京都こころ会議|ニュース

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2022年

第2回京都こころ会議国際シンポジウム「こころと限界状況」を開催しました

20211017日、第2回京都こころ会議国際シンポジウムが、京都大学百周年時計台記念館百周年記念ホールで開催されました。公益財団法人稲盛財団からの支援を受けて2015年に発足した京都こころ会議は、これまでに「こころと歴史性」(第1回シンポジウム)、「こころの内と外」(第2回シンポジウム)、「こころと共生」(第1回国際シンポジウム)、「こころと生き方―自己とは何か」(第3回シンポジウム)、「こころとArtificial Mind」(第4回シンポジウム)、「こころとコロナ危機」(第5回シンポジウム)をテーマに、計6回のシンポジウムを開催してきました。第2回目の国際シンポジウム開催となる今年度は、「こころと限界状況」をテーマに掲げ、新型コロナウィルス感染拡大という現在の世界状況を踏まえながら、限界状況に直面することで明らかになる人間の〈こころ〉の諸相をめぐって、神経科学、地理学、心理学の異なる視点から考察と議論が行われました。
 
シンポジウムでは、河合俊雄センター長による開会の言葉のあと、以下の3つの講演が英語で行われました。
  
はじめに、ヤディン・デュダイ教授(ワイツマン科学研究所/ニューヨーク大学)が「移動する故郷──惨禍が生み出す共同的な視座は、いかにユダヤの文化的記憶を二千年前の死から救ったのか」と題した講演を行いました(オンライン中継)。デュダイ教授によれば、集団によって共有された記憶である文化的記憶は、個人の記憶や書物、習慣化などを通して、世代を超えて受け継がれ、共同体のアイデンティティを形成するものです。その特異な事例として、ユダヤ教の聖典タルムードが取り上げられ、喪失した故郷の土地の代わりに、聖典という書物“portable homeland”(移動する故郷)とすることで、故郷の喪失という共同体の危機にまつわる記憶が忘却を免れてきたプロセスが説明されました。講演の終わりでは、デュダイ教授は、こうした文化的記憶のメカニズムを現在の新型コロナウィルス感染の状況に応用し、従来の共同体の垣根を超えた新しい文化的記憶の形成が今後展開される可能性を示唆しました。
  
続いて、石山徳子教授(明治大学政治経済学部)より、「世代を超えたトラウマと希望──アメリカ核開発と先住民族」と題した講演が行われました。講演では、まず、アメリカ合衆国に内在する「セトラー・コロニアリズム」の構造が説明され、現代のアメリカ社会において、移民を中心とする多様性が称揚される一方で、アメリカ先住民の存在が忘却され、不可視化されているという現状が指摘されました。そのうえで、石山教授は、ハンフォード・サイトとスカル・バレーでの自身のフィールド調査の報告として、「犠牲区域」と呼ばれる核開発地区に住む先住民の人々の事例を紹介しました。最後に、石山教授は、先住民のこころについて考える手がかりとして、従来の「スピリチュアリティ」や「アイデンティティ」といった概念に代わり、“relationalities”(繋がり)や“co-becoming”(共に変容していくこと)といった、人と人や、人と土地の繋がりに重きを置いた見方が重要であるとの見解を示しました。

 
最後に、アンドレアス・メルケル教授(チューリッヒ大学)が、「全てが心的外傷後ストレス障害(PTSD)とは限らない──診断概念における文化上の限界と新しいアプローチ」と題した講演を行いました(オンライン中継)。メルケル教授は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の診断において、従来、第三者的視点に基づく“etic”(外的)なアプローチが主流となって来たのに対し、当事者自身の視点に基づき、その文化背景を尊重した“emic”(内的)なアプローチが重要であるとの見方を示しました。メルケル教授によれば、英語の「トラウマ」という語自体がラテン語の比喩に由来するように、各文化に内在する「トラウマ」の異なる比喩を取り込むことで、従来のヨーロッパ中心主義的な理解を乗り越えることができるといいます。これらの議論から、メルケル教授は、日本語における「こころ」の定義にも触れつつ、人間のこころを理解し、語る際の文化的側面の重要性を強調しました。
 
これらの講演に続いて、河合俊雄教授を加え、講演者らによる総合討論が行われました。討論では、まず、「トラウマ」や「故郷/土地」、「文化性」といったキーワードが3つの講演を繋ぐものであったことが確認され、そのうえで、ユダヤ教徒とアメリカ先住民それぞれの事例において土地の喪失がトラウマとなっているという観点から、これらのキーワードについてより詳しい説明が加えられました。また、討論の終わりでは、特定の共同体や民族のこころについて語るための用語と概念の妥当性について議論が及び、各文化における多様性を考慮することで、多元的な視点を持った概念を見出すことが今日求められているとの見解が示されました。

最後に、時任宣博理事(京都大学 研究、評価、産官学連携担当 理事・副学長)より閉会の言葉をいただきました。当日の司会進行は熊谷誠慈准教授が務めました。

第2回京都こころ会議国際シンポジウムの講演内容は、近く当HPでも動画配信を行う予定です。

 

河合俊雄センター長

 

ヤディン・デュダイ教授(ワイツマン科学研究所/ニューヨーク大学)とアンドレアス・メルケル教授(チューリッヒ大学)

 

石山徳子教授(明治大学政治経済学部)

 

時任宣博理事(京都大学 研究、評価、産官学連携担当 理事・副学長)

 

熊谷誠慈准教授

 

2022/02/16

2021年度第4回京都こころ会議研究会が開催されました

202198日(水)に、2021年度第4回京都こころ会議研究会が開催され、明治大学政治経済学部・教授の石山徳子教授が「世代を超えたトラウマと希望 アメリカ核開発と先住民族」と題した発表を行いました。研究会はオンラインで開催され、10名が参加しました。
 
発表では、まず、アメリカ合衆国に内在する構造として、「セトラー・コロニアリズム」と呼ばれる概念が説明されました。「セトラー・コロニアリズム」とは、新しい土地に入って来た入植者が、その土地に先住していた人々の存在を抹消し、不可視化していくプロセスであり、そうした歴史から生まれる人々の思考と社会の構造を指すものです。現代のアメリカ社会においても「セトラー・コロニアリズム」の構造は根深いものであり、その例として、有名下着メーカーによる先住民の装束を用いた文化盗用の問題や、バイデン大統領就任式での“This Land is Your Land”の歌唱への批判が示すように、移民を中心とする多様性の称揚の一方で先住民の存在が忘却されているという事実が示されました。同時に、アメリカの先住民たちは、文化のなかで不可視化されるだけではなく、実際の暴力や社会構造の犠牲ともなってきたことが説明されました。発表の後半では、石山教授によるフィールド調査の報告として、「犠牲区域」と呼ばれる核開発地区に住む先住民の人々へのインタビューが紹介されました。インタビューを通して浮かび上がってくるのは、先祖から伝わる土地を重んじ、核開発の現状とときに矛盾した関係を結びながら、核開発地区の中で生き延びようとする先住民の姿です。最後に、石山教授は、David Shorterの議論に触れながら、先住民のこころを考えるにあたっては、ステレオタイプ的な見方に陥りがちな「スピリチュアリティ」を考えるのではなく、彼らと周囲との関係性に重きを置いた「リレーショナリティ」について考えていく必要があるのではないかと示唆しました。
 
続くディスカッションでは、土地に対する先住民の感覚の特有性や、先住民が抱く怒りや憤りの感情とアメリカ文化との関係性、また日本人と欧米人との怒りの感情への反応の違いなどに話が及び、アメリカと日本、先住民という三つの視点の比較から、それぞれの「こころ」について議論が深められました。

2022/02/16

2021年

2021年度第3回京都こころ会議研究会が開催されました

2021818日(水)に、2021年度第3回京都こころ会議研究会が開催され、北海道大学大学院理学研究院・講師の渡邊剛先生が「サンゴ礁と地球環境変動」と題した発表を行いました。研究会はオンラインで開催され、10名が参加しました。

発表では、まず、環境汚染に敏感でありながら、様々な地球環境の変動を生き抜く耐性を持つサンゴの特性が紹介されるとともに、サンゴの生態や成長過程について解説が行われました。サンゴは、栄養塩の少ない「海の砂漠」と呼ばれる海域に主に生息し、サンゴ礁のある海域は、全海洋生物のうち4分の1もの生物が住む生物多様性を育む場となっています。また、サンゴ礁には、過去5億年の地球環境の変動が年輪のように記録されているといわれており、サンゴ礁の調査を通じて、自然環境への人間の影響や、地震や津波といった過去の自然現象を明らかにする研究方法について事例を踏まえた説明が行われました。発表の後半では、奄美群島の喜界島を拠点とする渡邊先生の研究活動が紹介され、以上のようなサンゴ礁研究がもたらす知見を、文理の境界を超えて活用し、さらなる研究へと繋げていく取り組みについて今後の展望が示されました。また、演劇の手法を用いて研究成果を表現する活動や、子供を巻き込んだ教育的なプロジェクトなど、サンゴ礁研究と社会との関わりの可能性について、実際の活動に即した見解が示されました。

続くディスカッションでは、プランクトンと共生し、歴史を古層に記憶するというサンゴ礁のあり方が、こころとコミュニティーのモデルとして機能するという点が指摘され、サンゴと粘菌の比較に話が及びました。また、人間の生活や信仰、芸術活動とサンゴ礁や環境変動との関わりについても、国内外の例が示され、積極的に議論が交わされました。

2021/09/09

2021年度第1回京都こころ会議研究会が開催されました

202169日、第1回京都こころ会議研究会が開催され、東京大学大学院人文社会系研究科在籍で日本学術振興会特別研究員PDの原塁さんが、「武満徹の霊性:関係、自然、共同体」と題した発表を行いました。

発表の前半では、1967年発表の《ノヴェンバー・ステップス》に至るまでの武満の創作が考察され、この時期の武満作品の特徴として、論理的構築を目指す西洋の音楽と非合理性を備えた東洋の音楽という二項対立、また、その間の弁証法的図式という点が検討されました。後半の発表では、1970年代以降インドネシアの音楽との出会いに促されながら、武満が上記のような二項対立の図式から、「類似」や「アナロジー」といった前近代的なエピステーメーへと力点を移していった過程が考察されました。発表の最後では、こうした後期の武満の創作が、人・自然・超自然を繋ぐ大きな関係性を意識しながらも、作曲家と友人・家族といった、ホーリズムには回収されない二人称的な小さな関係性から伝播していく共同性を重要視していたことが示されました。

続くディスカッションでは、心理学や芸術学など様々な立場の研究者から意見が出され、邦楽における神の在と不在、武満音楽における個と普遍の問題、また1970年代以降の「前衛」の収束と消費社会や商業主義との関わりといった点について、積極的に議論が交わされました。

2021/06/29

第5回京都こころ会議シンポジウム「こころとコロナ危機」の動画を公開しました

第5回京都こころ会議シンポジウム「こころとコロナ危機」2021年2月21日(日)開催/Zoomを用いたオンライン配信)の講演動画を公開しました。

第5回シンポジウムでは、現在の世界状況におけるこころを問うべく、「こころとコロナ危機」をテーマに掲げ、コロナ危機は、こころにどのような影響を与えるのか、こころにとってどのような意味があるのかを、医学、仏教学、心理学の異なる視点から考察しました。

