PJ-4 心理学領域

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プロジェクト4 心理学領域

ポスト成長時代のこころの問題と変容

研究代表者

粉川 尚枝 上廣倫理財団寄付研究部門 特定助教

概要

 ポスト成長時代とも呼ばれる現代は、社会全体が右肩上がりの成長時代を経て、わかりやすい前進に代わる発展・成熟のあり方を、模索し始めた時代としても捉えられる。その時々の社会が抱える課題と個人の持つ問題は、不可分に繋がっているものと考えられるが、本プロジェクトは臨床心理学的な視点から、時代に応じたこころの問題の理解と、それへのアプローチについての提言を試みるものである。一連の研究により、個別の臨床的援助への還元を目指すと同時に、ポスト成長時代の社会が抱える課題への取り組み方のヒントを得ることができればと考えている。

 また、人のこころは社会の中で構成されるものであり、それぞれの社会において、どのような人々の心理・行動傾向が作り上げられるかについては、これまで多くの実証研究が行われてきた。臨床心理学の分野では、例えば、日本文化と繋がりが深い対人恐怖症の臨床像の移行や、学生相談室に来談する大学生の心性の変化から、現代の人々のアイデンティティ形成に関する新たなこころの問題が指摘されている。本プロジェクトでは、文化・時代性という視点からも比較研究を重ねることで、現代の日本社会を生きる人々の精神性と、新しく生じて来たこころの問題についても、一定の知見を提示できればと考えている。

研究プロジェクト

A.睡眠時の夢に現れる現代人の精神性とこころの古層の研究

 睡眠時に見る夢は、無意識レベルにも及ぶ自己のあり方の重要な検討方法とされてきた。近年の脳損傷研究を含めた神経科学領域でも、自分自身や他者との関係について思考する脳のデフォルトモードネットワークと、夢見状態との関連が指摘されている。日々の夢は忘れがちであるが、ふと印象に残る夢もあり、私たちは自身の夢に関心を持つことも多いのではないだろうか。本プロジェクトは夢の語りを、文化差・時代差、発達過程や心理療法のプロセスにおける変化という観点から研究することで、現代人の精神性と、現代のこころの問題の様相を明らかにしようとするものである。

 また、心理療法においては、時代に応じて変化していくこころの可塑的な側面と同時に、時代を経ても変わらない、普遍的なこころの働きが感じられることがある。睡眠時の夢においても、こうした「こころの古層」が時折イメージとして現れてくることがあるが、現代のこころの問題を考える上で、現代の意識と「こころの古層」の関連についても、理解を深められればと考えている。

 

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B.発達・こころの非定型化に関する臨床心理学的研究

 社会の自由度が高まり、参照枠とすべき「定型」や「標準」がなくなってきた現代においては、発達や病理にも「非定型化」が見られ、多様な問題や症状が生じるようになってきている。発達障害のグレーゾーンと捉えられる事例の増加など、その現れ方は多様であるが、本プロジェクトでは、特に発達障害への臨床的アプローチや、現代社会における発達の非定型化について、検討を進めていければと考えている。

 また、昨今の日本の心理臨床の現場では、発達や病理に限らず、現代の人々のこころに、従来の心理学体系では捉えきれないレベルでの変化が生じてきているとの指摘がされている。本プロジェクトでは、こうした「こころの非定型化現象」に注目し、現代のこころの特性を捉えることも目指す。心理療法事例のメタ視点からの分析に加え、若年層を中心としたコミュニケーションツールの移行を受けて、SNSカウンセリングについても研究対象とすることで、現代のこころの問題と、それへのアプローチについて検討できればと考えている。

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