- 2011-01-06 (木)
皆さん、ご無沙汰しております。
お元気でしたか?
「こころ学」担当の田村です。
今回は、人間は「他人の目」がとっても気になるというお話をしたいと思います。
皆さんはよくファーストフード店や学校のカフェテリアで、ランチやお茶をすると思います。
こうしたお店の多くではセルフサービス方式を取っているため、食べ終わった後に食器を自分で片付けなければいけません。
このとき皆さんは、きちんと食器類を片付けるでしょうか。
それとも、たまには片付けを面倒に思って、つい食器類をテーブルの上においたまま、席を離れたりしませんでしょうか。
お店の人にとって、食器類を片付けてくれないのはとても困ります。
それではどうしたら、利用者に食器類を片付けてもらえるのでしょうか。
レジでの会計の際に片付けてもらうようにお願いする? それとも時々店内を見回って、片付けない人がいたら注意する?
どちらも、効果が見込めない、あるいはお店の人の負担が増えてしまうため、あまり良い案ではなさそうです。
イギリスのニューキャッスル大学のマックス・E・ジョーンズさんたちは、「他人の目」に注目してこの問題を考えました。(*1)
言うまでも無く、人は他人の目を気にする存在です。
ごみをポイ捨てする回数は、人に見られている時より見らてれいない時の方が圧倒的に多いでしょう。
そこでジョーンズさんたちの研究グループは、人の目があればカフェテリアの食器置き去り率は低くなるだろうと考えました。
しかも、本当の生身の人間の目でなく、単に目の写真をポスターにして壁に貼るだけでも効果があるという仮説を立てました。
と言いますのも、これまでの実験室の中での研究で、目の形状をしたものが視界に入ると、人は他人に対して協力的に振舞うようになることが明らかにされているためです。(*2)
ですのでこの研究は、今まで実験室の中で明らかにされてきた現象が、日常世界でも生じるかを確認するための研究でもあります。
また、ジョーンズさんたちは目の効果だけでなく、「食べ終わったら食器を片付けてください」という片付けについての注意文の効果や、一緒に食事やお茶をする人数の影響についても同時に検証しました。
実験会場は大学のカフェテリアで、ポスターは以下の4種類でした。
(1)目有り・注意文有り
(2)目無し(代わりに花)・注意文有り
(3)目有り・注意文無し(代わりに「飲食は当店で購入した物のみとしてください」というお願い)
(4)目無し(代わりに花)・注意文無し(代わりに「飲食は当店で購入した物のみとしてください」というお願い)
それではどのような結果となったでしょうか。
まず、本研究で一番見たい目の効果ですが、やはり目がないよりもあるほうが、食器の置き去り率は低くなりました。
目がないと35%位の人が食器を置き去りにしたのに対し、目があるとその比率が20%程度と大幅に減少しました。
一方で、注意文があってもなくても、置き去りにされる比率は変わりませんでした。
また、グループのサイズが大きくなるほど、置き去り率は高まるという結果になりました。
これらの結果は、①人はたとえ本物でなくても、他人の目があることであることで、食器を片付けるようになる、②片付けの注意文は食器の片付け率向上にほとんど効果を持たない、③グループの人数が大きくなると、気が大きくなるのか、はたまた個人が特定されにくくなるためか、片付け率が低下する、ということを示しています。
注意文より目の写真の方が効果があるという、なんとも興味深い結果ですね。
さてここで、私が以前このブログに書いた「無秩序の連鎖」という記事を思い出してみてください。(*3)
そこでは、道沿いに落書きがされていると、どんどんゴミがポイ捨てされるのに対し、落書きのないきれいな道だと、なかなかポイ捨てが起こらないという実験結果をお伝えしました。
これら2つの実験結果をあわせて考えると、公共の施設をきれいに保つためには、落書きはすぐに消し、目の写真やイラストを壁などに貼っておくと良いのかもしれません。
実際私の住む東京都では、目のイラストをポスターにし、町内会の掲示板などに貼り付けています。(*4)
もしかしたら、迷惑行為や犯罪の抑止に効果を挙げているのかもしれません。
もう一つこの研究が示す興味深い点は、人間にとっての他人の目の重要性です。
今回の実験では、人の目を実物ではなく写真により実験参加者たちに提示しました。
にも関わらず実験参加者たちは人の目に反応してしまっています。
偽物までにこのような反応を示すということは、人はよっぽど他人の目が気になるようです。
他者と仲良くする、あるいは他者を出し抜くために、多少間違ってもいいから他人の目らしきものには注意を払うことが得であったので、人間、あるいは人間の祖先であるチンパンジーをはじめとした霊長類たちは、長い進化の歴史の中でこのような心理的形質(心の癖のようなもの)を身に着けたのかもしれません。
今回紹介した研究は、実験室で蓄積された研究成果を実社会で応用する可能性を切り開く、非常に重要な研究だと思います。
実験室での研究成果をどんどん実社会に還元できると、世の中はもっと豊かになるのではないでしょうか。
今回は田村が担当いたしました。
次回もまたよろしくお願いいたします。
(*3)
http://kokoro.kyoto-u.ac.jp/jp/kokorogaku/2008/12/post_5.html
(*4)
http://www.city.machida.tokyo.jp/kurashi/bouhan/youhintaiyo/taiyo_dareka/
http://www.chokai.info/areanews/006136.php