ああ勘違い

  • 2008-11-13 (木)

人の性格を表現する言葉にはたくさんの種類がありますが、中でも「温かい」と「冷たい」という2つの単語は、人の印象を決定する上でかなり重要な役割をもつことが知られています。

例えば、ある人物の印象を答えてもらうために、その人の性格が色々と並べらました。このとき、2つのグループのうち1つには「温かい」が、もう1つのグループには「冷たい」が、その人がもつ色々な性格のうちの1つとして呈示されました。

するとどうでしょう。「温かい」もしくは「冷たい」以外に示された性格は全て同じであったにもかかわらず、「温かい」と呈示されたグループはその人物に対して非常に好意的な印象をもったのに対し、「冷たい」と呈示されたグループはあまりよい印象をもちませんでした(Asch, 1946)。*1

このように、人の性格を考える上で、その人が「温かい」のか、それとも「冷たい」のかはとても大切なことのようです。

それではなぜ、人の性格を表現するために「温かい」や「冷たい」といった温度を表す言葉が使われるのでしょうか。
「温かい」性格の人の体温が「冷たい」人より高くないにも関わらずです。

一説では、子どもの頃にお父さんやお母さんに抱きしめられた記憶が影響しているのではないかと言われています。お父さんやお母さんは自分を大切にしてくれる人であり、抱きしめられると実際に温かいです。つまりこの二つが結びついて(心理学用語で「連合学習」と言います)、他人をいたわるような人物を「温かい人」と表現するようになったのではないかという仮説です。
illust_20081113.jpg

このような説明が本当に正しいかどうかはまだ分かりませんが、物理的な「温かさ」と性格の「温かさ」を結びつけた興味深い研究が、最近発表されました。

WilliamsとBarghは、物理的に「温かい」経験をすることで、そのとき一緒にいた人物を勝手に「温かい」性格と勘違いしてしまうのではないかということを、実験により確かめました。*2

この実験の参加者はまず心理学実験室のある建物のロビーで、実験室に案内する人物と出会います。
次に実験室のある階までエレベーターで移動するのですが、その時参加者は案内人から「あなたの名前と現在の時刻を記入するので、私が持っているカップを代わりに持って欲しい」とたのまれます。
実はこのカップに細工があり、全参加者のうち半分は「温かい」コーヒーの入ったカップを、もう半分は「冷たい」コーヒーの入ったカップを持たされます。
その後、実験室に到着した時点で案内者はその場を離れ、参加者は実験室に入室します。
そして、実験室に入室した参加者は、そこで待ち受けていた実験者の指示で様々な質問に回答するのですが、その中の一つとして自分を案内してくれた人物の性格の評価という項目があります。

結果はWilliamsらの予想通り、「温かい」コーヒーカップを持たされた参加者は「冷たい」コーヒーカップを持たされた参加者より、案内人を「温かい」性格であると回答しました。
単なる物理的な温度の違いが、人の性格の判断を大きく変えてしまうという、驚くべき結果です。

こうした実験結果は、人が自分でも気づかないところで、周りの影響を強く受けていることを示しています。
人の判断が実はあまり正確ではないというのは少し怖い気もしますが、人間とは案外いい加減な動物なのかもしれません。

今回は田村が担当いたしました。
今後もあっと驚くような風変わりな心理学の研究を紹介していく予定ですので、よろしくお願いします。

*1
この実験はとても有名ですので、社会心理学の教科書には必ずといっていいほど紹介されています。興味のある方は、例えば グラフィック心理学 池上知子・遠藤由美共著 サイエンス社 17ページ などをご参照ください。

*2
Experiencing Physical Warmth Promotes Interpersonal Warmth.
(物理的な温かさの経験は個人間の温かさを促進する)
Williams, L. E. & Bargh, J. A. (2008). Science, 322, 606-607.
DOI: 10.1126/science.1162548

(雑誌へのリンク)
Science
http://www.sciencemag.org/

- Illustration by Shinya Yamamoto.

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