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上廣こころ学研究部門2013年度研究報告会「生きることの価値」を開催しました

 こころの未来研究センター上廣こころ学研究部門2013年度研究報告会「生きることの価値」が、1月25日(土)、稲盛財団記念館3F大会議室にて開催されました。
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■分野を超えてこころを探究する「里山」のような研究部門に
 上廣こころ学研究部門は、こころの未来研究センターの寄付部門として2012年4月に設置されました。その成果を報告する初めての報告会に、一般の方々をはじめ学内外の研究者や学生らが数多く集まり、会場は終始熱気に包まれました。
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 初めに、吉川左紀子センター長からの挨拶があり、「上廣こころ学研究部門では、臨床心理学、倫理学、神経科学、教育学などさまざまな領域の若い研究者らが研究に取り組んでいます。以前からセンターの活動に注目し、お力添えくださっていた上廣倫理財団の事務局長、丸山登さんに、『里山のような研究部門をつくり、こころのあり方を研究したい』とお伝えしたところ、『京都大学の知的伝統を受け継ぎ、こころと倫理を未来につなぐ研究の場を作ってはどうか』とご賛同いただき、上廣こころ学研究部門がスタートしました」と研究部門設立のエピソードが紹介されました。続いて、上廣倫理財団の丸山登事務局長から、「財団は、昨年4月からiPS細胞研究所への支援を開始しており、現在、京都大学では2つの拠点の研究支援をおこなっています。大学の研究機関は、ゆったりとした時間の流れのなかで里山の樹木や花のようにのびのびと研究することがのぞましい。求めずして成る、の思いで研究を見守っています。今日は来場者の皆さんと共に、研究部門で研鑽を積んでいる若い研究者の研究成果を見て喜びたい」と、ご挨拶いただきました。
 続いて、カール・ベッカー教授による上廣こころ学研究部門の紹介があり、「現代社会では、さまざまな物事の価値が揺らいでおり、今こそ、倫理的な自己選択と責任が重要になってきています。今日の前半では『生きることの価値とその揺らぎ』をテーマに、各研究の紹介と問題提起と対策に、後半は『幸福感と伝統の価値』をテーマに、伝統からの育成と科学からの考察を各発表者がおこないます」と、報告会の主旨とプログラムが紹介されました。
■研究報告セッション1「生きることの価値とその揺らぎ」

座長・コメンテーター 河合俊雄(こころの未来研究センター教授・上廣こころ学研究部門兼任)
発表1:「現代社会における主体と価値の揺らぎ」畑中千紘(こころの未来研究センター上廣こころ学研究部門特定助教)
発表2:「病をめぐる自己の揺らぎ」長谷川千紘(こころの未来研究センター上廣こころ学研究部門特定研究員)
発表3:「認知症における家族介護者の価値の揺らぎ」清家理(こころの未来研究センター上廣こころ学研究部門特定助教)

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 前半の研究報告セッション1では、「生きることの価値とその揺らぎ」というテーマで3名の研究者らが各20分の持ち時間で発表しました。
 はじめに畑中千紘助教が「現代社会における主体と価値の揺らぎ」という演題で、臨床心理学領域における「大人の発達障害への心理療法的アプローチ」「こころの古層と現代の意識」という2つのプロジェクトからの研究成果を紹介しました。畑中助教は、増え続ける発達障害の特徴として「主体の弱さ」に注目し、ロールシャッハテストで発達障害の人たちによくみられる「不確定要素反応」を例として取り上げ、考察しました。また、ソーシャルネットワークなど、インターネットサービスの時代による変化に着目して、「かつてはブログなど自分のページに『訪問してもらう』形態が主流だったものが、Facebookやツイッターなどのタイムラインに自分の書き込みが紛れ『流れていく』形態へと移行している。このことも含め、社会全体が主体性を失いつつあるのではないか」と問題提起しました。
 
