第2回 為末大 vs.下條信輔 対談セミナーを開催しました
第2回 為末大 vs.下條信輔 対談セミナー「心はコントロール可能か:モチベーションの源」が、2014年2月1日(土)、稲盛財団記念館大会議室で開催されました。
昨年10月の開催に続いて2回目となった今回は、京大教職員や学生に加えて一般からの参加者も迎え、会場が満杯となりました。前回の「心を奪われること:遊び、夢中、ゾーン」に続き、今回は「心はコントロール可能か:モチベーションの源」というテーマが設けられ、はじめに挨拶に立った吉川左紀子センター長は「第1回から3回まで、それぞれのテーマは心理学の王道となるべき重要なテーマです。為末さんと下條先生と会場の皆さんで、存分に語り合ってもらいたい」と話しました。
最初に為末氏が演壇に立ち、モチベーションと自身の心のコントロール法について、話しました。現役時代から心とモチベーションを管理する難しさを感じてきた為末氏は「自分の心の状況を常に離れたところから観察してきた」といい、「他者の目で心を観察することがモチベーションをコントロールする一歩ではないか」と考察。メダルを取った後のスランプや周囲の期待に苦しんだ時期を乗り越えたときのエピソードを振り返りつつ、モチベーションコントロール法として、「夢中になれないときにも意志の量をマネジメントする必要があること」、「モチベーションを保つために短期の目標と長期の目標を準備すること」、「やる気が出るような『環境』を用意すること」、「目標というゴールを定めても、そこまでの過程はできるだけ自由に選んでいくこと」など、経験と独自の思想に基づいた方法論を紹介し、「下條先生による心理学的な視点でのお話が聞きたい」とバトンを渡しました。
『サブリミナル・マインド―潜在的人間観のゆくえ』 (中公新書)、『サブリミナル・インパクト―情動と潜在認知の現代』(ちくま新書) などの著書のある下條教授は、冒頭で「心理学や神経科学に対して、為末さんは自分の経験から切実な問いを投げかけている」と評価し、自身の研究で大きく取り上げている「自分のなかのもうひとりの他人、あるいはもうひとりの私=潜在的自己」というテーマに対する数々の研究事例を紹介しました。人の動機付けに関する欲求には階層分けがあり葛藤が生じることや、情動と報酬に関わる神経活動と新型うつや無気力の人が抱える問題や特徴を挙げて、自己コントロールとモチベーションに関する神経科学の現状を紹介しました。下條教授は「前回に話したフローや夢中になることと関連するが、やる気や無気力は体、環境、社会からの刺激それぞれが心のプラスループ、マイナスループに関わっている。心の状態をダイナミックなループとして捉えるべき。体と脳と環境のポジティブなループのなかで『好き』という気持ちやモチベーションが紡ぎ出され、創造的な行動へとつながる」と考察しました。
二人の対話は、ベンジャミン・リベットの「自由意志」や環境や他者とやる気の因果関係、集団を扱う心理実験と個人差の難しさ、経験からの応用可能性と人間の記憶の後付けと誤記憶など、様々な話題に及びました。最後におこなわれた参加者をまじえてのディスカッションでは、質問者が続出。「心は意志なのか欲求なのか、それとも両者なのか?」「順位と記録、それぞれに対するモチベーションの違いは?」「モチベーションが暴走したときの押さえ込み方は?」といった様々な問いが為末氏、下條教授それぞれに投げかけられました。最後に為末氏は「心に対し、無理矢理に手を突っ込むのではなく、モチベーションを保つ仕組みを用意し、環境によって心をコントロールすることは重要。また、オリンピックで記録が多発するように、他者の存在が人間のやる気や能力を高める創発効果は必ずある。インターネットで情報共有はできるが、こうして同じ場でテーマを共有することで得られることは大きい」と、今回の対談を締めくくりました。
セミナーのシリーズを締めくくる第3回「自分の知らない自分:潜在意識と感情」は、2月22日に開催されます。(※参加申込は定員に達したため締め切りました)
[開催ポスター]
[DATA]
▽日時:2014年2月1日(土)
▽場所:稲盛財団記念館3階大会議室
▽プログラム
第2回 為末大vs.下條信輔 対談セミナー「心はコントロール可能か:モチベーションの源」
13:20 挨拶 吉川左紀子 こころの未来研究センター長
13:30 – 14:10 講演 「心を奪われること:遊び、夢中、ゾーン」:為末 大(元陸上競技選手 株式会社R.project取締役)
14:10 – 15:40 対談 為末大・下條信輔(米国カリフォルニア工科大学教授・こころの未来研究センター特任教授)
15:40 – 16:00 休 憩
16:00 – 17:00 参加者とのディスカッション
▽参加者数:120名
2014/02/14