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人文社会科学・文理融合的研究プロジェクトキックオフ国際シンポジウム「人・社会・地球のウェルビーイング」を開催しました

 2021年12月5日、人文社会科学・文理融合的研究プロジェクトキックオフ国際シンポジウムが、英語にてオンラインで開催されました。人文社会科学・文理融合的研究プロジェクトの始動を記念する今回のシンポジウムでは、「人・社会・地球のウェルビーイング」(英題:”Pursuing Well-Being in Cultural Context: Humans, Societies, and the Environment in a Globalizing World”)をテーマに、心理学と環境科学の視点から考察と議論が行われました。

 シンポジウムでは、河合俊雄センター長による開会の言葉のあと、以下の3つの講演が英語で行われました。
 はじめに、内田由紀子教授(京都大学こころの未来研究センター)が、「相互協調的社会におけるウェルビーイング:文化心理学による概念化と社会への応用」(英題:”Well-Being in Interdependent Context: Conceptualization and Social Implications from Cultural Psychology”)と題した講演を行いました。内田教授は、まず、人間の幸福感に関する研究では、従来、欧米社会の個人主義的傾向に即した自立的な幸福感に基づく指標が用いられてきたのに対し、協調性を重視する日本や韓国などの社会では、協調的幸福感に基づいた異なる指標の設置がより重要となると指摘しました。内田教授によれば、こうした社会の背景には、農業を中心とする共同体における集合活動の存在があるということです。講演の最後では、内田教授は、新型コロナウィルス感染症への対策において協調性が重要な役割を果たしたことを挙げ、協調性は社会と環境の持続性にとって重要な鍵を握る概念であると示唆しました。
 続いて、バートラム・F・マレー教授(ブラウン大学認知言語心理学部)より、「社会のウェルビーイングは社会規範とその施行に依拠している」(英題:”A Society’s Well-Being Depends on Norms and Their Enforcement”)と題した講演が行われました(録画中継)。マレー教授は、まず、共同体の利益と個人の利益が相対する際に、共同体の利益を優先するよう個人に促す役割を社会的な規範が果たしていると説明し、こうした規範の存在が共同体の繁栄にとって欠かせないものであると指摘しました。そのうえでマレー教授は、文明史を概観しながら、こうした規範には道徳的な非難blame)と制度化された罰(punishment)の2つの形があると述べ、社会のウェルビーイングを向上するには、規範を逸脱した者に対して、社会的な非難を効果的に用いつつ、罰の執行を最小限に抑えることで、より健全に規範を保つ方法を模索していくことが重要であるとの見解を示しました。
 最後に、渡邊剛講師(北海道大学大学院理学研究院)が、「環境変化に対する脆弱性と回復力に関するサンゴ礁エコシステムと人間社会の類似と差異」(英題:”Similarities and Differences in the Vulnerability and Resilience to Environmental Changes between Coral Reef Ecosystems and Human Societies”)と題した講演を行いました。渡邊講師は、まず、環境汚染に敏感でありながら、様々な地球環境の変動を生き抜く耐性を持つサンゴ礁の特性を紹介し、サンゴ礁の調査を通じて、過去5億年に遡る地震や津波といった環境変動や、自然環境への人間の影響の歴史を明らかにする研究手法について説明しました。渡邊講師は、自身の調査活動について解説するとともに、演劇の制作を通じて、これらの調査結果を社会へと還元する喜界島での取り組みについて紹介しました。そのうえで渡邊講師は、個と集団が互いに支え合いながら存続し進化していくあり方という観点から、サンゴ礁と人間社会の類似と差異を指摘し、両者の比較を行いました。

 これらの講演に続いて、河合俊雄教授を加え、講演者らによる討論が行われました。討論では、まず、内田教授の講演について、相互協調的な幸福感が包含するリスクに議論が及び、協調性を重視する社会では、時に排他主義的な傾向が見られたり、意思決定に時間を要したりする点に注意も必要であるとの意見が示されました。また、規範を維持するための社会的な非難の機能について、インターネット上のコミュニケーションが普及している現代社会にあっても、直接顔を合わせることが過剰な非難を防ぐ上で重要であると、マレー教授が説明を加えました。また、渡邊講師による演劇制作の取り組みが話題に上り、社会規範を普及させ維持する上で、演劇が社会の中で果たしてきた役割について議論が交わされました。

 最後に、広井良典副センター長(京都大学こころの未来研究センター)より、閉会の言葉が述べられました。当日の司会進行は中山真孝助教が務め、国内外から85名の視聴者がオンラインで参加しました。
 シンポジウムの講演内容については、近く当HPでも動画配信(日本語字幕付き)を行う予定です。


河合俊雄センター長


内田由紀子教授


バートラム・F・マレー教授(オンライン参加)


渡邊剛講師


広井良典副センター長


中山真孝助教

2022/03/11

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