 次に長谷川千紘研究員が「病をめぐる自己の揺らぎ」という演題で、臨床心理学領域における「甲状腺疾患におけるこころの働きとケア」プロジェクトからの成果報告をおこないました。身体疾患を抱える人の心理的特性を調べるため、甲状腺疾患患者を対象に実施した3種類のテストを実施した結果を紹介。質問紙に対する自己評定では甲状腺疾患患者は健常者と差がなかったものの、木を描くバウムテストでは、自我境界の危うさを示す「開放型」が多く見られ、反構造化面接(面談)では平静な言葉とは裏腹に泣いてしまうことがあるなど、自己評価、絵、語りの間にあるギャップが特徴的であることが示されました。長谷川研究員は「病気の人は、自覚していなくても深いレベルでしんどさを抱えているのではないか。援助する側は、患者さんの表面的な訴えの背後にあるものを見つめて対処していく必要があると考えられ、今後もこうした研究を進めていきたい」と話しました。
 続いて清家理助教が「認知症における家族介護者の価値の揺らぎ」という演題で、倫理学領域における「倫理的観点に基づく認知症介護改善」プロジェクトからの研究成果を報告しました。清家助教は、昨今、認知症の測定スケール(認知症の程度を調べる質問項目)や薬剤の多様化など、研究や治療法の普及が進む一方で、介護者の負担や価値の揺らぎによって起こる問題が増加している状況を指摘。在宅介護者を対象としたデータ収集をおこない、半年に一度の面接と測定スケールを用いた統計分析に取り組んでいる経過実績を報告しました。清家助教は、「現時点では、介護負担が大きくても前向きな人や、他者のサポートを得て介護負担が下がっても介護の継続に不安を示す人がいるなど、まだまだ全体像の把握が難しい。新しい測定スケールや介護者のこころとワザを支援する方法を開発するための取り組みを進めている。引き続き、臨床現場の声に基づく政策提言型の研究を続けていきたい」と話しました。
■実践と研究をつなぐ学際研究で社会支援を
140125kawai.png 3つの報告の後、河合俊雄教授の座長によるパネルディスカッションがおこなわれました。河合教授は「どの研究も、実践と社会支援の側面を持ちながらも、特殊な事象から社会の動きや方向性を探ろうという研究の視点が含まれている」と評価し、各研究者に対して、「自分の研究は実践的提言として何が言えるのか、何が見えるのか?」と質問を投げかけました。それに対して、「発達障害の増加により社会自体もどう対応すれば良いか試行錯誤している。発達障害をどう理解すべきかを追究すると共に、支援をする人とされる人、それぞれのための研究を進めることが大切と捉えている」(畑中)、「病院でのカウンセリングを出発点に、病気の人たちを対象にして心理検査法をやってきたが、一般の人を見る部分でも研究が活きている。実践、研究、成果、発信という形で、カウンセラーの枠組みづくりに貢献していければ」(長谷川)、「臨床と研究は本来つながっているべきであり、常に折衷点を見出していきたい。政策はあっても実態が伴っていない、という状況があるので、適切な政策を提言していきたい」(清家)と、それぞれが自身の研究の手応えと今後の展望を話しました。討論は各研究から見えてきた現代の他者論、社会の様相にまで発展。河合教授は「社会学の研究者の話を聞けば、社会の意識としての変化が分かるなど、学際的な視点からの研究はとても重要」と話し、あらためてこころの未来研究センターの位置づけと重要性を強調しました。
■研究報告セッション2「幸福感と伝統の価値」

座長・コメンテーター:鎌田東二(こころの未来研究センター教授・上廣こころ学研究部門兼任)
発表1「身体の学びと伝統の価値の探究」奥井遼(こころの未来研究センター上廣こころ学研究部門特定研究員)
発表2「GNH(国民総幸福)政策に見られる伝統の価値の探究」熊谷誠慈(こころの未来研究センター上廣こころ学研究部門特定准教授)
発表3「脳科学による幸福感の探究」阿部修士(こころの未来研究センター上廣こころ学研究部門特定准教授)

