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国際会議Mapping the Mindを開催しました【開催レポート】

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 2014年4月11日と12日の2日間、京都ホテルオークラにて、ダライ・ラマ法王ご臨席のもと、米国Mind & Life Instituteとの共催にて国際会議Mapping the Mindを開催しました。会議は「こころ(mind)」をテーマとして、12名のスピーカーがそれぞれの専門分野から4つのセッションに分かれて講演をおこない、モデレーターをまじえてダライ・ラマ法王と対話をおこないました。
 以下、それぞれの講演と法王との対話、および写真をご紹介します。
■開会式
 ・挨拶1 アーサー・ザイエンス(Mind & Life Institute代表)
 ・挨拶2 吉川左紀子(京都大学こころの未来研究センター長)
 ・司会 熊谷誠慈こころの未来研究センター准教授(上廣こころ学研究部門)
 ・マルク・ヘンリ デロッシュ白眉センター助教
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 はじめに、Mind & Life Institute代表のアーサー・ザイエンス氏が登壇し、挨拶しました。運営者、登壇者、来場者、協賛者それぞれに感謝の意を述べ、「Mapping the Mindというテーマは、私たちが人間として何であるかを知るための手掛かりになる。科学や、現代社会の側面から自己を見つめ、よりよく世界に十分に貢献するために、こころを理解するのが、今回のテーマです」とカンファレンスの主旨を説明しました。
 そして、ダライ・ラマ法王が会場全員による大きな拍手と共に登壇され、壇上の椅子におかけになりました。法王を歓迎する形で、こころの未来研究センターの吉川左紀子センター長が挨拶を述べました。吉川センター長は、2012年にロックフェラー大学で催された法王と科学者との対話の場で大きな感銘を受け、同様の集まりを京都で実現したいと強く願い、2013年にザイエンス氏をセンターに迎えて開催を合意し、この会議の開催に向けた長い準備が始まった経緯を話しました。吉川教授は、「科学者たちの持つ思考をいかなる形で宗教や潜在的な感情と関連付けるか、また、科学者の知見を思いやりや共感といった価値観とどう結びつけるべきか、今回の法王との対話は日本の科学者にとって、これら大きなテーマへの関心と理解を深める上でもまたとない機会です」と述べ、支援者や関係者への感謝の意を表しました。
 開催中の司会進行は、熊谷誠慈こころの未来研究センター准教授(上廣こころ学研究部門)と、マルク・ヘンリ デロッシュ白眉センター助教が務めました。
■ダライ・ラマ法王による基調講演
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 盛大な拍手に包まれるなか、壇上にのぼられたダライ・ラマ法王は、笑顔で基調講演にのぞまれました。
 法王は、「このような会議が日本で開かれることを非常に嬉しく思います」と冒頭でお話になり、「こころは、世界とつながっているものです。こころを理解することで人々は協力し合えます。グローバル化や経済発展が続くなか、一方で物質的な価値だけが世界に幸せをもたらす解にはなりません。内なる価値に注目し、科学者と協力し合うことで、こころについての知識が深まれば、それは(世界の幸福にとって)非常に大きな効果をもたらすでしょう。自然を重んじる神道や、仏教という伝統的な宗教がある日本で、このような対話を持つことはとてもふさわしいと思います。こころの研究に対して限定的だった科学の分野も少しずつ変化しています。様々なレベルにおけるこころ、脳の研究を広げていくことによって、知識を世界へと広めていくことはとても重要です」と、本会議の意味、宗教者と科学者が共に手を取り合い、こころの探究を深めることの重要性について述べられました。
■セッション1
 ・今枝由郎(元フランス国立科学研究センター 研究ディレクター)「初期仏教におけるこころ」
 ・トゥプテン・ジンパ(マギル大学兼任教授)「仏教心理学と瞑想実践に関する考察」
 ・チャード・デヴィッドソン(ウィスコンシン大学教授)「こころを変えて脳を変える:瞑想の脳科学的研究」
 ・モデレーター:アーサー・ザイエンス(Mind & Life Institute代表)
