『ミネルヴァ通信「究」』に河合俊雄教授の連載第31回が掲載されました
ミネルヴァ書房の発行する月刊誌『ミネルヴァ通信「究」(きわめる)』2019年3月号に、河合俊雄教授の連載「こころの最前線と古層」が掲載されました。
今回のテーマは「うつ病とこころの古層」です。
今回は、精神病の中でもうつ病がテーマになっています。うつ病に関しては、薬の開発、早期対応が進められているため、生物学的な要因が強いと考えられますが、うつ病には時代的、文化的な側面も大きいことを、まず著者は指摘します。例えば、近年のうつ病は、うつ病の中心的特徴とされてきた、自分を悪いと責める罪悪感が弱く、「新型うつ」ということが言われています。また、50年ほど前はうつ症状だけを中心とするものが多かったのに対し、近年は双極性障害という呼び方が定着し、躁うつを往復するタイプも増えています。
こうした現代のうつ症状の新しい傾向について、著者は前近代のこころのあり方やこころの古層といった視点から考えていきます。近代のこころの病は、自分を責める罪悪感など、その人が自分自身の中で葛藤することによって生まれ、自分の中の閉じられた世界の中で起こることが特徴でした。これに対して、こころの古層における病観は、こころが自分の身体の外にも広がっているような見方と言え、前近代の世界では、病は魂の喪失か、霊などの異物が自分に侵入してくることと考えられていました。こうした前近代的な見方からは、うつというのは魂の喪失として、躁状態は自分に何かがとりついてしまうこととして、捉えられるのではないかと著者は論じています。そのため、近年の新しいうつ状態に関しても、失われた魂を取り戻したり、それが湧き出て来ることが大切というイメージを持っていたりすることが、心理療法では有効かもしれないと著者は指摘しています。
(解説:粉川尚枝 特定研究員)
こころの最前線と古層(三一)「うつ病とこころの古層」河合俊雄
抑うつというのは、誰もが陥ることのできるこころの不調かもしれない。パニック障害や解離性障害などは、そんな派手なことが自分に起こりえるのかと思う人が多いだろうけれども、多少とも気分が落ち込むとか、何をする気も起こらないというのを経験したことがないというのは、むしろ珍しいのではないだろうか。その意味でうつ病は、比較的理解のしやすい精神病であるかもしれない。
うつ病に関して、次々と薬が開発され、またうつ病には早く薬で対応するように啓発がなされていて、その意味では生物学的要因が強いと考えられるにもかかわらず、その時代的、文化的な側面は大きいと思われる。…
(論考より)
出版社のページ(こちらから『究』の講読が可能です)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b439651.html
2019/03/05