河合教授、畑中助教、梅村研究員が日本ユング心理学会第5回大会に登壇しました
河合俊雄教授、畑中千紘助教(上廣こころ学研究部門)、梅村高太郎研究員が、2016年6月11日・12日に学習院大学(東京都豊島区)で開催された日本ユング心理学会第5回大会に登壇しました。
河合教授は、11日のプレコングレスのシンポジストを務め、12日の研究発表の指定討論をおこないました。プレコングレスでは、学習院大学教授で民俗学者の赤坂憲雄氏が、「海の彼方より訪れしものたち」という題で講演し、それについて川戸圓氏(川戸分析プラクシス、大阪府立大学名誉教授)とともに討論しました。
シンポジウムの題は、赤坂氏の著書『ゴジラとナウシカ』の副題で、震災を意識したものです。講演の中で赤坂氏は、海岸線というのがいかに動きやすいものであったか、古代の日本人はすぐれた航海術をもっていたけれども、星によるものではなくて、目に見える山や島を頼りに航海していたこと、南の海という意識はなくて、そこは虚無であったこと、数少ない津波の昔話で、ものを言う魚を食べると津波がきて村が呑み込まれることなど、海から訪れるもの、海についての日本の古来の表象について興味深い話を披露しました。そして浄化してくれる海が、キャパを超えたり、それを文明が傷つけた現代の問題を指摘しました。それを受けて河合は、動く海岸線などの話を心理学的に受けとめると、生死や意識と無意識の境界があいまいであること、星による絶対的なオリエンテーションではなくて、島などによる具体的な関係性が大切なこと、自然は偉大で、それを支配する(食べる)という行為はありえなかったこと、しかし自然に対する無垢さを失ってしまった現代の課題を指摘しました。
研究発表では、河合教授は「夢と現実の接点―セラピストが夢を通じてクライエントに出会ったと考えられた事例」における指定討論者としてコメントをおこないました。
畑中助教は、「現代における物語と心理療法のかたち -イメージの断片化と自己再生産の視点から」というタイトルで口頭発表をおこないました。これは、「物語」というパラダイムが通用しにくくなっている現況を踏まえつつ、現代を「物語がない」時代とみるのではなくて、「物語の形が変わってきている」とみることによってどのような可能性が見えてくるかについて議論したものです。この中では現代の物語の形として、「寄り添い合う物語」「自己再生産する物語群」「瞬間の物語」の3つをとりあげ、それぞれの物語が互いに関わり合うことに敏感になりつつある傾向を指摘しました。そして最後に「他者との交差のなかに生まれる物語」として、自己や物語という枠組みが弱くなってきている昨今では、「自分の物語」「自分が語ること」に固執することなく、自他が交錯し合うその間に物語が生まれる可能性があるのではないかと提案をおこないました。
また、同じく12日に梅村高太郎研究員は、事例研究発表として「悪に目覚める発達障害男児とのプレイセラピー」というタイトルで発表をおこないました。
日本ユング心理学会第5回大会
http://www.jajp-jung.info/conference.html
2016/07/09