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PJ-1 倫理学領域

PJ-1 倫理学領域プロジェクト担当

上廣こころ学研究部門(兼任)・教授 カール・ベッカー

上廣こころ学研究部門・特定助教 清家 理

サブプロジェクト

A.職業ストレス緩和による倫理観向上とこころのケア
B.倫理から見た慢性疾患患者のこころ
C.倫理的観点に基づく認知症介護改善
D.日本人の倫理とこころに基づいた終末期に対する早期支援

A.職業ストレス緩和による倫理観向上とこころのケア

上廣こころ学研究部門(兼任)・教授 カール・ベッカー

上廣こころ学研究部門・特定助教 清家 理

京都大学医学部人間健康科学部・准教授 赤澤千春

センター研修員 泉谷泰行

天理医療大学・助教 近藤 恵

大学院生 奥野元子、中嶋文子

1.これまでの研究とその背景

 現代日本は、ストレスの多い社会である。人の命を扱う医療職や、未来に希望を託す教職では、常にストレスが付きまとう。そのストレスの多くは、「完璧を目指す」倫理観とのせめぎ合い、つまり「仕事でミスをしてはならない」という倫理観と、現実に生じるミスのはざまから起きる。責任感が強く、仕事にも人間関係にも完璧を目指す人ほど、疲労や睡眠不足が重なり、ストレスが溜まる。疲労からミスを繰り返し、このミスにより人間関係も悪化する。そして、健康を損ない、様々なストレス病を引き起こす悪循環に陥る。倫理観を維持しつつも、ストレスをどのようにして減らし、やわらげれば良いのか。
 本研究は、看護師や教師という対人援助職を対象にする。看護師や教師は、医療処置・患者対応・保護者対応・学級経営・生徒指導などの多重業務による職業性ストレスが高く、休職率・離職率の上昇は社会問題にもなっている。このため、「ストレス予防研究とストレス緩和プログラム開発プロジェクト」を本年度より改変する。
 本研究では、職業性ストレスに対して二通りのアプローチを行う。(1)新人看護師の調査分析によって、ストレスの溜まりやすい要因を特定して、疲れ果ててしまった時に、仕事への「やりがい感」を高める介入を試みる。倫理観を維持し、前向きな生き方を促進し、職場での「やりがい感」の向上を創出するための教育や指導を試みる。(2)ストレスに対して効果的だとされる「瞑想」を研究し、実践指導する。「瞑想」は、落ち着きと集中力を増し、「生きがい感」を高めるといわれている。ストレスをやわらげ、心と身体の緊張をほぐし、疲労回復への効果が期待される。また、子ども達の倫理観・道徳性や思いやりを育むための情操教育にも役立つと考える。

 人は、人と人との摩擦の間で生き、そこから倫理観を学び、人間として成長して行く。この生き辛い世の中をより良く生きて行くための倫理的「道標」として、本研究が社会に少しでも貢献できればと考える。

2.研究の具体的な計画

 従来の「新人看護師のストレス予防とSOC改善調査」に関しては、約100件の協力病院からのデータが集積されており、その分析を進める。それと並行して、SOC研究会を二か月に一度開き、ベテラン看護師の見解を取り入れながら、燃え尽き予防に活用できるストレス緩和プログラムの開発を目指す。

 また、その方法の一つとして、「ストレス予防研究と教育」において看護師・教師・社会福祉関係者を対象に行ってきた瞑想(呼吸瞑想法)ストレス予防・軽減対策を活用し、瞑想や内観のセルフワークやペアワークの実践による効果を検証する。

 なお、従来行ってきたワークショップに加え、他機関(病院・学校・企業)の要望に応じて、ストレス予防・軽減のための「出前授業」を実施する。この際、瞑想の効果を測定するために、介入前後で、唾液アミラーゼや血圧の測定と、負の感情低下などの気分状態アンケートを実施し、生理的・心理的変化を量的・質的に分析して、その効果や影響を考察する。

