『心理学評論 vol.55 No.1:幸福感と文化』に河合教授、内田准教授らの論文が掲載されました
『心理学評論 vol.55 No.1』に河合俊雄教授、内田由紀子准教授の論文と、北山忍センター特任教授によるコメント論文、さらにカール・ベッカー教授と内田准教授がプロジェクトに携わった共著論文が掲載されました。
今号の特集は「幸福感と文化」です。特集では、京都大学グローバルCOE「心が活きる教育のための国際的拠点」における「幸福感の国際比較研究」プロジェクトを紹介すると共に、国内外の研究者による幸福感と文化に関する多彩な論考が集まりました。
以下、こころの未来研究センターの研究者による論文を、担当編集委員である楠見孝・教育学研究科教授による解説文からの引用と共にご紹介します(著者名のうち太字がこころの未来研究センター関係者です)。
p26-42
「文化的幸福観―文化心理学的知見と将来への展望―」
内田由紀子・荻原祐二
▽紹介文:「『文化的幸福感』の概念を提唱して、人々の幸福の捉え方、幸福の予測因、社会経済環境と幸福の関連における文化差について概観して、現代の日本の若者をめぐる問題や、内田が委員を務めている内閣府による日本における幸福度指標や施策についても言及しています。」
p43-46
「個人主義と幸福―内田・荻原論文へのコメント―」
北山忍
▽紹介文:「文化心理学の第一人者による北山コメント論文では(略)、日本人と個人主義、大災害と幸福、幸福感指標について論じています。そして、個の概念を尊重する生活の形式、組織、そして文化の仕組みを構築していく必要性、共感性に基づく社会の統合や共同体意識と幸福の形式の模索、そして、その成果を心身の健康という形で、心理指標、人口統計学的など複数指標を総合的評価する必要があると述べています。」
p70-89
「幸福感の国際比較研究―13カ国のデータ―」
子安増生・楠見孝・Moises Kirk de CARVALHO FILHO・橋本京子・藤田和生・鈴木晶子・大山泰宏・Carl BECKER(カール ベッカー)・内田由紀子・David DALSKY・Ruprecht MATTIG・櫻井里穂・小島隆次
▽紹介文:「計量的な分析によって、グローバルCOEのテーマ「心が活きる教育のための国際的拠点」における「心が活きる」ということを有能感、生命感、達成感の3軸でとらえ、その合力としての幸福感を仮定しています。そして、学歴や自尊心、教育と幸福の考え方、幸福に関するメタ認知がどのような影響を及ぼし、国の間でどのような差があるかをクラスター分析と構造モデリングを用いて明らかにしています。」
p195-202
「心理療法からみた幸福」
河合俊雄
▽紹介文:「特集号の最後を飾る河合論文『心理療法から見た幸福』は、長年の心理臨床経験を踏まえた分析心理学に基づく論文です。心理療法からみた幸福の概念や主観的幸福感に関する議論は、他の章における実証的データにもとづく議論と多くの共通性を持つことに読者は気づくと思います。ここでは、フロイトが、幸福を人間の目標と位置づけ、苦痛や不快がないことと、快感を体験することの両面から捉えていたこと、幸福感が経済的な豊かさよりも主観によって決まることを指摘しています。こうした主観的で自己反省的な幸福感は、18世紀以降の近代のヨーロッパで生まれ、心理療法もこうした近代の自己意識を基盤にしていること、そして現代のわれわれは近代の自己意識にとらわれない幸福感と心理療法の見直しが必要であることを指摘しています。」
そのほかの論文も文化と幸福感研究の第一人者によるもので、非常に充実した内容の特集号です。
■心理学評論のHP
http://www.psy.bun.kyoto-u.ac.jp/hyoron/
2012/08/08