日本人糖尿病患者における心理・社会的側面と療養状況の関連
(一般公募型プロジェクト)
研究代表者
藤本新平 京都大学医学研究科 講師
センター参加教員
内田由紀子 京都大学こころの未来研究センター 助教
糖尿病患者に対する療育指導の成否は治療アウトカムに大きな影響を及ぼす。しかし現行のガイドラインには指導方法に関する記載が乏しく、経験に基づいて指導されていることが多い。アメリカでは糖尿病療法指導士の9割が患者の自己実現感を重視するエンパワメント理論を用いて指導している。同時に動機づけによる行動変容が重視されるようになり、本邦でもその有効性は知られるようになった。しかし、社会・文化心理学の観点からは、日本人の行動の動機づけや自己観がアメリカ人と異なることが指摘されており、アメリカ人と同様の「自己の持てる力を引き出す」という介入方法が適しているかどうか、吟味する必要がある。
文化心理学では、個人の行為を左右する主体性、動機、自己観が、家庭や職場の人間関係、社会の習慣や制度と切り離すことができないとされている。いくつかの実証研究によると、日本人はアメリカ人に比して、他者との関係性によって自分の存在を定義づけるような協調社会に生きている。妊婦のコーピング手法に関する研究では、自分自身がアウトカムを改善し責任を持つことを重視する欧米人と異なり、日本人では周囲の支えを重視することが報告されている。したがって、日本人糖尿病患者に対する療育指導では患者個人の意思を高めるだけでなく、協調性社会における周囲との関係に配慮した指導がより効果的である可能性が高い。
そこで、今回、日本人糖尿病患者の心理社会的側面、またそれらと療養の関連について、社会・文化心理学の視点を含めた尺度を用いて評価することを目的とする。日本人糖尿病患者の価値観・思考様式、周囲から受ける支え、健康感、療育の状況を測定し、相互の関連について検討することにより、日本人に適した糖尿病指導を行い、患者の生活の質を維持することに関する基礎資料を得る。
2009/04/22