PJ-3 臨床心理学領域

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PJ-3 臨床心理学領域担当

上廣こころ学研究部門(兼任)・教授 河合俊雄

上廣こころ学研究部門・特定助教 畑中千紘

サブプロジェクト

A.子どもの発達障害への心理療法的アプローチ
B.大人の発達障害への心理療法的アプローチ
C.甲状腺疾患におけるこころの働きとケア
D.こころの古層と現代の意識

A.子どもの発達障害への心理療法的アプローチ

河合俊雄(上廣こころ学研究部門 教授)

畑中千紘(上廣こころ学研究部門 特定助教)

十一元三(京都大学医学研究科 教授)

田中康裕(京都大学教育学研究科 准教授)

黒川嘉子(佛教大学教育学部 准教授)

高嶋雄介(天理大学人間学部 准教授)

竹中菜苗(大阪大学保健センター学生相談室 助教)

長谷川千紘(京都文教大学 講師)

井芹聖文(京都文教大学心理臨床センター 専任研究員)

神代末人(佛教大学学生相談センター 発達専門相談員)

皆本麻美(京都大学大学院教育学研究科 特定研究員)

田附紘平(京都大学大学院教育学研究科 大学院生)

松波美里(京都大学大学院教育学研究科 大学院生)

粉川尚枝(京都大学大学院教育学研究科 大学院生)

鈴木優佳(京都大学大学院教育学研究科 大学院生)

西珠美(京都大学大学院教育学研究科 大学院生)

望月陽子(京都大学大学院教育学研究科 大学院生)

松岡利規(京都大学大学院教育学研究科 大学院生)

豊原響子(京都大学大学院教育学研究科 大学院生)

文山知紗(京都大学大学院教育学研究科 大学院生)

1. プロジェクト概要

 広汎性発達障害に対しては,脳科学や認知科学の発展に伴って薬物療法や訓練教育が中心的な対応になりつつある。その一方,ADHD等も含めた広く発達障害的な問題を抱える子どもが心理療法の現場に多く訪れていることも事実である。心理療法によって子どもに変化がみられる事例は多く,そのことは多くの事例研究が明らかにしてきたところである。ただし,そうした事例をみていくと,従来の心理療法とは異なる契機が重要となっていることが示唆されている。そこでわれわれは,成功事例の検討を重ねることで,発達障害の心理療法のエッセンスを捉えることを試みてきた。そして,発達障害の中核的特徴を「主体のなさ」として捉えるなかで,「主体の発生」に立ち会うことの重要性が確認された(河合俊雄編,『発達障害への心理療法的アプローチ』,創元社,2010年)。このような観点は,専ら臨床事例研究という方法で専門家に発信されてきたため,発達障害への社会的関心が高まっている現在においても,心理療法の有効性が広く理解されているとは言いがたい。発達障害への対応が急務となっている現在,事例研究に加えて,客観的に認められる形で心理療法の有効性を示し,社会にその意義を発信していくことは重要であろう。

 本プロジェクトは,このような観点に基づき,心理療法が発達障害の子どもの症状や問題に対してどのような変化をもたらすのか,客観的な評価を用いて検討しようとするものである。臨床心理学的な視点に加えて,京都大学医学研究科十一元三教授との連携のもと,神経生理学的な変化も視野に入れた検討を行う予定である。実践に基づきつつ,これまで不足していた定量的知見を提示することで,より広範に心理療法の意義を発信し,発達障害への援助体制の確立に貢献したい。

2.研究計画

 子どもの心理療法は,大人の言葉に代わるものとして遊びを介して行われるため,「プレイセラピー」と呼ばれる。本プロジェクトでは,当センターのプレイルームにおいて,発達障害の子どもを対象に6ヶ月間のプレイセラピーを行い,その前後に新版K式発達検査・神経生理学的検査を実施する。検査の結果およびセラピーでみられる関係性や遊びの質の検討を通じて,(1)プレイセラピーの前後で子どもにどのような変化が生じるのか,(2)発達障害の子どもと非発達障害の子どもとではプレイセラピーのポイントはどのように異なるのか,という2点を中心に明らかにする。

 本研究で得られた知見は,論文をはじめセミナー・研修会などで広く公開する予定である。専門家への知見の提供に加え,学校や家庭など様々な場面での発達障害の子どもへの関わり方の指針を提供したいと考えている。

