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【令和2年度 研究プロジェクト】シンギュラリティ後の生活者のこころのあり方について

研究課題    シンギュラリティ後の生活者のこころのあり方について

研究代表者   広井良典 京都大学こころの未来研究センター 教授

センター参画  熊谷誠慈 京都大学こころの未来研究センター 准教授
        安田章紀 京都大学こころの未来研究センター 研究員
        下條信輔 京都大学こころの未来研究センター 特任教授

アメリカの未来学者カーツワイルのいわゆるシンギュラリティ(技術的特異点)論は、大要において「遠くない未来、たとえば2045年頃に様々な技術――特に遺伝学、ナノテクノロジー、ロボット工学――の発展が融合して飛躍的なブレークスルーが起こり、さらにそこでは高度に発達した人工知能と人体改造された人間が結びついて最高の存在が生まれる」といった趣旨のものである。
カーツワイルの議論のベースには、ある種の“テクノ・ユートピア”的な楽観主義ないし科学万能主義や、自然や生命を人間は無限にコントロールできるという、西欧近代科学の極北とも言うべき自然観・世界観が色濃く存在している。
しかし一方、物質的な需要ないし消費が半ば成熟あるいは飽和しつつある現在の先進諸国においては、例えばブータンにおけるGNH(国民総幸福)の提唱への注目や、「GDPに代わる豊かさの指標」に関する議論の高まりなど、単純な“技術による突破と経済の拡大・成長”というベクトルとは異質の、「こころ」の豊かさや安寧、精神的充足を志向する流れが顕著になりつつあり、またローカルなコミュニティや場所性、伝統文化の再評価、“ゆったりと流れる時間”等への関心が高まっていることも確かである。
ここで、かりにシンギュラリティ論的な方向を「スーパー情報化/スーパー産業化/スーパー資本主義」と呼び、上記のような方向を「ポスト情報化/ポスト産業化/ポスト資本主義」(あるいは脱・情報化/脱・産業化/脱・資本主義)と呼ぶとするならば、21世紀の全体を見渡した今後の社会や人間の姿は、この異質な両者のベクトルの間でどのような軌跡をたどり、像を結んでいくのであろうか。
こうした問いに答えるためには、シンギュラリティ論が提起するテーマが近代科学や資本主義のあり方そのものと深く関わる射程を持っていることを踏まえれば、過去・現在・未来にわたるいわば「超長期」の時間軸を視野に入れてこれまでの人間社会や思想・観念等の進化をとらえ返すような視点が不可欠であり、同時に空間的な広がりとしても、地球全体の視野の中でアジア・日本の文化的伝統や意味を位置付けるような作業が本質的な重要性をもつことになる。
こうした問題意識をベースとし、シンギュラリティ論を参照軸としつつ、2100年ないし21世紀の全体を視野に収めて、人間社会と「こころ」のゆくえ――その変化する部分と変化しない部分の両者を含む――についての超長期の展望を得ることを目的とする。この場合、地球全体の空間的広がりを視座に置きながら、仏教的伝統あるいは「鎮守の森」に象徴されるような自然信仰など、日本・アジアの伝統的価値やローカルな場所性も視野に入れた探究を行う。

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