下記リンク先にアクセスしてご覧ください。動画サイトの Youtube(ユーチューブ)でも「京都こころ会議」等で検索して視聴可能です。

第5回京都こころ会議シンポジウム「こころとコロナ危機」動画ページ
https://ocw.kyoto-u.ac.jp/course/991/

2021/06/03

第5回京都こころ会議シンポジウム「こころとコロナ危機」に関する記事が、京都新聞に掲載されました

第5回京都こころ会議シンポジウム「こころとコロナ危機」(2021年2月21日開催/オンライン)に関する記事が、京都新聞(3月23日付朝刊)に掲載されました。「コロナ禍と文化」のコーナーに掲載された記事では、「コロナ禍と人間の心との関係性を考えるシンポジウム」として各講演と総合討論での議論のポイントが紹介されています。山本太郎教授(長崎大学熱帯医学研究所)の講演については、人間とウイルスとの「共生」を重視する視点と、ウイルスの流行がもたらす社会変化の加速、また熊谷誠慈准教授(京都大学こころの未来研究センター)の講演については、仏教の思考法を通じて「こころ」の問題としてコロナ禍と向き合うことの重要性が、主要なポイントとして挙げられています。また、田中康裕教授(京都大学大学院教育学研究科)の講演については、コロナ禍がトリガーとなって元々ある脆弱性が現れるという指摘について説明されています。最後に、総合討論のポイントとして、コロナ禍がもたらした物理的・心理的な「近接性」の変化をめぐる議論が紹介されています。

本シンポジウムに関する報告は、こちらからお読みいただけます。
http://kokoro.kyoto-u.ac.jp/2020kokoroinitiative/

2021/04/07

第5回京都こころ会議シンポジウム「こころとコロナ危機」を開催しました

20212 21日、第5回京都こころ会議シンポジウムが、オンライン配信にて開催されました。公益財団法人稲盛財団からのご支援を受けて2015年に発足した京都こころ会議は、これまでに「こころと歴史性」(第1回シンポジウム)、「こころの内と外」(第2回シンポジウム)、「こころと共生」(第1回国際シンポジウム)、「こころと生き方―自己とは何か」(第3回シンポジウム)、「こころとArtificial Mind」(第4回シンポジウム)をテーマに、計5回のシンポジウムを行ってまいりました。

新型コロナウィルス感染拡大により、秋に予定されていた国際シンポジウムは来年度に延期となりましたが、現在の世界状況におけるこころを問うべく、今年度は「こころとコロナ危機」をテーマに掲げ、第5回京都こころ会議シンポジウムを開催することになりました。コロナ危機は、こころにどのような影響を与えるのか、こころにとってどのような意味があるのかを、医学、仏教学、心理学の異なる視点から考察しました。

シンポジウムでは、河合俊雄センター長による開会の言葉のあと、以下の3つの講演が行われました。

河合俊雄センター長

 

まず、山本太郎教授(長崎大学熱帯医学研究所)が、「Withコロナ時代の見取り図」と題した講演を行いました。講演では、まず、新型コロナウィルスを根絶することは既に不可能であり、重要なことは、医療崩壊や社会インフラの破綻を防いだ上で、新型コロナウィルスとどう付き合っていくかであるという問題提起がなされました。そこで山本教授は、「ウィルスの視点に立って」考えることを提案し、生存のために宿主を必要とするウィルスと人間とは、本来「共生」することで存在しているのだと述べます。最後に山本教授は、中世のペストなど、パンデミックがしばしば社会変革を加速させてきたことに触れ、情報技術の革新や国際協調、人口問題、環境問題等、現代社会を取り巻く種々の課題に取り組んで行くことが、「Withコロナ時代」の社会を考えていく上で鍵となるという見解を示しました。

山本太郎教授(長崎大学)

 

続いて、熊谷誠慈准教授(京都大学こころの未来研究センター)より、「仏教のこころ観から考えるコロナ危機」と題した講演が行われました。講演ではまず、仏教の「因」と「縁」の概念を用いて、生物学的危機が、新型コロナウィルスが「因」(主原因)となることで生じた問題であるのに対し、コロナ禍で発生した精神的・社会的・経済的・身体的な危機や社会的弱者が陥る危機は、新型コロナウィルスが「縁」(副次的原因)となって生じたものであり、ウィルスの根絶そのものよりも、人間の「こころ」の問題が大きいという見解が示されました。その上で、叡尊と忍性によるハンセン病患者の救済にまつわるエピソードが紹介され、自己と他者の弱さを受け入れる知恵を仏教から学ぶことで、コロナ危機におけるより良い生き方を考えることが可能になるのではないか、という提言が示されました。

熊谷誠慈准教授(京都大学)

 

3つ目の講演では、田中康裕教授(京都大学大学院教育学研究科)が「コロナ危機と心理療法」と題した講演を行いました。田中教授は、まず、東日本大震災後の心理療法において、震災それ自体をトラウマとする事例よりも、震災をきっかけとして個人や家族がもともと抱える脆弱性が顕在化する事例が多かったように、コロナ禍においても、コロナ禍をいわば「使う」事例が多く見られると指摘しました。田中教授によれば、オンラインセラピーの浸透や、学生による対人交流の回避など、コロナ禍以前から存在した時代精神の変化が、コロナ禍によって加速しているといいます。その上で田中教授は、折衷主義や融合主義など「一体性」を重視する日本人のこころは、宙吊りの状態への耐性を持つ一方で、決断不能性に陥りやすいという見解を示し、個人個人の決断に寄り添っていくことが心理療法家にとって重要になるのではないかと結論付けました。

田中康裕教授(京都大学)

 

これらの講演に続いて、河合俊雄教授を加え、講演者らによる総合討論が行われました。討論では、各講演に共通して見られた「共生」というキーワードをめぐって、ウィルスや自然と人間との共生について議論がなされた他、コロナ禍がもたらした新しい「近接性」の問題について意見が交わされ、それぞれの立場から見解が示されました。

総合討論の様子

 

最後に、時任宣博理事(京都大学 研究、評価、産官学連携担当 理事・副学長)より閉会の言葉をいただきました。当日の司会進行は内田由紀子教授が務め、344名の参加者にシンポジウムをご視聴いただきました。 
第5回京都こころ会議シンポジウムの講演内容は、近く当HPでも動画配信を行う予定です。

時任宣博理事

 

内田由紀子教授

 

 

 

[開催ポスター]

[DATA]
▽ 日時:2021221日(日) 13:3017:40
▽ 会場:Zoom開催
▽ 対象:研究者、学生、一般
▽ 参加者数:344

【関連URL
京都こころ会議
http://kokoro.kyoto-u.ac.jp/category/kyotokokoroinitiative/

【プログラム】
13:30
13:40 開会の言葉
        河合俊雄(京都大学こころの未来研究センター センター長)
13:40
14:30 講演①「Withコロナ時代の見取り図」
        山本太郎(長崎大学熱帯医学研究所 教授)
14:30
15:20 講演②「仏教のこころ観から考えるコロナ危機」
        熊谷誠慈(京都大学こころの未来研究センター 准教授)
15:20
15:30 休憩
15:30
16:20 講演③「コロナ危機と心理療法」
        田中康裕(京都大学大学院教育学研究科 教授)
16:20
16:30 休憩
16:30
17:30 総合討論
        山本太郎、熊谷誠慈、田中康裕、河合俊雄
17:30
17:40 閉会の言葉
        時任宣博(京都大学 研究、評価、産官学連携担当 理事・副学長)

主催:京都大学こころの未来研究センター
後援:公益財団法人 稲盛財団
共催:京都大学人社未来形発信ユニット

2021/04/07

河合俊雄教授・吉岡洋特定教授らの著書『〈こころ〉とアーティフィシャル・マインド』の書評が、毎日新聞に掲載されました

河合俊雄教授・吉岡洋特定教授らの著書『〈こころ〉とアーティフィシャル・マインド』の書評が、毎日新聞(3月20日付)に掲載されました。この書籍は、2019年10月14日に開催された第4回京都こころ会議シンポジウム「こころとArtificial Mind」(於:京都大学百周年時計台記念館百周年記念ホール)の内容を書籍化したもので、創元社より出版されています。

2021/04/01

第4回京都こころ会議シンポジウム「こころとArtificial Mind」(2019年10月14日開催)の内容が書籍化され、『〈こころ〉とアーティフィシャル・マインド』というタイトルで創元社より出版されました

第4回京都こころ会議シンポジウム「こころとArtificial Mind」(於:京都大学百周年時計台記念館百周年記念ホール/開催日:20191014日)の内容が書籍化され、『〈こころ〉とアーティフィシャル・マインド』というタイトルで創元社より出版されました。

 書籍では、西垣通名誉教授(東京大学)、尾形哲也教授(早稲田大学/産業技術総合研究所人工知能研究センター・特定フェロー)、長尾真名誉教授(京都大学)ら3名のシンポジストによる講演と、河合俊雄教授(こころの未来研究センター)、吉岡洋特定教授(同)を交えたディスカッションでの議論がまとめられると共に、吉岡特定教授による書き下ろしのイントロダクションが収録されています。情報学、ロボティクス、芸術学、臨床心理学の第一人者たちの対話を通し、人工知能の開発など自然科学と技術の進歩が目覚ましい今日の社会に向けて、〈こころ〉の問い直しを図る一冊です。

https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=4213

2021/02/22

2020年第3回こころ研究会で金森万里子さんが発表を行いました

 2021年1月13日、第3回京都こころ会議研究会(延期のため再開催)が開催され、東京大学大学院医学系研究科博士課程在籍の金森万里子さんが「牛の健康から人の健康へ:農村の自殺の社会的決定要因の探索」と題した発表を行いました。研究会はオンラインで開催され、18名が参加しました。

 

 発表では、人、動物、生態系の健康は相互に関連しているという立場から、農村における自殺率に関する二つの研究について報告が行われました。まず一つ目の報告では、日本の農業地域における自殺率について農業の種類別に調査したところ、酪農・畜産産出額が高い地域では低い地域よりも高い自殺率が見られるという研究結果が示されました。二つ目の報告では、スウェーデンを事例に、都市と農村での自殺率の比較を行った研究の結果が紹介され、特に男性の移民について農村地域では自殺率が高い傾向が現れることが指摘されました。発表では、このような農村での高自殺率の背景にある社会的決定要因について様々な可能性が紹介され、今後の研究の展望が示されました。

 続くディスカッションでは、社会学や心理学など様々な立場の研究者から意見が出され、自殺の原因を特定することの難しさが指摘されると共に、個人的要因ではなくビッグデータ等を用いて社会的傾向を調査することの意義について積極的に議論が交わされました。

2021/01/28

2020年第5回こころ研究会で熊谷誠慈准教授が発表を行いました

 2021年1月5日、第5回京都こころ会議研究会が稲盛財団記念館3階中会議室にて開催されました。本年度の京都こころ会議のテーマ「こころとコロナ危機」に沿って、熊谷誠慈准教授(京都大学こころの未来研究センター)が「仏教的こころ観からコロナ危機を考える」と題した発表を行いました。研究会には8名が出席し、またZoomでの同時配信を通じて4名が参加しました。

