2013年度こころの科学集中レクチャーを開催しました
2013年度こころの科学集中レクチャー「こころの謎~文化・進化と心:『人間=文化的生物』の不思議に迫る~」が、2014年3月4日〜6日、稲盛財団記念館大会議室で開催されました。
こころの科学集中レクチャーは、2009年度から5度目の開催となります。3人の講師陣による講義が3日間に渡って繰り広げられ、参加者とのディスカッションに加え、講師同士が徹底的に議論をおこなうスタイルで、参加者からは「刺激的でワクワクする3日間」として評価をいただいています。
今年は「こころの謎~文化・進化と心:『人間=文化的生物』の不思議に迫る~」をテーマに、社会科学の最前線で活躍する北山忍ミシガン大学心理学部教授(こころの未来研究センター特任教授)、大平英樹名古屋大学大学院環境学研究科教授、増田貴彦(アルバータ大学心理学部准教授)にご登壇いただきました。講義ごとに質疑応答、ディスカッションの時間が設けられ、受講生(京都大学の学部生・大学院生ならびに学内外の研究者・大学院生)50名との活発な議論が繰り広げられました。
1日目の北山忍教授の講義においては、「なぜ心理学者が文化の研究をおこなうのか」という問いかけからはじまり、心の働きは文化を前提としてできあがったシステムであること、文化を問うことは心の働きを解明するための本質的な作業であることが論じられました。文化が私たちにもたらす「意味」の世界は個人の頭の中の「認知的表象」としてあるだけではなく、人々の間に共有される現実であることについて、哲学や心理学、人類学のこれまでの知見に触れながら説明されました。その後、「怒り」の表明についての比較文化研究や生理学的反応を指標にした研究、遺伝子と文化の相互作用研究など、文化神経科学の最新の知見が呈示されました。
2日目の大平英樹教授の講義では、特に不確実性下では、直感や感情に基づいた意思決定がおこなわれがちであること、そして脳と身体の双方向的な影響が選択を導いているということについて、神経画像と生理反応の同時測定により詳細に検証された研究事例が呈示されました。たとえば心拍など、目で見て確認することができない内側の身体感覚(内受容感覚)がリスク回避などの意思決定につながるメカニズムを、脳機能との関連から解説されました。後半では正義(justice)や平等性についての判断に関わる意思決定の進化生物学的ならびに生理学的基盤やサイコパシーとの関連について、最新の研究事例とともに論じられました。
3日目の増田貴彦准教授の講義では、これまでおこなわれてきた思考様式における洋の東西の文化差について解説がなされた後、これらの文化差が発達のどの段階から生じているのか、比較認知発達研究の事例を交えて紹介され、子どもの文化的認知・思考様式は親とのインタラクションの中で獲得されていく可能性が示されました。後半では芸術作品・デザイン・広告などの「文化的産物」の研究を概観し、こうした研究が文化とこころの関係を探る上でどのような役割を担うのか、文化的産物は歴史あるいは個人の発達の過程でどのように変化しうるのかについて議論がなされました。
毎回の講義後には講師3名と受講生を交えた徹底的なディスカッションが行われ、文化と心の関係を支える生理・神経科学的基盤とは何か、などについて意見が交わされました。トップクラスの研究者である講師陣の関心事から、こころの科学のおもしろさが再認識される、刺激的な3日間でした。
・一流の研究者がまとう雰囲気、ふるまいを体感することができ、それはとても大きい喜びであった。文化心理学の成り立ちの問題意識が何であるかというところ、遺伝子学的な視座まで展開されて初学者であっても理解しやすかった。(学生/理系)
・大変勉強させていただきました。またパブリッシュされていないような新鮮な研究に数多く触れることができ、自身の研究にも大きな刺激になりました。神経科学、分子遺伝学に加えて免疫系、生理反応まで含んだ非常に包括的かつ緻密な研究についてわかりやすくお話いただいたので、視野・理解が深まる大変有意義な時間でした。(学生/心理学)
・大変刺激的でした。まずアプローチがどれもユニークで、とても興味深かったです。先生方を中心としたディスカッションでは鋭く、しかも建設的な意見が飛び交い、新たなアイディアが誕生していくのを目の当たりにできたのもすばらしい経験でした。(学生/理系)
・文化差に焦点を当てた北山先生、脳神経科学にまで踏み込んだ大平先生、文化差と認知の関係についての増田先生のそれぞれのお話は三者三様でしかも日を追うにしたがってそれらのお話を関連させるように議論が進んでいくのが大変面白かったです。(研究者/理系)
(報告:内田由紀子こころの未来研究センター准教授)
[開催ポスター]
[DATA]
2013年度こころの科学集中レクチャー 文化・進化と心:「人間=文化的生物」の不思議に迫る
▽日時:2013年3月3日(火)、4日(水)、5日(木)10:00〜17:00
▽主催:京都大学こころの未来研究センター 「こころ学創生:教育プロジェクト」
▽講師:北山忍(ミシガン大学 心理学部教授 文化・認識プログラム所長/専門:文化心理学、文化神経科学)、大平英樹(名古屋大学大学院環境学研究科教授/専門:整理心理学、認知科学、精神神経内分泌免疫学)、増田貴彦(アルバータ大学心理学部准教授/専門:文化心理学)
▽企画・進行:内田由紀子(こころの未来研究センター准教授)
▽プログラム:
3月3日(火)
講義1+ ディスカッション 「文化脳神経科学の視点」(北山)
講義2+ ディスカッション「社会・文化、生物的健康、長寿:炎症反応を手がかりに」(北山)
3月4日(水)
講義3+ ディスカッション「意思決定を支える脳-身体の機能的相関」(大平)
講義4+ ディスカッション「身体化された正義」(大平)
3月5日(木)
講義5+ ディスカッション「文化と認知:発達科学との協力にむけて」(増田)
講義6+ ディスカッション「文化と表現:文化的表象研究からわかること」(増田)
▽参加者数:50名
2014/03/12