PJ-2 公共政策・思想領域担当
上廣こころ学研究部門(兼任)・教授 広井良典
サブプロジェクト
A.ポスト成長時代の経済・倫理・幸福 |
B.鎮守の森とコミュニティ経済 |
A.ポスト成長時代の経済・倫理・幸福
上廣こころ学研究部門(兼任)・教授 広井良典
東京都荒川区自治総合研究所・研究員 佐藤宏嗣
鎮守の森コミュニティ推進協議会・会長 宮下佳廣
千葉大学大学院人文社会科学研究科特別研究員 松葉ひろ美
1. 研究目的
90年代後半から日本社会は実質的なゼロ成長時代に入り、人口減少社会への移行や高齢化の進展とも相まって、経済の限りない「拡大・成長」を軸とする従来の社会とは大きく異なる、新たな社会モデルの構想や価値意識・原理等の転換が求められるに至っている。
そうした転換の柱の一つとなるのが、そこでの「経済と倫理」の関係性の再編である。「経済と倫理」という二者は、一見対極にあるようにも見えるが、”日本資本主義の父”とされる渋沢栄一の『論語と算盤』や近江商人の「三方よし」の家訓にも象徴されるように、元来は不可分の関係にあり、それは現代におけるいわゆるソーシャル・ビジネスや社会起業家の理念ともシンクロナイズする。
他方、近年では「GDPに代わる指標」や「幸福度指標」をめぐる議論や政策が活発化し、国内では東京都荒川区の「GAH(荒川区民総幸福度)」や、同様の理念を共有する85自治体のローカル・ネットワークとしての「幸せリーグ」(研究代表者の広井はその顧問の一人)の展開が生じている。
以上のような動きは、ポスト成長、あるいは「ポスト資本主義」とも呼びうる時代の構造変化の中で生成している、深い次元で相互に浸透し合う現象群であり、これらを理論的・実証的に吟味しつつ、ある意味で日本が先駆的に経験しようとしているポスト成長時代の新たな社会構想とそこでの人間のありようを考究するのが本研究の内容となる。
2. 研究計画
上記からも示唆されるように、本研究は大きく次の二つの柱から成り立っている。
(1)ポスト成長時代における「経済と倫理の再融合」
興味深いことに、先の渋沢栄一や近江商人に限らず、日本の経営者には経済と倫理の関わりや宗教・信仰に深い関心を向けた者が少なくない(松下幸之助(松下電器)、出光佐三(出光興産)、鳥井信治郎(サントリー)等々)。これらの事例の分析と、現代のソーシャル・ビジネスをめぐる展開や関与者の意識・理念等を対比的に検証すること(関係者へのインタビュー調査等を含む)を通じ、経済と倫理・宗教の関係性の進化のありようを、経済構造の歴史的変化との相関においてとらえ返し、今後の展望を明らかにしたい。
(2)「幸福政策」と地域再生(及び都市・農村連携)
上記の東京都荒川区及び「幸せリーグ」をめぐる政策展開を事例として取り上げ、幸福度指標あるいは幸福政策の意義と問題点、それと地域再生ないし地方創生との関係性、地域による課題の多様性、都市・農村関係の再構築等について、多面的な角度から吟味する。
さらに以上の(1)(2)を総合し、ポスト成長時代における経済・倫理・幸福の諸相をその主体や空間軸、価値原理にそくして掘り下げ、新たな社会構想につなげる。
B.鎮守の森とコミュニティ経済
上廣こころ学研究部門(兼任)・教授 広井良典
鎮守の森コミュニティ推進協議会・会長 宮下佳廣
千葉エコ・エネルギー株式会社・地域エネルギー担当 小池哲司
社会福祉法人福祉楽団・理事 飯田大輔
1. 研究目的
全国に存在する神社・お寺の数はそれぞれ約8万1千、約8万6千にのぼる。中学校の数は全国で約1万で、あれほど多いと思われるコンビニの数は5万程度なので、これは相当な数である。これほどの数の”宗教的空間”が全国にくまなく分布している国は珍しいとも言えるが、戦後、急速な都市への人口移動と経済成長へのまい進の中で、そうした存在は人々の意識の中心からはずれていった。
しかし興味深いことに近年、地域コミュニティへの関心が高まる中で、鎮守の森という、高度成長期に人々の関心の対象からはずれていった場所を地域の貴重な「社会資源」として再評価し、それを子育てや高齢者ケアなどの福祉的活動や、環境学習等の場として活用するという例が現れてきている。
本研究は、コミュミティと自然信仰が一体となった地域の拠点としての鎮守の森を現代的な視点から再評価し、それを新たな課題である自然エネルギーの分散的な整備と結びつけた「鎮守の森・自然エネルギーコミュニティプロジェクト」や、”自然との関わりを通じたケア”ないし世代横断的なコミュニティ的つながりの通路としての「鎮守の森セラピー」という形で実践的に展開するものである。
併せて、地域再生や地方創生が課題となる中、経済の地域内循環を通じた地域活性化を図る方策としてのコミュニティ経済に関する調査研究を行う。
2. 研究計画
本研究は大きく次の二つの柱から構成される。
(1)鎮守の森コミュニティプロジェクト
鎮守の森の価値を現代的な課題と結びつけ新たな展開を図っていくもので、前記の①「鎮守の森・自然エネルギーコミュニティプロジェクト」と②「鎮守の森セラピー」が主要な柱となり、いずれもアクション・リサーチ的な実践研究となる(他に祭りと地域活性化、鎮守の森ホスピスなど)。
①については、これまで調査や実践的活動(小水力発電設備の導入等)を進めてきたいくつかの地域の事例(埼玉県秩父市、長野県小布施市、宮崎県高原町等)にそくした研究を進め、鎮守の森と結びついた自然エネルギー導入のモデル的な事例を構築していく。
②については、社叢林インストラクターの養成事業も行っている社叢学会とも既に一定の連携を行ってきているが、複数の地域での活動の実施とともに、効果の測定や一定のマニュアル整備等を進める。
(2)コミュニティ経済とまちづくり
経済の地域内循環および経済とコミュミティの再融合という視点を踏まえ、コミュニティ商店街、ケア、地場産業、農業等を軸とするコミュニティ経済について、いくつかの事例にそくした調査研究を行い、地域再生ないし地方創生の課題に貢献する。