 

 発表では、まず仏教を中心とする文献学の観点から、精神性という意味での心の概念が発達したプロセスを概観し、異なる文化の壁を超えて人間の心を理解することの可能性と意義が示されました。続いて熊谷准教授は、仏教の煩悩の考えに基づいて、昨今のコロナ危機においてしばしば問題視されてきた人々の行動を解説しました。その上で、叡尊と忍性によるハンセン病患者の救済や、チベットのマイノリティー宗教であるボン教の事例が紹介され、仏教から「弱者」として生きる知恵を学ぶことが重要であるという点が示されました。結論では、自己と他者の弱さを受け入れて生きる知恵を仏教から学ぶことで、コロナ危機を抱える社会でのより良い生き方を考えることが可能になるのではないか、という提言が示されました。

 続くディスカッションでは、日本の仏教と他地域の仏教との比較にみる仏教教義の多様性や、仏教哲学における個人と社会の関係性とコロナ社会との繋がり、また日本における個人と集団の関係性といったことについて積極的に議論が交わされました。

 

2021/01/28

2020年

第4回京都こころ会議シンポジウム「こころとArtificial Mind」の動画を公開しました

第4回京都こころ会議シンポジウム「こころとArtificial Mind」2019年10月14日開催/於:京都大学 百周年時計台記念館 百周年記念ホール)の講演動画を公開しました。
 

第4回シンポジウムは、「こころとArtificial Mind」をテーマとし、自然科学と技術の進歩の中でのこころについて問い直そうというもので、人工知能や深層学習の理解と発展に寄与してきた三名の研究者により、人工知能と人間のこころの比較、そして未来における人と技術との関わりについて、それぞれの視点から検討が試みられました。

 

下記リンク先にアクセスしてご覧ください。動画サイトの Youtube(ユーチューブ)でも「京都こころ会議」等で検索して視聴可能です。

第4回京都こころ会議シンポジウム「こころとArtificial Mind」動画ページ
http://kokoro.kyoto-u.ac.jp/20191014_kokorosympo/

2020/12/18

2020年第4回こころ研究会で石井美保准教授が発表を行いました

 2020年10月28日、第4回京都こころ会議研究会が稲盛財団記念館3階中会議室にて開催されました。本年度の京都こころ会議のテーマ「限界状況とこころ」に沿って、石井美保准教授(京都大学人文科学研究所)が「憑依とパトス——文化人類学の視点から」と題した発表を行いました。研究会には5名が出席し、またZoomでの同時配信を通じて11名が参加しました。

 石井准教授は、まず、これまでの憑依をめぐる人類学の議論、とりわけ機能主義や存在論的人類学に変わる視点として、ヴィクトーア・フォン・ ヴァイツゼッカーのパトスの概念を中動態の概念と結び付けて考えるところから新しいアプローチが生まれるのではないか、と提起しました。石井准教授によれば、インド=ヨーロッパ諸語が中動態を用いて表してきた状態として憑依を捉え直すことで、これまでの人類学の言説が囚われがちであった能動態と受動態の二項対立を逸し、主体の意志に関係なく、ある座/場所としての存在者において生じる出来事=力として憑依を考えることができるようになります。発表の後半では、ガーナ南部での事例が紹介され、憑依をめぐる言説が、強い衝動によって出来事へと巻き込まれていく中動態的な事態を表していることが説明されました。その上で石井准教授は、生命そのものがパトス的=中動態的な状態にあるといえると指摘し、近代以降疎外されてきた憑依といった事象を現代の生とも繋がりあるものとして再考することができるのではないか、と示唆しました。

 続くディスカッションでは、心理療法における中動態的状態や、憑依と演技の関係性など、異なる専門分野からの質疑が行われ、積極的に議論が交わされました。

2020/11/26

2020年第2回こころ研究会で小川さやか教授が発表を行いました

 2020年8月19日、第2回京都こころ会議研究会が稲盛財団記念館3階中会議室にて開催されました。本年度の京都こころ会議のテーマ「限界状況とこころ」に沿って、小川さやか教授(立命館大学大学院先端総合学術研究科・教授)が「窮地における嘘と笑い──タンザニアの都市住民を事例に」と題した発表を行いました。研究会には10名が出席し、またZoomでの同時配信を通じて5名が参加しました。

 発表では、タンザニアにて小川教授が自ら古着の行商人となって参与観察を行った際のエピソードが紹介され、現地で「ウジャンジャ」(=賢さ/ずるがしこさ)と呼ばれる行商人の特質をめぐって考察が展開されました。小川教授によれば、優れた「ウジャンジャ」を備えているとされる行商人は、その場その場を切り抜ける戦術としての「デブルイヤージュ」を身につけているといえます。窮地に陥ったときに人は咄嗟に素顔を見せるとしばしば思われているのとは対照的に、彼らはむしろ笑いを引き起こす滑稽なまでの嘘と演技を重ねることで、訪れる窮地を凌ごうとします。そのうえで小川教授は、坂部恵の理論を援用しながら、タンザニア商人の行動に見出されるのは、素顔と仮面の二項対立に基づく近代的な自己観とは異なる、即興的な変身をその根底に置く世界であると指摘しました。
 続くディスカッションでは、西洋とアフリカ、日本など文化圏による笑いの様相の違いや、定住と移住、都市と田舎、自然災害等の有無、宗教の違いといった社会背景の問題を中心として、積極的に議論が交わされました。

2020/08/28

2020年第1回こころ研究会でステファノ・カルタ教授が発表を行いました

 2020年1月8日、第1回こころ研究会が稲盛財団記念館3階小会議室Ⅰにて開催されました。本年度の京都こころ会議のテーマ「こころと限界状況(仮)」に沿って、ステファノ・カルタ教授(イタリア・カリアリ大学教授/京都大学教育学研究科客員教授)が「関係性、意識、個別化:限界経験としての存在」と題した発表を行いました。

 

 

 発表では、まず、様々な文脈における「限界(limit)」の概念が考察され、存在が生じるプロセスにおいて、限界とその経験が担っている本質的な役割についての検討が行われました。カルタ教授は、とりわけ「越境的」な限界経験に着目し、心理療法における心理士と患者にとって、相互に浸透しあい互換的であるような関係性が重要であると述べます。また、青年期の癌患者の事例が取り上げられ、極度の限界経験と呼べるトラウマが、必ずしも忌避されるべきものではなく、何らかの意義ある効果を生み出す可能性があると示唆されました。 続くディスカッションでは、様々なトラウマの症例とその心理療法の事例や、限界経験の集団性、究極の限界経験としての死と死生観の文化差、また“limit”や“boundary”といった言葉の差異について、積極的に議論が交わされました。

(報告:中谷森 特定研究員)

2020/02/10

2019年

第4回京都こころ会議シンポジウム「こころとArtificial Mind」を開催しました

2019年10月14日、京都大学百周年時計台記念館百周年記念ホールにて、第4回京都こころ会議シンポジウムを開催いたしました。公益財団法人稲盛財団からのご支援を受けて2015年に発足した京都こころ会議は、これまでに「こころと歴史性」(第1回シンポジウム)、「こころの内と外」(第2回シンポジウム)、「こころと共生」(第1回国際シンポジウム)、「こころと生き方―自己とは何か」(第3回シンポジウム)をテーマに、計4回のシンポジウムを行ってまいりました。

今回の第4回京都こころ会議シンポジウムでは、「こころとArtificial Mind」をテーマに掲げました。これまでの4回のテーマが、大きくは人文・社会科学の枠組みでこころを捉えようとしてきたのに対して、今回のシンポジウムは、自然科学と技術の進歩の中でのこころについて問い直そうというものです。人工知能や深層学習の理解と発展に寄与してきた三名の研究者により、人工知能と人間のこころの比較、そして未来における人と技術との関わりについて、それぞれの視点から検討が試みられました。

河合俊雄センター長による開会の言葉のあと、以下の3つの講演が行われました。

まず西垣通名誉教授(東京大学・名誉教授)が、「AI時代の心のゆくえ」と題した講演を行いました。「機械はこころを持つか?」という問いを検討するにあたって、まず、人や生物が持つ心の多義性と多面性が論じられ、とりわけ倫理的な問題に着目した考察が行われました。西垣名誉教授によれば、生物が、自ら意味の世界を生み出す自己創出システムを持つゆえに、予測困難かつ自律的な存在であるのに対して、AIロボットが獲得しているかに見える自律性は、その複雑さによって生じる擬似的なものに過ぎないといいます。このためAIロボットは、生物的自律性を持つ人間とは異なり、自らの判断に責任を持つことはできないことが示唆されました。その上で、自動運転、監視選別社会、AIによる芸術作品の創作という3つの事例を取り上げ、人工知能を実社会に応用していくにあたって、その限界と危険性を認識した上で、将来的な可能性を考え、活用していく必要があるという見解が示されました。

続いて、尾形哲也教授(早稲田大学・教授/産業技術総合研究所人工知能研究センター・特定フェロー)から、「深層学習と運動感覚学習─認知発達ロボティクスの視点から─」と題した講演が行われました。講演ではまず、従来的な演繹的人工知能に対し、多量のデータを学習する帰納的人工知能であるディープラーニングの仕組みが説明された上で、タオルを畳むロボットや、サラダを盛り付けるロボット、液体を量るロボットなど、ディープラーニングを応用したロボット開発の実例が紹介されました。こうしたロボットの特徴として、膨大なデータの深層学習を通して、実際には学習していない状況にも対応することができるようになる点が挙げられました。その上で尾形教授は、こうした機能を可能にする仕組みがつねに事後的にしか理解されない点において、深層学習がブラックボックスであることを指摘し、将来的な発展においては、深層学習が予測不可能性をはらんだ技術であることを理解した上で活用していくことが必要との見解を示しました。

3つ目の講演では、長尾真名誉教授(京都大学・名誉教授)が「心のモデルを考える」と題した講演を行いました。長尾名誉教授は、人間の頭脳の働きを知的機能・心的機能・魂的機能の3つに分けてモデル化することを提唱し、このモデルに従って、機械が心を持つことができるかという問いの検討を行いました。長尾名誉教授によれば、とりわけ心的機能は、精神・感性・感情・情動などの多様な働きを持つ複雑なもので、プログラム化することが最も難しいものであるといいます。さらに、各機能間の相互関係や、意識をプログラム化する方法についても検討を加えた上で、深層学習等の技術が発展している今日では、人間の心の状態とそれに付随する反応の事例を大量に集めデータベース化することにより、コンピュータ上に心のプログラムを再現することはある程度可能であろうという見解が示されました。また、人間の知的機能、心的機能などのあらゆる情報を集め、あり得るあらゆる可能性を推論することができれば、これまで人間を定義するものと思われてきた自由意志などの概念そのものを問い直す必要が出てくると示唆しました。