 この調査結果を踏まえ、新人看護師・教師の燃えつき防止・改善などへの具体的な介入策を検討する。

3.関連するアウトリーチ活動・その他

 まず、二か月に一度行っているSOC定例研究会を継続実施し、情報交換・意見交換を活発に行い、新人看護師に関する情報を積極的に収集して研究への応用を図る。

 過去三年間の地道な研究活動により、参加者の口コミで、学校や病院などでのリラクセーション研修会への講師依頼の声が掛かるようになった。この要請により、簡便なストレス低減法としての瞑想を普及する土壌が育ちつつある。今年度は、京都府下の教育委員会や医療関係者の協力を得て、近郊の病院・学校などの職場に出向き、職員向けのストレス低減のためのリラクセーション研修会を行う予定である。

 一方、2011年度より継続実施されている京都府教育委員会との連携事業「子どものための知的好奇心をくすぐる体験事業(出前授業)〜こころとからだの声を聴いてみよう」においても、小・中・高校生を対象にしたストレス予防・軽減に関する授業を行い、児童・生徒の心身の健康保持・増進にも取り組む予定である。

 また、調査結果については、随時学会誌などへ論文投稿し、発表する予定である。

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B.倫理から見た慢性疾患患者のこころ

上廣こころ学研究部門(兼任)・教授 カール・ベッカー

上廣こころ学研究部門・特定助教 清家 理

大学院生 伊藤和真、駒田安紀、澤井努、赤塚京子、石川真帆

1.これまでの研究と研究の背景

 慢性疾患が急増する現代社会において、近年注目を浴びている「不妊」「アトピー」「がん」、という3つの病(やまい)を取り上げ、生命倫理の視点から見ていく。特に病に対する、「社会の認識」、「患者の理解と自己決定」、「医師-患者関係」の3つの倫理的側面から検討する。

 ①社会の認識

 ここで対象とする病は、社会においてネガティブに捉えられてきた傾向がある。例えば、不妊に対しては「女性として子どもを持たなければ一人前ではない」、アトピーに対しては「皮膚の病気は大きな問題ではない」、また、がんは「死に直結する」と捉えられがちである。しかし患者自身は必ずしも同様の認識を抱いていないばかりか、社会からの視線に苦しむことすらある。周囲の偏見や関係の悪化によって、存在意義や価値を否定されてしまいかねない。病と向き合う患者にとって、どのような社会が望ましいのか。ここでは、そういった社会の傾向や偏見を描き出し、倫理的に検討し直す。

 ②患者の理解と自己決定

 次に、患者自身の病に対する理解や、それに基づく自己決定を倫理的視点から考える。これは患者の自己決定の範囲と、それに対する社会の支援のあり方の問題につながる。その第一歩として、次のような問いからアプローチする。例えば、なぜ、どのような子どもが「望まれる」のか、患者は自分の病をどのように理解するのか、末期がん患者はどのように自己決定を行うのか、などである。これらの見解が治療者や家族のみならず、医療資源の分配や、将来の社会像にまで大きな影響を及ぼしうる。ここでは、「①社会の認識」の結果と関連付けながら、こうした倫理的問題を考えるための基盤として、患者自身の考え方を明らかにしていく。

 ③医師-患者関係

 和辻哲郎が指摘するように、倫理は人間の関係性より生じる。それは医療における医者-患者関係についても言える。特に慢性疾患において、医師の治療法に従わない患者が増加している。一方で、不妊の女性に対して医療技術を適用する場合、その女性が親となって歩む道までも考慮する必要がある。アトピー患者に対しても、病や治療に対する彼らの考えを知る必要がある。また、がん患者の疼痛緩和に信頼関係が有効であるという報告もある。 以上を踏まえても、現代の医師-患者関係の実態を明らかにする必要がある。患者に対する医師の関わり方と、医師に対する患者の信頼は、倫理的なコミュニケーションによるものであるので、その関係性を詳細に理解して支援したい。

