サンクコストの誤り:だってもったいないじゃないの心理

  • 2008-11-07 (金)

雨の中出かけて、やっと借りられた話題のDVD。なのに面白くない。見始めて5分で確信。最後まで見ても絶対つまらない。でも、払ったお金がもったいないから・・・・最後まで見ました。

こんな経験、したことありませんか?

つまんないと分かっているDVDをみてしまうようなことを「サンクコストの誤り」(Sunk Cost Fallacy)といいます。そう、これは「誤り」なのです。でもなんでこれが誤りなのでしょう?

サンク(Sunk)は直訳すれば「沈んでしまった」といった意味。だからサンクコストは、沈んでしまったコスト=もう取り返しがつかないコストということです。なぜつまらないDVDを見続けることが「取り返しのつかないコスト」の「誤り」になるのでしょうか。

ちょっと違うバージョンを考えてみて下さい。

テレビをみていたら、面白そうな映画がはじまったので見てみた。でも5分も見たらつまんなそう。さて、この映画を最後まで見るでしょうか?

そんな映画より、さっさとチャンネルをかえてしまいますよね。

そりゃそうだ。雨の中わざわざ借りてきたDVDだからもったいないじゃないか。タダで見られるテレビの映画とは違うよ。そう思いませんでしたか?それこそが「サンクコストの誤り」なのです。

なぜ?

つまらないDVDを見続けたとして、レンタルDVDショップまでの往復にかかった時間は返ってきますか?車のはねた水で汚れてしまった服はきれいになりますか?レンタルショップに払ったお金は返ってきますか?返ってこないですよね。だから取り返しのつかないコスト、サンクコストなのです。

でもどうでしょう。もう取り返しのつかないコストにこだわるよりも、今からの2時間を楽しくすることの方が、ずっと大事ではありませんか?

2時間あったら、もっと面白いテレビ番組を見られたかもしれない。友だちと楽しく電話できたかもしれない。睡眠不足を解消できたかもしれない。そもそも、タダでみられるテレビの映画だったら、さっさと見るのを止めるんじゃなかったでしょうか。
illust_20081107.jpg

だけど人間のこころはそのようにはできていないんですね。「これだけ払ったんだから、これを続けないとモッタイナイ」そう思ってしまうようなのです。他にもこんなサンクコストの誤り、してませんか?

・壊れててデカくてジャマなんだけど100万円もしたものだから。
・才能ないし好きでもないけど、10年続けてきたピアノだから。
・5万円つぎ込んだスロットマシンだから、もう1万円。

もっと大規模な「サンクコストの誤り」の例もあります。「コンコルドの誤り」です。

コンコルドとは超音速(時速2000キロ超)で飛ぶ、夢の旅客機です。ちなみに一般的なジェット旅客機は亜音速といって、時速1000キロ弱です。計画段階では、みんな「これができたら凄い!」とにワクワクドキドキしたことでしょう。しかし開発が進むにつれて、完成には膨大なお金と時間がかかること、そして実現してもそれほどの利益を生まないことがわかってきたそうです。「でも、もうこんなに時間とお金を使ってしまったから、今さら止められないんだ」という理屈でプロジェクトが進められたそうです。

2003年にコンコルドの運航は終わったのですが、Wikipediaには「コンコルドは、商業的には失敗であった」という実も蓋もない説明がつけられています。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%82%B3%E3%83%AB%E3%83%89

それにしても、なぜ人はこんな「誤り」をしてしまうのでしょうか。人の「こころ」は分からないものです。そんな「こころ」の分からなさにハマった人たちが世の中にはいて、一般に心理学者と呼ばれています。

心理学の世界には、こころについての、奇妙だったり興味深かったり俄には信じがたかったり思わず納得してしまったりするような研究結果が満ちあふれています。そうした研究成果を、皆さんに紹介して楽しんでもらえたら...。「こころ学」は、そんな風に考えています。

さて、サンクコストの誤りですが、最近、ちょっと面白い研究がありました。

West Virginia大学のJoNell Stroughさんのグループは、75人の大学生と、73人の地域住民の方に実験への協力をお願いしました。大学生は18才から27才だったので、いわば若者代表です。地域住民の方々は58才から、最高齢はなんと91才の方!中高年代表になっていただきましょう。そして合計148人の協力者に、次のような質問をしたのです。

「有料テレビで、ある映画に10.95ドル払いました。みて5分でもう飽きてきました。つまらない映画です。この先どうするか、選んでください」

・見るのを止める
・もう10分見る
・もう20分見る
・もう30分見る
・最後まで見る

有料テレビ(Pay TV)の話になっているあたりがアメリカンですね。さて10.95ドルといえば1000円強。ちょっとしたお金です。皆さんならどうしますか?

結果、若者も中高年も、サンクコストの誤りをおかしました。お金を払わずに見られる映画のときよりも、長く見続けると答えたのです。ここまでは予想どおり。気になるのは、若者と中高年の差です。だんだん頭が固くなって融通のきかない中高年のほうが、過去にしばられやすいのか。お金に余裕のない若者のほうが「もったいない」と払ったお金を惜しむのか。はたしてどうでしょう。

Stroughさんたちによると、中高年のほうが誤らなかったそうです。中高年のほうが若者よりも、理性的であったということですね。もっとも中高年もサンクコストの誤りを全くしなかったわけではないので、あくまで比較の問題ですが。ともあれ、年を取るのも悪いことばかりではないようです。

ただ、なぜ中高年のほうがサンクコストの誤りをしないのか、それは、はっきりとは分かっていないようです。筆者などは、中高年のほうが余生が短いから、時間を大切にするんじゃないか?と思いましたが、それは単なる思い付き。科学的に正しいかは、わかりません。興味ある方、いっしょに研究してみませんか?

「こころ学」今回はヒライシが担当いたしました。
次回は11月14日に更新予定。どうぞごひいきに。

Are Older Adults Less Subject to the Sunk-Cost Fallacy Than Younger Adults?
(中高年は若者よりもサンクコストの誤りにはまりにくいか?)
Strough, J., Mehta, C. M., McFall, J. P., & Schuller, K. L. (2008).
Psychological Science, 19(7), 650-652.
doi:10.1111/j.1467-9280.2008.02138.x.

(雑誌へのリンク)
Psychological Scicence
http://www.psychologicalscience.org/

- Illustration by Shinya Yamamoto.

Home > 平石 界 > サンクコストの誤り:だってもったいないじゃないの心理

Search
Feeds
    京都大学 こころの未来研究センター

Page Top