これらの講演に続いて、吉岡洋特定教授(京都大学こころの未来研究センター・特定教授)と河合俊雄教授(同・センター長)を加え、講演者らによる総合討論が行われました。討論では、「こころとArtificial Mind」というテーマに沿って様々な意見が述べられ、とりわけ人工知能による芸術創作の可能性について多くの議論が交わされました。人工知能によるメタファー生成の課題や、創造されたものに価値付けを行う人間の視点とその機械による代替可能性など、人工知能を用いた芸術創作を可能にする様々な条件について、それぞれの立場から見解が示されました。

最後に、湊長博理事(京都大学プロボスト)より閉会の言葉をいただきました。湊理事はまず、自身の専門領域である医学の歴史において、「理屈」による論証の代わりに、事実の集積に基づいて判断する新しい疫学が生まれた経緯を説明されました。その上で、今日の医学においても、データ収集に基づいて判断を行う深層学習やビッグデータの活用が浸透してきていることに触れ、「AIとどのように付き合っていくか」という問いに真剣に取り組んでいく必要性があると述べました。当時の司会進行は、広井良典教授が務め、260名もの参加者にご来場いただきました。

第4回京都こころ会議シンポジウムの講演内容は、近く当HPでも動画配信を行う予定です。

(報告:中谷森 特定研究員)

会場の様子

 

河合俊雄センター長


西垣通 東京大学名誉教授


尾形哲也 早稲田大学教授


長尾真 京都大学名誉教授


総合討論


吉岡洋特定教授


広井良典教授


湊長博 京都大学プロボスト

[開催ポスター]

[DATA]
▽日時:2019年10月14日(月・祝) 13:30~17:40(13:00~受付開始)
▽会場:京都大学 百周年時計台記念館 百周年記念ホール アクセス ※NO.3:時計台記念館

【プログラム】
13:30~13:40  開会の言葉 河合俊雄(京都大学こころの未来研究センター・センター長)
13:40~14:30  講演1 『AI時代の心のゆくえ』西垣通(東京大学・名誉教授)
14:30~15:20  講演2 『深層学習と運動感覚学習ー認知発達ロボティクスの視点からー』尾形哲也(早稲田大学理工学術院・教授/産業技術総合研究所人工知能研究センター・特定フェロー)
15:20〜15:40  休憩
15:40〜16:30  講演3 『心のモデルを考える』長尾真(京都大学・名誉教授)
16:30〜17:30  総合討論 西垣通、尾形哲也、長尾真、河合俊雄、吉岡洋
17:30〜17:40  閉会の言葉 湊長博(京都大学・プロボスト)

主催:京都大学こころの未来研究センター
後援:公益財団法人 稲盛財団  

2019/11/29

2019年第6回こころ研究会で西垣通教授が発表を行いました

 2019年9月24日、第6回こころ研究会が稲盛財団記念館3階小会議室Ⅰにて開催されました。本年度の京都こころ会議のテーマ「こころとArtificial Mind」に沿って、西垣通名誉教授(東京大学)が「AI時代の心のゆくえ」と題した発表を行いました。

研究会の様子

 西垣教授の発表では、まず「自律性」の概念についての検討が行われ、生物を規定するものである自律性を、人工知能などの機械にも認めることができるかという問い立てが行われました。その上で西垣教授は、オートポイエーシス論などの思想を援用し、意味の世界を創出しながら生きる生物に対して、AIにとっては意味そのものが理解し難いものであると述べます。その結論として、AIが自律性を持つとはいえず、その応用にあたっては責任の所在が問題となることが指摘されました。
 続くディスカッションでは、道徳観が生じる過程における社会制約と自律性の関係や、人間と人工知能の差異、人工知能の発展がもたらす労働の変化などについて、積極的に意見が交わされました。

(報告:中谷森 特定研究員)

2019/11/29

2019年第5回こころ研究会で尾形哲也教授が発表を行いました

 2019年8月6日、第5回こころ研究会が稲盛財団記念館3階小会議室Ⅰにて開催されました。本年度の京都こころ会議のテーマ「こころとArtificial Mind」に沿って、尾形哲也教授(早稲田大学理工学術院・教授/産業技術総合研究所人工知能研究センター・特定フェロー)が「深層学習と運動感覚学習─認知発達ロボティクスの視点から─」と題した発表を行いました。

研究会の様子

 尾形教授の発表では、まず、従来の演繹的人工知能に対して、近年目覚ましい発展を遂げた帰納的人工知能であるディープラーニングの技術について説明が行われました。続いて、こうしたディープラーニング技術を応用したロボットの実例が、複数紹介されました。その上で、認知的プロセスが身体行動に表れる仕組みを構成論的に理解し再現することが、以上のようなロボット研究の中心的課題であることが示されました。その一端として、トップダウンとボトムアップの二つの認知プロセスの比較等に基づいて、ロボットの身体行動を検証する実験の成果が報告されました。
 続くディスカッションでは、尾形教授が紹介したロボット技術や深層学習について技術的な質問が交わされた他、ロボットに自己保存などのモチベーションを与える方法や、ロボットを用いた実験からASDなどの特性について検討を行う可能性について、積極的に意見が交わされました。

(報告:中谷森 特定研究員)

2019/11/29

第3回京都こころ会議シンポジウム「こころと生き方―自己とは何か」の動画を公開しました

 第3回京都こころ会議シンポジウム「こころと生き方―自己とは何か」(2018年11月18日開催/於:京都大学国際科学イノベーション棟西館5階 シンポジウムホール)の講演動画を公開しました。
 

 第3回シンポジウムは、「こころと生き方―自己とは何か」をテーマとし、こころの内面性や固有性に迫ろうとするもので、三名の講演者によって、社会や集団とのつながり、さらには自然科学の知見を含めた検討が試みられました。

 下記リンク先にアクセスしてご覧ください。動画サイトの Youtube(ユーチューブ)でも「京都こころ会議」等で検索して視聴可能です。

 第3回京都こころ会議シンポジウム「こころと生き方―自己とは何か」動画ページ
 http://kokoro.kyoto-u.ac.jp/20181118_kokorosympo/

2019/07/02

2019年第4回こころ研究会で中山真孝助教が発表を行いました

 2019年6月12日、第4回こころ研究会が稲盛財団記念館1階京都賞ライブラリーセミナー室にて開催されました。本年度の京都こころ会議のテーマ「こころとArtificial Mind(仮)」に沿って、京都大学こころの未来研究センターの中山真孝助教が「人工知能時代のこころ観のゆくえ〜機械論的人間観と人間論的機械観〜」と題した発表を行いました。

発表の様子


ディスカッションの様子

 中山助教の発表では、まず、コネクショニズムに代表される人間を機械と捉える考え方が、現在の人工知能技術開発の基盤となっていることが示されました。中山助教らによる研究では、脳の海馬系の生物学的な特徴を実装したニューラルネットワークから、行動・脳画像実験データを再現するような複雑な機能が創発されることが確認されています。その上で、中山助教は、このようにこころの科学の専門家が機械論的人間観を持つのに対して、一般の人々は、人間論的機械観に基づいてAIを捉えうるという視点をもつことも重要だと提唱し、「こころ」を持つように振る舞う人間らしいAIの可能性を示す研究の成果が紹介されました。

 続くディスカッションでは、AIの定義をめぐって、AIという概念が時代ごとに変遷する可能性や、AIと人間の境界について議論が進められた他、機械を人間らしくすることの必要性などについて積極的に意見が交わされました。

(報告:中谷森 特定研究員)

2019/06/28

2019年第3回こころ研究会で神谷之康教授が発表を行いました

 2019年5 月14日、第3回こころ研究会が稲盛財団記念館3階小会議室Ⅱにて開催されました。本年度の京都こころ会議のテーマ「こころとArtificial Mind(仮)」に沿って、京都大学情報学研究科の神谷之康教授が「脳からイメージを生成する」と題した発表を行いました。

会場の様子

 神谷教授の発表では、まず、被験者が知覚する画像や、想起するイメージ、そして被験者の夢に至るまで、脳の認識する映像を、fMRIを用いて脳画像から解析し予測するという最先端の実験についての解説が行われました。続いて紹介されたのは、以上のような脳画像を人工知能の信号に変換して、コンピュータ上で認識プロセスをシミュレートしながら、脳活動が表現する深層イメージを再構成する技術です。神谷教授は、こうした脳科学技術を用いた現代アーティストによる作品の紹介を通じ、将来的には環境と身体を介さないアートやコミュニケーションが生まれる可能性を示唆しました。発表に続いて行われたディスカッションでは、アーティストや子供、また精神疾患を抱える患者など、様々な脳の特性をめぐって活発な議論が交わされました。

(報告:中谷森 特定研究員)

2019/06/03

2019年第2回こころ研究会でメディアアーティストの藤幡正樹氏が発表を行いました

 2019年4月3日、第2回こころ研究会が稲盛財団記念館3階小会議室Ⅰにて開催されました。本年度の京都こころ会議のテーマ「こころとArtificial Mind(仮)」に沿って、メディアアーティストの藤幡正樹氏が「Prosthesis としてのメディア」と題した発表を行いました。

藤幡正樹氏


会場の様子

 藤幡氏の発表では、「人間とは何か」という問いを考える上で、しばしば技術という観点が看過されてきたという問題が提起され、人間と不可分な“prosthesis”(補綴)として技術を捉えることの重要性が提唱されました。遠近法や写真の発明などを例にしながら、人間が対象を見る仕組みそのものが、これらの技術に順応し変化してきたことが示された上で、視覚美術の歴史が、新たな技術によって生まれた「イメージ」をうまく扱えずにいる現況についての指摘がありました。また、藤幡氏自身の作品の紹介を通じて、実際のメディアアート作品における「イメージ」の様相が検討されました。

 発表に続いて行われたディスカッションでは、カラーテレビの登場や神仏への信仰など、各時代と文化における技術に応じて、夢についての言説が変容する例から、技術と人間の認識の関係をめぐって議論が交わされました。

(報告:中谷森 特定研究員)

2019/06/03

2019年第1回こころ研究会で吉岡洋特定教授が発表を行いました

 2019年3月13日、第1回こころ研究会が稲盛財団記念館3階小会議室Ⅰにて開催されました。本年度の京都こころ会議のテーマ「こころとArtificial Mind(仮)」に沿って、当センターの吉岡洋特定教授が「The mind, “artificial” or “artistic”? —こころと技術(アート)の奇妙な関係—」と題した発表を行いました。

吉岡洋特定教授


ディスカッションの様子


 吉岡特定教授の発表では、まず、イマニュエル・カントにおける自然と技術の概念を考察しながら、自然(The Natural)と人工(The Artificial)は、対立するものではなく、相互嵌入する概念であることが提唱されました。フランケンシュタインの既成イメージのように、西洋文化圏では、肯定的な意味である“Artistic” (=芸術的)に対して、 “Artificial”(=人工的)という言葉が、しばしば恐れや忌みの対象を表してきました。発表では、こうした思想文化に対して、自然と人工の相互嵌入が顕著な日本の風土の特異性について、現代の日本人アーティストらによる作品を例にしながら、考察が展開されました。発表の後半では、「AIは人間を超えるか?」という問いが提起されました。合理的で知覚可能な世界で人間が行う活動のほとんどは、芸術も含めAIに置き換え可能であり、その意味では人間がすでにAIであること、しかし知覚できず存在しないものに反応する“Artistic Mind”について考えると、「AIは人間を超えるか?」という問い自体がナンセンスなものとなる、という考えが最終的に示されました。  発表に続いて行われてディスカッションでは、“Artistic Mind”と、ディープラーニングやディープドリームといった今日のAI技術との差異はどこにあるのか、という問題が検討されました。また、整形や、iPS細胞、人形浄瑠璃、技術を忘れるものとしての名人の定義など、種々の事例が、自然と技術という観点から論じられ、西洋と日本との文化差をめぐって積極的に議論が交わされました。

