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第4回震災関連シンポジウム「こころの再生に向けて」が開催されました

130709shinsai.png■テーマは「震災と語り」――被災地からの報告。
 第4回東日本大震災関連シンポジウム「こころの再生に向けて」が7月9日、京都大学稲盛財団記念館大会議室で行われました。
 こころの未来研究センターでは、東日本大震災後に「震災関連プロジェクト」を立ち上げ、被災地での調査活動やこころのケアに関する支援活動を継続して行っています。第4回目を迎えた震災関連シンポジウムは、「震災と語り」をテーマに宗教学の専門家をはじめとする多彩な講演者を迎え、開催しました。
 司会者の鎌田東二教授による鎮魂の法螺貝が鳴り響いたのち、被災により亡くなった方々のために参加者全員で黙祷を捧げました。鎌田教授は第一部の主旨説明で、これまでの震災プロジェクトにおける調査研究活動の報告を行い、追跡調査時に聞いた釜石での被災者の少女が他の者には見えなかったものを見たという事例を紹介。「震災後の被災地における『幽霊の語り』『喪失の語り』『グリーフケア』『スピリチュアルケア』、そこに動いている『こころ』と『こころの再生』について考えていきたい」と、話しました。
 はじめに、高橋原東北大学准教授と鈴木岩弓東北大学教授が「震災後の幽霊の語りと民族」をテーマに研究報告を行い、高橋准教授は多くの被災地が「幽霊」の目撃体験を持ち、悩みを抱えることへの各宗教者の対応について事例紹介し、「今後は医師、社会福祉士、臨床心理士、宗教者それぞれのアプローチから被災者に気配りをし、人間を”全体”として捉えた対処法を行っていくべき。引き続き心霊の問題がどう対応されているか調査していきたい」と話しました。続いて、鈴木岩弓教授は死後の霊魂に関する調査データを紹介しながら、「怪異現象」の事例の数々と伝達パターン、「怪異の場」としての遺体安置所となったスポーツアリーナ「グランディ」を巡る事例を紹介。自身や知人の体験なども交えつつ「科学の領域を逸脱せずどうこれから研究していくべきかがテーマ」と考察しました。
P7094919.JPG 上記ふたつの発表に対し、こころの未来研究センターの河合俊雄教授がショートコメントを提供し、「被災者の絆と癒しを考えると、個人、家族、コミュニティという観点ではまだ狭い。自然、あるいは亡くなった人の霊まで考えていくことが大事」と述べ、ユングが第二次世界大戦前に書いた『赤の書』を紹介しながら、臨床心理学者の視点から見た「死者と繋がり、こころの再生へと向かう」ためのこうした現象の捉え方、考え方を提示しました。
■「喪失を生きる力へ」「宗教は悲しみを力に変える装置」。
 続いて、やまだようこ京都大学名誉教授・立命館大学特別招聘教授が「喪失の語り 負の体験から立ち直るナラティヴ」というテーマで発表。震災で実際にあった負を転換する語りのケースや被災地での語りの実例を紹介し、語りを生きる力へと繋げていくプロセスを丁寧に紹介し「死者と共に生きる物語」の大切さを説明しました。負を転換するイメージ画を使ったビジュアル・ナラティブレッスンの開発にも取り組んでいるやまだ名誉教授は、喪失の物語自体の意味付けを変えていく方法論の必要性と、生きる力を生み出す「語りの力」、大震災の喪失体験において力を発揮するナラティヴ・アプローチの価値を強調しました。
 最後に、島薗進東京大学名誉教授・上智大学グリーフケア研究所所長が「震災とグリーフケアの語り 『悲嘆』に寄り添い生きる力を引き出す」というテーマで、グリーフケアの国内での全体的な動向と、自身が所長に就任した上智大学グリーフケア研究所の大震災後における取り組みを紹介。被災地でグリーフケアに関わる人と被災者が寄り添いながら前へと進む事例を取り上げ、「職業としては難しいが、今後ますますグリーフケアに携わる人々の価値が認識されていくだろう」と話し、「宗教は悲しみを入れる器であり、悲しみを力に変える装置」というメッセージを投げかけました。第一部の発表の終わりには、井上ウィマラ高野山大学教授が各発表に対するコメントを提供し、震災後のこころの再生に大きな力を持つ「レジリエンス」の概念を紹介したのち、発表者に対し「臨床宗教師と医療との接点」「心霊スポットから新しい祝祭空間をどう構築していくか」といった問いかけを行いました。
P7095042.JPG 第二部では、金子昭天理大学教授と稲場圭信大阪大学准教授がコメンテーターとして上記発表者と共に登壇。金子教授は倫理学の視点から、稲葉准教授は宗教社会学の視点から意見を述べ、それに対してディスカッションが行われました。シンポジウムの終わりにあたり、鎌田教授は「『3.11』後、日本人全員が遺族になった」という宮本要太郎関西大学教授の言葉をあらためて引用しながら、「悲しみを受け止めながらも生きる力へと繋げていくために芸能、芸術は大きな役割を果たし、宗教が大きな関わりを持っている」と話し、締めくくりの法螺貝と参加者全員による黙祷によって、全てのプログラムが終了しました。
 なお、鎌田教授によるシンポジウムの報告が、「モノ学・感覚価値研究会」ホームページにて掲載されています。ぜひ合わせてお読みください。報告記事はこちら