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 法王の講演に続いて、セッションが始まりました。ひとつめのセッションでは、Mind & Life Institute代表のアーサー・ザイエンス氏がモデレーター(舞台上での司会進行)を務めました。一番目には、元フランス国立科学研究センター研究ディレクターで、ブータンの国立図書館設立に尽力し、ブータン、チベットの仏教に詳しい今枝由郎氏が「歴史と文化における仏教」という演題で講演しました。今枝氏は、チベット仏教において教典などの教えが体系化されている現状を紹介し、日常の中で知識、価値、慈悲の精神の伝承がおこなわれ、真の仏教の伝統を学術的に発展、維持させていることを長年の研究から得た経験談として語り、日本の仏教の現状と比較しました。法王は、今枝氏の講演に対し、法王ご自身が幼少期から法典の勉強を続け、その後は学位取得に至るまで学問を継続してきたこと、僧侶らへの学問の奨励、学習の体系化に尽力してきた歴史を説明し、教育の重要性を強調されました。
 次に、マギル大学兼任教授で法王の通訳を担当するトゥプテン・ジンパ氏が「仏教心理学と瞑想実践に関する考察」という演題で講演しました。ジンパ氏は、仏教的な側面から” Mapping the mind “研究を進める上でのリソースやその特徴と目的、仏教的な理解と考え方が科学的探究にどのように貢献するかを順を追って解説されました。その中で、瞑想実践、阿毘達磨、プラマーナの各役割を紐解きながら、仏教的実践と科学的探究の両側面からこころを捉えていくことの重要性を強調されました。
 続いて、ウィスコンシン大学教授のリチャード・デヴィッドソン氏が「こころを変えて脳を変える:瞑想の脳科学的研究」という演題で講演をおこないました。デヴィッドソン氏は、慈悲というキーワードを介して新たな脳科学研究、発生遺伝学的研究、乳児に対する心理研究をMRIなどをはじめとする数々の手法によって進め、それにより、瞑想により脳機能、身体機能など様々な部分で変化が生じていること、幼児でも選択肢があるときには利己的よりは愛他的な行動を選ぶなど、こころのトレーニングによって、脳機能の変化のみならず遺伝子在り方も変容すること、感情と注意力の回路が瞑想実践によって向上することなど、最新の研究結果を紹介されました。壇上でしばしば質問を投げかけながら耳を傾けられたダライ・ラマ法王は、「数百年前、50年前には想像できなったことが分かってきています。伝統的な方法論が説得力を持って、新たなスキルの学習方法、マインドトレーニングの有効性を示したのみならず、既に実用化され人々に貢献していることも示してもらえました。科学の手法を借りることで、協力の場が生まれ、問題解決に大いに貢献できるものだと思います。Mind & Life Instituteとしても、その貢献に協力できることを嬉しく思います」とコメントなさいました。
■セッション2
 ・ジェイ・ガーフィールド(イェールNUS教授)「認識の錯覚:仏教瑜伽行学派の観点から」
 ・アーサー・ザイエンス(アマースト大学名誉教授/Mind & Life Institute代表)「量子物理学におけるこころの役割」
 ・森重文(京都大学数理解析研究所教授)「芸術との比較における数学:求めるものは応用か、真理か、それとも美か?」
 ・モデレーター:入来篤史(理化学研究所 シニア・チームリーダー)
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 初日午後におこなわれたセッション2では、入来篤史こころの未来研究センター特任教授がモデレーターを務めました。イェールNUS大学教授のジェイ・ガーフィールド氏が、「認識の錯覚:仏教瑜伽行学派の観点から」という演題で講演をおこないました。ガーフィールド氏は、こころを理解する上での障害となり得る認知の錯覚の事例を数多く紹介し、こころを把握する上で重要な役割を果たす認知機能そのものの仕組みの研究と把握なくしては、こころ自体を理解することは難しいことを強調しました。
 続いて、Mind & Life Institute代表でアマースト大学名誉教授のアーサー・ザイエンス氏が、「量子物理学におけるこころの役割」という演題で講演しました。ザイエンス氏は自然現象を測る上での基礎学問である量子力学がいかにこころの分析と理解と関係しているか、ハイゼンベルグの不確定性原理やアインシュタインなど代表的な研究者や究極のコンピュータとされる量子コンピュータを紹介しながら現代科学はもとよりこころの研究の土台として量子力学の果たす役割について説明しました。