<報告:中谷森 リサーチ・アシスタント>

2019/04/03

2018年

第3回京都こころ会議シンポジウム「こころと生き方―自己とは何か」を開催しました

2018年11月18日、京都大学国際科学イノベーション棟シンポジウムホールにて、第3回京都こころ会議シンポジウムを開催いたしました。公益財団法人稲盛財団からのご支援を受けて2015年に発足した京都こころ会議は、これまでに「こころと歴史性」(第1回シンポジウム)、「こころの内と外」(第2回シンポジウム)、「こころと共生」(第1回国際シンポジウム)をテーマに、計3回のシンポジウムを行ってまいりました。

今回の第3回シンポジウムは、「こころと生き方―自己とは何か」をテーマといたしました。これまで3回のテーマが、どちらかというとこころの広がりに焦点を当ててきたのに対して、今回はこころの内面性や固有性に迫ろうとするもので、三名の講演者によって、社会や集団とのつながり、さらには自然科学の知見を含めた検討が試みられました。

河合俊雄センター長の開会の言葉のあと、下記のような3つの講演が行われました。

まず村山美穂教授から(京都大学野生動物研究センター・センター長)は、「社会で生きる、こころの分子基盤」と題した講演が行われました。動物の行動や性格には環境と遺伝子など多くの要因が関わりますが、そのなかから遺伝子の影響に焦点を当て、遺伝子を解析することによって品種間・個体間の比較を行う研究が紹介されました。講演では、不安の感じやすさ、新奇性を追求する程度、攻撃性、幸福感などの様々な動物の性格や行動と、遺伝子との関連が示された研究結果が示され、遺伝子が動物の社会行動を考察する際の新たな指標となる可能性が論じられました。そして、個体の行動と遺伝子の関連を明らかにすることは、遺伝子情報を活かした飼育管理や、麻薬探知犬などの能率的な選択や訓練にも繋がるのではないかとの提言が行われました。

続いて、内田由紀子准教授(京都大学こころの未来研究センター)が「日本社会における生き方と自己:組織従業者の生理・心理調査からの考察」と題して講演を行いました。内田准教授は、文化心理学の知見や自己の文化多様性の視点から、日本において自己意識を形成する2つの要素として“協調性”と“独立性”を提示し、それぞれが人の健康や幸福とどのように関連するかについて論じました。日本の企業調査、日本の中の地域比較の研究においては、主観的な幸福感を高めるのは“独立性”であり、流されない意志決定や公平で公正な競争が重要であることが示されました。一方、生理的指標を用いて検討してみると、健康に影響を与えるのは“協調性”であることが明らかとなり、日本社会においては“協調性”がある種のインフラとしての意義を持つ可能性を示しました。

3つめの講演として、出口康夫教授(京都大学大学院文学研究科)が「「われわれ」としての自己、「われわれ」としての生き方」と題した講演を行いました。出口先生は、西洋近代社会を支えてきた「個人主義的自己」観に対抗するものとして、「東アジアの全体論的自己」観をあげ、これを「「われわれ」としての自己」観として提案しました。「「われわれ」としての自己」観では、社会などのシステム全体が「自己」とみなされ、「私」は「「われわれ」としての自己」の一要素と捉えられます。講演では、この「「われわれ」としての自己」観への移行が、「私」の持つ倫理的責任や孤独感を変化させる可能性に言及し、社会システムの修正、そして我々の生き方の多様化にも繋がるのではないかと論じられました。

これらの講演に続き、河合俊雄教授を司会に加え、講演者らによる総合討論が行われました。ここでは「こころと生き方―自己とは何か」という全体テーマの下、3つの講演を踏まえて、人間や動物の協調行動の持つ意味、自己と身体の関係、日本的な共同体のあり方などについて、それぞれの専門領域を超えた議論が展開されました。

最後に、湊長博京都大学プロボストが閉会の言葉として、総合討論でも話題となった自己と身体性の議論に関して、自身の専門領域である免疫学の立場からコメントされました。そして、これまでのこころ会議の開催も振り返りながら、京都大学の人文学を世界に向けて今後どのように発信していくかを考えていくことの重要性について提言されました。当日の司会進行は吉岡洋教授が務め、200名近い参加者にご来場いただきました。

第3回京都こころ会議シンポジウムの講演内容は、近く当HPでも動画配信を行う予定です。

<報告:粉川尚枝研究員>

河合俊雄センター長


村山美穂センター長


内田由紀子准教授


出口康夫教授


シンポジウム全景


吉岡洋教授


総合討論


湊長博京都大学プロボスト

 

[開催ポスター]

[DATA]
▽ 日時:2018年11月18日(日)13:30~17:40(13:00~受付開始)
▽ 会場:京都大学国際科学イノベーション棟シンポジウムホール(京都市左京区吉田本町)
▽ プログラム:
13:30~13:40  開会の言葉 河合俊雄(京都大学こころの未来研究センター・センター長)
13:40~14:30  講演1 『社会で生きる、こころの分子基盤』村山美穂(京都大学野生動物研究センター・センター長)
14:30~15:20  講演2 『日本社会における生き方と自己:組織従業者の生理・心理調査からの考察』内田由紀子(京都大学こころの未来研究センター・准教授)
15:20~15:40  休憩
15:40~16:30  講演3 『「われわれ」としての自己、「われわれ」としての生き方』出口康夫(京都大学大学院文学研究科・教授)
16:30~17:30  総合討論 村山美穂、内田由紀子、出口康夫、河合俊雄
17:30~17:40  閉会の言葉 湊長博(京都大学・プロボスト) 主催:京都大学こころの未来研究センター 後援:公益財団法人 稲盛財団  

2018/11/27

『〈こころ〉はどこから来て、どこへ行くのか』が韓国語に翻訳され出版されました

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 第1回京都こころ会議シンポジウム「こころと歴史性」の内容を元に刊行された『〈こころ〉はどこから来て、どこへ行くのか』(岩波書店、2016年)が韓国語に翻訳され、2018年6月に出版されました。
 本書は京都こころ会議として初の外国語出版物となります。河合俊雄教授、中沢新一明治大学野生の科学研究所長、広井良典教授(当時千葉大学教授)、下條信輔カリフォルニア工科大学教授、山極寿一京大総長ら5名のシンポジストによる、第1回シンポジウムでの講演とディスカッションがまとめられています。

2018/08/01

2018年第4回こころ研究会で京都大学大学院人間・環境学研究科の小倉紀蔵教授が発表を行いました

 2018年6月20日、第4回こころ研究会が稲盛財団記念館3階小会議室Ⅱにて開催されました。本年度の京都こころ会議のテーマ「こころと生き方」に沿って、京都大学大学院人間・環境学研究科の小倉紀蔵教授が「ニーチェ的に、〈アニミズム〉を生きる」と題した発表を行いました。 20180620_kokorokenkyukai401.JPG 20180620_kokorokenkyukai402.JPG   小倉紀蔵教授                   研究会の様子
 小倉教授の発表では、論理や因果関係を否定し、個人を「権力への意志によって闘争する多様態」として捉えたニーチェの考えが、〈アニミズム〉に近いのではないかとの着想が展開されました。この〈アニミズム〉とは、通常考えられているように、全てのものに生命が宿るという思想ではなく、むしろ闘争の過程で生命が〈あいだ〉に偶発的に立ち現れるとする思想であるとし、孔子が重視した「仁」が本来そうしたものであることが説明されました。また、わたしとは無数の他者やモノの関わる闘争によってつくられる知覚像の束であるとの考えから、その闘争の過程で偶発的にうまれる〈あいだのいのち〉を生きることが〈アニミズム〉的に生きることであり、ニーチェ的に生きることなのかもしれないと述べられました。  小倉教授の発表に引き続き行われたディスカッションでは、ニーチェ的な闘争の過程による偶発的な〈あいだのいのち〉の発生という考えと、無為によって第三のものとしてのイメージの立ち現れを期待する心理療法との対照性や、ダーウィニズム等が出現し、世界が因果関係で位置づけられていった時代状況とニーチェ思想との関連が指摘されました。また、ニーチェや孔子といった格言で知られるタイプの思想家の誤解されやすさと、その文体が持つ魅力についても話が及びました。そして、自己の定位機能や畏敬の念をどう考えるかという質疑から、自己にはさまざまな主体の闘争の意志が関わっており、そうした多重性や歴史性に開かれて生きることが幸せなのではないかということが意見されました。

(報告:梅村高太郎 特定研究員)

2018/07/09

第1回京都こころ会議国際シンポジウム 「こころと共生」の動画を公開しました

 1st international symposium kyoto kokoro initiative.jpg第1回京都こころ会議国際シンポジウム 「こころと共生」(2017年9月18日開催/於:京都大学百周年時計台記念館 百周年記念ホール)の講演動画を公開しました。
 吉川左紀子センター長(2007-2017)の開会の言葉、海外からのお二人を含めた4つの講演、河合俊雄教授を司会に加えた講演者らによるディスカッション、湊長博京都大学理事の閉会の言葉を動画でご視聴いただけます。
 下記リンク先にアクセスしてご覧ください。動画サイトの Youtube(ユーチューブ)でも「京都こころ会議」等で検索して視聴可能です。
第1回京都こころ会議国際シンポジウム 「こころと共生」動画ページ http://kokoro.kyoto-u.ac.jp/jp/KyotoKokoroInitiative/2018/06/12017918.php

2018/07/03

2018年第3回こころ研究会で京都大学大学院文学研究科の出口康夫教授が発表を行いました

 2018年5月9日、第3回こころ研究会が稲盛財団記念館3階小会議室Ⅱにて開催されました。本年度の京都こころ会議のテーマ「こころと生き方」に沿って、京都大学大学院文学研究科の出口康夫教授が「自己と生き方:後期西田哲学からの視座」と題した発表を行いました。 20180509_kokorokenkyukai01.JPG 20180509_kokorokenkyukai02.JPG   出口康夫教授                   研究会の様子
 出口教授の発表では、京都学派が一貫して「真の自己」とは何かを問い続けた哲学であり、特に後期の西田幾多郎は「行為的直観」にそれを見出し,真の自己の3要素の関係を「矛盾的自己同一」という言葉で論じていたことが説明されました。出口教授は、その西田の自己は「全体論的自己」として捉えられるものだとし、十分に明確にされてこなかった「矛盾的自己同一」という概念を非古典論理学の手法を用いて再構成しました。さらに、この西田の自己の考えを用いて、環境哲学におけるエコロジカル・セルフ概念を洗練してみせ、西田哲学が現代的な意義を持つことを示唆しました。  出口教授の発表に引き続き行われたディスカッションでは、箱庭療法をはじめとした心理療法における変化や豊かさの発生のメカニズムが、西田の矛盾的自己同一をはらんだ自己という考えによって明確になることが意見されました。また、西田哲学における生と死の捉え方や生命の階層性にについて議論された他、人類学が取り上げたトーテミズム等に見られる論理や、文化心理学における自己の捉え方の文化差、自己利益の抑制に関する認知神経科学の議論と、西田の考えがどう関連するかについて意見が交わされました。

