった。「不確定反応」の曖昧さには広いバリエーションが示されたが, これは彼らの夢や語りにも共通していることが指摘された。また, 「不確定反応」に示されるイメージの曖昧さは, 対象に焦点を合わせるための主体が不明瞭で, 視座が不安定になるためと考えられた。


 畑中助教は、この論文について、「これは、発達障害の特徴を『イメージのあり方』から捉えようとするものです。発達障害の人のもつイメージを心理検査から調査すると、奇異な見方や崩れた見方はほとんどみられず、むしろ『焦点づけの弱さ』が特徴的であることが明らかとなりました。その独特の話し方や考え方から発達障害の方は誤解されやすいところがありますが、彼らの生きる世界を本質的に理解できるような研究を進めていきたいと思っています」とコメントしています。


 なお本論文は、上廣こころ学研究部門における臨床心理学領域のプロジェクトの一つである「大人の発達障害への心理療法的アプローチ」の研究成果です。


○関連情報
河合教授、畑中助教による『大人の発達障害の見立てと心理療法』が出版されました(2013年12月の記事)

14.01.23

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2013年

河合教授、畑中助教による『大人の発達障害の見立てと心理療法』が出版されました

131202otonanohattatsusyogai.png 河合俊雄教授が田中康裕教育学研究科准教授と編・著者を務め、畑中千紘助教(上廣こころ学研究部門)が第7章、第13章を執筆した『大人の発達障害の見立てと心理療法 (こころの未来選書)』が創元社より11月11日に出版されました。本書は、上廣こころ学研究部門における臨床心理学領域のプロジェクトの一つである「大人の発達障害への心理療法的アプローチ」の研究成果がまとまった一冊です。


 河合教授は「第Ⅰ部 概説」において、近年増える大人の発達障害について社会的背景を説明し、その大きなキーワードとして「主体のなさ」に着目。主体の成立へとつながる心理療法的なアプローチの具体的な事例を紹介しつつ、その可能性を探り、本書の全体像を明らかにしています。第IV部「社会・文化的背景」では「家族関係の希薄化と密着化」というタイトルで、心理療法からみた日本社会における家族関係の変化と個の主体の喪失について考察。「あとがき」では各章のポイントと執筆者のねらいをまとめています。


 畑中助教は、「第III部 アセスメント」の「第7章 発達障害のロールシャッハ・テストにおける不確定反応――主体と対象の確定の試み」と、「第IV部 社会・文化的背景」の「第13章 発達障害の時代における自己の現況と変遷――ミクシィからフェイスブックへ」を執筆。第7章では、ロールシャッハ・テストの実験結果から「不確定反応」という指標を取り上げ、発達障害の人の主体性の弱さを明らかにすると共に、その現われ方を分析し、発達障害理解のための手がかりを提示しています。第13章では、ミクシィとフェイスブックという日本におけるソーシャルネットワークサービスの人気の変化に注目し、それぞれの特徴の違いから、現代のネット社会と個人の主体のあり方の変化をみつめ、考察しています。


『大人の発達障害の見立てと心理療法 (こころの未来選書)』


○内容紹介
 近年増加が指摘され、治療も困難とされる大人の発達障害に対して、どのような見立てを持ち、どのようにアプローチすればよいのか。描画や箱庭、夢分析を用いた数多くの心理療法の試みと、発達障害の背景にある社会・文化的要因の考察を通じて、従来の「主体」を前提とした心理療法モデルに代わる、「主体」の成立を図る新たなアプローチを提示する。さまざまな問題や症状に覆い隠された大人の発達障害の核心に迫る。
(書籍紹介文より)


○目次
第Ⅰ部 概説
第1章 大人の発達障害における分離と発生の心理療法 .... 河合俊雄
第2章 未だ生まれざる者への心理療法――大人の発達障害における症状とイメージ .... 田中康裕
第II部 事 例
第3章 社交不安障害と診断された20代女性との心理面接――絡まりがほどける時 .... 安念直子
第4章 発達障害傾向のある男性との心理面接――夢分析における「私」が立ち上がるプロセス .... 西谷晋二
第5章 アスペルガー障害と診断された10代男子との面接過程――分離の契機という観点から .... 橋本尚子
第6章 産婆としての心理臨床――母と息子が個々の心を実感したプロセス .... 渡辺あさよ
第III部 アセスメント
第7章 発達障害のロールシャッハ・テストにおける不確定反応――主体と対象の確定の試み .... 畑中千紘
第8章 発達障害的世界の理解のために――描画・箱庭等の表現媒体を通じて .... 石金直美
第9章 風景構成法に見る大人の発達障害の心的世界 .... 長野真奈
第IV部 社会・文化的背景
第10章 家族関係の希薄化と密着化 .... 河合俊雄
第11章 「発達障害増加」と言われる裏側にあるもの――絵本の代わりにタブレット .... 岩宮恵子
第12章 現代におけるユビキタスな自己意識――サイコロジカル・インフラの消失と発達障害 .... 田中康裕
第13章 発達障害の時代における自己の現況と変遷――ミクシィからフェイスブックへ .... 畑中千紘
註および文献
あとがき .... 河合俊雄


