シンポジウム「日本の聖地文化~相模国一宮寒川神社と延喜式内社研究」が開催されました
2013年2月27日、シンポジウム「日本の聖地文化~相模国一宮寒川神社と延喜式内社研究」が稲盛財団記念館3階大会議室で開催されました。本シンポジウムは、こころの未来研究センター 鎌田東二教授が研究代表を務める「癒し空間の総合的研究」プロジェクトにおける研究成果発表の場として開催。2012年3月に出版された『日本の聖地文化――寒川神社と相模国の古社』に収録した内容について、それぞれの研究者が最新の知見をまじえて紹介しました。また、寒川神社宮司の利根康教氏、寒川神社禰宜で方徳資料館副館長を務める加藤迪夫氏をコメンテーターとしてお迎えしました。
▽日時:2013年2月27日(水)13:00~17:00
▽場所:京都大学稲盛財団記念館3階大会議室
▽主催:京都大学こころの未来研究センター「癒し空間の総合的研究」プロジェクト(研究代表:鎌田東二)
▽プログラム
第一部『日本の聖地文化――寒川神社と相模国の古社』(鎌田東二編著、創元社、2012年3月刊)からの提言 13時~15時30分
話題提供者:原田憲一、中野不二男、五反田克也、湯本貴和、河角龍典 ※登壇者の所属・肩書・専門は下記書籍の目次を参照ください
司会:鎌田東二
第二部 総合討論「日本の聖地文化と寒川神社と延喜式内社研究」15時45分~17時
コメンテーター:加藤迪夫(寒川神社方徳資料館副館長・寒川神社禰宜)+話題提供者
序 章 パワースポット・ブームと聖地文化 鎌田東二(京都大学こころの未来研究センター教授・宗教哲学・民俗学)
第1章 相模の国の地質と古代 原田憲一(前京都造形芸術大学教授・現在:NPOシンクタンク京都自然史研究所特別研究員・地球科学)
第2章 相模の国の花粉分析 五反田克也(千葉商科大学准教授・花粉分析)
第3章 相模湾の海水準と宇宙人文学 中野不二男(JAXA主幹研究員・京都大学宇宙総合学ユニット特任教授・宇宙人文学)
第4章 相模の国の生態系と古代遺跡 湯本貴和(前総合地球環境学研究所教授・現在:京都大学霊長類研究所教授・生態学)
第5章 相模の国と寒川神社周辺の地理学的考察 河角龍典(立命館大学文学部准教授)
第6章 縄文中期最大の住居跡・岡田遺跡と寒川神社 小林達雄(國學院大學名誉教授)
第7章 寒川神社と相模国の古社の歴史と民俗 鎌田東二
終 章 関東地方の聖地文化 鎌田東二
■多角的な視点から総合的に「癒し空間」「聖地文化」を研究
シンポジウムの第一部では、「『日本の聖地文化――寒川神社と相模国の古社』(鎌田東二編著、創元社、2012年3月刊)からの提言」として、プロジェクトに参画した研究者達が一堂に会し、本にまとめたこれまでの研究成果を発表しました。
「癒し空間の総合的研究プロジェクト」の要(かなめ)的な位置付けにある相模国一之宮 寒川神社は、方位除・八方徐で全国唯一といわれ、年間参拝者数200万人を超える関東を代表する神社です。平安時代の『延喜式』によれば、相模国の古社13社の中でもとりわけ格式の高い社格に位置づけられています。
冒頭、登場した鎌田教授は、寒川神社を中心とする縄文寒川文化圏や方位信仰、延喜式内社を多角的に調査したプロジェクトの歩みを説明。寒川神社が2009年に開設した方徳資料館が方位信仰に関する研究を開始するにあたり、鎌田教授に声がかかったエピソードなども紹介し、「プロジェクトは人々に安心や救済をもたらす『癒し空間』の役割を多角的に解明することを目的とし、様々な手法で総合的に研究を進めてきた。宇宙空間からの衛星データに基づいて、延喜式内社が時代毎の海水準とどのような関係になるかを調べるなど、科学的なデータをもとに、日本の聖地である神社の歴史的・環境的位置関係の推定に取り組んだ。京都をひとつのめやすとして、寒川神社のある相模の国の癒し空間までを研究することにより、癒しと救済がどのようにおこなわれていたかを総合的に研究した成果の全てをまとめたのが本書である」と、『日本の聖地文化~相模国一宮寒川神社と延喜式内社研究』の意義について語りました。