(報告:梅村高太郎 特定研究員)

2018/06/06

2018年第2回こころ研究会で熊谷誠慈特定准教授が発表を行いました

 2018年3月14日、第2回こころ研究会が稲盛財団記念館1階京都賞ライブラリーセミナー室にて開催されました。本年度の京都こころ会議のテーマ「こころと生き方」に沿って、当センターの熊谷誠慈特定准教授が「こころと生き方についての仏教学的再解釈」と題した発表を行いました。 20180314_kokorokenkyukai01.JPG 20180314_kokorokenkyukai02.JPG  熊谷誠慈特定准教授                   研究会の様子  熊谷特定准教授の発表では、各宗派の仏典を精緻に振り返り、仏教哲学において「心」がどう捉えられてきたかが紹介された上で、国民総幸福(GNH)を国策に据えるブータンを例に、仏教倫理の視点から幸福な生き方とはどういうものかが論じられました。そして「生き方の選べない社会」から「生き方の選びきれない社会」へと変化してきた現代において、仏教が呈示する生き方が一つの道標となりうることが示唆されました。  熊谷准教授の発表に引き続き行われたディスカッションでは、仏教とスコラ哲学の異同や風景画の出現時期などから東西の認識論の違いが指摘されました。同じ仏教内でも発表で取り上げられた伝統的な仏教哲学と、親鸞のような近代的な仏教思想や華厳思想とでは、こころや生き方についての考えも異なり、地理的・時代的な違いがあることが議論されました。そして、今回呈示された仏教の心の分類のような「こころ観」が、その時代や文化における生き方と密接に結びついていることが意見されました。さらには、生き方をめぐる自由と不自由との逆説的な関係などにも話は及び、積極的な議論が交わされました。

(報告:梅村高太郎 特定研究員)

2018/06/04

2017年

第1回京都こころ会議国際シンポジウム「こころと共生」を開催しました

2017年9月18日、京都大学百周年時計台記念館百周年記念ホールにて、第1回京都こころ会議国際シンポジウム「こころと共生」を開催しました。公益財団法人稲盛財団からのご支援を受けて2015年に発足した京都こころ会議は、これまでに「こころと歴史性」(第1回)、「こころの内と外」(第2回)をテーマに2回のシンポジウムを開催してまいりました。今回はそれを受けた初めての国際シンポジウムでしたが、国内外から300名近い参加者にご来場いただきました。

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今回のシンポジウムでは、吉川左紀子センター長の開会の言葉のあと、海外からのお二人を含めた4つの講演が行われました。中国・北京大学の心理・認知科学部を代表する教授であるShihui Han先生は、「Cognitive/Affective and Neural Obstacles of Human Symbiosis(人類の共生を妨げる認知・情動基盤と神経機構)」と題して講演されました。Han先生は、痛みに関する共感についての興味深い実験を紹介しつつ、人が内集団(ingroup)と外集団(outgroup)に対して神経レベルでどのような共感反応をするのか、またその反応は教育や経験等によってどのように変化しうるのかなどについて論じました。

アメリカ・パシフィカ大学院大学の学長であるJoseph Cambray先生は、化学で博士号をとられた後、ユング心理学を学び分析家の資格を取得され国際分析心理学会の会長も務められたという経歴をおもちです。本シンポジウムでは文理にまたがる広い知識と視野から「Synchronistic Phenomena and Psychological Symbiosis (共時的現象と心理学的共生)」と題して講演されました。ユングの提出した「共時性」という非因果的論理が現代科学における複雑系理論から理解できることを示して、新しいこころの科学の可能性を示しました。

続いて、相愛大学人文学部の教授であり、浄土真宗の僧侶でもあられる釈撤宗先生が「Symbiosis of Religious Beliefs(信仰の共生)」と題した講演をされました。宗教はその信仰の絶対性ゆえに他を排除してしまう性質がありますが、それらが共生していくことに対して、さまざまな方向から示唆と提言を行いました。

4つめの講演として、広井良典教授が「Sustainable Society, Sustainable Mind(持続可能な社会、持続可能なこころ)」と題する講演を行いました。この講演の中では、地球・人類の歴史をマクロな視点で振り返りつつ、大きな問題に対するローカルなレベルからの多様な取り組みにも触れ、こころのビッグバン・精神革命に続く新たな定常化の時代における地球倫理という視点の重要性について論じました。

これらの講演に続き、河合俊雄教授を司会に加え、講演者らによるディスカッションが行われました。ここでは4つの講演を踏まえて、これからの社会における共生の可能性、こころのつながりについて、それぞれの専門領域を超えた議論が展開されました。

最後に、湊長博京都大学理事が閉会の言葉として、ingroup-outgroupの議論に関して、自身の専門領域である免疫学の立場からコメントし、京都こころ会議および京都大学の人文社会科学に対する大きな期待を示しました。当日の司会進行は内田由紀子准教授が務めました。

第1回京都こころ会議国際シンポジウムの講演内容は、近く当HPでも動画配信を行う予定です。

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[DATA]
▽日時:2017年9月18日(月・祝) 13:00~18:00(12:30~受付開始)
▽場所:京都大学 百周年時計台記念館 百周年記念ホール 
▽プログラム
13:00~13:10  開会の言葉 吉川左紀子(京都大学こころの未来研究センター・センター長)
13:10~14:00  講演① ”Cognitive/Affective and Neural Obstacles of Human Symbiosis”(人類の共生を妨げる認知・情動基盤と神経機構)Shihui Han(Professor, School of Psychological and Cognitive Sciences, Peking University)
14:00~14:50  講演② ”Synchronistic Phenomena and Psychological Symbiosis”(共時的現象と心理学的共生)Joseph Cambray(Provost and Acting President, Pacifica Graduate Institute)
14:50~15:05  休憩
15:05~15:55  講演③ ”Symbiosis of Religious Beliefs”(信仰の共生)釈徹宗(相愛大学人文学部・教授)
15:55~16:45  講演④ ”Sustainable Society, Sustainable Mind”(持続可能な社会、持続可能なこころ)広井良典(京都大学こころの未来研究センター・教授)
16:45~17:00  休憩
17:00~17:50  総合討論 Shihui Han,Joseph Cambray,釈徹宗,広井良典,河合俊雄(京都大学こころの未来研究センター・教授)
17:50~18:00  閉会の言葉 湊長博(京都大学・理事)
司会進行 内田由紀子(京都大学こころの未来研究センター・准教授) ※講演・総合討論には日英の同時通訳が入りました
▽参加者数:285名

2017/09/22

第2回京都こころ会議シンポジウムの動画を公開しました

2ndkokoro_initiative.png 第2回京都こころ会議シンポジウム 「こころの内と外」(2016年10月10日開催/於:京都大学芝蘭会館稲盛ホール)の講演動画を公開しました。

 河合俊雄教授からの「こころの内と外」をテーマに開催された4度のこころ研究会の報告、赤坂憲雄学習院大学教授の講演、吉川左紀子センター長、湊長博京都大学理事のスピーチを視聴いただけます。

 下記リンク先にアクセスしてご覧ください。動画サイトの Youtube(ユーチューブ)でも「京都こころ会議」等で検索して視聴可能です。 第2回京都こころ会議シンポジウム 「こころの内と外」動画ページ http://kokoro.kyoto-u.ac.jp/jp/KyotoKokoroInitiative/2017/02/2-20161010.php

2017/02/15

2016年

第2回京都こころ会議シンポジウム「こころの内と外」を開催しました

2016年10月10日、京都大学芝蘭会館・稲盛ホールにて第2回京都こころ会議シンポジウムを開催しました。今回の第2回シンポジウムでは、昨年度の第1回シンポジウム「こころと歴史性」で議論された閉じることと開くことの逆説性から、「こころの内と外」がテーマとなりました。当日は200名を超える参加者にご来場いただきました。 IMG_2983.JPG

はじめに、吉川左紀子センター長が、主催者を代表して開会の言葉を述べました。京都こころ会議の主旨とこころの未来研究センターの10年来の取り組みを紹介し、人のこころのあり方について、科学的観点だけでなく、社会や自然、文化などさまざまな角度から議論し、認識を深めていきたいと今後の展望を述べました。

次に、当センターの河合俊雄教授が「こころの内と外:こころ研究会から」と題して、本年度に開催された、以下の4つの京都こころ会議研究会(通称:こころ研究会)の報告を行いました。

       第1回:池上高志(複雑系・人工生命)「人工の心と現実の脳:自己組織化、アルゴリズム、マッシブデータフロー」
       第2回:Harald Atmanspacher(理論物理学)「二面一元論(dual-aspect monism)におけるこころのあり方」
       第3回:中沢新一(人類学)「理事無礙法界について」
       第4回:田中康裕(臨床心理学)「日本的風景と主体:古くて新しい意識のあり方」

このように4回のこころ研究会は幅広い分野にまたがるものでしたが、「こころの内と外」という観点からすれば、「乱雑さ(messiness)」「全体性の崩壊と回復」「偶然」「知覚と意識の隙間」「主体と客体の融合」「奥ゆきと広がりの同一性」などのキーワードで示されるように、私たちがこころをリアルなものと感じる契機とは、真逆のもののなかに開かれる隙間や裂け目、中間にこそあるのではないかという議論が共通点であったように思われます。

続いて、赤坂憲雄学習院大学文学部教授が「遊動から定住へ――そのとき、こころの変容は起こったか」と題して講演を行いました。民俗学を専門とする赤坂先生は、私たちが無意識に抱く「逃げる」ことに対する忌避の背景に、1万年前に生じた遊動から定住へという生存戦略上の大変革によってもたらされた「逃げられない社会」があることを示し、離合集散を認める新たな「逃げられる社会」をデザインしていくことの必要性を論じました。

休憩を挟んで、赤坂教授、河合教授に池上高志東京大学大学院総合文化研究科教授と山極壽一京都大学総長を加えた4名による総合討論が行われ、逃げることと自由、有史を超えた時間的展望からこころを捉えていくことなどについて、大変白熱した議論が展開されました。

最後に、湊長博京都大学理事が閉会の言葉として、京都こころ会議でのこころについての議論が、人の行動様式や社会のあり方に影響を与えられるような発信力をもっていくことを大学として期待すると述べ、第2回シンポジウムは盛会のうちに終了いたしました。当日の司会進行は内田由紀子准教授が務めました。

