プロジェクト3 人類学領域
共生のための「つながり」とコミュニティ構築
研究代表者
小西 賢吾 上廣倫理財団寄付研究部門 特定講師
概要
前世紀以来、工業化・都市化・グローバル化などに伴って、地縁や血縁を基盤とする伝統的コミュニティは崩壊や希薄化が進み、日本においては人口減少を背景に、地域再生のための新たなコミュニティ構築が急務となっている。また、グローバル化が進む一方で、国家や民族、宗教といった枠組みはいまだ深刻な分断を生み出しており、経済格差やイデオロギー対立を越えて、人類はいかなる共同性を構築し維持しうるのかという問いは21世紀後半に向けた普遍的課題になっている。こうした課題に対して、日本とアジアにおける現地調査を軸として知見を蓄積し、人類学・比較文化的観点からつながりの未来を構想し社会還元する。
特に、日本を含むアジア圏で共有される「縁」の概念に着目し、人類学を主軸とした学際的・文理融合的研究を実施する。現代において、コミュニティは共住や家族関係、ローカルアイデンティティのみに支えられているのではなく、地域を越えた「偶然の出会い」によって変容したり活性化したりする。また、縁はしばしば「結ばれる」と表現されるように、西洋的な主体が形成するつながりとは異なる次元で発生することも注目される。こうした側面をふまえ、縁概念を基盤としてつながりの生成メカニズムを解明することを通じて、新たな学術領域を創出することを目指した研究を推進する。
研究プロジェクト
1 諸思想と民族誌の対話を通じたつながりをめぐる概念の研究
縁は仏教を一つのルーツとする概念であるが、実践レベルにおいては多様な要素と分かちがたく結びついている。人類学、仏教学、哲学、歴史学など多様な研究者との連携を通じ、縁をめぐる多様な思想や民族誌資料を比較検討することで、縁を仏教的な文脈から相対化し、グローバルに偶然性や邂逅から共同性の構築をとらえるための理論的基盤を構築する。
2 「縁結び」とコミュニティ構築に関する人類学的研究
つながりの生成とコミュニティ構築の動態について、日本やチベット仏教圏をはじめとする諸地域のフィールド調査を行い、日々を生きるためのつながりに偶然性がどのように関与するのかを解明する。祭りやグローバル化した宗教実践における参与観察を行い、多様な地域・現場をフィールドとする研究者、実践者との対話を通じて研究を進める。
3 つながりをめぐる新学術領域構築に向けた方法論の探究
上記の文献研究とフィールド調査、その比較検討に加えて、つながりの生成をとらえ、それを社会還元していくための学際的アプローチを探究する。多様な分野の研究者と連携し、文理融合的な観点から「つながりの生成」をとらえるための方法について研究をすすめる。文献/フィールド/実験/臨床/実践をつなぐあらたな研究方法論と社会還元にむけた技術開発を行う。