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第2回京都こころ会議国際シンポジウム「こころと限界状況」を開催しました

20211017日、第2回京都こころ会議国際シンポジウムが、京都大学百周年時計台記念館百周年記念ホールで開催されました。公益財団法人稲盛財団からの支援を受けて2015年に発足した京都こころ会議は、これまでに「こころと歴史性」(第1回シンポジウム)、「こころの内と外」(第2回シンポジウム)、「こころと共生」(第1回国際シンポジウム)、「こころと生き方―自己とは何か」(第3回シンポジウム)、「こころとArtificial Mind」(第4回シンポジウム)、「こころとコロナ危機」(第5回シンポジウム)をテーマに、計6回のシンポジウムを開催してきました。第2回目の国際シンポジウム開催となる今年度は、「こころと限界状況」をテーマに掲げ、新型コロナウィルス感染拡大という現在の世界状況を踏まえながら、限界状況に直面することで明らかになる人間の〈こころ〉の諸相をめぐって、神経科学、地理学、心理学の異なる視点から考察と議論が行われました。
 
シンポジウムでは、河合俊雄センター長による開会の言葉のあと、以下の3つの講演が英語で行われました。
  
はじめに、ヤディン・デュダイ教授(ワイツマン科学研究所/ニューヨーク大学)が「移動する故郷──惨禍が生み出す共同的な視座は、いかにユダヤの文化的記憶を二千年前の死から救ったのか」と題した講演を行いました(オンライン中継)。デュダイ教授によれば、集団によって共有された記憶である文化的記憶は、個人の記憶や書物、習慣化などを通して、世代を超えて受け継がれ、共同体のアイデンティティを形成するものです。その特異な事例として、ユダヤ教の聖典タルムードが取り上げられ、喪失した故郷の土地の代わりに、聖典という書物“portable homeland”(移動する故郷)とすることで、故郷の喪失という共同体の危機にまつわる記憶が忘却を免れてきたプロセスが説明されました。講演の終わりでは、デュダイ教授は、こうした文化的記憶のメカニズムを現在の新型コロナウィルス感染の状況に応用し、従来の共同体の垣根を超えた新しい文化的記憶の形成が今後展開される可能性を示唆しました。
  
続いて、石山徳子教授(明治大学政治経済学部)より、「世代を超えたトラウマと希望──アメリカ核開発と先住民族」と題した講演が行われました。講演では、まず、アメリカ合衆国に内在する「セトラー・コロニアリズム」の構造が説明され、現代のアメリカ社会において、移民を中心とする多様性が称揚される一方で、アメリカ先住民の存在が忘却され、不可視化されているという現状が指摘されました。そのうえで、石山教授は、ハンフォード・サイトとスカル・バレーでの自身のフィールド調査の報告として、「犠牲区域」と呼ばれる核開発地区に住む先住民の人々の事例を紹介しました。最後に、石山教授は、先住民のこころについて考える手がかりとして、従来の「スピリチュアリティ」や「アイデンティティ」といった概念に代わり、“relationalities”(繋がり)や“co-becoming”(共に変容していくこと)といった、人と人や、人と土地の繋がりに重きを置いた見方が重要であるとの見解を示しました。

 
最後に、アンドレアス・メルケル教授(チューリッヒ大学)が、「全てが心的外傷後ストレス障害(PTSD)とは限らない──診断概念における文化上の限界と新しいアプローチ」と題した講演を行いました(オンライン中継)。メルケル教授は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の診断において、従来、第三者的視点に基づく“etic”(外的)なアプローチが主流となって来たのに対し、当事者自身の視点に基づき、その文化背景を尊重した“emic”(内的)なアプローチが重要であるとの見方を示しました。メルケル教授によれば、英語の「トラウマ」という語自体がラテン語の比喩に由来するように、各文化に内在する「トラウマ」の異なる比喩を取り込むことで、従来のヨーロッパ中心主義的な理解を乗り越えることができるといいます。これらの議論から、メルケル教授は、日本語における「こころ」の定義にも触れつつ、人間のこころを理解し、語る際の文化的側面の重要性を強調しました。
 
これらの講演に続いて、河合俊雄教授を加え、講演者らによる総合討論が行われました。討論では、まず、「トラウマ」や「故郷/土地」、「文化性」といったキーワードが3つの講演を繋ぐものであったことが確認され、そのうえで、ユダヤ教徒とアメリカ先住民それぞれの事例において土地の喪失がトラウマとなっているという観点から、これらのキーワードについてより詳しい説明が加えられました。また、討論の終わりでは、特定の共同体や民族のこころについて語るための用語と概念の妥当性について議論が及び、各文化における多様性を考慮することで、多元的な視点を持った概念を見出すことが今日求められているとの見解が示されました。

最後に、時任宣博理事(京都大学 研究、評価、産官学連携担当 理事・副学長)より閉会の言葉をいただきました。当日の司会進行は熊谷誠慈准教授が務めました。

第2回京都こころ会議国際シンポジウムの講演内容は、近く当HPでも動画配信を行う予定です。

 

河合俊雄センター長

 

ヤディン・デュダイ教授(ワイツマン科学研究所/ニューヨーク大学)とアンドレアス・メルケル教授(チューリッヒ大学)

 

石山徳子教授(明治大学政治経済学部)

 

時任宣博理事(京都大学 研究、評価、産官学連携担当 理事・副学長)

 

熊谷誠慈准教授

 

2022/02/16

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