吉川教授が京都市生涯学習総合センターで『心理学から考える「ブータンの幸福」』というテーマの講演を行ないました
8月3日、京都市生涯学習総合センター京都アスニーのセミナー「ゴールデン・エイジ・アカデミー」にて、こころの未来研究センター 吉川左紀子教授が『心理学から考える「ブータンの幸福」』というテーマで講演を行ないました。
本講演は、京都市が京都の伝統文化を守り未来へ継承するために取り組んでいる「京都創生」の特別企画として開催されました。
▽開催日時:2012年8月3日(金)10:00 – 12:00
▽場所:京都市生涯学習総合センター京都アスニー
▽演題:『心理学から考える「ブータンの幸福」』
▽講師:吉川左紀子(京都大学こころの未来研究センター センター長/教授)
▽参加者総数:549名(アスニー山科での遠隔モニター視聴者51名を含む)
京都アスニーは京都市における生涯学習の拠点として多くの市民が利用する文化施設です。「ゴールデン・エイジ・アカデミー」は、同施設が定期的に開催しており、今回で第1,434回目を迎える長寿イベントです。吉川教授は、京都大学ブータン友好プログラムからの3度に渡る同国への訪問経験や、様々なブータン研究の事例をもとに「ブータンの幸福」について講演を行ないました。
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「昨年秋の国王夫妻の来日以後、GNH(国民総幸福量)を提唱するブータン王国は日本人の関心を惹きつけています。ブータンを旅した日本人は、そこに経済的な豊かさでは計ることのできない「幸せな暮らし」の原型を見、不思議な懐かしさを感じます。
インドと中国という巨大な国家に挟まれた人口70万の小国にある「幸せな暮らし」の原型とはどのようなものなのか。本講演では、生活の中の祈り、輪廻の死生観、家族・地域の絆といった側面から「ブータンの幸福」を考えてみたいと思います。
(プログラムに記載の「講師のことば」より抜粋)
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吉川教授は、京都大学ブータンブータン友好プログラムのメンバーとして、2010年以降、三度に渡りブータンを訪問しています。
講演前半では、ブータンの地形や人口、経済状況など国の基本知識を紹介し、昨年の第5代国王が日本を来訪した際に国会で行なって多くの議員が感動したというスピーチの印象的なくだりを紹介し、ブータン国王が日本に示した尊敬の念や、仏教精神に根ざした思いやりの態度についてふれ、そんな日本国民を魅了した国王が本国でいかに絶大な支持を国民から得ているかを、ノンフィクション作家の高野秀行氏の著書『未来国家ブータン』からの一文を引用しつつ熱く語りました。
また、現地滞在記を書いた御手洗珠子氏の『ブータン、これでいいのだ』という本の一説を引用しながら、家族や友人を大切にしつつ肩の力を抜いて生活を楽しむブータン人の気質について紹介しました。
講演では吉川教授が訪問時に撮影した現地での写真が数多く紹介されました。認知心理学を専門領域とする吉川教授は現在、人間の大人同士の表情の変化についての研究に取り組んでおり、ブータンで出会った人々が海外からの訪問客に対して見せる屈託のない笑顔に大きな衝撃を受けたそうです。教授が撮影したブータンの人々の「笑顔」写真が大画面に写し出されると、会場全体が明るいムードになりました。
続いて、昨年3月にブータンを訪問したときの写真が数多く紹介されました。急激な都市開発と、伝統建築が混じり合う風景から、戦後の日本に似た歩みを見せるブータンを危惧しつつも、人々の暮らしに日本にはない「祈り」の時間が根付いていること、老若男女がマニ車をまわして祈りを捧げている独特の風景にふれ、いかに信仰がブータン人の暮らしに密着しているかを強調しました。
後半では、なぜいま日本人がブータンに惹かれるのか、国民の幸福を最優先で考えるという先代の第4代ブータン国王が確立した国家理念について解説しました。
人間は物質の豊かさだけでは幸福になれない、経済発展や近代化が伝統文化を犠牲にしてはならない、という強い信念を持ちながら、子供や老人が幸せに暮らせる国を目指して国策に取り組んできた第4代国王と、その精神を受け継いで現在のブータンを率いる第5代国王。彼らの国民に対する誠実な態度が、わずか70万人の小国を「幸福大国」へと導き、国民にもその思想が浸透しているそうです。こうした、急がずゆっくりと近代化していくブータンのありかたを見て、日本人が失いつつあるものや、もともとあった価値観を見直すヒントを与えてくれるのではないか、と吉川教授は語りました。
また、2003年のアッサム独立ゲリラ掃討作戦でブータンが経験した危機について、元フランス国立科学研究センターの今枝由郎氏の話を紹介し、第4代国王の陣頭指揮のもと、最少限の死傷者数で事態を沈静化させた理由として、ブータンの仏教国としての強い意識、厳格な不殺生の教えが根底に根付いていることを強調しました。
その他にも、同国に滞在した日本人の経験談を数多く紹介しながら、ブータン人がいかにつつましやかに、自分だけでなく他者の幸福を祈りながら、来生の為に功徳を積もうと努めているか、ブータン人の持つ時間軸の広さや、自然や運命に身をゆだねながら精神的なゆとりのある暮らしぶりにふれ、現代の日本人にない精神性について考察しました。
数々のエピソードと考察を織り交ぜてブータンを紹介した吉川教授ですが、最後に「ブータンは私たちに、幸福について考えさせる国」という言葉で講演をしめくくりました。
満員となった大ホールでは、最後まで熱心に耳を傾ける聴衆の熱気であふれていました。講演中ずっとメモを撮り続けていた女性参加者は、「長年、女性のためのNPOを運営しているが、今回の話であらためて日本人が取り戻さないといけない心について考えさせられました」と感想を述べていました。
こころの未来研究センターでは、今後も、ブータン学研究室での活動を通して、広く研究成果を発信して参ります。
■こころの未来研究センターブータン学研究室のページ
http://kokoro.kyoto-u.ac.jp/jp/Bhutan/index.html
■吉川教授による京大ブータン友好プログラム第5次訪問団参加の写真レポート
http://www.scl.kyoto-u.ac.jp/~mmsicr/5thbhutanphoto/5thbhutan.html
2012/08/24