今回行われた第2回京都こころ会議シンポジウムの講演内容は、近く当HPでも動画配信を行う予定です。

<報告:梅村高太郎研究員>

[シンポジウム写真]
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[開催ポスター]
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[DATA]
▽ 日時:2016年10月10日(月・祝)13:30~17:20(13:00~受付開始)
▽ 会場:京都大学芝蘭会館稲盛ホール(京都市左京区吉田近衛町)
▽ プログラム:
 13:30~13:40 開会の言葉 吉川左紀子(京都大学こころの未来研究センター・センター長)
 13:40~14:40 研究会報告 『こころの内と外:こころ研究会から』
           河合俊雄(京都大学こころの未来研究センター・教授)
 14:40~15:50 講演 『遊動から定住へ――そのとき、こころの変容は起こったか』
           赤坂憲雄(学習院大学文学部・教授)
 15:50~16:10 休憩
 16:10~17:10 総合討論 赤坂憲雄、池上高志(東京大学大学院総合文化研究科・教授)、山極壽一(京都大学・総長)、河合俊雄
 17:10~17:20 閉会の言葉 湊長博(京都大学・理事) 主催:京都大学こころの未来研究センター 後援:公益財団法人 稲盛財団

2016/11/08

第1回京都こころ会議シンポジウムの動画を公開しました

kokoro_initiative_banner.png 第1回京都こころ会議シンポジウム 「こころと歴史性」(2015年9月13日開催/於:京都ホテルオークラ)の講演動画を公開しました。全ての講演、総合討論、挨拶を収録しています。

 「こころと歴史性」をテーマに中沢新一明治大学野生の科学研究所長、河合俊雄教授、広井良典千葉大学教授、下條信輔カリフォルニア工科大学教授、山極寿一京大総長ら5名のシンポジストがおこなった講演とディスカッション、吉川左紀子センター長、稲盛和夫稲盛財団理事長らすべての登壇者のスピーチを視聴いただけます。

 下記リンク先にアクセスしてご覧ください。動画サイトの Youtube(ユーチューブ)でも「京都こころ会議」等で検索して視聴可能です。 第1回京都こころ会議シンポジウム 「こころと歴史性」動画ページ http://kokoro.kyoto-u.ac.jp/1_2015913_7/

2016/05/20

第1回京都こころ会議シンポジウムを書籍化した『〈こころ〉はどこから来て、どこへ行くのか』が出版されました

kokoro_initiative.png第1回京都こころ会議シンポジウム「こころと歴史性」(於:京都ホテルオークラ/開催日:2015年9月13日)の内容が書籍化され、『〈こころ〉はどこから来て、どこへ行くのか』というタイトルで岩波書店より出版されました。

書籍は、河合俊雄教授、山極寿一京大総長、中沢新一明治大学野生の科学研究所長、広井良典千葉大学教授、下條信輔カリフォルニア工科大学教授ら5名のシンポジストによる講演とディスカッションが一冊にまとめられています。臨床心理学、霊長類学、人類学、公共政策、認知神経科学など、それぞれのアプローチから「こころ」のこし方とゆく末に切り込んだ知の探求録です。

『〈こころ〉はどこから来て、どこへ行くのか』
著者:河合俊雄、中沢新一、広井良典、下條信輔、山極寿一
出版社:岩波書店 (2016/3/17)
定価:本体 2,100円 + 税
四六判・並製・224頁 ISBN-10: 400022946X ISBN-13: 978-4000229463
科学技術の進歩、グローバル化による大きな経済圏の出現、さらには近年の地球環境の変化が加わって、人々の生活や関係は大きく変わってきています。そしてそれらはおのずから人々の「こころ」に影響を及ぼし、ときにはこれまでの世界観を揺るがそうとしています。
それに対しては、科学技術や経済などそれぞれの分野での個別的な対応も必要ですが、それに直面し、またそれに適応できるはずの人の「こころ」に焦点を当てることが重要なのではないでしょうか。つまり人類がこれまで「こころ」をどのように捉えてきたのかを踏まえつつ、「こころ」とは何かを探究し、さらに何がこれからの「こころ」の拠り所となるのかを明らかにすることが必要になってくると思われます。
京都大学は、公益財団法人稲盛財団より支援を受けて、こころの未来研究センターを中心として「京都こころ会議(Kokoro Initiative)」を二〇一五年四月に立ち上げました。「京都こころ会議」は、さまざまな学問から「こころ」の過去、現在、未来を問い、またその際に日本語の「こころ」という言葉に含蓄されている広くて深いニュアンスから、こころの新しい理解を「Kokoro Initiative」として世界に向けて発信しようとするものです。
初年度である二〇一五年九月一三日には、「こころと歴史性」という題で「第一回京都こころ会議シンポジウム」が開催されました。本書はそこでの五つの講演、「「もの」と「こころ」の統一へ」(中沢新一)、「こころの歴史的内面化とインターフェイス」(河合俊雄)、「ポスト成長時代の「こころ」と社会構造」(広井良典)、「こころの潜在過程と「来歴」ー知覚、進化、社会脳」(下條信輔)、「こころの起源ー共感から倫理へ」(山極寿一)、および最後のディスカッションの要約を収録したものです。
二年目は、「こころの内と外」をテーマに予定しています。 (「はじめにー京都こころ会議について」河合俊雄 より)

出版社の書籍ページ
Amazon.co.jp の書籍ページ

2016/03/30

2015年

『京大広報』に第1回京都こころ会議シンポジウム、京都大学東京フォーラムの模様が掲載されました

京都大学の広報誌『京大広報』の715号(2015年10月発行)に、第1回京都こころ会議シンポジウム(2015年9月13日開催/京都ホテルオークラ)の報告が掲載されました。また、同誌716号(2015年11月発行)に、吉川左紀子センター長が登壇した京都大学東京フォーラム(2015年10月20日開催/パレスホテル東京)の報告が掲載されました。

それぞれの記事は、京都大学ウェブサイトの『京大広報』のページよりPDFをダウンロードしてご覧いただけます。

715.png第1回京都こころ会議シンポジウム「こころと歴史性」を開催
9月13日(日),京都ホテルオークラにて第1回京都こころ会議シンポジウム「こころと歴史性」を開催した。4月に発足した「京都こころ会議」の第1回シンポジウムとして,こころの歴史性に焦点をあて, 5人の講演者がそれぞれの専門分野から講演,討論をおこない,400名を超える参加者が来場した。
(記事より抜粋。『京大広報』715号 PDF:8.12MB
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716.png京都大学東京フォーラムを開催
本フォーラムでは,山極総長による挨拶の後,髙林純示生態学研究センター教授が「植物と昆虫の会話を解読する」と 題して,また阿形清和理学研究科教授が「切っても切ってもプラナリア─再生を科学する─」と題して講演を行った。続いて山極総長と髙林教授,阿形教授,吉川左紀子こころの未来研究センター教授の4名により,面白い研究とは何かについてのパネルディスカッションが行われた。
(記事より抜粋。『京大広報』716号 PDF:4.87MB

京大広報 | 京都大学ウェブサイト

2015/12/09

第1回京都こころ会議シンポジウムが毎日新聞、読売新聞、京都新聞などで取り上げられました

 2015年9月13日、京都ホテルオークラで開催した第1回京都こころ会議シンポジウム「こころと歴史性」は、毎日新聞、読売新聞、京都新聞など様々なメディアで取り上げられました。掲載内容の一部をご紹介します。

1510kokoro_media.png■「こころで読み解く人類史 京都で会議、議論白熱8時間」
読売新聞(2015年10月15日付)

 宗教対立や民族紛争など世界が直面する問題を人間の<こころ>の観点からとらえ直す「第1回京都こころ会議」(京大こころの未来研究センター主催)が、京都市内で開かれた。(中略)
 臨床心理学者の河合俊雄・京大こころの未来研究センター教授は、こころの内外を巡る歴史性を語った。前近代では「こころ」は自然や異界とつながる「オープンシステム」で、病とは憑依や魂の喪失だった。西洋近代では「こころ」を個人の内部に閉じられたシステムとして把握し、病に対して心理療法が行われるように変化したのだが、前近代の世界観も「こころの古層」として息づいているという。
 議論は白熱し、8時間近くに及んだ。現代のインターネット社会で、なお「こころ」の問題が絶えないのはなぜか。個人、共同体、あるいは人と自然が「つながる」には何が必要か。人類のさらなる進化の可能性はー。人を人たらしめる、「こころ」の可能性を実感した会議だった。(記事より)
■「こころの歴史性に焦点 第1回京都こころ会議シンポジウム開催」
京都大学新聞(2015年10月1日)

 こころとその歴史性について考える第1回京都こころ会議シンポジウムが9月13日、京都ホテルオークラで開催され、これからの社会で「こころ」に求められるものについて分野の異なる5人の学者が発表した。
 まず吉川左紀子・こころの未来研究センター長が「こころ」という日本語のもつ多面性と複雑性について説明した。(中略)
 下條信輔・カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授は、個人史が年輪のように一つ所に蓄積された「来歴」という概念を提示し、色知覚や身体化した知性について来場者に体感させながら、「こころの発達に影響を及ぼす遺伝と環境の両要因は実に複雑に畳み込まれており、それゆえに来歴を振り返ることが重要」と主張した。(記事より)
■「人間 多角的に考える 多分野の学者ら分析 京都こころ会議」
毎日新聞(2015年9月28日)

 「歴史性がテーマ」
 会議では宗教学者の中沢新一・明治大野生の科学研究所長が「こころの構造と歴史」のテーマで講演。「どうすればモノとこころが統一的に理解できるかということに関心があった。現代はモノを理解する自然科学と、こころを理解する人文科学の方法論が分離している。だが神経科学的な情報伝達のあり方と、こおろの深層の構造とは同じ数学の言葉で表現できることが明らかになってきた。21世紀のサイエンスはモノとこころの統一が重要な要素になる。そのとき人文学が新しい生命をもって浮かび上がってくるだろう」などと期待を込めた。(記事より)
■「こころ」とは 多角的に議論 京大が初シンポ
京都新聞(2015年9月14日)

 京都大が立ち上げた「京都こころ会議」の第1回シンポジウムが13日、京都市中京区のホテルであった。脳科学や臨床心理学など幅広い分野の専門家や市民ら約400人が参加し、人間の「こころの成り立ち」や理解の歴史について学識者が多角的に論じた。(記事より)
■第1回京都こころ会議シンポジウム「こころと歴史性」
朝日新聞(2015年7月16日)

 9月13日午前9時半〜午後6時、京都市中京区河原町御池の京都ホテルオークラ。「こころ」という日本語に含まれる広がりや深いニュアンスを大切にしながら、豊かなこころが育まれる社会のあり方を議論する。吉川左紀子・京大こころの未来研究センター長の開会の言葉、稲盛和夫・稲盛財団理事長のあいさつなどの後、講演がある。(記事より)

第1回京都こころ会議シンポジウム「こころと歴史性」を開催しました
「京都こころ会議(Kokoro Initiative)」が発足し、調印式、記者発表がおこなわれました

2015/10/26

第1回京都こころ会議シンポジウム「こころと歴史性」を開催しました

2015年9月13日、京都ホテルオークラにて第1回京都こころ会議シンポジウム「こころと歴史性」を開催しました。4月に発足した「京都こころ会議」の第1回シンポジウムとして、こころの歴史性に焦点をあて、5人の講演者がそれぞれの専門分野から講演、討論をおこないました。当日は、400名を超える参加者にご来場いただきました。