・出版社:創元社
・刊行年月日:2013/11/11
・ISBN978-4-422-11226-8
・判型 A5判 210mm × 148mm 256頁


※出版社の書籍ページでは、河合教授による概説の一部とあとがきの全文をお読みいただけます。下記リンクよりアクセスしてご覧ください。


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13.12.02

長谷川研究員と河合教授の共著論文が『Psychologia』に掲載されました

IMG_6542.jpg 長谷川千紘研究員(上廣こころ学研究部門)と河合俊雄教授他の共著論文 " Psychological Characteristics of the NEW-FFI and the Tree Drawing Test in Patients With Thyroid Disease " が、国際心理科学誌『Psychologia』第56巻2号(2013年6月/発行:プシコロギア会)に掲載されました。


 論文は、「甲状腺疾患におけるこころの働きとケア」プロジェクトの一環として、2種類の心理テストから甲状腺疾患患者の心理的特徴を検討したものです。意識的に回答される質問紙では極めて標準的な反応を示す一方で、無意識的なあり方が反映されるバウムテスト(投映描画法)では自我境界の曖昧さが示されました。そのため、心理療法では表面に現れてきにくい深いレベルまで見通していく必要があるのではないかと考察しています。


C.Hasegawa, K.Umemura, M.Kaji, N.Nishigaki, T.Kawai, M.Tanaka, Y.Kanayama, H.Kuwabara, A.Fukao, & A.Miyauchi(2013) Psychological Characteristics of the NEW-FFI and the Tree Drawing Test in Patients With Thyroid Disease. Psychologia, 56(2), 138-153


国際心理科学誌『Psychologia』(プシコロギア会)ウェブサイト

13.09.27

奥井遼研究員の論文が『教育哲学研究』第107号に掲載されました

 奥井遼研究員(上廣こころ学研究部門)の論文「身体化された行為者(embodied agent)としての学び手 ーメルロ=ポンティの『身体』概念を手がかりとした学びの探求ー 」が、『教育哲学研究』第107号(発行:教育哲学会/2013年5月)に掲載されました。


 からだを使ったわざの習得に関わる行為と言語のやりとりに注目し、教育における「学び」の再検討を研究課題としている奥井研究員は、本論文においてメルロ=ポンティの現象学的身体論を土台に、クロスリーの「身体化された行為者」という観点から行為論を検討。様々な議論を取り上げながら、相互交流的な「身体による学び」の作用からその先の展望までを丹念に論じています。


奥井遼(2013)身体化された行為者(embodied agent)としての学び手 ーメルロ=ポンティの「身体」概念を手がかりとした学びの探求ー . 『教育哲学研究』107号 60-78


IMG_7755.jpg一 「主体としての身体」と教育
二 メルロ=ポンティの行為論 ー身体は個別的なものか?
三 身体図式の組み替えとしての学び
四 言語=所作の獲得における身体の「転調」
五 学びの共同性ー個から個、から「共同作業」
おわりに ーミクロな相互行為の記述に向けて


 身体化された行為者にとって学びとは、教え手との行為の編み目のなかで、自らを越え出て、自らを越え出たものを取り込みながら変容していく営みである。その学びは、絶えざる相互交流のなかにあるために、常に現在的で流動的である。とすれば、教育的な意図や、管理的な力といったものでさえ、そうした現場を活性化させる項の一つとして位置づけることができる。例えば、表象的な記号操作のみを強化するかのような「塾」という場は、「偏差値」や「受験」などの力によって方向づけられているがーーたとえそれが、かつての村落共同体や職業集団が培ってきたような参加型の教育システムとはかけ離れたものであったとしてもーー、それでも学び手は、教え子とのミクロで相互的な交流のなかにあって学習の場を行きた世界として経験しているのである。
 そうした相互交流的な学びの作用は、漫然と居合わせるだけでは体感されないし、体感することによって変容していくことだろう。哲学的な記述と、身を投じた行為との、どちらに傾くともなく追求し続ける態度を徹底させることによって、そうした作用にまなざしを向けていくことが求められている。


(論文より抜粋)


教育哲学会公式サイト

13.09.02

阿部准教授の論文が "Neuroscience Research" と "Brain and Development" に掲載されました

 阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)の論文が、"Neuroscience Research Vol.76-4" と "Brain and Development Vol.35-5" に掲載されました。


 "Neuroscience Research" に掲載された論文は阿部准教授が筆頭著者で、「虚再認」と呼ばれる記憶のエラーに関わる脳活動を、fMRIで調べた研究結果をまとめています。"Brain and Development" には共著論文が掲載され、Prader-Willi症候群における食行動の異常と脳血流との関係を見た研究となっています。


Abe N, Fujii T, Suzuki M, Ueno A, Shigemune Y, Mugikura S, Takahashi S, Mori E (2013)
Encoding- and retrieval-related brain activity underlying false recognition
Neuroscience Research 76 (4): 240-250


