こころの未来講演会
講演者と演題
「学習のダイナミックなループと創造性」下條信輔氏
(カリフォルニア工科大学 Division of Biology 教授)
認知科学、神経科学は、学習意欲の促進に「役立つ」だろうか。ただちに有用であるかは疑わしい。だがもしそれがあり得るとすれば、教育の認知的、社会的な基盤に関わる問題意識においてだろう。ここでは発表者の研究上の関心や、科学技術振興機構ERATO「下條潜在脳機能プロジェクト」との絡みで、いくつか重要と思われる側面を検討したい。
(1) 「好きこそものの上手なれ」という。また、棒暗記するよりは好きになる方が長い目で見れば良いともいう。しかし問題は「好きになる」メカニズムそのものが、心理学的、神経科学的に未解明であることだ。この点で参考になる知見を私たちは得ている(視線のカスケード効果)。
(2) 受け身の学習よりは能動的な探索がより望ましいことも、常識的に言われている。しかしここでも、「能動的な探索」がいかにして生じるのかという肝心な点が理解されていない。私たちの研究は、記憶がいかにして自発的探索と選好判断に影響を及ぼすか、その一端を示した(新奇性vs.親近性) 。他者の重要性も示される。
(3) 上記(1)、(2)をまとめて、記憶-定位-選好-選択-記憶…というループを考えることができる。報酬探索のダイナミクスが、意識的な選好判断とさらなる探索を導いている。
(4) ほとんどあらゆる種類の学習が、いわゆる暗黙知(M. ポランニ)と深い関わりを持っている。この暗黙知という語は、非言語的なスキル、感覚運動協応、直感的な知覚ヒューリスティクスなどを指して使われる。手続き的な知識が、あらゆる場合に鍵となる。
(5) 古典的な認知科学の計算モデルは役に立たない。注意の資源には固定した上限があり、分割されればパーフォーマンスが落ちるという前提そのものが、疑わしい。
(6) 創造性(=独創的な発明/発見をする能力)の背後にある神経-認知メカニズムを、上記のループと暗黙知から理解することができる。独創性を高めるトレーニングも、少なくとも理論上は可能である。
開催日時 2008年12月4日(木) 15:00-16:30
場所 稲盛財団記念館 大会議室
2008/10/31