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大人の発達障害への心理療法的アプローチ

河合俊雄(上廣こころ学研究部門 教授)

畑中千紘(上廣こころ学研究部門 特定助教)

十一元三(京都大学医学研究科 教授)

田中康裕(京都大学教育学研究科 准教授)

黒川嘉子(佛教大学教育学部 准教授)

高嶋雄介(天理大学人間学部 准教授)

竹中菜苗(大阪大学保健センター学生相談室 助教)

長谷川千紘(京都文教大学 講師)

井芹聖文(京都文教大学心理臨床センター 専任研究員)

神代末人(佛教大学学生相談センター 発達専門相談員)

皆本麻美(京都大学大学院教育学研究科 特定研究員)

田附紘平(京都大学大学院教育学研究科 大学院生)

松波美里(京都大学大学院教育学研究科 大学院生)

粉川尚枝(京都大学大学院教育学研究科 大学院生)

鈴木優佳(京都大学大学院教育学研究科 大学院生)

西珠美(京都大学大学院教育学研究科 大学院生)

望月陽子(京都大学大学院教育学研究科 大学院生)

松岡利規(京都大学大学院教育学研究科 大学院生)

豊原響子(京都大学大学院教育学研究科 大学院生)

文山知紗(京都大学大学院教育学研究科 大学院生)

1. プロジェクト概要

 特に2000年代以降,思春期・青年期以降に発見される発達障害が大きな社会問題となっている。これには,L・ウィング(1981)の提唱した「自閉症スペクトラム」概念の影響,社会システムの変遷に伴う生き方の変化など,さまざまな要因の存在が考えられる。心理療法の場にも,いわゆる神経症レベルのクライエントは少なくなりつつあり,その代わりに発達障害の疑われる大人のクライエントが非常に多く訪れている。しかし,大人になって明らかになる場合には特に,発達障害的特徴がそれほど目立っていなかったり,身体・精神症状など,一見,発達障害とは異なる主訴から来談に到るケースも少なくない。このような現状において,発達障害のアセスメントを確立することはひとつの急務となっている。

 

 また,発達障害においては,象徴やイメージが機能しにくいために,心理療法は無効であるとする立場もみられるが,その一方,心理療法によって変化のみられる事例が多いことも事実である。こころの未来研究センターでは,「発達障害への心理療法的アプローチ」プロジェクトを立ち上げ,心理療法が奏功した事例にみられるエッセンスを集約し,新たな視点として提供することを試みてきた。その成果は書籍にもまとめられている(河合俊雄編『発達障害への心理療法的アプローチ』創元社,2010年)。

2.研究計画

 本プロジェクトは,上記の流れをくみ,大人の発達障害への心理療法の意義を多角的に検討するため,2012年度に立ち上げたものであり,以下の3つの柱を中心に研究を展開する。

①心理療法の方法論とエッセンスについての理論的構築

 心理療法事例の中でも特にうまく展開した事例について,そのプロセスをていねいに検討し,その知見の集積から発達障害への心理療法におけるエッセンスを抽出する。これを論文・書籍等によって公刊することで発達障害の理解を推進すると共に,発達障害支援における心理療法という選択肢が社会に認知され,より広く活用されていくことを目指す。

②アセスメント理論の構築

 発達障害の診断には,知能検査などが用いられることが多い。しかし,はじめから発達障害の疑いをもって来談されたわけではない場合や,知的レベルが高く,知能検査ではその特性がつかみきれない場合があることに鑑みれば,一般的な心理検査においても発達障害の見立てに役立つアセスメント理論を構築しておく必要があるだろう。本プロジェクトでは特に,臨床現場で頻用されるロールシャッハ・テストを用いた発達障害のアセスメントについて,基礎的研究を行う。(その成果の一部はすでに書籍としてまとめられている:畑中千紘『話の聴き方からみた軽度発達障害』創元社,2011年)。これを通じ,発達障害の見立てと方針の決定に寄与する視点の提供を目指す。

③事例研究

 発達障害の成人を対象とした心理療法について,一事例のプロセスをていねいに検討する事例研究を行い,発達障害の心理療法一般にも通用する知見を探る。

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甲状腺疾患におけるこころの働きとケア

河合俊雄(上廣こころ学研究部門 教授)

長谷川千紘(上廣こころ学研究部門 特定研究員)

畑中千紘(上廣こころ学研究部門 特定助教)

