PJ-4 幸福感の総合研究

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PJ-4 幸福感の総合研究担当

上廣こころ学研究部門・特定准教授 熊谷誠慈

上廣こころ学研究部門・特定准教授 阿部修士

上廣こころ学研究部門(兼任)・特定准教授 内田由紀子

サブプロジェクト

A.地域の幸福プロジェクト(文化心理学領域)
B.幸福感の神経基盤プロジェクト(神経科学領域)
C.国民総幸福(GNH)を支える倫理観・宗教観研究プロジェクト(宗教学領域)

幸福感総合研究プロジェクト(概要)

 近年,国際社会はGDPに代わる新たな価値基準として,幸福度の指標化を模索している。学術領域においても,1980年代後半より,欧米の経済学者や心理学者を中心として,”happiness”や”well-being”に関する科学的研究が行われはじめた。わが国でも幸福の研究や指標化が進められてきたが,欧米に比べて今一歩遅れている感は否めない。こうした現状に鑑み,京都大学こころの未来研究センター・上廣こころ学研究部門では,2013年度より,[A]社会科学(文化心理学:内田由紀子准教授),[B]自然科学(神経科学:阿部修士准教授),[C]人文科学(宗教学:熊谷誠慈准教授)の3領域を横断する学際的幸福研究として,「幸福感総合研究プロジェクト」を開始するに至った。

 [A]文化心理学の知見によると,幸福の感じ方やとらえ方には洋の東西での違いがあることが見いだされている。特に日本社会の幸福においては,他者や地域との関係性が主要な役割を果たしている。そして個人の幸福の追求だけではなく,周囲の他者との協調により実現される「集合的な幸福」も必要である。そこで本研究計画では日本の様々な地域社会において大規模な調査研究を行い,地域における信頼感と,そこに住む人々の幸福,そして地域全体での集合的な幸福のそれぞれがどのように関連しているのかを検討する。さらに様々な局面で必要とされるようになった心の幸福の問題に取り組み,地域社会でのネットワーク作りの実践にまでつなげる検討を行い,実社会へのフィードバックを目指す。

 [B]また本プロジェクトでは,幸福を感じる基盤を探る神経科学的領域との協同により,個人から社会まで人の幸福を支える様々な要因を多層的に理解する。具体的には,金銭・食物・異性・他者からの評価といった「報酬」情報の処理に関わる神経活動を,機能的磁気共鳴画像法(fMRI)で測定し解析を行う。報酬情報の処理には快の感情が付随するものであり,幸福感の基盤となるプロセスと考えられるが,その神経機構は依然としてよくわかっていない。日常生活における様々な意思決定場面を模した実験パラダイムを利用し,報酬獲得を目的とした意思決定の神経基盤を明らかにすることで,幸福感の生物学的基盤の理解を目指す。

 [C]さらに,科学的に計測可能となりつつある「幸福感」に加え,より観念的な「幸福観」についての研究も行う。「幸福感」とは個々人が折に触れて感じる主観的幸福であるのに対し,「幸福観」とは特定の文化内で人々が共有する概念的幸福である。これは科学的に定式化することは難しいが,古今東西,広く人々に生きる指針を与えてきたものとして無視できない。とりわけブータンは,宗教的倫理観にもとづく国民総幸福(GNH)という国策として掲げ、幸福政策のモデルとして各国から注目されてきた。本研究では,国民総幸福(GNH)およびそれを支える倫理観・宗教観の意義およびその応用性について再検証する。

 以下,領域ごとの研究概要・計画を提示する。

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A. 地域の幸福プロジェクト(文化心理学領域)

上廣こころ学研究部門(兼任)・特定准教授 内田由紀子

1.これまでの研究と研究の背景

 近年,近代化の流れを汲みOECDをはじめとした先進諸国を中心に「個人の幸福」を追求する動向が見受けられる。しかし,幸福の捉え方には洋の東西での違いがあることが文化心理学研究の知見からも明らかにされており,社会・文化の中で共有されている「集合的幸福観」に基づいて幸福とは何かを問い直すことが不可欠である。特に,日本社会をはじめとした東洋社会においては,西洋社会で優勢な「独立した個人」を単位とした幸福だけでなく,個人を超えて家族や組織,さらには地域で共有される「集合的な幸福」が重要な意味を持つ。実際に,大きな注目が集められているブータンのGNH指標においても,地域社会や地域環境をはじめとした集合的な幸福にまつわる概念の測定が取り入れられている。東洋文化圏にありながら西洋社会を基盤にした近代化を遂げてきた日本社会が現代において幸福をどのように追求するのか,実証的な知見を世界に発信することが急務である。

2.研究の具体的計画

 本研究では「幸福な個人とは何か」という問いと同時に,「幸福な地域社会とは何か」という問いに対する実証的な知見を提示する。具体的には,日本の小地域社会(平均100世帯程度で構成される町内・集落を単位とした地域コミュニティ)を選定した上で,その全世帯を対象とした大規模調査に基づき,社会心理学的の手法を用いた実証研究を展開する。特に,「農村地域社会」「漁村地域社会」「都市地域社会」を対象とし,各々の地域社会に保持される幸福の特徴の異同を抽出する。さらに,地域における「人々のつながり」に焦点を当て,地域類型に応じたつながりの形態の様相と,それらと個人さらには集合的な幸福がどのように関連しているかを検討する。