1509kokoro_zentai.pngはじめに吉川左紀子センター長が、京都こころ会議発足の経緯を紹介し、その意義と取り組みについて、「歴史や文化、自然や環境など大きな枠組みと関係づけながらこころの豊かさやかけがえのなさを明らかにし、豊かなこころを育む人間社会のあるべき姿を国内外に”Kyoto Kokoro Initiative”として発信していきたい」と挨拶しました。

続いて、公益財団法人稲盛財団の稲盛和夫理事長より、「稲盛財団では、人類の未来は科学の発展と精神的進化のバランスがとれて初めて安定するとの理念を掲げ、さまざまな取り組みを続けてきた。ひとのこころの大切さを問い直し、日本人に古くから伝えられて来た倫理観や道徳心について、その実践や提言を世界に向けて発信する本事業が、今後の人類の精神的進化に大きく貢献することを願っています」と、激励の言葉を頂きました。

また、文部科学省研究振興局学術機関課の牛尾則文課長より、「こころの未来研究センターは、学問の領域をこえてこころに関する学際的な研究を進め、社会にも積極的に成果を発信している。真のこころの豊かさが問われている今この時期に、本会議が始まるのはタイミングとしても素晴らしい。ますますの発展を祈念します」とお祝いの言葉を頂きました。

続いて、中沢新一明治大学野生の科学研究所所長が「こころの構造と歴史」というテーマで基調講演を行いました。中沢先生は「自然科学と人文学が考えるこころをつなぐことが、今こそ必要である」とし、現代の神経科学において解明されてきたこころと、人文学が捉えてきたこころを比較しながら「21世紀は、ものとこころの統一が重要な要素となる。今後、脳の過程とこころの過程が近付き、さらに深い理解が可能になるだろう」と、京都こころ会議への期待を話されました。

次に、こころの未来研究センターの河合俊雄教授が「こころの歴史的内面化とインターフェイス」というテーマで講演しました。「自然や異界にまで広がるオープンシステム」として捉えられてきた日本人のこころと、キリスト教での祈りから精神分析にまでつながる「個人の中に閉じ込められたクローズドシステム」としての西洋人のこころを比較すると共に、インターネット社会が出現してこころをインターフェースとして捉える傾向へと変化してきた流れについて、臨床心理学の視点から考察をおこないました。

午後は、広井良典千葉大学教授が「ポスト成長時代の『こころ』と社会構想」というテーマで講演をおこないました。公共政策、科学哲学を専門とする広井先生は、拡大・成長から成熟・定常へと変化する日本において人のこころや社会はどのように対応するべきか、文化的史実やデータに光をあてながら、ポスト成長時代のこころと社会の在り方について展望しました。

休憩をはさんで、下條信輔カリフォルニア工科大学教授・こころの未来研究センター特任教授が「こころの潜在過程と”来歴”~知覚、進化、社会脳」というテーマで講演をおこないました。下條先生は、自身の研究から生まれた「こころの来歴(らいれき)」という概念について、「年輪がその木の生育歴を一瞬で示すように、来歴は遺伝-経験、環境-脳の相互作用の痕跡が、あらゆる時間スケールで、個体の歴史を超えて重ね合わさったもの」とし、自分や他者の来歴を丹念に振り返ることで人間の本性や、未来のこころを探る手がかりになる、と考察しました。

最後に、山極壽一京都大学総長が「こころの起源――共感から倫理へ」というテーマで講演をおこないました。霊長類学が専門の山極先生は、性を隠匿し食を公開するという、他の霊長類とは逆の独自システムを持つ人間の特性に注目し、複雑な人間社会の背景にある人のこころの成り立ちについて、ゴリラをはじめとする霊長類研究の成果を様々な動画とデータとともに示しながら、こころの理解における比較研究の意義について論じました。

その後、5名の講演者による総合討論がおこなわれ、総括コメントとして、鎌田東二こころの未来研究センター教授が「知のフロントランナーたちがこころについて様々な角度から考察した豊かな時間だった」と語り、日本人のこころとアニミズムに関連して、戦後に流行した「リンゴの唄」の歌詞を紹介し、「りんごにもこころを見出す日本のアミニズムがどんな可能性をもつのか、今後の京都こころ会議での議論の展開に期待している」と述べました。

また、閉会の言葉として湊長博京都大学理事・副学長が、「京都大学には20をこえるたくさんの研究所、センターがあり、こころの未来研究センターはそのうち最も小さいセンターだが、こころという最も大きいものを対象に研究をおこなっている。こころをめぐる研究が今後、個人と社会の道しるべにつながるよう発展していくことを期待しています」と話し、シンポジウムは閉会しました。  今回おこなわれた第1回京都こころ会議シンポジウムの講演内容は、書籍として出版される予定です。また、2016年には「国際京都こころ会議」を開催する予定です。

[シンポジウム写真(登壇順)]
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[開催ポスター]
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 [DATA] ▽ 日時:2015年9月13日(日)9:30~18:00(9:00~受付開始)
                ▽ 会場:京都ホテルオークラ3階 翠雲(アクセス) (京都市中京区河原町御池)
                ▽ プログラム: 9:30-9:50  開会の言葉 吉川左紀子(京都大学こころの未来研究センター・センター長)
                                            挨拶    稲盛和夫(公益財団法人稲盛財団・理事長)
                                            祝辞    牛尾則文(文部科学省研究振興局学術機関課・課長)    
                                                9:50-11:00  講演①「こころの構造と歴史」中沢新一(明治大学野生の科学研究所・所長)
                                      11:00-12:00 講演②「こころの歴史的内面化とインターフェイス」河合俊雄(京都大学こころの未来研究センター・教授)
                                      12:00-13:20 休憩    
                                               13:20-14:20 講演③「ポスト成長時代の「こころ」と社会構想」広井良典(千葉大学法政経学部・教授)
                                     14:20-15:20 講演④「こころの潜在過程と”来歴”~知覚、進化、社会脳」下條信輔(カリフォルニア工科大学生物・生物工学部・教授)    
                                              15:20-15:40 休憩    
                                              15:40-16:40 講演⑤「こころの起源――共感から倫理へ」山極壽一(京都大学・総長)    
                                              16:40-17:40 総合討論  中沢新一、河合俊雄、広井良典、下條信輔、山極壽一    
                                              17:40-18:00 総括    鎌田東二(京都大学こころの未来研究センター・教授)                                            閉会の言葉 湊長博(京都大学・理事)

主催:京都大学こころの未来研究センター
後援:公益財団法人 稲盛財団

2015/09/30

「京都こころ会議(Kokoro Initiative)」が発足し、調印式、記者発表がおこなわれました

 この度、公益財団法人稲盛財団の支援を受け、「京都こころ会議(Kokoro Initiative)」を開催していくはこびとなりました。2015年4月14日、本会議の発足にあたって、京都大学百周年時計台記念館迎賓室にて調印式および記者発表がおこなわれました。  調印式では、吉川左紀子センター長による京都こころ会議の趣旨説明、山極寿一京都大学総長ならびに稲盛和夫稲盛財団理事長からの挨拶があり、寄付同意書への調印がおこなわれました。報道記者による質疑応答では、河合俊雄教授が本会議の具体的な計画について、記者からの質問に答えました。当日の模様は地元のテレビ局、KBS京都のニュースで報じられたほか、毎日新聞、京都新聞、日刊工業新聞など多数のメディアで取り上げられました。
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以下、こころの未来研究センターより発表したプレスリリースを記載いたします。

京都こころ会議(Kokoro Initiative) こころの未来研究センター 河合俊雄(臨床心理学)
1)事業目的
 科学技術の進歩、グローバル化による大きな経済圏の出現、さらには近年の地球環境の変化が加わって、人々の生活や関係は大きく変わってきています。そしてそれらはおのずから人々の「こころ」のあり方に影響を及ぼし、時には「こころ」が変化についていけず、さまざまな問題を引き起こすこともあります。
 こうした現状に対して科学技術を頼りに、あるいは環境を変えることにより解決をはかろうとするのではなく、それに直面している人々の「こころ」そのものに焦点を当てて、より本質的な問題の理解とその解決に到る道筋を、丹念にたどることが必要なのではないでしょうか。
 人類がこれまでどのような「こころ」のあり方で世界と向き合い、「こころ」をどのように捉えてきたのかを踏まえつつ、「こころ」とは何かを探究し、さらにこれからの「こころ」に求められるあり方を明らかにすることが、今の私たちに求められていることではないかと考えます。
 「京都こころ会議」は、古来の「こころ」を踏まえてその未来を問い、また日本語の「こころ」という言葉に含蓄されているような広くて深いニュアンスから、こころの新しい理解を Kokoro Initiative として世界に向けて発信しようとするものです。
 2007年の設立以来、京都大学こころの未来研究センターの活動を通して蓄積されてきた、「こころ」についての学際的な研究とネットワークを生かしつつ、それをさらに広げ、深めていきたいと思います。
2)組織 ・運営委員会:こころの未来研究センターを中心とした京都大学の全学的な委員会 ・顧問・advisory board:稲盛和夫 ・参加者:京都大学の研究者、国内外の招聘研究者、芸術家、企業家など。こころの未来研究センターが中心となってコアメンバーを形成し、研究会を重ねていく。
3)事業内容
1. 年に4回、「こころ研究会」をクローズドで開催する。その年度のテーマに沿って、研究者・芸術家・宗教家などを招聘して行う。
2. 「こころとは何か」を問う「京都こころ会議」、「国際京都こころ会議」を1年交代で行う。「こころ会議」には、稲盛和夫理事長と山極寿一総長の出席をお願いする。「こころ」が持つニュアンスの広がりを、「こころと歴史性」、「こころと共生」、「こころとグローバル社会」のように、様々な視点からこころのもつ多様性をクローズアップし、理解を深める。
3. 1と2の成果を、日本語、英語(Kokoro Initiative)でそれぞれ出版する。日本語の「こころ会議」についても英訳を行い京都大学のHP等を通じて発信する。
4) 事業計画
・2015年度 第1回京都こころ会議(1日間)「こころとは何か? – その歴史性」(仮)を9月13日(日)に京都で開催。講演者として中沢新一、山極寿一、広井良典ほか。稲盛和夫理事長も出席の予定。 こころ研究会を4回開催。
・2016年度 第1回国際京都こころ会議(2日間) こころ研究会を4回開催。
・2017〜2020年度 第2〜3回「京都こころ会議」、「国際京都こころ会議」を開催。

□掲載媒体 KBS京都 京都新聞ニュース・天気予報(2015年4月15日 11:55〜放映) 「多分野の研究者『こころ』を議論 京大が『会議』設立へ」(京都新聞/2015年4月15日付朝刊23面) 「京都こころ会議 稲盛財団から活動支援寄付 京大」(日刊工業新聞/2015年4月15日19面) 「『こころ』の課題研究 9月に初会議 京大と稲盛財団」(毎日新聞/2015年4月16日22面) 「<京大・稲盛財団>「こころ」の課題、研究 9月に初会議 /京都」(gooニュース・毎日新聞/2015年4月16日)

2015/04/17

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