第4回京都こころ会議シンポジウム「こころとArtificial Mind」を開催しました
2019年10月14日、京都大学百周年時計台記念館百周年記念ホールにて、第4回京都こころ会議シンポジウムを開催いたしました。公益財団法人稲盛財団からのご支援を受けて2015年に発足した京都こころ会議は、これまでに「こころと歴史性」(第1回シンポジウム)、「こころの内と外」(第2回シンポジウム)、「こころと共生」(第1回国際シンポジウム)、「こころと生き方―自己とは何か」(第3回シンポジウム)をテーマに、計4回のシンポジウムを行ってまいりました。
今回の第4回京都こころ会議シンポジウムでは、「こころとArtificial Mind」をテーマに掲げました。これまでの4回のテーマが、大きくは人文・社会科学の枠組みでこころを捉えようとしてきたのに対して、今回のシンポジウムは、自然科学と技術の進歩の中でのこころについて問い直そうというものです。人工知能や深層学習の理解と発展に寄与してきた三名の研究者により、人工知能と人間のこころの比較、そして未来における人と技術との関わりについて、それぞれの視点から検討が試みられました。
河合俊雄センター長による開会の言葉のあと、以下の3つの講演が行われました。
まず西垣通名誉教授(東京大学・名誉教授)が、「AI時代の心のゆくえ」と題した講演を行いました。「機械はこころを持つか?」という問いを検討するにあたって、まず、人や生物が持つ心の多義性と多面性が論じられ、とりわけ倫理的な問題に着目した考察が行われました。西垣名誉教授によれば、生物が、自ら意味の世界を生み出す自己創出システムを持つゆえに、予測困難かつ自律的な存在であるのに対して、AIロボットが獲得しているかに見える自律性は、その複雑さによって生じる擬似的なものに過ぎないといいます。このためAIロボットは、生物的自律性を持つ人間とは異なり、自らの判断に責任を持つことはできないことが示唆されました。その上で、自動運転、監視選別社会、AIによる芸術作品の創作という3つの事例を取り上げ、人工知能を実社会に応用していくにあたって、その限界と危険性を認識した上で、将来的な可能性を考え、活用していく必要があるという見解が示されました。
続いて、尾形哲也教授(早稲田大学・教授/産業技術総合研究所人工知能研究センター・特定フェロー)から、「深層学習と運動感覚学習─認知発達ロボティクスの視点から─」と題した講演が行われました。講演ではまず、従来的な演繹的人工知能に対し、多量のデータを学習する帰納的人工知能であるディープラーニングの仕組みが説明された上で、タオルを畳むロボットや、サラダを盛り付けるロボット、液体を量るロボットなど、ディープラーニングを応用したロボット開発の実例が紹介されました。こうしたロボットの特徴として、膨大なデータの深層学習を通して、実際には学習していない状況にも対応することができるようになる点が挙げられました。その上で尾形教授は、こうした機能を可能にする仕組みがつねに事後的にしか理解されない点において、深層学習がブラックボックスであることを指摘し、将来的な発展においては、深層学習が予測不可能性をはらんだ技術であることを理解した上で活用していくことが必要との見解を示しました。
3つ目の講演では、長尾真名誉教授(京都大学・名誉教授)が「心のモデルを考える」と題した講演を行いました。長尾名誉教授は、人間の頭脳の働きを知的機能・心的機能・魂的機能の3つに分けてモデル化することを提唱し、このモデルに従って、機械が心を持つことができるかという問いの検討を行いました。長尾名誉教授によれば、とりわけ心的機能は、精神・感性・感情・情動などの多様な働きを持つ複雑なもので、プログラム化することが最も難しいものであるといいます。さらに、各機能間の相互関係や、意識をプログラム化する方法についても検討を加えた上で、深層学習等の技術が発展している今日では、人間の心の状態とそれに付随する反応の事例を大量に集めデータベース化することにより、コンピュータ上に心のプログラムを再現することはある程度可能であろうという見解が示されました。また、人間の知的機能、心的機能などのあらゆる情報を集め、あり得るあらゆる可能性を推論することができれば、これまで人間を定義するものと思われてきた自由意志などの概念そのものを問い直す必要が出てくると示唆しました。
これらの講演に続いて、吉岡洋特定教授(京都大学こころの未来研究センター・特定教授)と河合俊雄教授(同・センター長)を加え、講演者らによる総合討論が行われました。討論では、「こころとArtificial Mind」というテーマに沿って様々な意見が述べられ、とりわけ人工知能による芸術創作の可能性について多くの議論が交わされました。人工知能によるメタファー生成の課題や、創造されたものに価値付けを行う人間の視点とその機械による代替可能性など、人工知能を用いた芸術創作を可能にする様々な条件について、それぞれの立場から見解が示されました。
最後に、湊長博理事(京都大学プロボスト)より閉会の言葉をいただきました。湊理事はまず、自身の専門領域である医学の歴史において、「理屈」による論証の代わりに、事実の集積に基づいて判断する新しい疫学が生まれた経緯を説明されました。その上で、今日の医学においても、データ収集に基づいて判断を行う深層学習やビッグデータの活用が浸透してきていることに触れ、「AIとどのように付き合っていくか」という問いに真剣に取り組んでいく必要性があると述べました。当時の司会進行は、広井良典教授が務め、260名もの参加者にご来場いただきました。
第4回京都こころ会議シンポジウムの講演内容は、近く当HPでも動画配信を行う予定です。
(報告:中谷森 特定研究員)
[開催ポスター]
[DATA]
▽日時:2019年10月14日(月・祝) 13:30~17:40(13:00~受付開始)
▽会場:京都大学 百周年時計台記念館 百周年記念ホール アクセス ※NO.3:時計台記念館
【プログラム】
13:30~13:40 開会の言葉 河合俊雄(京都大学こころの未来研究センター・センター長)
13:40~14:30 講演1 『AI時代の心のゆくえ』西垣通(東京大学・名誉教授)
14:30~15:20 講演2 『深層学習と運動感覚学習ー認知発達ロボティクスの視点からー』尾形哲也(早稲田大学理工学術院・教授/産業技術総合研究所人工知能研究センター・特定フェロー)
15:20〜15:40 休憩
15:40〜16:30 講演3 『心のモデルを考える』長尾真(京都大学・名誉教授)
16:30〜17:30 総合討論 西垣通、尾形哲也、長尾真、河合俊雄、吉岡洋
17:30〜17:40 閉会の言葉 湊長博(京都大学・プロボスト)
主催:京都大学こころの未来研究センター
後援:公益財団法人 稲盛財団
2019/11/29