 ザイエンス氏の講演をさらに深める形で、セッション2の最後のスピーカーとして京都大学数理解析研究所 教授の森重文氏が「芸術との比較における数学:求めるものは応用か、真理か、それとも美か?」という演題で講演しました。森氏は数学の証明に到ったとき、アイデアのひらめきを得たときの美しさをピタゴラスの定理の紹介などを用いながら説明。また、アートと数学に通じる美しさについて、幾パターンもの光の重なりから「印象」を絵にしたモネと、代数幾何学で発展的な研究を果たしたグロタンディークの類似性を挙げ、数学とアートの美しさの共通点について話すと共に、「こころ、魂のような、言葉では記述できないものも、周辺に起きる現象を見ることで輪郭を浮き上がらせ理解に到ることが可能ではないか」、と問いかけました。セッション2の終わりには会場の参加者とのディスカッションの時間も設けられました。
■セッション3
 北山忍(ミシガン大学教授/京都大学こころの未来研究センター特任教授)「文化神経脳科学:文化・脳・遺伝子をつなぐ」
 ジョアン・ハリファックス(ウパーヤ禅センター長・創立者/老師)「プロセスベースによる慈悲の位置づけと、慈悲の修練におけるその影響」
 下條信輔(カリフォルニア工科大学教授/京都大学こころの未来研究センター特任教授)「潜在的なこころ、共感、そしてリアリティの共有」
 モデレーター:入来篤史(理化学研究所 シニア・チームリーダー)
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 国際会議Mapping the Mindの2日目の最初のセッションは、ミシガン大学教授・こころの未来研究センターの特任教授の北山忍氏による講演「文化神経脳科学:文化・脳・遺伝子をつなぐ」で始まりました。こころの形成には、文化的背景が大きく影響することを文化的神経科学の視点から説明しました。この分野のパイオニアである北山氏は、数多くの実験結果を紹介し、人間の脳が生態学、環境的、文化的要因によって影響を受け、地域差や文化差が人のこころと大きく関係している点を強調し、こころを理解するためには、脳と文化と遺伝子という様々な要因同士の関連性を考えなければいけない、と話しました。ダライ・ラマ法王は、このテーマに対して強い興味を示され、実験時に世代や性別を考慮する必要はないかといった具体的な質問を次々に投げかけられました。
 続いて、ウパーヤ禅センター長・創立者のジョアン・ハリファックス氏が、「プロセスベースによる慈悲の位置づけと、慈悲の修練におけるその影響」という演題で講演しました。エンド・オブ・ライフ・ケアに従事してきたハリファックス氏は、医療の現場従事者の燃え尽きや自殺が多発している現状を紹介し、患者と医療従事社双方のこころのケアと医療の質の向上を目的とした、慈悲のこころを活用するためのトレーニングの開発成果を報告しました。
 セッション3の最後は、カリフォルニア工科大学教授・こころの未来研究センター特任教授の下條信輔氏が「潜在的なこころ、共感、リアリティの共有」という演題で講演しました。下條氏は、認知神経学者の視点から、個人の個性や意思決定は、脳と社会との間の動的な相互作用が働いており、動的な社会的文脈で理解されるべきであると、自身の実験結果を数多く紹介しながら話しました。人と人は潜在的な意識下において繋がりを持ち、「シェアドリアリティ(リアリティの共有)」が社会的現象へと大きく影響する点についても指摘しました。ダライ・ラマ法王は、下條氏の話の合間にも数々の質問を投げかけ、科学の方面から瞑想集中の研究を進めることなどに強い関心を示され、共感することと慈悲の心を持つことについて「我々は社会的な動物です。自分をより大きな全体の一つとして考え、他者への思いやりを持つことから人類の幸福、悟りがもたらされます。思いやりと知恵を組み合わせることは非常に重要です」と述べられました。
■セッション4
 ・バリー・カーズィン(ヒューマンバリュー総合研究所所長)「情動の可塑性:健全な社会の構築に向けて」
 ・松見淳子(関西学院大学文学研究科長/教授)「子どものこころを探り、ポジティブな学校環境を創る:心理学におけるエビデンスベースの実践」
 ・長尾真(京都大学元総長)「コンピュータはどこまで人間に近づけるか」
 ・モデレーター:ジョアン・ハリファックス(ウパーヤ禅センター長・創立者/老師)
