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広井良典教授が日本看護研究学会第45回学術集会において基調講演を行いました

 広井良典教授が、日本看護研究学会第45回学術集会において基調講演を行いました(大阪国際会議場、2019年8月21日)。

 日本看護研究学会は、広く看護学の研究者を組織し、看護学の教育、研究および進歩発展に寄与することを目的とする団体で、4つの国立大学教育学部特別教科(看護)教員養成課程から発足した、日本で最初の看護の学会です。第45回となる今回の学術集会は、「研究成果をためる つかう ひろげる――社会に評価される看護力」との全体テーマのもと8月20日―21日の2日間にわたって開催され、広井教授は第2日目に「ケアの科学と政策」と題する基調講演を行いました。

 

●講演要旨『ケアの科学と政策 』●

 人間は“ケアする動物”とも呼ぶべき存在であり、脳の構造にそくして見れば、社会的コミュニケーションや感情に関わる大脳辺縁系と呼ばれる部位が大きく発達した生き物である。これは近年関心の高いAIが有しない機能であり、まさに人間を人間たらしめているのが「ケア」という営みに他ならない。  

 こうしたケアと「科学」はどう関係するだろうか。私たちが現在「科学」と呼んでいるものは、17世紀の科学革命と呼ばれる現象を通じてヨーロッパに誕生した西欧近代科学を指しているが、そうした近代科学は、①人間と自然(観察対象)との切断を通じた「自然のコントロール」、②個別の事象は一般的な法則に還元できると考える「還元主義」、という二つの特質をもっている。こうした近代科学のあり方は、対象との相互作用や共感が本質的な意味をもち、また一般的な法則に還元できない対象(患者さん一人ひとり)の個別性への配慮が重要となる「ケア」とは対立する面があった。しかし近年においては、科学そのもののあり方が現代的な変容を遂げる中で、ケアについての研究が、これからの時代の新たな科学の方向を先導するという意味をもつようになっているのではないか。こうした点を、「ケアとしての科学」という視点にそくして論じてみたい。  

 一方、看護を含めてケアに関する領域は、医療保険や社会保障制度といったシステムの中に位置づけられており、公的な制度や政策と不可分の関係にある。したがって、看護などケアについての経済的評価という点が重要な課題となるが、日本の医療保険制度における診療報酬はもともと診療所をモデルに策定されたという経緯もあり、入院医療や看護、チーム医療、高次医療等について十分な評価がなされているとは言い難い面をもっている。 また、ケアにおいては「時間」という側面が重要な意味をもつが、市場経済においては十分評価されにくい時間の要素をいかに評価していくかという点も重要な課題である。さらに、ケアについての経済的評価は「生産性」という概念の再考とも関わり、“人が人をケアする”領域についての積極的評価という点が大きなテーマとなる。  

 以上のほか、ケアと超高齢・人口減少社会、ケアと死生観など、ケアをめぐる現代的な課題は多岐にわたるが、「ケアの科学と政策」という視点を軸に幅広い視点から考えてみた。 

日本看護研究学会第45回学術集会ホームページはこちら  http://jsnr45-2019.umin.jp/

2019/08/23

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