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【令和元年度 研究プロジェクト】こころの豊かさとその逆説性:心理療法にみられるこころの変化とその波及

研究課題  こころの豊かさとその逆説性:心理療法にみられるこころの変化とその波及

研究代表者 河合俊雄 京都大学こころの未来研究センター 教授

連携研究員 田中康裕 京都大学大学院教育学研究科 准教授
      梅村高太郎 京都大学大学院教育学研究科 講師

センター参画 畑中千紘 京都大学こころの未来研究センター 特定講師
       粉川尚枝 京都大学こころの未来研究センター 特定研究員

「こころの豊かさ」には右上がりの成長イメージでとらえられるようなポジティヴな変化と同時に,負の状態からの回復によって得られる豊かさも存在する。また,一見ポジティヴな変化があったとしてもそれを補償するようにネガティヴな変化が生じていたり,負の状態からの回復・変化が生じる際,当初の問題解決に加えて+αの成長がもたらされたりすることもあり,「こころの豊かさ」とはある種の逆説性を孕むものと考えられる。
心理療法は,相談者の心理的課題の解決を通じた成長・発展を目指すものとして捉えられる。心理療法に来談する相談者が,負の状態から回復・変化するプロセスは,必ずしも右上がりの成長イメージだけで生じるものではなく,心理療法のプロセスの中で生じたネガティヴなものが,こころの成長をもたらす場合もあることが,臨床実践の中では実感されてきた。本研究では,「こころの豊かさ」を負の状態からの変化・回復として捉え,心理療法事例をメタ視点から量的に分析することによって,実際にどのように人の心が変化していくのかについて可視化することを試みる。
東日本大震災後,日本人に特有のレジリエンスのあり方が国際的に注目されたが,本研究では,自然・共同体とつながった日本文化に特有の心の回復機能を見出すことを目指す。個人と集団の関係性や,社会が個人に要請する主体性の強度などには文化差があることが推測されるように,こころの豊かさを考える際にも,地域や時代・文化による影響を考慮する必要がある。日本的なこころ観について,仏教思想の研究や,文献・文学作品の研究を行い,文化・歴史的観点からも多面的・多角的に解明する。
心理療法の効果要因研究は,プライバシーの問題等から先行研究が少ない。本プロジェクトでは,パイロットスタディで明らかにされた評価視点を洗練させ,終結した複数の心理療法事例の評定結果を基に,統計的な解析を進めるという方法論により,守秘義務に抵触せずに,単純な症状消失を超えたこころの回復プロセスに寄与する事象や成長可能性,変化を妨げる要因等を客観的に提示することを目的とする。同時に,個人内で生じた変化がどのように現実や他者に波及するのか【豊かさのcoherence】についても検討を行っていく。そしてこれらの結果から,誰もがストレスと無縁とはいえない現代社会に対して,こころの状態回復と成長の可能性について類型化されたモデルを提示することが期待される。

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