エルキ・フータモ教授講演「メディア、運動、交通、― 考古学的探究 ― 」を開催しました
2018年12月15日、吉岡洋特定教授の進行と通訳で、エルキ・フータモ教授講演「メディア、運動、交通、―考古学的探究―」を稲盛財団記念館3階大会議室で開催しました。講師のエルキ・フータモ教授は、UCLAデザイン・メディアアート研究科教授で、メディア考古学の創設者の一人として広く知られています。
フータモ教授の講演は、まず19世紀初頭に書かれた1枚の挿絵から始まりました。それは、その頃流行っていた「万華鏡」を夢中になって覗いている紳士(実は音楽家のフランツ・シューベルト)が、やはり当時流行のキックバイク(ペダルのない自転車)に乗る別の男とぶつかっている絵です。200年前の絵ですが、万華鏡をスマホに、自転車を今アメリカで問題になっている「eスクーター」に置き換えると、これは現代のカリフォルニア大学のキャンパスで見られる光景と同じなのです。このように「メディア考古学」とは、一般に「最先端」と思われているメディアと人間の関わりが、実は古い起源を持っていることを歴史的事実によって明らかにしてゆく、きわめて興味深い学問です。
今回のテーマは、メディアと交通の関係を中心にするものでした。テレビ、パソコンなどのメディアは最初はどこか特定の場所に置かれ、観たり操作したりするものでしたが、小型化と共にしだいに移動しながら使うことができるようになり、現在ではモバイル全盛時代となっています。メディアがモバイルになっただけではなく、スマホなどのメディアを使って”Uber”などの様々な新しい移動手段が開発されており、それは鉄道などの従来の交通手段によって最寄駅に着いた後、自宅までの「最後の道のり(”Last Mile“)」を移動するものとして話題になっています。
今回フータモ教授が紹介された実例は、空中を飛ぶ大型のドローンのような無人のタクシーや、電動で走るキックボードのような「eスクーター」です。タクシーの方はまだ実験段階ですが、eスクーターはごく最近アメリカで爆発的に広がっており、若者を中心に大流行しています。スマホのアプリで空いているeスクーターを見つけ、好きなところで乗り捨てることができるため、便利でエコであるという点で支持されている反面、乗り捨てられたeスクーターが邪魔になったり、衝突の危険性などで問題にもなっています。eスクーターは日本ではまだ導入される兆しはありませんが、それは自動運転が実現された時の問題とも重なっており、メディアと交通の未来を考える上で、様々な課題を私たちに突きつけるものだと言えます。
会場には、学生、研究者、一般の方々が参加され、質疑応答の際には講演中に話が出た、「eースクターは、公共の乗り物に持ち運べるのか?」「“Last mile”の語源はどこからきたのか?」などの質問や、「過去の研究をしてきて、これからのことにどう生かしていくのか?」「新しいテクノロジーによって人間は幸福になるのでしょうか?」といった質問もあり、フータモ教授と活発な意見交換がされました。
・「今回のセミナーでは、メディア学から見た自動運転システムやシェアサービスの認識を理解でき、見識を深められました。また、海外の技術応用の現状も知ることができ、その点でも有意義でした。」
・「狭義のメディア理論に限定されず、日常生活における知覚や移動といった行動への意識を促す議論であってほしいと思います。」
・「ITと人間とどう共にかかわりあっていくかを考えていきたい。」
・「時代の過渡期に過ごす中の不安を軽減していただき、ありがとうございました。」
[DATA]
エルキ・フータモ教授講演「メディア、運動、交通 ―考古学的探究―」
▽日時:2018年12月15日(土)15:00~17:30
▽会場:京都大学稲盛財団記念館3階大会議室
▽参加人数: 約20人
主催:京都大学こころの未来研究センター
2018/12/25