2.研究の具体的計画

  生殖医療・不妊治療アトピーがん
4月iPS細胞/ヒト胚の道徳的地位に関する先行研究をまとめ、哲学思想を援用して検討予定人数に達するまでアトピー性皮膚炎患者に対するインタビュー調査実施身体接触の肉体的・精神的影響、患者と治療者の意識、医師・患者関係に関する先行研究を調査
5月
6月
7月新優生学思想の分析を通して「リスク」の位置づけを明らかにし、生殖の自由/権利を検討するインタビュー結果の文字起こし、分析鍼灸治療を受ける患者と彼らを治療する鍼灸師へのインタビュー調査実施
8月
9月
10月【考察】iPS細胞由来の生殖医療に付随する倫理的問題の検討考察、学会発表考察、学会発表
11月学会発表、更なる考察先行研究の考察とインタビュー調査から得られた所見とを比較し、考察
12月
1月論文作成論文作成
2月
3月論文作成

3.関連するアウトリーチ活動・その他

 がん患者に対する鍼灸治療の医師―患者関係を探るため、治療者・患者へのインタビュー調査を東京にて実施する。そして、鍼灸・指圧療法の診療現場や教育現場において参与観察することで、彼らの治療観を明らかにする。

 一方、新聞記事分析結果や、アトピー患者へのインタビュー結果について、学会にて発表予定である。

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C.倫理的観点に基づく認知症介護改善

上廣こころ学研究部門・特定助教 清家 理

上廣こころ学研究部門(兼任)・教授 カール・ベッカー

国立長寿医療研究センター・病院長 鳥羽 研二

国立長寿医療研究センター・脳機能診療部医長 武田章敬

大学院生 金田伊代、伊藤 孟

1.これまでの研究と研究の背景

 近年、認知症患者は急増の一途である。認知症疾患医療センターの整備や新薬開発等、診療体制や治療内容の進展は目覚ましいが、現時点では完治する疾患ではない。さらに、認知症の症状は、疾患の進行や薬剤の副作用、介護者の対応、生活環境等、様々な要因で変化する。家族介護者は、これらの状況に翻弄され、心身の疲弊を生じる。そして、この疲弊が、患者の状況に合致しない介護内容につながり、病状悪化の悪循環を来す。この悪循環を断ち切るために、患者の行動等を受容できずに疲弊している介護者に対し、「介護状況が悪化する一歩手前の一番大変な時」に「必要な内容と量」の支援が求められている。

 本研究では、家族や地域社会に対する日本人の倫理観を考慮し、認知症に特化した、「介護者の介護QOL(介護生活の質)向上の要素を把握する指標」を開発する。そして、その指標を用いた支援介入例の提示を行う。これによる支援が、社会と介護者双方に対して、「有効的活用」と「自律、最善の利益」の遂行といった、より倫理に即したものになると期待される。

2.研究の具体的計画

 本研究を行う上で、まず「介護負担軽減に必要な要素」が「介護QOL向上の要素」と操作的定義を実施する。まず認知症に特化した介護者のQOL指標の構成要素となる、(1)認知症における介護負担軽減に必要な要素抽出、(2)指標の試作、以上二点を研究目的とする。

 まず、介護負担に関する先行研究レビューと分析を実施する。本レビューの目的は、世界で汎用されているZBIを始めとした既存の介護負担尺度の課題の明示である。レビューの視点は、介護負担に関する国内外の尺度の分類化、介護の心理的側面の捉え方と測定尺度の分類化、ZBI、日本語版ZBIの妥当性分析研究の検証、以上の三点である。

 次に、認知症介護負担軽減の構成要素の抽出を目的に、質的調査と量的調査を実施する。質的調査では、認知症患者の家族介護者を対象に半構造化面接による聞き取り調査を実施する。調査項目は、介護内容、認知症の受容、介護上の思い(喜怒哀楽)とエピソード、社会的支援利用状況等である。一方、量的調査では、認知症患者の家族介護者を対象に、要介護者の疾患や受療状況、生活実態、介護者の心身状況や介護実態を中心とした設問設定で、アンケート調査を実施する。結果は、SPSSによる統計解析で分析を行う。以上の調査結果を踏まえ、認知症介護QOLスケールの試作化を行う。