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 後半の研究報告セッション1では、「幸福感と伝統の価値」というテーマで3名の研究者らが各20分の持ち時間で発表しました。
 はじめに奥井遼研究員が「身体の学びと伝統の価値の探究」という演題で、民俗学・教育学領域のプロジェクト「こころとモノをつなぐワザの研究―伝統芸能・武道における心技体の研究を中心に」の成果報告をおこないました。奥井研究員は、淡路人形浄瑠璃の一座が全国の学校でおこなっているワークショップを調査し、「学校におけるワザの継承」事例を数多くの写真と共に紹介。人形遣いが子供たちにどのようにワザを伝えているか、「人形遣いと子どもたちの身体の出会い」「教え手のペースに巻き込む稽古」「わきあいあいとしたやりとり」の3要素を挙げ、教え手と学び手それぞれの身体が相互交流し、いつしか学校の空間が「舞台」へと変化し、互いの関心が演技の成功へとつながっていくプロセスと特徴を示し、近年の学校教育のあり方とは異なるワザの継承事例をいきいきと紹介しました。
 続いて熊谷誠慈准教授が「GNH(国民総幸福)政策に見られる伝統の価値の探究」という演題で、幸福感の総合研究領域における「国民総幸福(GNH)を支える倫理観・宗教観研究」プロジェクトからの研究成果を報告しました。熊谷教授は、世界的に注目を集めるブータンのGNH(国民総幸福)政策について、「政策を知る以前に、ブータン人にとっての幸福とは何か、ブータン人にとってのGNHの価値は何かを理解して初めて日本や他国の政策に応用できると考え、総合的に研究を進めている」と説明。ブータンでは仏教の利他的精神が根付いており、物質的、精神的幸福それぞれを重視した「中道の精神」が生かされ、仏教の持つ科学的、哲学的、倫理的な知識を政策に取り入れている、とGNH政策の背景と成り立ちを紹介しました。「日本はいま伝統的な価値が見直されているが、さらに一歩進めて今の社会へと取り入れる必要があるのではないか」と提言し、「今後も宗教学、ヒマラヤ学を通じて、”こころ”と”倫理”をつなぐ研究に取り組んでいきたい」と結びました。
 報告会最後の発表として、阿部修士准教授が「脳科学による幸福感の探究」という演題で、幸福感の総合研究領域における「幸福感の神経基盤」プロジェクトからの研究成果を報告しました。阿部准教授は「文化・社会心理学が専門の内田由紀子准教授の知見と脳科学を融合させた幸福感研究を進めている」とプロジェクトを紹介。心理学における幸福感研究の歴史や幸福感を測定するための評価方法の変遷を紹介すると共に、近年、日本人の精神性に合わせて開発された「協調的幸福感」を評価する尺度とfMRIでの脳測定を組み合わせた研究結果を報告。幸福感が高い人ほどfMRI測定結果における報酬情報の処理に関わる眼窩前頭皮質(がんかぜんとうひしつ)が小さいことが分かり、協調的幸福感と利己的な報酬追求に相関がある可能性が示されたことを紹介しました。阿部准教授は「今後、データ数を増やして研究をさらに進め、脳科学とこころの幸福についてより広い視点で検討していきたい」と話しました。
■現代の課題と伝統的価値を結びつけ、新たな視点を提供する「中間者」の存在へ
140125kamata.png その後、鎌田東二教授の座長によるパネルディスカッションがおこなわれました。鎌田教授は「新たな領域に果敢に挑戦する3つの研究から浮かび上がってきたことは、他者との関係の中でポジティブな価値をいかに見出すかという点と、価値の『地域差』についても考えるべきだという点。伝統の価値を活用するなら、前半の発表で取り上げられた今日的な問題と後半の研究をいかにダイナミックにつなげていくかが課題となる」と話しました。鎌田教授から発表者3人への「他の発表と自分の発表との接点は?」という問いかけに対し、奥井研究員は「ブータンのGNHは現代版に翻訳されたブータンの伝統的な知恵。その意味ではブータン国王はブータンの知恵の『翻訳者』といえる。