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SNSカウンセリングにおける相談員の専門性

研究課題      SNSカウンセリングにおける相談員の専門性

研究代表者     杉原保史  京都大学学生総合支援センター センター長・教授

共同研究者     河合俊雄  京都大学こころの未来研究センター 教授
          田中康裕  京都大学大学院教育学研究科 教授
          内田由紀子 京都大学こころの未来研究センター 教授
          畑中千紘  京都大学こころの未来研究センター 特定講師
          鈴木優佳  京都大学こころの未来研究センター 特定助教
          中山真孝  京都大学こころの未来研究センター 特定助教
          粉川尚枝  京都大学こころの未来研究センター 特定研究員

(1)研究目的
自殺やいじめをはじめ、現在の日本社会における精神・心理的問題は深刻さを増している。昨今、コミュニケーションツールは若年層を中心にSNS へ移行しており、「いのちの電話」など電話相談が担ってきた機能をSNSベースで構築し、アクセシビリティの高い相談体制を確立することが緊急の課題となってきた。こうした要請に応え、2017年に「LINE」アプリを使ったSNSカウンセリングが初めて導入されることとなったが、対応数の約5倍のアクセス数があるなど、その潜在的ニードは相当に高い状態であることが明らかになっている(杉原,2018)。さらに2020年初頭からの新型コロナウイルスの流行によって、非接触型でどこからでも相談が可能なSNSカウンセリングは、緊急時の心理支援システムとして一層注目が集まっており、専門的対応ができるSNS相談員の育成は喫緊の課題となっている。
申請者はこころの未来研究センターの「SNS 相談とコミュニティ支援」プロジェクトにおいても研究チームのメンバーとして参画してきたが、本研究では特に相談員の専門性についての検討を進めたい。現在、公認心理師・臨床心理士等の専門家の参入が追いついていない状況にあるが、現状の相談ニードの高さに鑑みれば、今後も相談事業が増加の一途をたどることはほぼ間違いない。社会福祉士やキャリアコンサルタントなど、心理職以外の専門家はもちろん、準専門家や非専門家を含めた幅広い人が短期的訓練を経てある程度の相談技能を身につけられるシステムを作ることは、SNS カウンセリングをよい形で社会に根付かせていくために必須の課題である。本研究ではまず、異なる職業的専門性が、どのような特徴の応答を生み出しやすいかについて検討する。具体的には、相談事業を行っている外部団体と連携し、ロールプレイシステムを用いて、異なる職種の人に相談員役として参加してもらう。そのログデータの質的分析・テキスト分析等から相談員の対応の違いを明らかにし、効果的な対応を育むためのポイントなどについて多角的な分析を実施する。加えて、相談員や相談者の職種・パーソナリティによって、目指す対応や実際の対応がどのように異なるかを明らかにすることで、多様な相談者に柔軟に対応するコンピテンスを高めることを目指したい。これらの結果は、連携する事業所に適宜フィードバックし、相談員のスキル向上や育成に活用していく。
これにより、「SNSカウンセリングを有効なものとする要因は何か」「SNSカウンセリングにおける専門性とは何か」を実証データに基づいて明らかにし、初学者・非専門家がSNS相談員としての専門的技能を高めるための訓練プログラムを構築するためのエビデンスを提供することを目的とする。

(2)期待される効果
従来の理論ベースではなく、現象に基づいた形で検証を行うことで、新しい相談形態であるSNSカウンセリングの可能性を狭めることなく、相談員の専門的応答技術や臨床的姿勢について議論することができるであろう。それはSNSカウンセリングの訓練システムの構築に貢献するばかりでなく、現場で生じがちな主任相談員と相談員の摩擦を和らげ、健全な体制を構築することにも資すると考えられる。また、異なる職種の応答を同時に検証する先行研究はほとんど例がないため、それぞれの専門性についての議論も深まることが期待される。さらには、相談員のスキル向上によって、SNS カウンセリング全体の相談の質が向上することとなり、社会全体に成果が還元されることにもなり得るだろう。これにより、相談員の技能不足によって生じている問題を解消し、専門性の高い相談員養成プログラムを提案し、持続的に社会に貢献できるSNSカウンセリング体制を構築することを目指したい。

2021/06/15

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