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「多感覚コミュニケーションのケア技術『ユマニチュード』の人間観」を開催しました

 2019年3月23日、吉川左紀子教授の企画・進行で、こころ塾2018公開講演会 「多感覚コミュニケーションのケア技術『ユマニチュード』の人間観」を稲盛財団記念館3階大会議室で開催しました。

 目を見る、語りかける、触れるというさまざまな感覚を駆使するケアの技法「ユマニチュード」。フランスで生まれたこのケアの名称には、人間らしさを取り戻す、という意味が込められています。ユマニチュードの創始者であるイヴ・ジネスト先生をお招きし、このケア技術がどのような人間観に基づいて考案され、介護やケアの現場で活かされるようになったのか、この技法の根底にある考え方について、お話しいただきました。

 1979年、イヴ・ジネスト先生は、ロゼット・マレスコッティ先生とともに、病院職員の腰痛予防や、患者さんの移動技術を指導するために、病院で働き始めました。ジネスト先生は、当時病院で行われていた、人間らしいやりとりのほとんどない、寝たきり状態でのケアの現場を見て、非常なショックを受けたそうです。それまで体育教師として、健康を維持するには体を動かすこと、生きていることの証は動くことと教えていたのに、当時フランスの病院では動きを抑制し、話しかけることもなく、「人間らしくあること」とは正反対のケアが行われていました。そうしたつらい経験をきっかけに、ジネスト先生たちは今日まで3万人を超える患者さんと向き合い、患者さんが「人間らしくあること」を支える400の実践的なケア方法、ユマニチュードを編み出しました。

 ユマニチュードは、「見る・話す・触れる・立つ」という4つのコミュニケーションの要素を軸に、「あなたは大切な存在です」という気持ちを伝える技術です。ジネスト先生は、フランスの施設で実践されているユマニチュードケアの様子を映像で示しながら、患者さんが劇的に変化していく事例を紹介しました。

 ユマニチュードは、自由、平等、博愛の思想に基づいて生み出されたもので、ジネスト先生は、「私は人間にとって、自由が大切だと思うので、ケアでも相手の自由を尊重します。身体拘束は自由の尊重に反するので行いません。また、人間は平等であると考えますので、相手を平等に扱います。そして、人間には愛や優しさが重要だと考えているので、相手の目を見、話しかけ、触れることで愛や優しさを届けます。自分が考えていることをケアで実践しています。」と話しました。

 講演の最後に、ジネスト先生は、人が健康を損ねたり、認知機能が低下したり、他者に依存せざるを得ない状況になっても、ケアする人がユマニチュードの哲学をもち、ユマニチュードのケアで接することで、人が尊厳を取り戻し、“人間らしい”存在であり続けることは可能です、と締め括りました。

 質疑応答では、「ユマニチュードの効果について、エビデンスはありますか」「薬としてのオキシトシンの効果について教えてほしい」「医療の現場で患者さんの転倒防止のため抑制しています。患者さんの自由を奪っていますが、どうしたらいいでしょうか」「医療の現場以外でも、ユマニチュードは適応できますか」など、会場からの質問について、日本でユマニチュードの普及活動をされている本田美和子先生(独立行政法人国立病院機構東京医療センター総合内科医長)とジネスト先生が答えました。


 吉川左紀子教授

 

 イヴ・ジネスト先生




 本田美和子先生

 会場の様子



〇受講者の感想(開催後のアンケートから抜粋)
・「高齢者介護に携わる職員としては、介護技術を学ぶことに目をむけがちですが、倫理や精神面についてもくり返し立ち返ることが必要であると、今回の講演で実感できました。(介護福祉士)」
・「人間の尊厳を具体的に尊重するかについて、多大にインスパイアされました。人は誰でも生まれてから死ぬまで人として接してもらいたいと願うものだと考えられます。ユマニチュードは確実に社会に広がる必要があると確信させられました。(教員)」
・「言葉かけの大切さ、ふれあう大切さ、忘れることなく仕事に活かしていきたいです。介護の仕事の中で時間に追われ、忘れがちな愛情を込めるということ、再度認識した一日でした。(介護福祉士)」
・「認知症ケアに携わってきましたが、やれているつもりで、できていないこと、根本的に考え方を変えるというより「できない」と思っている頭の制限を外すことが大切だと思いました。(介護福祉士)」
・「ユマニチュードを研修会などで取り入れたりしています。今回ジネストさんの生の声を聴くことができ、改めてユマニチュードの大切さを実感することができました。何もできない人、何もわからない人、話さない人とせず、丁寧なかかわりをもつことをきっちりと伝えていきたいと思いました。(看護師)」
・「今回の話は、ユマニチュードの哲学にふれた話でとても興味深かったです。今、倫理が問われる時代になり、マニュアルや心のない業務ですれ違う介護や社会的な動向にいろいろな意味で欠けているのはユマニチュードであると思う。(介護福祉士)」
・「今回の講演で涙が止まらなかったです。日本のつらい現実をみてきたからです。ケアの方法をかえなければいけないと痛感しました。もやもやしていたことに解決策があると知り、少しほっとしました。イヴ先生の思いをつなげていきたい。(看護師)」
・「考えることを忘れて当たり前に尊厳を奪うような仕事の仕方をしていたのではないか反省しました。自分の行為、思考を自分に問いかけ、ケアをして行きたいと思います。(看護師)」


[開催案内]



[DATA]
「多感覚コミュニケーションのケア技術『ユマニチュード』の人間観」
▽日時:2019年3月23日(土)14:00~17:00
▽会場:京都大学稲盛財団記念館3階大会議室
▽プログラム:
ユマニチュードの人間観1:私たちが権利を失うとき
ユマニチュードの人間観2:ケアする人とは何か
(フランス語通訳:高野勢子)
▽参加人数: 157人
主催:京都大学こころの未来研究センター

2019/04/23

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