第3・4回京都大学ヒマラヤ宗教研究会の報告

【イベント名】第3・4回京都大学ヒマラヤ宗教研究会
【日時】 2014年10 月6日(月)16:30~18:00(第3回)
         11月17日(月)17:00~19:30(第4回)
【場所】 京都大学こころの未来研究センター225会議室
【発表者】 小西賢吾(京都大学こころの未来研究センター・研究員)
【講演題目】 「フィールドからみるボン教研究―ボン教の地域性に着目して」

【概要】
 「京都大学ヒマラヤ宗教研究会」の第3・4回研究会を開催しました。本研究会は、ヒマラヤ圏の宗教・歴史・文化に関心を持つ若手研究者が最新の研究成果を共有・議論する場として、昨年度からこころの未来研究センターで立ち上がったものです。今回はこころの未来研究センター小西賢吾研究員が、ヒマラヤ圏の基層文化を考える上で不可欠な宗教「ボン教」について、最新の研究動向とフィールドワークの成果を2回にわたって紹介しました。講演の要旨は以下の通りです。
 ボン(ポン)教は、かつてチベット高原に仏教が伝来する以前から存在したといわれる宗教であり、近年ではヒマラヤ圏の基層文化を理解する上で不可欠な要素として国際的に注目を集めている。古代チベット王国の衰亡後、11世紀から仏教の「後伝期」のはじまりと並行して、ボン教もまた教義の整備を進め、現代に受け継がれる「ユンドゥン・ボン」の体系が成立した。その教義は、氏族による継承と、中央チベットのメンリ僧院を代表格とする僧侶共同体による継承の二つの側面をもっている。そのため、均一な教義・テクストにとどまらず、各地域に根ざした世界観もまた継承されてきた。
 発表者は、チベット高原東端部のシャルコク地方(中国四川省アバ州松潘県)でのフィールドワークを通じて、固有の地域性と、地域を越えたグローバルなネットワーク双方に支えられてボン教の実践が存続する動態を研究してきた。近年中国の急速な経済発展を背景に、現金収入が増加した人びとは多くの財を宗教活動に投じることが可能になった。それが端的に表れたチョルテン(仏塔、供養塔)建設の事例では、土地神を軸とするローカルな宗教空間と、よりユニバーサルな教義が複合しながら、「村を守る」宗教シンボルが確立したことを論じた。またシャルコクは20世紀以降地域を越えて展開するボン教徒ネットワークの重要な結節点でもあり、ボン教徒が現代の社会変容の中で自らの独自性と生き残りを模索する場となっていることを論じた。そしてボン教の現状をとらえるためには、欧米、中国、日本などを含めた研究者の連携が不可欠であることにも言及した。

 研究会には各分野の研究者が参加して活発な意見交換が行われ、ヒマラヤ宗教の現代的展開とその意義を多角的に議論する場となりました。


                       (小西賢吾 こころの未来研究センター研究員)