伝統芸能を伝える人も、言葉を超えた形で伝える翻訳者ではないか」と話し、それを受けて熊谷准教授は「翻訳という意味では、そもそもブータンにおける幸福は”Happiness”というよりも、充足や満足を意味する”Contentment”がふさわしいと提唱者の4代国王が言われている。ブータンの仏教徒たちは『執着』『怒り』『無知』を取り除くための教えを大切にしている。その部分を忘れてはいけない」と補足しました。阿部准教授は「日本人の持つ協調の精神は、震災時の報道からも世界的に評価されている。上廣こころ学研究部門における自分の仕事として、日本人のこころを脳のデータを用いて科学的に裏付けた上で、日本人独自のこころの性質を広く発信していきたい」と話しました。
 鎌田教授は、「これから先に考えるべきことは、生き方をただせばこころの状態が変わり、脳のレベルにも影響が及ぶ可能性を認識すること。そこには人の倫理性も関わってくる。問題に対して指標をつくり、分かりやすく人々に示し、社会に寄与していく『中間者』の存在が重要になってくる。その意味で、こころの未来研究センターの上廣こころ学研究部門が果たす役割は大きい。今後、現代の病理的な課題と伝統的な文化領域、思想領域を結びつけ、新たな理解と実践につながる視点を提供することが課題となるだろう」と話し、報告会を締めくくりました。
[開催ポスター]
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[DATA]
こころの未来研究センター上廣こころ学研究部門2013年度研究報告会「生きることの価値」
▽日時:2014年1月15日(土)14:00~17:50 (13:30受付開始)
▽場所:京都大学稲盛財団記念館3階大会議室
▽プログラム:
・14:00 – 14:05 センター長挨拶 吉川左紀子(こころの未来研究センター教授・センター長)
・14:05 – 14:15 来賓ご挨拶 丸山登氏(公益財団法人 上廣倫理財団 事務局長)
・14:15 – 14:30 上廣こころ学研究部門の紹介 カール・ベッカー(こころの未来研究センター教授・上廣こころ学研究部門兼任)
・研究報告セッション①「生きることの価値とその揺らぎ」(14:30 – 16:00)座長・コメンテーター 河合俊雄(こころの未来研究センター教授・上廣こころ学研究部門兼任)
・14:30 – 14:50 「現代社会における主体と価値の揺らぎ」畑中千紘(こころの未来研究センター上廣こころ学研究部門特定助教)
・14:50 – 15:10 「病をめぐる自己の揺らぎ」長谷川千紘(こころの未来研究センター上廣こころ学研究部門特定研究員)
・15:10 – 15:30 「認知症における家族介護者の価値の揺らぎ」清家理(こころの未来研究センター上廣こころ学研究部門特定助教)
・15:30 – 16:00 パネルディスカッション
・16:00 – 16:15 休憩
・研究報告セッション②「幸福感と伝統の価値」(16:15 – 17:45)座長・コメンテーター 鎌田東二(こころの未来研究センター教授・上廣こころ学研究部門兼任)
・16:15 – 16:35 「身体の学びと伝統の価値の探究」奥井遼(こころの未来研究センター上廣こころ学研究部門特定研究員)
・16:35 – 16:55 「GNH(国民総幸福)政策に見られる伝統の価値の探究」熊谷誠慈(こころの未来研究センター上廣こころ学研究部門特定准教授)
・16:55 – 17:15 「脳科学による幸福感の探究」阿部修士(こころの未来研究センター上廣こころ学研究部門特定准教授)
・17:15 – 17:45 パネルディスカッション
・17:45 – 17:50 閉会の挨拶 鎌田東二
▽参加者数:83名(関係者のぞく)
プログラムとアブストラクトはこちらです(PDFファイル 約0.6MB)

2014/01/28

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