3. 関連するアウトリーチ活動その他

 学術雑誌や報告書としてまとめることで,人々の幸福感の向上に長期的な視点に寄与するものとする。それと同時に,自治体や地域コミュニティと連携し,ワークショップ等を開催するなどのアウトリーチ活動を積極的に展開する。地域住民をはじめ地域で活動する人たちとの直接的なやりとりを介した共同成果として,それぞれの地域の社会・文化・生態学的環境に応じた幸福の形を導出する。さらには,地域社会における「つながり作り」にまで踏み込んだ調査・研究の実施を通して,幸福の醸成に関する実践可能な成果を社会に還元することを目指す。

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B.幸福感の神経基盤プロジェクト(神経科学領域)

上廣こころ学研究部門・特定准教授 阿部修士

1.これまでの研究と研究の背景

 近年,ヒトの幸福感についての研究が学際的に行われているものの,その生物学的基盤である脳のはたらきは,依然として不明な点が多い。その一方で,幸福感と密接に関連するであろう認知過程として,報酬処理の神経基盤の研究が盛んに行われている。ヒトにとって,食べ物や異性,金銭や他者からの評判といったものは,それを得ることにより快の感情が得られる報酬である。幸福感はこうした報酬情報が,社会的な文脈の中で様々なタイムスパンで処理される過程とみなすことが可能である。本プロジェクトでは,社会的文脈における報酬情報の処理過程を,こころの未来研究センターに設置されたMRI(核磁気共鳴画像法)による脳機能研究によって明らかにすることを目指す。

2.研究の具体的計画

 本プロジェクトでは,日常生活における様々な意思決定場面を模した実験パラダイムを利用し,意思決定の神経基盤を明らかにすることで,幸福感の生物学的基盤の理解を目指す。具体的には,様々なレベルの金銭的な報酬の獲得を目的とする意思決定課題を被験者に施行し,課題遂行中の脳活動をfMRI(機能的磁気共鳴画像法)によって測定する。同時に脳の詳細な構造画像を撮像することで,報酬獲得に関わる脳機能・脳構造についての個人差を検討することも可能となる。また,質問紙による評価を組み合わせることで,主観的な幸福感の程度を定量的に評価し,幸福感を実現する脳の生物学的基盤についての多角的な解析を行う。

3.関連するアウトリーチ活動その他

 本プロジェクトについてはデータが集まり次第,随時脳画像の解析を進め,統計学的にも十分に妥当と考えられる結果が得られれば,研究会や学会等でその成果を公表していく。研究成果の社会的還元という観点から,一部の成果をホームページや一般向けの公開講座で公表することも検討する。また,こうした研究手法が極めて有用であることを広く示す方法の一つとして,MRI研究に関連する学生向けの教育イベントの計画を検討する。

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C.国民総幸福(GNH)を支える倫理観・宗教観研究プロジェクト(宗教学領域)

上廣こころ学研究部門・特定准教授 熊谷誠慈

1.これまでの研究と研究の背景

 昨今,国際社会では,「幸福」に対する意識が高まりを見せている。とりわけ,ブータン王国の「国民総幸福」(GNH)政策は国際的に広く注目を浴び,すでに経済学や開発学の視点から研究が進められている。しかしながら,国民総幸福を含む同国の先進的諸政策が,あくまでその基盤を同国に深く根付いた独自の宗教的倫理観の上に置いている事実は看過されたままである。本研究では,ブータンの掲げる国民総幸福政策に注目し、その根底に存在する倫理観および宗教観のメカニズムについて、広くチベット・ヒマラヤ文化圏全体を視野に収めつつ多角的に検証し、さらには、わが国の宗教倫理、精神文化との比較考察をも行う。

2.研究の具体的計画

 本プロジェクトでは,国民総幸福の基盤となる倫理、文化、社会、幸福観の4領域にわたって研究を行う。倫理に関しては,ブータンを含むチベット・ヒマラヤ地域の宗教(仏教・ボン教)の思想や歴史研究に基づき、同地域全般に共通する倫理観を明らかにする。また、宗教倫理的視点から,伝統,風習,儀式など,同地域の文化の現状と特性を記録し、考察する。加えて,国家運営の基盤となる政治・経済,地域と宗教文化との関わりといった社会的側面にも注目し,最終的にはチベット、ブータン、ヒマラヤ地域の幸福観とそれを実現するための国家的取り組み(GNH等)について,わが日本を含めた他地域の幸福に寄与できるか、或いは逆に日本の幸福観を他地域に適用できるかといった互恵的応用性も含めた検討を行う。なお,学際性を維持するため,既存の「京都大学ブータン研究会」や,2013年度以降開催予定の「京都大学チベット研究会」(仮称)などと連携する。

3.関連するアウトリーチ活動・その他

 このプロジェクトは,学会発表や論文の寄稿を通じて,世界最先端の研究成果を国際学術界に発信することを第一義とする。のみならず,京都大学こころの未来研究センター内「ブータン学研究室」のHP(http://kokoro.kyoto-u.ac.jp/jp/Bhutan/index.html)や,2012年以降定期的に開催してきた「ブータン文化講座」,その他の各種講演会を通じて,広く一般社会に情報を公開する。また,学内外を問わず,講義やゼミ等を通じて,次世代のチベット・ブータン研究者、幸福研究者の育成にも寄与する。また,上記「京都大学ブータン研究会」や「京都大学ヒマラヤ宗教研究会」(仮称)などとの提携を通じ,領域横断的な研究者ネットワークを築き,情報の綿密な共有・交換を行う予定である。

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