Ogura K, Fujii T, Abe N, Hosokai Y, Shinohara M, Fukuda H, Mori E (2013)
Regional cerebral blood flow and abnormal eating behavior in Prader-Willi syndrome
Brain and Development 35 (5): 427-434


 論文の abstract や概要は下記リンク先ページにてご覧いただけます。


Science Direct: "Neuroscience Research Volume 76, Issue 4"
Science Direct: "Brain and Development Volume 35 Issue 5"

13.08.01

清家助教の論文が『日本精神科病院協会雑誌』に掲載されました

 清家理助教(上廣こころ学研究部門)の論文が、『日本精神科病院協会雑誌 第32巻・第6号』に掲載されました。


「診療と一体化した認知症患者および家族への早期支援介入の意義 国立長寿医療研究センター もの忘れセンター『もの忘れ教室』の取り組み」


清家理1.2 櫻井孝1 鳥羽研二1(1.国立長寿医療研究センターもの忘れセンター、2.京都大学こころの未来研究センター)


はじめに
 わが国における認知症患者数は、増加の一途である。高齢者の14.4%(約400万人)が認知症であり、かつ同数の軽度認知障害患者(mild cognitive impairment: MCI)が存在すると推計される。近年、認知症予防に関する研究、診断技術や新約開発等、認知症診療をとりまく環境は大きく変化している。そのようななか、藁にもすがる思いで、認知症疾患医療センターにたどりつく患者や家族も少なくない。しかし、認知症の確定診断がついたあと、認知症の経過のなかでも生じる精神症状に、家族が翻弄されるケースもしばしば見受けられる。その結果、在宅介護の限界を超え、精神病院への長期入院を余儀なくされている。(中略)
 そこで国立長寿医療研究センターでは、認知症の確定診断がついた時点から、認知症患者と家族に対する包括的な教育プログラムを提供する試み(物忘れ教室)を始めている。本実践はアクションリサーチでもある。本稿では筆者ら家族教室の概要を紹介し、初年度の結果を提示する。


(論文より)


 認知症患者が増加の一途をたどる日本の認知症施策において、「早期支援機能」「早期回避支援機能」がケアの基本とうたわれるなか、本研究では、「早期支援」を「認知症の鑑別診断がついた時点で、医療(キュア)と看護・介護(ケア)がシームレスかつ包括的に提供される処方箋」と位置づけ、認知症患者と家族に対して行った包括的な教育プログラムを提供する試み(もの忘れ教室)のアクションリサーチの結果を報告しています。論文では、もの忘れ教室の実施が、参加した患者や家族に認知症への対応術や知識獲得の機会を与え、認知症への理解や生活・介護上の不安解消や意欲向上など心理面への効果をもたらした、としています。

13.07.29

熊谷准教授のフランス語論文が『Circulaire de la Societe Franco-Japonaise des Etudes Orientals』に掲載されました

 熊谷誠慈准教授のフランス語論文「Caracteristiques de la theorie des deux verites en Inde et au Tibet」(インドおよびチベットにおける二真実思想の特性)が、論文雑誌『Circulaire de la Societe Franco-Japonaise des Etudes Orientals』(第34-36号)に掲載されました。


Seiji KUMAGAI (2013): "Caracteristiques de la theorie des deux verites en Inde et au Tibet," Circulaire de la Societe Franco-Japonaise des Etudes Orientals, Vol. 34-36, pp. 15-20.


 論文は、インド仏教で成立した真理の概念区分(究極的真実と世俗的真実)が、チベット仏教に、さらにはヒマラヤの土着宗教であるボン教の中にどのように取り込まれていったのか、思想の受容過程を検証したものです。

13.05.17

畑中助教の論文が『箱庭療法学研究』に掲載されました

 畑中千紘助教(上廣こころ学研究部門)の論文が、『箱庭療法学研究』第25巻第3号(発行:日本箱庭療法学会)に掲載されました。


Hatanaka,C(2013)From Dual Personalities to Reflected Adult Consciousness in the Psychotherapy of Dissociative Identity Disorder: The Dialectic Movement between Fake and Real 箱庭療法学研究25巻3号75-90

  In contrast to conventional approaches in which it is important to treat the cause of the dissociative symptom, this case of dissociative identity disorder is distinctive in the paradoxical process. Although the child personality of the patient (alter personality) was thought to be a kind of fake, it has been kept in therapy. The process in which her child personality had been one-sidedly exaggerated and emphasized dialectically led the patient to internalize the dissociated personality and have a self-relationship in the end.

("From Dual Personalities to Reflected Adult Consciousness in the Psychotherapy of Dissociative Identity Disorder: The Dialectic Movement between Fake and Real" Abstractより抜粋)

 臨床心理学を専門とし、いまの時代を生きる人々のこころに宿る問題と向き合い、研究に取り組む畑中助教は、本論文で解離性障害という現代の病に対して心理療法的視点からの新しい理解について論じています。

13.04.08