3.関連するアウトリーチ活動・その他

 本研究の成果を以て、(1)介護当事者の声が反映される、(2)認知症医療・看護・介護状況を的確に把握でき、支援・介入の指標が提示される、(3)支援・介入した効果を測定できる、という三点の効果が挙げられる。これらの効果は、社会資源の公平分配につながる倫理的活用の指標にもなり、政策提言の一助になりうる。

 そして、これらの研究結果について、順次、認知症関連の国内外の学会発表、論文投稿、出版を行い、広く介護者に知見を提供していく。介護者がよりよい介護を実施していくために、自己対処方法の習得等、自律や自己決定等につながっていくものと期待される。

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D.日本人の倫理とこころに基づいた終末期に対する早期支援

上廣こころ学研究部門・特定助教 清家 理

上廣こころ学研究部門(兼任)・教授 カール・ベッカー

国立長寿医療研究センター・脳機能診療部長 鷲見幸彦

国立長寿医療研究センター・老年社会学研究部室長 村田千代栄

こころの未来研究センター・研修員 梶原直美

1.これまでの研究と研究の背景

 日本の医療や介護サービス等、社会資源の量に限りがある中、「社会資源等の有効で効率的な活用」対「患者や家族の意思尊重、最善の利益」等、社会的ニーズの相反が発生している。たとえば、早期に療養場所や治療内容の選択が迫られ、患者や家族に対する自己決定のための時間的・心理的余裕がないケースが目立つ。また、延命は可能になったが、患者や要介護者の意思が不明瞭か確認不可の状況に陥り、胃ろうや点滴がいつまでも施される等、患者や要介護者の意思や状況にそぐわない事態の発生が挙げられる。意識や判断能力を失う前に、患者は希望を明確に伝えていなければ、望まない医療やケアを受ける事態に陥る。つまり、事前指示書が無い限り、次の倫理的な問題が生じる。 (A)患者は望んでいる医療を行ってもらえなくなる。 (B)医療従事者は治療法の選択に葛藤や混乱を来す。 (C)患者の家族は延命や療養場所の決定について戸惑ったり、言い合ったりする。 (D)国民は、医療の優先順位が理に適わないため、過剰な医療費を税金等の財源から払わされる。 以上の倫理的な問題に対する解決法が、Advance Directive(事前指示)やAdvance Care Planning(以下、ACP)に関する海外の先行研究で示され、日本への導入も急務とされている。しかし、事前指示やACPの土台である、「自己決定」や「死の準備」に対する文化的差異が倫理的な課題となる。つまり、日本の文化に即した終末期に関する意思決定のための相談や教育等、計画的な支援内容と方法の明確化が必要なのである。

 本研究では、まずACPを「生きていく場所や方法に関する意思決定を、計画的に支援していくプロセス」と操作的に定義する。そして、日本の文化に即したACPにおける意思決定のための相談や教育等の早期支援プログラムの開発を行う。これらの計画的な支援が可能になれば、前述のA~Dまでの倫理的な問題を改善できるものと思われる。

2.研究の具体的計画

 日本文化に即したACPを開発するため、3カ年をかけ、段階的に研究を施行する。まず1年目に、国内外の先行研究レビュー、退院支援場面を中心とした、患者および家族に対する意思決定支援の実態調査や事例分析により、「意思決定」の現状分析を行う。その上で、2年目は、意思決定及びその支援に必要な要素を抽出する目的で、(1)患者や家族に対する聞き取り調査、(2)意思決定に関わる医療および看護・相談支援業務従事者、患者や家族に対するアンケート調査を実施する。その結果に基づき、ACPの試作化を実施する。そして、最終年の3年目は、試作化されたACPを用いた支援の検証研究を実施する。

3.関連するアウトリーチ活動・その他

 試作化されたACPの有効性が示された後は、本研究で開発されたACPの普及を目指した啓発活動を実施する。その一例として、研究協力機関や終末期患者が多い特別養護老人ホーム等の社会福祉施設での公開講座や関連学会での発表が挙げられる。これらの啓発活動でACPを普及し、患者や家族の自律促進やQOL向上、支援実施者の業務効率化、社会資源の効率的な活用に伴う医療費の国家財政逼迫の緩和が、効果として期待されている。

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