『ミネルヴァ通信「究」』に河合教授の連載第38回が掲載されました
ミネルヴァ書房の発行する月刊誌『ミネルヴァ通信「究」(きわめる)』2019年10月号に、河合俊雄教授の連載「こころの最前線と古層」が掲載されました。
今回のテーマは「死の逆説と小さな物語」です。
前回の連載から、「死のテーマ」が取り上げられていますが、今回の連載は、近年、重要な役割を果たしているターミナルケアにおける心理療法を基に論じられています。 ターミナルケアにおける心理療法は、死という結末が動かしがたい中で行われることになりますが、その心理療法では、「死とは何か」や「死をどう受け入れるか」などの問いが必ずしも中心的なテーマにならず、むしろそのプロセスが驚くほど個人によって異なることに、教授は着目しています。そのプロセスでは、例えば長年会っていない家族に再会するなど、何か自分なりの具体的な目標を持つ人が多いことから、死を前にしても最後まで自分に課題を設けて成長していく人間のこころの性質に、教授は言及しています。 また、「死とは何だろう」といった問いを「大きな物語」、先の例のような具体的な目標を「小さな物語」として教授は捉えています。私たちの日常生活においても、この「大きな物語」にこだわってしまう人もいれば、死に向き合わなくてすむように「小さな物語」に一生懸命になる人もいることを指摘した上で、教授は華厳経の教えを引用しながら、この「小さな物語」の方に取り組む過程においても、「無常」や「空」を背景に持つ現実世界を通して私たちは死に関わっているのではないかと考えています。
(解説:粉川尚枝 特定研究員)
こころの最前線と古層(三八)「死の逆説と小さな物語」河合俊雄
われわれのこころの古層には、死が単なる消滅ではなくて、死者があの世から還ってきたり、生と死が循環したりするような世界観が残っているようである。それは生と死が単純に分けられたり、対立したりするのではなくて、ある意味で逆説に満ちた関係にある。死の逆説性について少し考えてみたい。またそれを抽象的に論じるのではなくて、実際の心理療法での体験から検討してみたい。 近年において、心理療法は社会の様々な場面に進出していて、医療領域においても、精神科や心療内科に限られていない。… (論考より)
出版社のページ(ここから『究』の講読が可能です)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b479961.html
2019/10/01