田中美香(隈病院 心理士)

金山由美(京都文教大学臨床心理学部 教授)

桑原晴子(岡山大学大学院教育学研究科 講師)

深尾篤嗣(茨木市保健医療センター センター長)

梅村高太郎(京都文教大学臨床心理学部 講師)

1. プロジェクト概要

 患者を心身不可分な全体的存在とみる姿勢が見直されるにつれて,近代科学に基礎づけられた身体治療の場でも,心理臨床の視点が求められるようになった。身体疾患の心理療法は,疾患に伴う副次的な問題を扱うに留まらず,病を抱えて生きる人間の根本的あり方に触れるものとなりうる。本プロジェクトが対象とする甲状腺疾患は,しばしば抑うつや情緒不安を伴うことから,心身相関が問題となることも多い身体疾患のひとつである。こうした精神症状は主に身体機能(甲状腺ホルモン)の影響によるものと考えられてきたが,近年,治療を経て身体機能が正常になってもなお精神的訴えが持続することが示され,生理学的な観点だけでは説明しきれない心理的要因の存在が注目されている。

 本プロジェクトは,甲状腺専門病院における心理療法に端を発している。甲状腺疾患患者の心理療法は,心理臨床が主な対象としてきた神経症患者とは,その展開や改善の契機が異なる場合が多い。こうした臨床的知見をベースに,本研究では,1)甲状腺疾患患者にはどのようなパーソナリティの特性が見られるのか,2)心身への治療的関わりによって心理面にはどのような変化が見られるのか,を明らかにすることを目的とする。それによって,心理療法が治療を促進したりサポートしたりする上でのポイントを掴むことが可能になるだろう。また投薬治療において変容の起こりにくい難治患者の心理的特徴を明らかにすることによって,身体的・心理的側面において的確に治療的アプローチを行う糸口が見出されるのではないかと思われる。

2. 研究計画

 本研究では,以下の2つの方法を用いて甲状腺疾患患者にみられる心理的特徴を検討する。

【方法1】質問紙法・バウムテスト・半構造化面接を用いたパーソナリティ特性の分析

【方法2】手術という身体への治療的アプローチによって,患者の心理面に起こる変化についての検討

 これらの検討の結果を踏まえ、「こころ」を身体と不可分なものと捉える視点から考察し,学会や講演等でその成果を発表していく予定である。

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こころの古層と現代の意識プロジェクト

河合俊雄(上廣こころ学研究部門・教授)

畑中千紘(上廣こころ学研究部門・特定助教)

長谷川千紘(上廣こころ学研究部門・特定研究員)

中沢新一(明治大学野生の科学研究所・所長)

岩宮恵子(島根大学教育学部・教授)

田中康裕(京都大学教育学研究科・准教授)

猪股剛(和歌山県立医科大学・准教授)

橋本尚子(京都学園大学・准教授)

1.これまでの研究と,研究の背景

 心理療法において,現代を生きる人々と関わっていると,そこで出会う人の意識の現代的な特徴や,時代に応じた変遷を実感させられることが多い。しかしそれと同時に,とても現代的なこころをもった人であっても,心理療法のプロセスが進むにつれて,「こころの古層」とも言えるような深い次元が顔を見せ,驚かされることもしばしばである。特に,夢,箱庭などのイメージを用いる場合には,我々のこころに古くから深く浸透しているものに触れるような体験が起こってくることも多い。本プロジェクトでは,このように,現代においてなお生き続ける「こころの古層」をとらえると共に,それに対置される現代の意識の特徴について,人類学,宗教学的観点の学識を加えて検討する。

2.研究の具体的計画

 本プロジェクトは,2012年度に中沢新一連携研究員をメンバーに加えて立ち上げられた。これまでには華厳,折口信夫を素材として,こころの古層に焦点を当てて検討を行ってきた。こころの構造や特徴は,今日に到るまでの長い歴史において,地層のように集積しながら変化してきたとみることができる。文学作品や宗教,民俗学の研究等として残ってきた日本人のこころの様々な層を細やかに検討していくことは,現代人が生きるこころや意識の特徴について理解を深めることにつながっていくだろう。ここでは,C・G・ユング『赤の書』にみられる近代意識の検討,心理療法の根本を形成するワザの検討,中世の昔話と村上春樹などの現代小説との比較などを行う。これらの成果は講演や書籍を中心に,社会に発信される予定である。

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