JST未来社会創造事業採択課題「個人の最適化を支える『場の状態』:個と場の共創的Well-beingへ」キックオフシンポジウムが開催されました
2021年11月5日に、JST未来社会創造事業採択課題「個人の最適化を支える『場の状態』:個と場の共創的Well-beingへ 」キックオフシンポジウムが開催されました。
当日は、若宮翔子准教授(奈良先端科学技術大学院大学)が司会を務め、まず、代表の内田由紀子教授(京都大学こころの未来研究センター)が全体の趣旨説明を行いました。
多様な個人の最適化を支える「場」を生み出す要因を探求することを目的とし、そのために、4つの班を構成し互いに連携を取りながらWell-beingの要因と、それを評価・可視化する技術の開発を行うことが、説明されました。
趣旨説明に引き続き、内田教授が「主観指標の取り組み」と題して、主観指標班の観点から話題提供を行いました。
内田教授は、 Well-being を、「こころ」の充足を捉える新しい「物さし」、「場」を職場や地域などの集団の共有現実を生み出すものとして位置づけることを提起しました。その上で、他者の幸福や、集団内での合意形成について考察する際に、「個」と「場」の状態ならびにそれらの関連性を同時に測定・把握する必要性を指摘しました。そこで、既存の知見を生かして、主観指標・客観指標を設計し、先進技術と接続することで、「個」と「場」の相互作用を理論化していくことをプロジェクト全体の目的として提示しました。
続いて、話題提供1として、吉村有司特任准教授(東京大学先端科学技術研究センター)が「都市におけるAIビッグデータの可能性」と題して、アーバンセンシング班の観点から発表を行いました。
吉村特任准教授は、「場」を都市、特に歩行者空間と定義した一方で、建築分野においては、人々のWell-beingがほとんど意識されてこなかったことを指摘しました。そこで本プロジェクトにおいては、歩行者空間の分布のマッピング技術を活かして、世界各地で進められている都市の歩行者空間化の効用を、幸福感という観点から明らかにすることを提案しました。また、データサイエンスの知見に基づいてデータを可視化することで、成果を非専門職の人々に共有し、一般の人々とのコミュニケーション・対話を円滑化することの必要性も論じました。
話題提供2として、中山真孝特定助教(京都大学こころの未来研究センター)が「場の可視化技術:SATETSU」と題して、フィジオセンシング班の観点から、発表を行いました。
中山特定助教は、「場」を個人間の相互作用から創発的に生まれる、個人には還元できない作用であるとし、Well-beingを感情的に良い状態として定義しました。、「場」の Well-being は、その場にいる各個人の状態が一時的に下がったとしても、回復できる持続可能性も備えていることも指摘しました。そこで、こうした可変的なダイナミクスを可視化するツールとして、SATETSU というアルゴリズムを提案しました。その適用例として、SNS相談のテキストデータから相談者とカウンセラーの感情価の共変化を測定している事例を報告しました。SNS相談における専門家による各セッションの評価と感情価の共変化のパターンから、「良い場」と「悪い場」を差異化に見られるように、SATETSUは、「個」の状態を生理指標やテキストデータから推定することで、「場」のダイナミクスを可視化することができるツールとして開発していくことが提示されました。
話題提供3として、荒牧英治教授(奈良先端科学技術大学院大学)が「ソーシャル・センシングが紡ぐ未来」と題して、ソーシャル・センシング班の観点から、発表を行いました。荒牧教授は、「場」を4,500万人のSNSのアクティブユーザー、Well-beingを「場」とともに生きること、と定義しました。言語処理の技術を用いて感情・内面の推定を行うことにより、「場」の声を形にし、より良い社会を作る可能性があることを示しました。そして測定結果をいかに現実社会へフィードバックするのか、また、「場」に適切なSNSをデザインできるかが重要になると報告しました。
話題提供4として、馬場雪乃准教授(筑波大学システム情報系)が「個人と集団をつなぐヒューマンコンピュテーション」と題して、発表を行いました。馬場准教授は、「場」をシステムにより制御され人々が相互作用するプラットフォームと定義し、Well-beingを他者の助けになり、他者から尊重されていると感じられている状態と定義しました。ヒューマンコンピュテーションは、「場」の改善において、集団構成員の意見を取り上げ、単なる多数決を超えた解決策のアイデアを創発・選定することに貢献できる可能性が高いことを示しました。人々の能動的な社会参加や発言を促し、「場」の状態の改善に貢献することができたと感じてもらうことが、人々のWell-beingの向上につながるということが論じられました
最後に、話題提供者に加えて、パナソニック株式会社 伊藤伸器 様と、三菱UFJリサーチ&コンサルティング 中島健祐 様をディスカッサントに迎え、「個と場の共創的Well-beingの課題」についてのパネルディスカッションが行われました。
伊藤様からは、商品開発のご経験を踏まえ、職場での働き方などの観点から各報告にコメントを頂きました。
中島様からは、デンマーク外務省でのご経験を踏まえ、北欧におけるWell-being向上への取り組みに関して話題提供を頂きました。
その後、内田教授による司会進行で、「場」がネガティブになってしまう可能性とどう向き合うべきか、日本におけるまちづくりはどのように推進されるべきか、職場におけるより良い「場」づくりはどのようになされるのか、という3つの問題を中心に、活発な議論が行われました。
各話題提供者それぞれが専門とする分野は異なりますが、全員が「個と場の共創的Well-being」という1つの大きな目的に向かって同じ志を持っている、ということが認識できる会となりました。
終了後のアンケートの結果からも参加者の方々の満足度が非常に高い会であったことが伺えました。
代表の内田教授による趣旨説明と話題提供を動画として公開しています。
https://ocw.kyoto-u.ac.jp/course/1049/
同プロジェクトのホームページ
https://sites.google.com/view/co-wellbeing/top
2021/11/29