■参加者の感想(抜粋)
・震災という大きな悲しい出来事に対するケアの取り組み、大変興味深く聞かせて頂きました。他者の深い悲しみに対して、捉え方、考え方を新たに学びました。
・密度の濃いセミナーでした。講演はもちろん、会場が一 杯になるほどの聴衆がいることに震災が我々に投げかけ た課題の大きさがうかがえました。
・宗教学からの観点がとても新しいと感じました。震災のグリーフケアにはさまざまな方面からのアプローチが必要なのだということを改めて痛感することができました。
・宗教者、心理学がどんな役割を担うのかということは極めて難しい問題だと考えさせられました。人々の力を宗教や心理の文脈から読み解き、残していくことで、また人々の心に力を宿す素地となっていくのではと思いました。
・震災は被災された方々だけでなく、私たちすべてのこころにも大きな影響を与えたものでした。「こころ」は一人のものでなく、あらゆる人々とつながりあっているものだと思いました。「再生」もそのように細胞がつながりあって修復していくように、被災地以外の人たちのこころの 交流を通じて再生されていくのではないかと思いました。

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[DATA]
▽開催日時:2013年7月9日(火)14時~17時30分
▽開催場所:京都大学稲盛財団記念館3階大会議室 (アクセス)
▽テーマ:「震災と語り」
第一部 鎌田東二「趣旨説明」10分 鈴木岩弓(東北大学教授・宗教民俗学)+高橋原(東北大学准教授・宗教学)「震災後の幽霊の語りと民俗」60分 ショートコメント:河合俊雄(京都大学こころの未来研究センター教授) やまだようこ(京都大学名誉教授・立命館大学特別招聘教授・発達心理学」「喪失の語り」20分 島薗進(東京大学名誉教授・上智大学グリーフケア研究所所長)「震災とグリーフケアの語り」30分 コメンテーター:井上ウィマラ(高野山大学教授・スピリチュアルケア学)
第二部 討議:金子昭(天理大学教授・倫理学)、稲場圭信(大阪大学准教授・宗教社会学)+上記メンバー他 司会:鎌田東二
▽主催:京都大学こころの未来研究センター震災関連プロジェクト「こころの再生に向けて」、共催:科研「身心変容の比較宗教学」(身心変容技法研究会)+聖地文化研究会(「生態智の拠点としての聖地文化」)
▽参加者数:142名

2013/07/20

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