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 最終セッションでは、はじめにヒューマンバリュー総合研究所所長のバリー・カーズィン氏が、「情動の可塑性:健全な社会の構築に向けて」という演題で講演しました。カーズィン氏は、阿毘達磨の観点から感情と情動、心と意識をあらわすアナロジーとして6つのカテゴリー、51の心所を紹介し、こころがどのように機能するかについて仏教における定義と考え方、実践者の体験について解説しました。
 続いて、関西学院大学文学研究科長・教授の松見淳子氏は、「子どものこころを探り、ポジティブな学校環境を創る:心理学におけるエビデンスベースの実践」という演題で講演。地域の学校教育と連携して子どもにやる気を起こさせる教育プログラムの開発をおこなった事例を紹介し、子どもたちに明確な行動指針を持たせ自発的な行動を促すような仕組みの提供の大切さと実際の効果について解説しました。ダライ・ラマ法王は、研究対象となる子どもの年齢層や、プログラムが子どもの注意面と情動面ではどのような関係性があるか、などについて質問を投げかけられました。
 そして、国際会議の最後となる講演は、京都大学元総長で情報工学者の長尾真氏が、「コンピューターはどこまで人間に近づけるか」という演題で講演をおこないました。高齢化が進む日本で介護ロボットのニーズが高まる状況などを紹介しながら、コンピュータによる人工知能が人間と十分にコミュニケーションを取るレベルに達することがいかに困難であるか、情報工学者として言語処理の研究に長年取り組んできた経験から、時に聴衆の笑いを誘うエピソードもまじえ、法王からの数多くの質問に応えながら、コンピュータによる対話システム構築の可能性と課題について解説し、こうした研究は人間の脳機能、ひいてはこころの理解が必須であり、こころのマッピングにつながり得ると考察しました。セッション4の後には、総合質疑応答がおこなわれ、参加者がマイクを持ち法王や登壇者と対話の時間を持ちました。
■閉会式
 ・挨拶1 アーサー・ザイエンス(Mind & Life Institute代表)
 ・挨拶2 山極寿一(京都大学理学研究科教授)
 ・総合司会:熊谷誠慈(京都大学こころの未来研究センター・上廣こころ学研究部門特定准教授)、マルク=ヘンリ・デロッシュ(京都大学白眉センター・特定助教)
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 すべてのセッションが終了し、閉会式がおこなわれました。参加者を代表して、京都大学理学研究科教授の山極寿一氏が挨拶に立ちました。霊長類学者として長くゴリラの生態を研究している山極氏は、「今回の会議で、多くのことを学びました。非概念的な概念、こころのマッピングを進めるために、今後も霊長類学を通して人の行動、こころ、生命の根源を探求する必要性を感じました。素晴らしいダイアログを企画してくださったことに感謝すると共に、ここに参加された皆さんは、今回のディスカッションを持ち帰り、それぞれの分野で次の対話を続けていただき、より実りある活動をおこなっていただきたい」と述べられました。
 続いて、Mind&Life Institute代表のアーサー・ザイエンス氏が、閉会の辞として、「こころのマッピングは、いま始まったばかりです。今回、神経科学者、心理学者、瞑想者、物理学者など、様々な角度から様々なレベルにおいて学ぶことができました。我々の内側にある神秘なものに対し、神経科学で得られたものを重ね合わせることによって、さらに深く探索し、未知なる領域に足を踏み入れることが必要です。法王さまは、世界の70億人に対するケアを、一人一人がお互いに、いかに大切にしなければいけないかということを強調されましたが、私たちは慈悲やケアの重要性を、人類に対し啓発をしていく必要があります」と述べ、会議の開催に尽力した吉川左紀子センター長、熊谷誠慈准教授、白眉センターのマルク・ヘンリ デロッシュ助教をはじめとする運営者に対し、熱く感謝の意を表しました。
 終わりに、尺八奏者であるエイドリアン・フリードマン氏による演奏がおこなわれ、登壇者や寄付者に法王よりカタの授与がおこなわれました。法王のご退場を見送る形で鎌田東二教授が法螺貝を吹奏し、国際会議Mapping the Mindが終了しました。

2014/05/19

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