河合俊雄教授が監訳を務めた『ユングの神経症概念』が出版され、監訳者序文「臨床家ギーゲリッヒ」も同書に収録されました
河合俊雄教授が監訳をおこなった『ユングの神経症概念』が、2021年6月に創元社より出版されました。本書は、Wolfgang Giegerich, Der Jungsche Begriff der Neurose, Peter Lang, 1999を翻訳したものです。
著者であるギーゲリッヒ博士は、ユングの神経症理解について、1977年の「心理学の神経症」といった論文や、ユング研究所でのセミナー講義を通して、本質的な洞察を行ってきました。本書は、1995年にドイツで日本人の心理学専攻の大学院生を対象に行った週末セミナーに端を発するもので、このセミナーから、博士はユングの神経症理解を再びテーマに取り上げ、1998年には『魂の論理的生命』も出版しています。
今回、日本での翻訳書の出版にあたって、河合教授は監訳を務め、監訳者序文「臨床家ギーゲリッヒ」を執筆しました。
教授は監訳者序文の中で、本書がギーゲリッヒ博士の思想を知る導入となるだけでなく、博士の臨床的な側面を学ぶことができる点に、意義を示唆しています。博士は、心理学は具体例に基づかなければならないと主張してきましたが、本書では、『ユング自伝Ⅰ』で報告されたユング自身の11歳時の神経症体験を引用して論が進められており、読者にもより理解しやすいのではないかと、教授は述べています。
このユングの体験を基にした本書の神経症論について、教授は序文で詳しく解説していきますが、実際に養育環境や犯罪のような出来事を原因として生じる「心的 (psychic)」な問題とは異なり、神経症は何かの出来事から因果的に生じるものではなく、むしろ出来事をきっかけに使ってその人自身が作った「物語」であり、言い換えると「こころの、魂の自由な創造」によって生じる「心理学的 (psychological)」な問題であることを博士が示した点に、特に焦点が当てられています。
現代では、何らかの原因によって、こころの病や問題が生じていると考え、その原因を取り除き、ダメージを受けた人をケアしようというアプローチが主流となっていますが、神経症が自分の作った「物語」に過ぎないと、心理療法でその人自身が見抜いていくことによってこそ、症状は解消されるとのギーゲリッヒ博士の視点は、臨床的に画期的なものであり、現代においても非常に意味があるのではないかと教授は言及しています。
この『ユングの神経症概念』は、ユング心理学のラディカルな思想家で難解ともされているギーゲリッヒの書いたものにしては幸い分かりやすい部類に入るのではなかろうか。これをきっかけにギーゲリッヒの考え方を知ってもらえればと思う。そしてもう一つのポイントは本書の持つ臨床的側面である。ギーゲリッヒと毎年行ってきた夢セミナーで、彼が臨床家として非常に優れていて、常に鋭いだけでなく、柔軟な臨床的視点をもたらしてくれることには驚かされてきた。1回分だけの夢セミナーは創元社から『ギーゲリッヒ夢セミナー』として公刊されているために、その様子を垣間見ることはできるが、本書によって、彼の臨床的な側面を日本の読者にさらにお伝えできればと思う。
著者の序文にもあるように、…
(「臨床家ギーゲリッヒ-監訳者序文として-/河合俊雄」より)
出版社の書籍ページでは、監訳者によるまえがきを読むことができます。
https://www.sogensha.co.jp/tachiyomi/4264
○書籍データ
ユングの神経症概念
著:ヴォルフガング・ギーゲリッヒ
監訳:河合俊雄
訳:河合俊雄、猪股剛、北口雄一、小木曽由佳
出版社:創元社(2021年6月20日)
単行本: 224ページ
ISBN-13: 978-4-422-11763-8
出版社の書籍ページ https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=4264
2021/06/21