また、2011年の東日本大震災や和歌山での洪水被害がプロジェクトに与えた影響についても説明。「震災後は4度に渡り、現地の被災状況とそこにおける延喜式内社を含む神社仏閣の調査を行なった。浸水線ギリギリのところで津波被害の難を逃れ、震災後に人々の救済の場として役割を果たす神社や寺を訪問調査したことで、聖地が人々の安全を守り救う役割を果たしたことが分かった。間もなく5度目の調査に行き、震災があった3.11には被災地の海でみそぎを行ない、この時季の冷たい水に自ら浸かることで、被災地の問題を実感的に捉えていきたい。また、もうひとつ重要なポイントとして、神事によって神をなぐさめ人々を悦ばせる神楽など、人々の力を内側から活性化させる力が芸能にある。東日本大震災では石巻市の雄勝法印神楽の復興を目の当たりにし、芸能の力を実感した。今回のプロジェクトは、災害も含めた自然との関係性も対象としながら自然科学の方法を駆使し、神社の持つ機能を追究してきた」と語りました。
本書の章順に行なわれたプロジェクト成果発表では、原田憲一 前京都造形芸術大学教授・現NPOシンクタンク京都自然史研究所特別研究員が「相模の国の地質と古代」、五反田克也 千葉商科大学准教授が「相模の国の花粉分析」、中野不二男 JAXA主幹研究員・京都大学宇宙総合学ユニット特任教授が「相模湾の海水準と宇宙人文学」、湯本貴和 前総合地球環境学研究所教授・現京都大学霊長類研究所教授が「相模の国の生態系と古代遺跡」、河角龍典 立命館大学文学部准教授が「相模の国と寒川神社周辺の地理学的考察」について、それぞれ報告しました。
■神社、研究者が力を出し合い研究成果へ
第二部では、はじめに2本の資料映像「方位信仰と平安京」「寒川神社と相模國の聖地文化」が上映されました。プロジェクト研究の基本知識を網羅した映像を視聴したのち、第一部の発表者とコメンテーターによる総合討論・質疑応答が行なわれました。
コメンテーターとして登壇した寒川神社方徳資料館副館長・寒川神社禰宜の加藤迪夫氏は、「このような形で神社と研究者が力を出し合い成果を上げたことは、神社界としても新たな方法であり先見の明があるといえる」とコメント。学問調査対象としても注目される寒川神社の調査をさらに深め、神社の歴史と謎を紐解いていきたいと話しました。
活発な質疑応答が行なわれた第二部の締めくくりとして、寒川神社宮司の利根康教氏より挨拶があり、「寒川神社では、地域への還元事業として病院、老健施設、結婚式場を運営している。こうした社会活動の一環として、本プロジェクトでは3年間、先生方に寒川神社と相模国について研究を行なっていただいたが、地質学や宇宙物理学などの側面から神社を調査する手法に驚くと共に、様々な現象に対して子細に調べ上げる研究者の取り組みに感心した。素晴らしい試みに感謝申し上げたい」との感想がありました。
最後に鎌田教授は「長時間に渡って最新の研究成果をふまえた有意義な会を持つことができた。今回のプロジェクトの成果として本書があり、この本をふまえてシンポジウムを開催できた。これに続いて第二弾、第三弾と調査研究を進化させていきたい」とさらなる研究の発展へと意気込みを語り、シンポジウムを終了しました。
▽発表者・コメンテーター・シンポジウム風景
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2013/03/04